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第六夜
鮮血と苦痛と
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宵
…気がつけば、俺は再び自室に一人立っていた。
十二時の鐘が鳴り、死神の足音が近づく。
闇に響くノックに、俺の背筋は総毛立った。
また、俺は殺されるのか!
それは、はっきりとした予測であった。扉を開けば、助かる術などない。分かっていても、身体は抗えず扉に手を伸ばす。
やめろ…やめろやめろやめろやめろやめろ!
さっきと全く同じ状況だというのに、どういうことだろうか?
なんだろう、このとてつもない恐怖感は…!
逃げたくてたまらない。なのに、足は縫いとめられたかのように動かない。
開いた扉の向こうには、見慣れた陰気な顔の執事さんが俯いている。そして…。
_____ドッ!
___もう、幾度目になるのだろうか?
胸に突き立てられた、冷たい刃。血を吐きながら崩れ落ち、弾みで抜けた短剣が乾いた音を立てる。
同時にとめどなく広がる赤。目の前が暗くなり、さらには抱き起こされながら心臓を貫かれる。どこか遠くからの、耳障りな笑い声を聞きながら。
___暗転。
次は、塞いだ扉の向こうから響くノック。会話の合間に襲われる、臓腑を絞り尽くされるかのような苦痛と吐血。
___ああ、知っている…。この後、俺は…。
募り来る恐怖とともに、近づく死神に抵抗するも叶わず…。
…最期は再び『慈悲の短剣』によっての幕引き。まだ聞こえる笑い声が、最後の記憶。
___暗転。
その次は、雨の中でシュゼット嬢に斬りかかられた。見えない刃が脇腹をえぐる。
中庭で霊廟にたどり着き逃げ込んで、そのまま点々と血を流しながら進む。無数に並ぶ棺の中、見知った名前を見つけて気が遠くなり…。
意識を取り戻せば、目の前に短剣を携えて執事さんが立っていた。
___ああ…ここまでか…。
この時点で、ピクリとも動くことはできなくなっていた。点々とこぼした挙句に、わずかな傾斜に沿ってできた赤い川がそれを証明している。
壁沿いにかけられた松明の光を反射する、冷たい短剣。押し殺したような幼い笑い声の中、短剣によるとどめで鼓動が途切れた。
___暗転。
今度は、暗闇の図書室だった。シュゼット嬢が狂気そのものの笑みを浮かべ、目の前に立っている。
オルゴールを庇って背を深く抉られ、体内から響くごきりという厭な音。
最後の力を振り絞ってネジを回し、自らの血の海に沈んで力尽き…。
___そうだ、この後…。やめろ、やめてくれ…!
虫の息の俺を抱きかかえ、正気に戻って嘆き悲しむシュゼット嬢。短剣を突き立てる執事さんを泣きながら止めて、悲鳴と心臓を貫く衝撃の交錯する中で息絶える…。
次々と訪れる死を経て、さっきとは違い俺の精神は確実にすり減っていた。苦痛はさらに生々しく、殺された時の記憶や思いに至るまでを鮮明に再現されている。夢の中で殺されるか、現実に惨殺されるかくらいの差をつけられたようなものだ。
こうなると今までの死は、一枚の薄紙を通して見せられた映画のように思える。そこからが、悪魔の目論む通りだったという事か。
『やっぱりさ、死に方は派手な方が見てて楽しいよね? どうせならたぁくさん血を流してさ、綺麗な赤色を見たいな。毒矢ってのは邪道だよね…』
それまでの自分の死に方を再現された後はおそらくオリバーの記憶らしい、毒矢に撃たれて倒れるという死に方を体験した。
さらに襲い来る、死の連鎖…。
死にたくない、死にたくない、死にたくない!
来るな、来るな、来るな、来るな、来るな!
俺の精神は磨耗し、もはや崩壊しかけていた。
度重なる死の連鎖。激痛に次ぐ激痛、とめどなく流れる鮮血。そして、苦しみに続く抗えぬ死。何度体験してもゾッとする、死の瞬間の意識の断絶。
もう…もう、たくさんだ…。
幼さを感じる笑い声が響き渡る。
『ね? こうすればオモチャも長持ちしてたんだけどね。キミはしぶとそうだし、何度目まで耐えられるかな? 前のやつは確か、六回くらい死んだら壊れたんだよね…次は、どれにしようかな…?』
その言葉で直感する。
オリバーの、ことか…?
そう思う間も無く、シュゼット嬢の見えない刃が次々と俺を切り裂き貫いた。奴の望む鮮血が大量に飛び散り流れる。すぐさま執事さんが現れて喉笛を引き裂き…。
弄ばれているのは、シュゼット嬢も同じだ。
…彼女も俺も、執事さんだって、悪事を働いた訳ではないのに。
イタイクルシイサムイツライタスケテタスケテイタイクルシイコワイコワイコワイコワイ…。
数限りなく繰り返される、ヤツ好みの惨殺の記憶。意識と苦痛、感情と恐怖が遠い笑い声と混じって脳裏を回り続ける。辛うじて冷静な部分が自覚し始めた。ああ…これはもう末期だ…。
次に目を開けると、見慣れない場所で数人の男たちに囲まれた場面に出くわした。
ああ、おそらくこれはさっき体験した…。
シュゼット嬢の旦那さんの最期の場面…。
…気がつけば、俺は再び自室に一人立っていた。
十二時の鐘が鳴り、死神の足音が近づく。
闇に響くノックに、俺の背筋は総毛立った。
また、俺は殺されるのか!
それは、はっきりとした予測であった。扉を開けば、助かる術などない。分かっていても、身体は抗えず扉に手を伸ばす。
やめろ…やめろやめろやめろやめろやめろ!
さっきと全く同じ状況だというのに、どういうことだろうか?
なんだろう、このとてつもない恐怖感は…!
逃げたくてたまらない。なのに、足は縫いとめられたかのように動かない。
開いた扉の向こうには、見慣れた陰気な顔の執事さんが俯いている。そして…。
_____ドッ!
___もう、幾度目になるのだろうか?
胸に突き立てられた、冷たい刃。血を吐きながら崩れ落ち、弾みで抜けた短剣が乾いた音を立てる。
同時にとめどなく広がる赤。目の前が暗くなり、さらには抱き起こされながら心臓を貫かれる。どこか遠くからの、耳障りな笑い声を聞きながら。
___暗転。
次は、塞いだ扉の向こうから響くノック。会話の合間に襲われる、臓腑を絞り尽くされるかのような苦痛と吐血。
___ああ、知っている…。この後、俺は…。
募り来る恐怖とともに、近づく死神に抵抗するも叶わず…。
…最期は再び『慈悲の短剣』によっての幕引き。まだ聞こえる笑い声が、最後の記憶。
___暗転。
その次は、雨の中でシュゼット嬢に斬りかかられた。見えない刃が脇腹をえぐる。
中庭で霊廟にたどり着き逃げ込んで、そのまま点々と血を流しながら進む。無数に並ぶ棺の中、見知った名前を見つけて気が遠くなり…。
意識を取り戻せば、目の前に短剣を携えて執事さんが立っていた。
___ああ…ここまでか…。
この時点で、ピクリとも動くことはできなくなっていた。点々とこぼした挙句に、わずかな傾斜に沿ってできた赤い川がそれを証明している。
壁沿いにかけられた松明の光を反射する、冷たい短剣。押し殺したような幼い笑い声の中、短剣によるとどめで鼓動が途切れた。
___暗転。
今度は、暗闇の図書室だった。シュゼット嬢が狂気そのものの笑みを浮かべ、目の前に立っている。
オルゴールを庇って背を深く抉られ、体内から響くごきりという厭な音。
最後の力を振り絞ってネジを回し、自らの血の海に沈んで力尽き…。
___そうだ、この後…。やめろ、やめてくれ…!
虫の息の俺を抱きかかえ、正気に戻って嘆き悲しむシュゼット嬢。短剣を突き立てる執事さんを泣きながら止めて、悲鳴と心臓を貫く衝撃の交錯する中で息絶える…。
次々と訪れる死を経て、さっきとは違い俺の精神は確実にすり減っていた。苦痛はさらに生々しく、殺された時の記憶や思いに至るまでを鮮明に再現されている。夢の中で殺されるか、現実に惨殺されるかくらいの差をつけられたようなものだ。
こうなると今までの死は、一枚の薄紙を通して見せられた映画のように思える。そこからが、悪魔の目論む通りだったという事か。
『やっぱりさ、死に方は派手な方が見てて楽しいよね? どうせならたぁくさん血を流してさ、綺麗な赤色を見たいな。毒矢ってのは邪道だよね…』
それまでの自分の死に方を再現された後はおそらくオリバーの記憶らしい、毒矢に撃たれて倒れるという死に方を体験した。
さらに襲い来る、死の連鎖…。
死にたくない、死にたくない、死にたくない!
来るな、来るな、来るな、来るな、来るな!
俺の精神は磨耗し、もはや崩壊しかけていた。
度重なる死の連鎖。激痛に次ぐ激痛、とめどなく流れる鮮血。そして、苦しみに続く抗えぬ死。何度体験してもゾッとする、死の瞬間の意識の断絶。
もう…もう、たくさんだ…。
幼さを感じる笑い声が響き渡る。
『ね? こうすればオモチャも長持ちしてたんだけどね。キミはしぶとそうだし、何度目まで耐えられるかな? 前のやつは確か、六回くらい死んだら壊れたんだよね…次は、どれにしようかな…?』
その言葉で直感する。
オリバーの、ことか…?
そう思う間も無く、シュゼット嬢の見えない刃が次々と俺を切り裂き貫いた。奴の望む鮮血が大量に飛び散り流れる。すぐさま執事さんが現れて喉笛を引き裂き…。
弄ばれているのは、シュゼット嬢も同じだ。
…彼女も俺も、執事さんだって、悪事を働いた訳ではないのに。
イタイクルシイサムイツライタスケテタスケテイタイクルシイコワイコワイコワイコワイ…。
数限りなく繰り返される、ヤツ好みの惨殺の記憶。意識と苦痛、感情と恐怖が遠い笑い声と混じって脳裏を回り続ける。辛うじて冷静な部分が自覚し始めた。ああ…これはもう末期だ…。
次に目を開けると、見慣れない場所で数人の男たちに囲まれた場面に出くわした。
ああ、おそらくこれはさっき体験した…。
シュゼット嬢の旦那さんの最期の場面…。
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