上 下
175 / 405
mission 3 祝祭の神様

魔術具の脅威

しおりを挟む
side-アーチ 7

「…杖の効果は半径で、歩いて二日ほどの距離までカバーする。集めるゴブリンの数は術者の精神力に比例する。ただし、単純な命令だけならその分だけ増やすことは可能…。さらに一度与えた命令をキャンセルする事はできない。って…すげー広範囲の魔術具だな、コレ」
 オレはフレッドが残したメモを読むと、寝転んで天井を仰いだ。

「まあ確かに。ゴブリンなどの低級な魔物を支配して使い捨てにするという魔術具だからな。数を集めて工事なり兵士なりに利用していたんだろうな…」
 デュエルの声も、心なしか硬い。まあ確かにな…いくらゴブリンが害獣指定の雑魚魔物扱いだとしても、そこまで雑な扱いってのはどうかとは思う。ゴブリンの被害に悩む農家なんかじゃ、歓迎されるんだろうが。
「コレ使って本格的な戦争なんかされたら、周辺のゴブリンが絶滅するんじゃないか?」
 全くだ。ラスファの指摘は正しいと思う。

 ちなみに、神事はギリギリまで延期するらしい。宝珠が揃わなければできねぇことがあるってよ。女神サマも祝祭の期間中までしか限界出来ねぇらしいから、あと一週間強の猶予しかねぇわけだ。

 だが…犯人はこんな物騒な杖を使って、何を企ててやがるんだ? 何かを建築するための労働力という、『比較的』平和的な利用をするとは考えづらい。だったら…。
「…どこかの組織に対する、襲撃か?」
 オレの疑問を先回りしたかのように、デュエルは呟く。まさか、と笑い飛ばすにはあまりにもこの杖の効果がしっくりと馴染みすぎた。
 
 確かにこの杖の使い方によっては、身元不明の足がつかねぇ兵士をほぼ無限に作り出せるのだ。どこかに対する叛逆が目的としたら、コレほど役立つ魔道具もなかろう。
 こうしている間にも、どっかの城に戦争を吹っかけているかもしれねぇ…ってやべ。シャレになんねぇ!
「もう一つ、気になることがあるが…例の宝珠の効果は、どんなものなのか? 組み合わせによっては、さらに…」
「うおおやめろ! 考えたくねえええ!」

 怖えから考えねぇようにしてたってのに、なんで今それ言っちまうかなあラスファ?
 「現実逃避してる場合か! さっさと女神のところに行くぞ!」
 オレの脳天をスリッパではたくと、奴は扉に向かう。おいおい、寿命長ぇくせにせっかちだなオメーは。
「その必要はないわ」
 その時、いきなり扉が開いた。待ち構えたようなタイミングで例の女神が部屋に来ている。
「あら?」
 そこまでだったらかっこいい展開だったかもだが…出ようとしていたラスファが、いきなり開いた扉で痛打した額を抑えうずくまっている。なんつーか、締まらねぇなぁ女神サマよお…。


「えー、では改めて。宝珠の効果だったわね」
小さく咳払いすると、女神はオレら全員を見回した。なけなしの威厳をかき集めても、さっきのマヌケな展開で色々と台無しだ。だが何事もなかったように話を進める。
「こちらの手元にあるのは、この白い『魂の宝珠』と青い『悲劇の宝珠』よ。敵の手にあるのが『喜劇の宝珠』と『英雄の宝珠』」

 うーん…言っちゃ悪いが、全く効果の想像がつかねぇぞ? そこんとこ、もっと詳しく説明頼む女神サマ。
 後の二人もオレと同意見だったらしい。無言のままじっと視線で問いかけてやがる。
「とりあえずこの『悲劇の宝珠』は、持っているだけで悲劇が起きるものなの。最初は小さく、徐々に大きくなるわ」
「ちょ、それ…呪いのアイテムじゃねぇの!?」
 オレのツッコミに、デュエルたちも頷いた。ンなもん、持った所で役に立つ気がしねぇ!
「ということは、その効果がわかったからこれだけ返したということか?」
 ラスファはそう言って、女神が持ってきた青い宝珠を嫌そうに見下ろす。さっき額を強打したことを根に持っているらしい。わかる気がするが。

「ああ…説明が悪かったわね。これは持っている本人に対する悲劇じゃなくて、周囲の人が何らかの悲劇に見舞われるの。劇作家としての題材になるようなものになるような、ね」
「いや、どっちみち傍迷惑なものって事には変わりないだろ!」
 ナイスツッコミだ、デュエル! 
「ええ。ゆきすぎた悲劇は何も生まない…だから、この『魂の宝珠』があるの。こっちは他のすべての宝珠の効果を統制することができるの。大きな悲劇でも小さな悲劇でも思いのままに。今は悪用の恐れがあるから、ギリギリまで効果を抑制している」

「なるほど…そういう意味では最初に『魂の宝珠』が残っていて良かったかもな」
 ラスファはテーブルに置かれた白と青、二つの宝珠を目線で撫でた。
「んじゃ、残りの宝珠は?」
 オレの問いに、女神は顔を曇らせる。なんだ?
「それがちょっと厄介なのよ。黄色い『喜劇の宝珠』はともかくとして、赤い『英雄の宝珠』をどうにか取り戻さないと…」
 まだ何かあんのかよ! 流石にもう腹一杯だ!
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

愛人がいらっしゃるようですし、私は故郷へ帰ります。

hana
恋愛
結婚三年目。 庭の木の下では、旦那と愛人が逢瀬を繰り広げていた。 私は二階の窓からそれを眺め、愛が冷めていくのを感じていた……

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

処理中です...