上 下
178 / 405
mission 3 祝祭の神様

宝珠の謎とゴブリンの群れ

しおりを挟む
Side-ラスファ 7

 単独行動はいつものことだ。デュエルやアーチも含め、駆け出しとは程遠いメンバー構成だからな。もし途中で敵から襲撃なり喰らおうとも、ほぼ無傷で切り抜けられるという自負はある。というわけで今回も、それぞれの観点で事件を探ろうという事になった。

 とりあえず私は…。
 そもそも盗まれたという四つの宝珠の役割を尋ねてみたのだが、女神はまともに答えなかった。というよりも、本人が忘れかけているとはどういう事なんだか? こうなると、もはや威厳がどうのというよりも…いや、言うまい。
 それならいっそ自分で調べてやるということで、例の神殿後に足を向けてみた。犯人の意図がそこに見えるのかもしれない。やつはこれを使って、何をなそうとしているのだろうか?
 重要そうなものだから何らかの手がかりはあるのだろう。

 ひっそりと静まった森の空気はやはり落ち着く。たとえ故郷を捨てようとも、本能的にエルフ族というのは森と引き合うものらしい。
  偽装した神殿跡の入り口をくぐると、地下室独特の湿気やカビ臭さが漂う。足元に水たまりを踏みながら階段を下りきると、宝珠を奪われた女神像が微笑みとともに両腕を広げ立っていた。
 
 以前に来た時は気づかなかったが、扉の裏に何か彫り込まれたレリーフがある。試しに扉を閉じてよく見ると、暗闇の中で古代文字の詩文が刻まれているのが見えた。ちなみにエルフ族は暗闇でも関係なく目が見えるため、灯りなど必要ない。


『右手に喜び、左手に悲しみ』

『英雄の志を胸に』

 『自らの心を戒めよ』

 『聖なる光、ここに現れん』

 『聖者の魂の導きのままに』

 
 これは…あの宝珠のことを書いているのか? 
 とりあえず全てを書き留めて他の壁も探すが、これ以上のものは出てこない。ただ、隙間から一条の光が漏れているだけだ。これは…妙に気になる。もしかしたら…。

『心せよ、我が契約者』

 いきなり聞こえた虚空からの声に、私は振り向く。そこには白いドレスに身を包んだ貴婦人の姿があった。彼女は面白そうにこちらを眺めながら、さ小さく笑い声を立てた。

『周囲に、異様なものどもが溢れておるぞ? 如何する? 妾の力で切り抜けるか?』

 「…異様なもの? 何にだ?」
 周囲に人がいないからこその会話だ。彼女の姿は、私と限られた者にしか視えない…そう、あの女神のように。

『それは、お主の方が詳しかろう?』

「…ゴブリンか…」
 この女は、常に私のそばでこっちの行動を見続けている。退屈しのぎだと言っているが、真意は計り知れない。
 幸い神殿跡は偽装されているために、閉じれば入り口はわかりづらい。だが、相手は一度ここに来て宝珠を盗んだ奴だ。ここになだれ込むのも時間の問題か…。
 
 それなら。
 音を立てないように扉の裏側に張り付くと、精霊魔法で姿を消す。向こう側にはゴブリンが集まっているようだった。
「『光精よ、我が姿包み隠せ』」
 ほぼ同時に入り口が一気に引き開けられた。まばゆ光が神殿跡に満ちると同時にゴブリンどもがぞろぞろと中に入ってくる。
 奴らは気づいていない。扉を全開にしたことで、重要そうな碑文の詩を自ら隠していることに。

 ゴブリンの数はそう多くはないが、数体が組みになって統制された行動をとっているように思えた。
 奴らと入れ替わりで外に出て、ついでに周囲の様子を調べて帰ることにしたが…操られていることは確定になるだろう。

 通常考えられる数を上回っているということは、例の杖の効果範囲である、徒歩にして半径二日の距離内にいるゴブリンを徐々に森に集めているということだろうか? これは、急いだ方がいい。近いうちに何かをやらかすことは間違いない!

 ゴブリンどもの間をかいくぐって街に戻ることは大した手間ではない。女神像の台座に隠された宝珠を見逃したくらいだ、魔力を感知することはできないのは間違いないのだから。

 だがこの数…! デュエルがエルダードに戻っているのは痛い誤算だった。

 一挙にアローガに攻め込まれでもしたら、幾ら何でもデュエル抜きではヤバい!
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

愛人がいらっしゃるようですし、私は故郷へ帰ります。

hana
恋愛
結婚三年目。 庭の木の下では、旦那と愛人が逢瀬を繰り広げていた。 私は二階の窓からそれを眺め、愛が冷めていくのを感じていた……

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...