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mission 2 孤高の花嫁
野望と虚無
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Side-デュエル 21
それから。
当然、結婚式は破談となる。招待客たちは、突然起きた局地的な災害に見舞われたという説明で納得してもらった。
「すごい地震だったわねえ」
「みんな無事でよかったわあ」
そう囁きながら近隣の貴族のご婦人方は帰途についた。その馬車の行列を複雑な気分で見送ると、俺はとっぷり暮れた空を見上げる。
あの『新郎』は、あの後ずっと放心状態が続いている。引き摺り込まれた木の中に、精神を置き忘れでもしたのだろうか? あの中で何があったのかも語る事はないだろう。
花嫁のナディアは無事に助け出された。だが彼女の心の傷はあまりにも深い。実家に帰っても誰もおらず辛い記憶ばかりが蘇るだろうし、何より『黒狼団』がアジトに使っていたのだから、帰せる状態でもなく。ひとまずは、引き続きカッパーフィールド家の預かりとなって暮らしていくことになるそうだ。今度こそ、幸せになってほしいと、切に願う。
衛視隊も、事実上解体となった。領主直々の命で縛られて引き立てられていく元衛視達は、その途中で盛大に俺たちに噛みついてきた。今まで好き放題やってきたツケが回ってきたとは考えないらしく、反省の色もない。
「こんな事をして、ただで済むと思うのか!」
「我がジェファーソン家に逆らうつもりか!?」
縛られたままでいきり立つ貴族たちに、アーチは言い切った。
「ああ、できるもんならしてみな。オレらは冒険者、テメーらの権力なんざ届かねぇよ!」
恫喝が効かないとなれば、懐柔しにかかる奴も出てきた。
「お、おい君たち! ならわしのところに来ぬか? 給金は弾むぞ! 好きなだけだ!」
「貴様らの汚れた金など要らん!」
こっちは取りつく島もなく、絶対零度のラスファの一喝に切って捨てられている。
「き、貴様ら…!」
「文句があるなら、エルダードまで来るんだな!」
調子に乗るアーチに、俺はこっそりツッコんだ。
「…観光にか…?」
かくして所属していた貴族らが関わった悪事や殺人は白日の下に晒され、彼らは庶民に降格扱いとなった。その上で断罪されることになるという。この事件はこの先一生つきまとうゴシップとして背負っていくことになるだろう。貴族としてはこの上ない屈辱に違いない。
ちなみに指輪ごと氷漬けにされた衛視隊長のベネディクトは、未だ発掘作業中だそうだ。こんな状態でも一応生きてはいるらしく、事情聴取のためにも慎重に掘り出されているそうだ。まったく、ラスファも無茶をする。おそらくは妹を殴られた腹いせもあるのだろう…私怨バリバリだな。
そして…。
「何をしたか、わかっているんだろう?」
「…」
肝心のアドルフ卿だが…領主や身内の者が集まる大広間で縛られたまま、口々に問い詰める身内たちに口をつぐんだまま答えを返す様子は全くない。
「ナディアの家族を殺し、領主を貶めた上で成り代わろうとした」
「…」
「多くの貴族を巻き込み、人質までとって非道を重ねた挙げ句の謀反未遂…!」
「…」
「挙げ句、魔獣結晶を用いて証人をまとめて消そうとした。彼ら冒険者たちがいなかったら、一体どうなっていたことか…!」
「なんとか答えたらどうなんだ!」
自らの罪に対して、なんら語る姿勢すら見せないアドルフ卿に、領主は最後の決断を下した。
「嘆かわしい…こうなってしまっては仕方ない。身内の罪は身内の手で裁くのが慣わし…。そなたが手にかけた者、苦しみを強いた者、悲しみを与えた者に代わって、この場で断罪いたそう…」
その言葉に従って、ジェラルド卿の剣が抜き放たれる。そして自警団の男たちが彼を押さえつけて首を突き出させる。
アーシェやラグをナディアと共に置いてきたのは正解だった。こんな血みどろの裁きの場など、到底見せられたもんじゃない。
「お待ち下さい、父上!」
そこに、意外な声が割り込んできた。
「フランシス!?」
彼は今、いつものきらびやかな鎧を脱いでいる。
俺たちからみれば珍しい、私服姿のフランシスだっ た。
「こんな方でも叔父さんなんです。ボクにとっては
……。殺すことは簡単です。ですが断罪よりも、何かの形で償いをしてもらいましょう…!」
まさか彼に命乞いされるとは思わなかったアドルフ卿は、目を見開いてフランシスを見返した。
「…フランシス…?」
今まで見下し続けてきたフランシスに命を救われるとはおもわず、アドルフはうなだれた。
おそらくは完全にプライドを砕かれたことだろう。一気に老け込んだようにすら思えた彼は、最後に一言ぽつりと呟いた。
「全て失い、息子は壊れて…。私は…一体、何をしていたんだろうな…」
結局、彼は追放処分となった。カッパーフィールド家の所有する小さな島で、精神を置き忘れた息子と二人静かに生きていくそうだ。
しかし結局、彼をそこまで追い立てたものとはなんだったんだろう…?
後日聞いた話だが…監視付きではあるが、憑き物が落ちたように穏やかな日々をアドルフは送っているそうだ。
あの野望など、なかったかのように…
それから。
当然、結婚式は破談となる。招待客たちは、突然起きた局地的な災害に見舞われたという説明で納得してもらった。
「すごい地震だったわねえ」
「みんな無事でよかったわあ」
そう囁きながら近隣の貴族のご婦人方は帰途についた。その馬車の行列を複雑な気分で見送ると、俺はとっぷり暮れた空を見上げる。
あの『新郎』は、あの後ずっと放心状態が続いている。引き摺り込まれた木の中に、精神を置き忘れでもしたのだろうか? あの中で何があったのかも語る事はないだろう。
花嫁のナディアは無事に助け出された。だが彼女の心の傷はあまりにも深い。実家に帰っても誰もおらず辛い記憶ばかりが蘇るだろうし、何より『黒狼団』がアジトに使っていたのだから、帰せる状態でもなく。ひとまずは、引き続きカッパーフィールド家の預かりとなって暮らしていくことになるそうだ。今度こそ、幸せになってほしいと、切に願う。
衛視隊も、事実上解体となった。領主直々の命で縛られて引き立てられていく元衛視達は、その途中で盛大に俺たちに噛みついてきた。今まで好き放題やってきたツケが回ってきたとは考えないらしく、反省の色もない。
「こんな事をして、ただで済むと思うのか!」
「我がジェファーソン家に逆らうつもりか!?」
縛られたままでいきり立つ貴族たちに、アーチは言い切った。
「ああ、できるもんならしてみな。オレらは冒険者、テメーらの権力なんざ届かねぇよ!」
恫喝が効かないとなれば、懐柔しにかかる奴も出てきた。
「お、おい君たち! ならわしのところに来ぬか? 給金は弾むぞ! 好きなだけだ!」
「貴様らの汚れた金など要らん!」
こっちは取りつく島もなく、絶対零度のラスファの一喝に切って捨てられている。
「き、貴様ら…!」
「文句があるなら、エルダードまで来るんだな!」
調子に乗るアーチに、俺はこっそりツッコんだ。
「…観光にか…?」
かくして所属していた貴族らが関わった悪事や殺人は白日の下に晒され、彼らは庶民に降格扱いとなった。その上で断罪されることになるという。この事件はこの先一生つきまとうゴシップとして背負っていくことになるだろう。貴族としてはこの上ない屈辱に違いない。
ちなみに指輪ごと氷漬けにされた衛視隊長のベネディクトは、未だ発掘作業中だそうだ。こんな状態でも一応生きてはいるらしく、事情聴取のためにも慎重に掘り出されているそうだ。まったく、ラスファも無茶をする。おそらくは妹を殴られた腹いせもあるのだろう…私怨バリバリだな。
そして…。
「何をしたか、わかっているんだろう?」
「…」
肝心のアドルフ卿だが…領主や身内の者が集まる大広間で縛られたまま、口々に問い詰める身内たちに口をつぐんだまま答えを返す様子は全くない。
「ナディアの家族を殺し、領主を貶めた上で成り代わろうとした」
「…」
「多くの貴族を巻き込み、人質までとって非道を重ねた挙げ句の謀反未遂…!」
「…」
「挙げ句、魔獣結晶を用いて証人をまとめて消そうとした。彼ら冒険者たちがいなかったら、一体どうなっていたことか…!」
「なんとか答えたらどうなんだ!」
自らの罪に対して、なんら語る姿勢すら見せないアドルフ卿に、領主は最後の決断を下した。
「嘆かわしい…こうなってしまっては仕方ない。身内の罪は身内の手で裁くのが慣わし…。そなたが手にかけた者、苦しみを強いた者、悲しみを与えた者に代わって、この場で断罪いたそう…」
その言葉に従って、ジェラルド卿の剣が抜き放たれる。そして自警団の男たちが彼を押さえつけて首を突き出させる。
アーシェやラグをナディアと共に置いてきたのは正解だった。こんな血みどろの裁きの場など、到底見せられたもんじゃない。
「お待ち下さい、父上!」
そこに、意外な声が割り込んできた。
「フランシス!?」
彼は今、いつものきらびやかな鎧を脱いでいる。
俺たちからみれば珍しい、私服姿のフランシスだっ た。
「こんな方でも叔父さんなんです。ボクにとっては
……。殺すことは簡単です。ですが断罪よりも、何かの形で償いをしてもらいましょう…!」
まさか彼に命乞いされるとは思わなかったアドルフ卿は、目を見開いてフランシスを見返した。
「…フランシス…?」
今まで見下し続けてきたフランシスに命を救われるとはおもわず、アドルフはうなだれた。
おそらくは完全にプライドを砕かれたことだろう。一気に老け込んだようにすら思えた彼は、最後に一言ぽつりと呟いた。
「全て失い、息子は壊れて…。私は…一体、何をしていたんだろうな…」
結局、彼は追放処分となった。カッパーフィールド家の所有する小さな島で、精神を置き忘れた息子と二人静かに生きていくそうだ。
しかし結局、彼をそこまで追い立てたものとはなんだったんだろう…?
後日聞いた話だが…監視付きではあるが、憑き物が落ちたように穏やかな日々をアドルフは送っているそうだ。
あの野望など、なかったかのように…
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