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mission 3 祝祭の神様
謎の苦学生
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Side-ラスファ 5
アローガの町長夫人から紹介されて、盗難にあったと言う杖をよく知る人のところに来てみれば。この前自警団詰所で夫人と一緒にいた付き添いの中年夫人をはじめとする数人の夫人たちだった。
何故か一緒にくっついて来た町長夫人が、仲よさげに手を振り合う。どうでもいいが、えらく人数が多くないか?
「…でねでね、その杖は何年も前からこの街の小さな博物館に展示されてたものでねぇ」
「そうそう! その杖の鑑定資金を賄うために貸し出してたんだよ。それでね…」
…姦しいとは、まさにこのこと。
場所を街中のカフェに移したが、町長夫人を入れて六人の中年夫人たちは代わる代わる口々に状況の説明をしたがる。よほど話し相手に飢えているのだろう…ここは我慢だ。たまに少々、どこから聞けばいいのかわからなくなるが…全員の話に一貫性があって助かった。
彼女たちの説明をまとめると、こうだ。
博物館の埃落としをしていると、魔術師を名乗る学生がやって来た。ボサボサ頭にそばかす顔、丸メガネという苦学生そのものという見た目だったそうだ。
「学生だが、後学のために鑑定に挑戦して見てもいいだろうか? もちろん、お代はいらない。後で食事をお願いできるなら…」
この発言と純朴そうな外見に騙され、杖を任せて数分ほど…。
彼と杖は、忽然と部屋から消え失せていたという。
「密室でひとり、杖を任せたのか?」
「そうなんだよぉ。何でも『魔力に触れると危ないから、外で待っていたください』なんて言うんだもの。魔術って、怪しくて訳わからない力だろ? あたしゃ、怖くってねぇ…」
…なるほど、魔術に対する無知を逆手に取られたのか…。もしかしたら学生というのも偽りで、その純朴そうな姿も魔術で変身したものかもしれない。
「それが、エルダードの観光旅行から帰った直後の話か…」
それだと、そう前のことではない。祝祭が始まって間も無くという頃だろうから、かなりな計画性を持った犯人だ。だとしたら、目的は?
「というか、祝祭の本番前に帰ったのか?」
とりあえず、一番気になっていたことを聞いて見る。途端に、上機嫌で夫人は語り始めた。
「そうなんだよお、帰りに混むのはこの年にゃきつくってねぇ。後ろ髪ひかれる思いで帰って来たんだよ。でもまあ、あんたにまた会えるなんて思わなかったよ。縁があったんだねえ♪」
「いいなあ、 ポピーさん。向こうで会った子なんだって?」
「自警団やってるって言ってたけど、本業は薬屋さんかい?」
「彼女はいるのかい? あたしの姪にいい子がいてね…」
「いやあんた、いるに決まってるじゃないか! 女の子の方が放っとかないよこの子なら?」
「あっはは、たしかにねぇ!」
口々に質問攻めにされるのは、どうも苦手だ。その辺りは適当に流すと、本業は薬屋と勝手に認識されてしまった。微妙に間違ってない気はするが…解せぬ。
私は再び雑踏に紛れて歩き出す。杖があったという当の博物館を一度見に行くつもりだと告げると、夫人たちが案内するとまとめてついて来た。
「薬屋さん、こっちだよ!」
…どうしてこう、ついて来たがるのか? 暇か? 暇なのか?
博物館は静まり返って薄暗かった。この祝祭の最中に訪れる人もいないかと思ったら、これが通常だそうだ。誰もいない博物館か…未鑑定の魔術具などがあっては、確かに狙い目ではないだろうか?
杖があった場所も、人目につきづらい場所だった。ということは、もともとあまり重要視されていなかったと思われる。ガラクタ同然の扱いしかされていなかったことだろう…。
犯人は、何かの理由で以前からここにある杖のことを知っていたのではないだろうか?
だから魔術師の学生と身分を偽ってまで、この杖を手に入れようとしたのか?
「ここの係員はいるのか?」
「いるよお。コナー! ちょっと来てくれる?」
呼ばれて出て来たのは、五十がらみでもっさりとした印象の男だった。ドワーフの血を持っているために、襟巻のようなヒゲと小柄な体格をしているようだ。
「ここの展示室に来た者について、話を聞かせてもらいたい。いいか?」
彼は黙って頷く。
「不自然に長居をしたとか、中からつぶやくような声が聞こえたとか…なんでもいいから変わったことはなかったか?」
彼は静かに語り始める。
「…ひと月ほど前だったか…。熱心な学生が何度か訪ねて来て、入り浸っておった。この通り人があまり来ないような場所だったのでな、覚えがあった」
学生!? 夫人の話と妙に符合する。彼女の話で聞いた特徴をあげると、同一人物のようだった。
「しばらくすると打ち解けてきたが、実に純朴な若者だった。何かの間違いではないのか?」
だが実際、その人物が杖と共に消えている。
まずはその人物を見つけなくては!
アローガの町長夫人から紹介されて、盗難にあったと言う杖をよく知る人のところに来てみれば。この前自警団詰所で夫人と一緒にいた付き添いの中年夫人をはじめとする数人の夫人たちだった。
何故か一緒にくっついて来た町長夫人が、仲よさげに手を振り合う。どうでもいいが、えらく人数が多くないか?
「…でねでね、その杖は何年も前からこの街の小さな博物館に展示されてたものでねぇ」
「そうそう! その杖の鑑定資金を賄うために貸し出してたんだよ。それでね…」
…姦しいとは、まさにこのこと。
場所を街中のカフェに移したが、町長夫人を入れて六人の中年夫人たちは代わる代わる口々に状況の説明をしたがる。よほど話し相手に飢えているのだろう…ここは我慢だ。たまに少々、どこから聞けばいいのかわからなくなるが…全員の話に一貫性があって助かった。
彼女たちの説明をまとめると、こうだ。
博物館の埃落としをしていると、魔術師を名乗る学生がやって来た。ボサボサ頭にそばかす顔、丸メガネという苦学生そのものという見た目だったそうだ。
「学生だが、後学のために鑑定に挑戦して見てもいいだろうか? もちろん、お代はいらない。後で食事をお願いできるなら…」
この発言と純朴そうな外見に騙され、杖を任せて数分ほど…。
彼と杖は、忽然と部屋から消え失せていたという。
「密室でひとり、杖を任せたのか?」
「そうなんだよぉ。何でも『魔力に触れると危ないから、外で待っていたください』なんて言うんだもの。魔術って、怪しくて訳わからない力だろ? あたしゃ、怖くってねぇ…」
…なるほど、魔術に対する無知を逆手に取られたのか…。もしかしたら学生というのも偽りで、その純朴そうな姿も魔術で変身したものかもしれない。
「それが、エルダードの観光旅行から帰った直後の話か…」
それだと、そう前のことではない。祝祭が始まって間も無くという頃だろうから、かなりな計画性を持った犯人だ。だとしたら、目的は?
「というか、祝祭の本番前に帰ったのか?」
とりあえず、一番気になっていたことを聞いて見る。途端に、上機嫌で夫人は語り始めた。
「そうなんだよお、帰りに混むのはこの年にゃきつくってねぇ。後ろ髪ひかれる思いで帰って来たんだよ。でもまあ、あんたにまた会えるなんて思わなかったよ。縁があったんだねえ♪」
「いいなあ、 ポピーさん。向こうで会った子なんだって?」
「自警団やってるって言ってたけど、本業は薬屋さんかい?」
「彼女はいるのかい? あたしの姪にいい子がいてね…」
「いやあんた、いるに決まってるじゃないか! 女の子の方が放っとかないよこの子なら?」
「あっはは、たしかにねぇ!」
口々に質問攻めにされるのは、どうも苦手だ。その辺りは適当に流すと、本業は薬屋と勝手に認識されてしまった。微妙に間違ってない気はするが…解せぬ。
私は再び雑踏に紛れて歩き出す。杖があったという当の博物館を一度見に行くつもりだと告げると、夫人たちが案内するとまとめてついて来た。
「薬屋さん、こっちだよ!」
…どうしてこう、ついて来たがるのか? 暇か? 暇なのか?
博物館は静まり返って薄暗かった。この祝祭の最中に訪れる人もいないかと思ったら、これが通常だそうだ。誰もいない博物館か…未鑑定の魔術具などがあっては、確かに狙い目ではないだろうか?
杖があった場所も、人目につきづらい場所だった。ということは、もともとあまり重要視されていなかったと思われる。ガラクタ同然の扱いしかされていなかったことだろう…。
犯人は、何かの理由で以前からここにある杖のことを知っていたのではないだろうか?
だから魔術師の学生と身分を偽ってまで、この杖を手に入れようとしたのか?
「ここの係員はいるのか?」
「いるよお。コナー! ちょっと来てくれる?」
呼ばれて出て来たのは、五十がらみでもっさりとした印象の男だった。ドワーフの血を持っているために、襟巻のようなヒゲと小柄な体格をしているようだ。
「ここの展示室に来た者について、話を聞かせてもらいたい。いいか?」
彼は黙って頷く。
「不自然に長居をしたとか、中からつぶやくような声が聞こえたとか…なんでもいいから変わったことはなかったか?」
彼は静かに語り始める。
「…ひと月ほど前だったか…。熱心な学生が何度か訪ねて来て、入り浸っておった。この通り人があまり来ないような場所だったのでな、覚えがあった」
学生!? 夫人の話と妙に符合する。彼女の話で聞いた特徴をあげると、同一人物のようだった。
「しばらくすると打ち解けてきたが、実に純朴な若者だった。何かの間違いではないのか?」
だが実際、その人物が杖と共に消えている。
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