上 下
126 / 405
mission 2 孤高の花嫁

緑との攻防戦

しおりを挟む
Side-デュエル 18

 あれからしばらく…蔦や枝はなおもしばらく俺たちを取り込もうとしつこく伸ばされ続けていた。

「うふふ、捕まえちゃうから!」
「お待ちになって、素敵なお方!」
「共に永遠の時を過ごしましょう!」

 ひいいいい!
 うっとりした目で迫ってくる女が、こんなに怖いとは思ってもみなかった!
「完全にイっちゃってる目つきだもんな!」
「援軍はまだなのか!?」
 アーチもラスファもフランシスも、全く同じ感想らしい。程度の差は多少あれど同じように狙われているのなら、当然と言えば当然なんだが。

「大丈夫か、お前らー!!」
 そこに勢いよく開く扉! 期待と共にそちらに目をやると、屈強な元・自警団員たちが整列していた。ドライアードたちの目がまとめてそっちに吸い寄せられ、剣呑な光をたたえる。

「「「「男は帰れー!!!」」」」

 俺たち全員が、悲鳴混じりの声をあげた。
 言ったよな、俺たち! 女性限定の援軍って!それがなんで自警団の男たちが来るんだよ!
「お? 何だ何だこのきれーなねーちゃんたち!」
「追い回されてんのか、羨ましいぜこの色男!」
 危機感ゼロの能天気なヤジが飛ぶ。
そんなこと言ってる場合じゃないというのに! どうやったらこの状況を収拾できるんだ!

「ドライアード!? 男性の皆さん、決して前に出ないでください! 木の中の世界に引き込まれて、二度と出てこれなくなりますよ!」

 ラグが彼女たちの正体を看破してくれたお陰で、整列していた自警団の面々は続いて来たブレンダに扉の向こうに引っ張り込まれる。向こうではどうやら、彼女がドライアードの危険性についてじっくりと説明しているようだった。ラグたちは残して来たトロールとの戦いで、信頼してもらえるだけの働きをしたのだろう。助かった。

「何やってんのよ!兄貴たちも早くこっちに逃げ込みなよ!」
 こっちの惨状を見かねたように、アーシェが声を張り上げる。
「簡単に言うがな、狂った女の執念で逃げられないんだ! どうにか策はあるか、ラグ?」
 すでに地面には切り飛ばされた蔦や枝が積み重なっている。後半のラスファの問いを受けて、ラグは思案するそぶりを見せた。そのポーズはいつしか祈りの姿勢に変わる。

「知識神リーブラ様、どうか啓示をお与えください…!」
 それは、ラグが仕える知識神への祈り。『啓示』をもらおうと言うのか!

『啓示』とは、神から直接にもらうアドバイスのことだ。戦神なら戦略を、至高神なら人の道を説くアドバイスをと言った感じに信仰する神ごとに違うが有用な情報をもらえる。ただ信者への負担も大きく、代償として精神力のほとんどを持っていかれるという。安易に神に助けは求められないと言うわけだ。

 代償のせいか、ラグはその場に膝をつき、アーシェがその背を支えた。肩で息をしながら彼女は啓示の内容を告げた。
「さっき砕けた結晶のかけらを集めてください。…修復魔法で直して投げつければ、再び封印できます!」
「よしきた!」
 その言葉に一瞬の躊躇もなく駆け出したのは、他ならぬアーチだった。「確かこの辺だったな」と呟きながら、切り飛ばして積み重なった蔦や枝をかき分ける。
「その分、ボクが気をひくよ! どうやらボク、妙に気に入られてるみたいだし! ラスファも頼むよ、キミも彼女たちのお気に入りだからね!」
「仕方ない、囮になってやるか!」
 フランシスとラスファが囮役を買って出てくれたおかげでアーチに向かう手数が激減するのはありがたかった。俺はその間、地面をかき分けるアーチに向かう蔦や枝をカバーする役につく。

「あったぜ! コレ集めりゃいいんだな!」
 赤い結晶のかけらを拾い集め、手持ちの袋に放り込むアーチ。
「コレで、全部か?」
 じゃラリと硬い音がする袋をラグに押し付けて、狙って来る蔦を払いのけながら「頼んだぞ」と頭を撫でる。
だが、俺たちは一つ、大きな見落としがあった。

「すいません…わたくし、もう魔法は使えません…!」

 修復魔法はラグしか使えない。そのラグは、さっきの『啓示』で精神力をほとんど持っていかれている。つまり、修復魔法は使えない状態になっていた。

「「「「おいいいいぃぃぃいい!?」」」」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

チート幼女とSSSランク冒険者

紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】 三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が 過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。 神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。 目を開けると日本人の男女の顔があった。 転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・ 他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・ 転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。 そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語 ※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

母の中で私の価値はゼロのまま、家の恥にしかならないと養子に出され、それを鵜呑みにした父に縁を切られたおかげで幸せになれました

珠宮さくら
恋愛
伯爵家に生まれたケイトリン・オールドリッチ。跡継ぎの兄と母に似ている妹。その2人が何をしても母は怒ることをしなかった。 なのに母に似ていないという理由で、ケイトリンは理不尽な目にあい続けていた。そんな日々に嫌気がさしたケイトリンは、兄妹を超えるために頑張るようになっていくのだが……。

女子力の高い僕は異世界でお菓子屋さんになりました

初昔 茶ノ介
ファンタジー
昔から低身長、童顔、お料理上手、家がお菓子屋さん、etc.と女子力満載の高校2年の冬樹 幸(ふゆき ゆき)は男子なのに周りからのヒロインのような扱いに日々悩んでいた。 ある日、学校の帰りに道に悩んでいるおばあさんを助けると、そのおばあさんはただのおばあさんではなく女神様だった。 冗談半分で言ったことを叶えると言い出し、目が覚めた先は見覚えのない森の中で…。 のんびり書いていきたいと思います。 よければ感想等お願いします。

異世界楽々通販サバイバル

shinko
ファンタジー
最近ハマりだしたソロキャンプ。 近くの山にあるキャンプ場で泊っていたはずの伊田和司 51歳はテントから出た瞬間にとてつもない違和感を感じた。 そう、見上げた空には大きく輝く2つの月。 そして山に居たはずの自分の前に広がっているのはなぜか海。 しばらくボーゼンとしていた和司だったが、軽くストレッチした後にこうつぶやいた。 「ついに俺の番が来たか、ステータスオープン!」

アナグラムの勇者 ~異世界を書き換えるリライトスキル~

ぎゃもーい
ファンタジー
 異世界召喚にクラス共々巻き込まれ、異世界に転移した俺。  お決まりのチート能力は何かワクワクしながら確認してみるが、【アナグラム】という謎の能力しか持っていない。 「穴g? 何gだよそれ」  この時の俺は知る由もなかった。この能力がとんでもないぶっ壊れチート能力であることに。  関西弁の魔物使い、ツンデレ姫騎士、幼女エルフなどの一癖も二癖もある仲間たちと送る、異世界書き換えファンタジー始まります!! 旧題:ステータスの数字を入れ替えたら、異世界最強になった件 ~アナグラムの勇者~ ※3章のプロットの変更、多忙、新作とかの影響で、少しの間不定期更新になります。

勇者パーティーを追放されました。国から莫大な契約違反金を請求されると思いますが、払えますよね?

猿喰 森繁
ファンタジー
「パーティーを抜けてほしい」 「え?なんて?」 私がパーティーメンバーにいることが国の条件のはず。 彼らは、そんなことも忘れてしまったようだ。 私が聖女であることが、どれほど重要なことか。 聖女という存在が、どれほど多くの国にとって貴重なものか。 ―まぁ、賠償金を支払う羽目になっても、私には関係ないんだけど…。 前の話はテンポが悪かったので、全文書き直しました。

処理中です...