176 / 405
mission 3 祝祭の神様
再びのエルダード
しおりを挟む
Side-デュエル 9
翌日の夜明け前から。俺はフレッドを伴ってエルダードへの道を急いでいた。表向きは疑いを向けられたフレッドへの保護監察、だが実態は仕掛けてくる可能性の高い真犯人に対する牽制と彼の護衛だ。
俺はふと、アーチが言っていた『カケラ』のことを思い出した。
『ごくたまにいる『カケラ』持ちは能力が上乗せされる上に、欲望が暴走しがちになる。今回の敵も『カケラ』の力に飲み込まれた奴が相手かもしれねぇな…』
なぜかよく知っているげに話していたアーチ。なぜ彼がそんなことに詳しいのかはさておいて。
正直、邪心の『カケラ』などと言われてもピンとこない。子供の頃に爺さんから聞いたカビ臭い神話の中での話としか思っていなかったのだ。だがこういう形で身近な話として聞いても信じ難い。
「なあ…邪心の『カケラ』って、知ってるか?」
俺は隣を歩くフレッドに話を振ってみた。彼はなかなかの健脚を持っており、急ぎ足でも冒険者の俺と変わらない速度でついてきてくれている。これなら、昼過ぎにはエルダードに着けるんじゃないだろうか?
「邪心の『カケラ』、ですか? 確か神話のお話ですよね。いつか邪神が復活するときに備えて、七つの大罪にまつわる『カケラ』を多数ばら撒いたというあれですよね?」
…ああ、やっぱそういうリアクションが返ってくるよな…。
そうやって考えれば…以前に魔神を復活させようとしたパズスや、ナディアを無理やり娶ろうとしたアドルフ卿親子も『カケラ』の力に踊らされていたのだろうか? それ以前に傭兵として戦ってきた当時、俺が戦った相手や雇われた相手の中にも『カケラ』を持った奴がいたということなんだろうか?
俺は頭を振って、思考を現実に引き戻した。
「いや、それな…もしそれが事実だったとしたら、魔術師として研究している者はどう考える?」
…こんな話振られても困るだろうなと思ったが、意外なことに彼はグイグイ食いついてきた。
「そうですね…大変興味深いことです。今まで神話の一節としか考えられていなかったことですからね。それが事実なら、他の記述についても同様に事実が散りばめられているかもしれません。次の研究テーマにしてもいいとも思えますね」
「…そういうもんか? 魔術師って変わっているな…」
「ええ! 研究者なんて、結局は好奇心で動いている人がほとんどですから」
「…そういうもんか」
俺の脳裏には、身近な知識神の神官の姿がよぎった。確かに彼女も、知識欲は旺盛だったな…納得。
そうこうしている間にも、エルダードの巨大な門が見えてきた。真っ直ぐに魔術師ギルドに向かおうとした所で、後ろから声をかけられた。
「デュエルじゃないの。別の街で仕事だって聞いてたけど、返ってきてたの?」
見下ろすとアーシェがいた。聞けば、迷子の一人を送り届けてきた帰りらしい。あいも変わらずのこの人混みの中、いきなり道端で会えるとは思わなかった。
「魔術師ギルドの先輩だったんだ、それは…兄がお世話になりました」
妙に大人びた仕草でフレッドに挨拶をするアーシェ。フレッドは慌てて頭を下げ返す。
「あ、いえそんな。こちらこそ、お兄さんにはお世話になりました」
…おーい、脱線してるぞ…。
「だっせー、にいちゃんたちもまいごか?」
「でけー! 登っちゃおうぜ!」
わんぱくな迷子たちの声が交錯する、仮設の迷子案内所にて。俺は咳払いをしながら話を切り出す。
「とりあえず、アーシェにも頼みたいことができたな」
俺たちはなぜか迷子案内所に転がり込んで、アーシェたちと話をしていた。もちろん、フレッドも一緒に。
当面は座っているだけで背中に登ってくる迷子の子供達をなんとかしてもらいたいのだが、世の中には優先順というものがある。そっちは涙を飲んで我慢しよう。
「なになに? あたしにもできることある? 冒険者活動として、単位もらえるかな?」
「…ああ、レポート書けばな」
俺のリアクションに、アーシェは口を尖らせて目をそらす。ラグがその後をフォローした。
「どんなことでしょうか? すいません、こちらはなかなか動けませんので…」
「いや、大したことはない。ただ、召喚獣と使い魔をこっちの仕事に貸して欲しいんだ。連絡用に」
とりあえず、当面の問題は解決できそうだ。
翌日の夜明け前から。俺はフレッドを伴ってエルダードへの道を急いでいた。表向きは疑いを向けられたフレッドへの保護監察、だが実態は仕掛けてくる可能性の高い真犯人に対する牽制と彼の護衛だ。
俺はふと、アーチが言っていた『カケラ』のことを思い出した。
『ごくたまにいる『カケラ』持ちは能力が上乗せされる上に、欲望が暴走しがちになる。今回の敵も『カケラ』の力に飲み込まれた奴が相手かもしれねぇな…』
なぜかよく知っているげに話していたアーチ。なぜ彼がそんなことに詳しいのかはさておいて。
正直、邪心の『カケラ』などと言われてもピンとこない。子供の頃に爺さんから聞いたカビ臭い神話の中での話としか思っていなかったのだ。だがこういう形で身近な話として聞いても信じ難い。
「なあ…邪心の『カケラ』って、知ってるか?」
俺は隣を歩くフレッドに話を振ってみた。彼はなかなかの健脚を持っており、急ぎ足でも冒険者の俺と変わらない速度でついてきてくれている。これなら、昼過ぎにはエルダードに着けるんじゃないだろうか?
「邪心の『カケラ』、ですか? 確か神話のお話ですよね。いつか邪神が復活するときに備えて、七つの大罪にまつわる『カケラ』を多数ばら撒いたというあれですよね?」
…ああ、やっぱそういうリアクションが返ってくるよな…。
そうやって考えれば…以前に魔神を復活させようとしたパズスや、ナディアを無理やり娶ろうとしたアドルフ卿親子も『カケラ』の力に踊らされていたのだろうか? それ以前に傭兵として戦ってきた当時、俺が戦った相手や雇われた相手の中にも『カケラ』を持った奴がいたということなんだろうか?
俺は頭を振って、思考を現実に引き戻した。
「いや、それな…もしそれが事実だったとしたら、魔術師として研究している者はどう考える?」
…こんな話振られても困るだろうなと思ったが、意外なことに彼はグイグイ食いついてきた。
「そうですね…大変興味深いことです。今まで神話の一節としか考えられていなかったことですからね。それが事実なら、他の記述についても同様に事実が散りばめられているかもしれません。次の研究テーマにしてもいいとも思えますね」
「…そういうもんか? 魔術師って変わっているな…」
「ええ! 研究者なんて、結局は好奇心で動いている人がほとんどですから」
「…そういうもんか」
俺の脳裏には、身近な知識神の神官の姿がよぎった。確かに彼女も、知識欲は旺盛だったな…納得。
そうこうしている間にも、エルダードの巨大な門が見えてきた。真っ直ぐに魔術師ギルドに向かおうとした所で、後ろから声をかけられた。
「デュエルじゃないの。別の街で仕事だって聞いてたけど、返ってきてたの?」
見下ろすとアーシェがいた。聞けば、迷子の一人を送り届けてきた帰りらしい。あいも変わらずのこの人混みの中、いきなり道端で会えるとは思わなかった。
「魔術師ギルドの先輩だったんだ、それは…兄がお世話になりました」
妙に大人びた仕草でフレッドに挨拶をするアーシェ。フレッドは慌てて頭を下げ返す。
「あ、いえそんな。こちらこそ、お兄さんにはお世話になりました」
…おーい、脱線してるぞ…。
「だっせー、にいちゃんたちもまいごか?」
「でけー! 登っちゃおうぜ!」
わんぱくな迷子たちの声が交錯する、仮設の迷子案内所にて。俺は咳払いをしながら話を切り出す。
「とりあえず、アーシェにも頼みたいことができたな」
俺たちはなぜか迷子案内所に転がり込んで、アーシェたちと話をしていた。もちろん、フレッドも一緒に。
当面は座っているだけで背中に登ってくる迷子の子供達をなんとかしてもらいたいのだが、世の中には優先順というものがある。そっちは涙を飲んで我慢しよう。
「なになに? あたしにもできることある? 冒険者活動として、単位もらえるかな?」
「…ああ、レポート書けばな」
俺のリアクションに、アーシェは口を尖らせて目をそらす。ラグがその後をフォローした。
「どんなことでしょうか? すいません、こちらはなかなか動けませんので…」
「いや、大したことはない。ただ、召喚獣と使い魔をこっちの仕事に貸して欲しいんだ。連絡用に」
とりあえず、当面の問題は解決できそうだ。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります
京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。
なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。
今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。
しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。
今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。
とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる