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intermission 4 〜突然の訪問者〜

帰還、そして…

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Side-ラスファ 5

「ティセ…モうカエるね」
 ナユタと何事か話した後、ティセはぽつりと切り出した。
「は? 昨日来たばかりじゃないか? せっかくだし…」
 今までに見たことがないような寂しげな顔で、ティセは笑ってかぶりを振る。
「ティセ、じつはサト、ナいしょでデてきタ。もウカエらないト、シンぱいかけル」
「今からか? もう遅い時間だ、せめて明日…」
「たいチョぷ。コレもてキた」
 彼女の手の中には、小さな赤い糸玉のような球があった。
「『転移の魔法陣』?!」
 それを見て、アーシェとラグが声を上げる。どういうものか尋ねると、以下の説明をされた。やはり現役の学生の方が、こういう魔術具についての情報が入りやすいものなのだ。

 これは、遠く離れた地点をつなぐ魔法陣を呼び出すもの。二つひと組で使い、一度登録した場所に瞬間的に人や物を転移するという代物で、裕福な商人などが販路を拡大するときなどに重宝される。ただ難があるといえば、一度行ったことがある場所にしか登録できないことと、そこそこ高価な点と言ったところだが。

「これ、一体どうしたんだ?」
「ティセ、つくッタ。こういうマホウ、とクイ」
 意外な特技だ…移動系の魔法は案外難しい。その答えにアーシェが食いつく。
「エルダードに来ればいいじゃない! 魔術師ギルドの付与魔術科って、いつでも人手不足だよ?!」
 アーシェの提案にティセは断りを入れる。
「ティセ、サトにカエラなきゃ。オキテ、やぶルことになっちゃウ」
 それについては半分手遅れな気はするが、アーシェは素直に引き下がった。
「…そっか…また、来てね…」

 荷物をまとめて、ティセは再び白銀亭の片隅に立った。
 こういう時、何を言うべきなのかわからない自分がもどかしい。結局考えた末に、アーシェと似たようなことしか出てこない。
「元気でな。…また、来いよ」
 その言葉に、ティセはパッと笑みを浮かべると大きく頷く。昔から変わらないその天真爛漫さに、思わず苦笑すると自然に彼女の頭を撫でた。久しぶりに会ったというのに、さほど言葉を交わす間もなかったことを思い出す。

 だが、これでよかったのだと思えた。彼女の登場で、置き去りにして来た過去と向き合ういい機会になったのだから。
「また、クル! ゼッタイ!」
 ティセが床に放り出した糸玉は地面に落ちる前に解け、広がる糸が魔法陣を描いてゆく。ティセは、その中心に立って手を振った。
「だカラ、シキにはヨンでね!」
 
 謎の一言を残すと、彼女の姿はかき消えた。魔法陣も床に溶け込むように消えてしまう。

「式…? なんの事だ?」

 ただ、一つの小さな疑問だけがそこに残った。



 数日後。
「ラス兄! ティセ、またキタ!」
 あの時床に吸い込まれるように消えたはずの魔法陣がいつの間にか復活し、数日前と変わらないティセの姿が再びそこにあった。
「は?! 帰ったんじゃ…?」

 私の疑問に、アーシェが補足を加える。
「うん。だから、言ったでしょ? 転移の魔法陣は、二つの  地点を登録する物だって。だから、この魔法陣の向こうは…」
「里と直結してるってことか!? この魔法陣、固定されてるってことか?」
「そーゆーこと」

「聞いてないぞ、おい!」
「いや、だからあたし説明した通りだってば。もしかして兄貴、一回限りの使い捨てと思ってたの?」
 私は返す言葉を持たなかった。確かに、誰も『一回限り』とは言っていない。
 絶句する私を置き去りに、アーシェとラグはティセと「ねー!」と言い合って笑っている。
「仲、いいな」
 なんとなく置き去りにされた気分で、私はため息をつく。

 …今日も、空が青い。
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