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mission 3 祝祭の神様
渦巻く悪意
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Side-ラスファ 3
セラの部屋に出現した、不気味な赤い魔法陣と行方不明だった宝珠の一つ。その存在は芸術神の神殿に激震を走らせた。
「そんな…! 犯人は、セラなの?」
「そんなはずはないわ! 今日、帰ってきたばかりなのよ?」
「でもでも、どこに行ってたのかわからないっていう宝珠もあったのよ?」
「そんな…それじゃ、やっぱりセラが…?」
神殿にいる信徒の少女たちが口々に噂する。真剣に心配している風を装っているがその実、目の奥が笑っている。厭な光景だ。
「お待ちください! セラ様は礼拝所に呼ばれて、未だ一度もお部屋に戻られていませんでした。何かの間違いではないでしょうか?」
マイルスが必死に訴えるが、彼女たちは鼻先で笑い飛ばした。
「あら、戻っているんじゃないの? あなたが一度、荷物を置きに」
「わ…私がこんなものを用意したとでも…?」
蒼白になるマイルス。見かねて私は部屋に入った。
「あ、お客人! 何を…?」
「…この魔法陣からは、全く魔力が感じられない」
そして周囲にわかりやすいように光精を呼び出すと、床の魔法陣を調べた。
暗いところで光るインクを用いて書かれた魔法陣が、床から剥がれる。
「薄紙に書かれたものだ。これなら部屋に入らなくても、扉を開けて放り込むだけで準備できる。あとは、暗くなってから部屋に入るだけで発見を演出すれば良い。手の込んだ悪戯だ。確か…最初に入ったのはお前か?」
そして、最初の発見者である少女に向き直った。彼女は蒼白になって必死に首を振った。
「ち、ちがう! 私じゃない! 私は、セラさんの部屋の明かりを持ってきただけで…!」
彼女の弁明を遮るように、もう一つの声が割り込んだ。
「あらあら、言い訳は見苦しくてよ? もう良いの、素直に認めておしまいなさいな…」
声の主は、派手で刺々しい印象を持つ黒髪の女だ。年は、二十代初め頃だろうか?
「ライラさん…違うんです!」
「何が違うのよ? さあさ、神殿長と女神様に報告に行きましょうね? 今ならまだ、罪は軽くて済むわよ?」
あくまで女…ライラは彼女の言い分を聞こうとしない。その見下し切った態度がいい加減、腹に据えかねた。
「あんたはどうしても彼女を犯人にしたいようだな?」
見かねたのか、アーチが口を挟んだ。いつもの女好きは鳴りを潜め、嫌悪が透けて見える口調だ。
「あら、そう見えるの?」
私は魔法陣とともに部屋に置かれた宝珠を指した。
「これ以上彼女を犯人扱いするなら、あんたを真犯人もしくは共犯者とみなす」
「…何ですって?」
「実際に消えた宝珠が一つここにある。通常、部外者が入りづらい神殿の環境を考えると、実行犯か共犯者がここにいて手引していると考えた方が自然だ。それに…少なくとも、魔法陣の方の証拠ならある」
「何があるというのよ?!」
「あんたの指先に、同じ塗料が」
「なッ…!」
慌てたように自分の指先を確かめながら、彼女が小さく呟いた「洗ったはずなのに…」という言葉を私は聞き逃さなかった。
「…やっぱりか」
「…っ! あんた…!」
言葉に詰まる彼女。そこに女神と年配の神殿長が駆けつけた。
「何事ですか? 説明してくださいな」
あくまで神殿長の口調は丁寧だが、有無を言わせない迫力があった。
とりあえず、この場であったことのみを簡潔に説した。小さく一言「覚えてなさいよ」とライラが捨て台詞を吐きながら連行されて行く。そしてその場は全員解散となった。
「女って怖いな…」
人気のなくなった廊下で、デュエルが小さく呟く。
「陰湿な悪意が渦巻いてるのが、部外者の俺でもわかった。この環境では、セラの能力は相当な負担になりそうだな…」
言われて見たら、確かにそうだ。セラの能力は魂の音色を聴くというものだ。それがこんな環境にいたら、苦痛ばかりを味わう羽目になる。
「なあ付き人さん…あんた、それでセラを連れ出したのか?」
私と同じ結論に達したらしいアーチがマイルスに尋ねる。心なしか、同情するような声音だ。
「ええ…セラ様が、自らの能力を完全に封じてしまう前にどうにかしたかったのです」
その声は、どこか娘を心配する父親の声音に似ていた。
セラの部屋に出現した、不気味な赤い魔法陣と行方不明だった宝珠の一つ。その存在は芸術神の神殿に激震を走らせた。
「そんな…! 犯人は、セラなの?」
「そんなはずはないわ! 今日、帰ってきたばかりなのよ?」
「でもでも、どこに行ってたのかわからないっていう宝珠もあったのよ?」
「そんな…それじゃ、やっぱりセラが…?」
神殿にいる信徒の少女たちが口々に噂する。真剣に心配している風を装っているがその実、目の奥が笑っている。厭な光景だ。
「お待ちください! セラ様は礼拝所に呼ばれて、未だ一度もお部屋に戻られていませんでした。何かの間違いではないでしょうか?」
マイルスが必死に訴えるが、彼女たちは鼻先で笑い飛ばした。
「あら、戻っているんじゃないの? あなたが一度、荷物を置きに」
「わ…私がこんなものを用意したとでも…?」
蒼白になるマイルス。見かねて私は部屋に入った。
「あ、お客人! 何を…?」
「…この魔法陣からは、全く魔力が感じられない」
そして周囲にわかりやすいように光精を呼び出すと、床の魔法陣を調べた。
暗いところで光るインクを用いて書かれた魔法陣が、床から剥がれる。
「薄紙に書かれたものだ。これなら部屋に入らなくても、扉を開けて放り込むだけで準備できる。あとは、暗くなってから部屋に入るだけで発見を演出すれば良い。手の込んだ悪戯だ。確か…最初に入ったのはお前か?」
そして、最初の発見者である少女に向き直った。彼女は蒼白になって必死に首を振った。
「ち、ちがう! 私じゃない! 私は、セラさんの部屋の明かりを持ってきただけで…!」
彼女の弁明を遮るように、もう一つの声が割り込んだ。
「あらあら、言い訳は見苦しくてよ? もう良いの、素直に認めておしまいなさいな…」
声の主は、派手で刺々しい印象を持つ黒髪の女だ。年は、二十代初め頃だろうか?
「ライラさん…違うんです!」
「何が違うのよ? さあさ、神殿長と女神様に報告に行きましょうね? 今ならまだ、罪は軽くて済むわよ?」
あくまで女…ライラは彼女の言い分を聞こうとしない。その見下し切った態度がいい加減、腹に据えかねた。
「あんたはどうしても彼女を犯人にしたいようだな?」
見かねたのか、アーチが口を挟んだ。いつもの女好きは鳴りを潜め、嫌悪が透けて見える口調だ。
「あら、そう見えるの?」
私は魔法陣とともに部屋に置かれた宝珠を指した。
「これ以上彼女を犯人扱いするなら、あんたを真犯人もしくは共犯者とみなす」
「…何ですって?」
「実際に消えた宝珠が一つここにある。通常、部外者が入りづらい神殿の環境を考えると、実行犯か共犯者がここにいて手引していると考えた方が自然だ。それに…少なくとも、魔法陣の方の証拠ならある」
「何があるというのよ?!」
「あんたの指先に、同じ塗料が」
「なッ…!」
慌てたように自分の指先を確かめながら、彼女が小さく呟いた「洗ったはずなのに…」という言葉を私は聞き逃さなかった。
「…やっぱりか」
「…っ! あんた…!」
言葉に詰まる彼女。そこに女神と年配の神殿長が駆けつけた。
「何事ですか? 説明してくださいな」
あくまで神殿長の口調は丁寧だが、有無を言わせない迫力があった。
とりあえず、この場であったことのみを簡潔に説した。小さく一言「覚えてなさいよ」とライラが捨て台詞を吐きながら連行されて行く。そしてその場は全員解散となった。
「女って怖いな…」
人気のなくなった廊下で、デュエルが小さく呟く。
「陰湿な悪意が渦巻いてるのが、部外者の俺でもわかった。この環境では、セラの能力は相当な負担になりそうだな…」
言われて見たら、確かにそうだ。セラの能力は魂の音色を聴くというものだ。それがこんな環境にいたら、苦痛ばかりを味わう羽目になる。
「なあ付き人さん…あんた、それでセラを連れ出したのか?」
私と同じ結論に達したらしいアーチがマイルスに尋ねる。心なしか、同情するような声音だ。
「ええ…セラ様が、自らの能力を完全に封じてしまう前にどうにかしたかったのです」
その声は、どこか娘を心配する父親の声音に似ていた。
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