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mission 2 孤高の花嫁
召喚された脅威
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side-デュエル 16
新郎の手で赤い結晶が叩きつけられるかと思ったその時、鋭い声がそこに割り込んだ。
「させるもんか!」
乾いた鋭い音が響き、奴の手から結晶がはじき出される。そしてそのままそれは、開け放たれた窓の外に吸い出されるように落ちて行った。
「…あ…」
ぱりん。
窓の外から、確実に聞こえた破砕音。そして、赤い光が室内からも見受けられた。
「…なんか出たな…」
呆然と呟くアーチ。全員の視線が、割り込んできた声の主に注がれる。
「あ…姐さん?」
そこには、領主への証言をする際に活躍した元・『黒狼団』の『姐さん』こと、ブレンダが鞭を構えて立っていた。
「えと…なんか…ごめん」
室内にも、変化は訪れていた。アドルフが割った結晶からも何かが召喚されている。赤い魔法陣が消えた後、そこにいた人型の巨大な魔物の正体は…。
「トロール!」
ラグが正体を看破する。
「知性は低く魔法も使いませんが、ものすごい怪力と類を見ない再生力はかなりの脅威です! 切りつけたら傷口を焼くなどして、再生を防いでください! たとえ切り落とした手足でも、放っておくとくっついて再生しますので、油断は禁物です! 日光に当てれば、石化するので簡単なのですが…」
窓の外には、沈みゆく夕日。これでは日光など期待できない。
テキパキと指示するラグに、アーシェが続く。
「ん、わかった! 焼くのは私が担当するよ! 兄貴たちは先に、さっき下で出てきたやつ片付けて!」
その様子に彼女たちを可愛がっていたブリジット姐さんから驚きの声が漏れる。
「アーシェちゃん、ラグちゃん…」
「あたしたちだって冒険者だから! 戦えるってこと忘れないでよ?」
その誇らしげなセリフに、俺はつられて笑った。
「わかった、この場は頼む。行くぞ!」
俺の号令にアーチ、ラスファにフランシスと、あと責任を感じているのかブレンダがついてくる。
デビッドの姿は、いつの間にか消えていた。おそらく先に下に降りて、出てきた魔物を掌握しに行ったのだろう。急がなくては、魔物によっては大変なことになりかねない!
「ああああああぁぁぁああぁあぁー!」
扉を開ける直前、外から聞こえたのは血も凍る絶叫! 一体何が起きたんだ?
警戒し、そっと扉の隙間から外を窺うアーチ。そして、そのまま出口は静かに開かれた。
豊かな自然の残る、城の裏庭。当然そこには多くの木々が生い茂っていた。その中心に立つのは、緑の衣に身を包んだ、絶世の美女が一人。彼女が、召喚された魔物だろうか?
デビッドは、触手のような蔦や木の枝に絡め取られていた。
「あああああ! 助け、助けろ! 俺を助けろおおおお! お、俺は…俺は、こんなところで終わっていい男じゃないんだあああああ! 助けろおおおお!」
そのまま奴は引きずられ、ひときわ大きな木の中に取り込まれつつあるようだった。
「ドライアード…」
ポツリと、ラスファが呟く。
「樹齢を重ねた木に宿る、精霊の一種だ。通常、まず接触することなどないんだが…あれはどうも、何らかの理由で狂っているようだ」
「あれは、どうするつもりなんだ? まさか、肥料にでもされるのか?」
嫌な予感がした俺の疑問は、きっぱりと否定される。
「いや…ドライアードは宿る木に、気に入った男を魅了して自分の伴侶として取り込むことがある。奴はどうも、お眼鏡にかなったようだな…」
それは…嫌がる女性を無理やり娶ろうとした男の末路と思えば、この上ない皮肉だ。
俺の感想は、アーチによってぶった切られた。
「なんでぇ、男の趣味が悪いにも程があるんじゃねぇのか?」
…確かにその通りだが、全く笑える気がしない。
新郎の手で赤い結晶が叩きつけられるかと思ったその時、鋭い声がそこに割り込んだ。
「させるもんか!」
乾いた鋭い音が響き、奴の手から結晶がはじき出される。そしてそのままそれは、開け放たれた窓の外に吸い出されるように落ちて行った。
「…あ…」
ぱりん。
窓の外から、確実に聞こえた破砕音。そして、赤い光が室内からも見受けられた。
「…なんか出たな…」
呆然と呟くアーチ。全員の視線が、割り込んできた声の主に注がれる。
「あ…姐さん?」
そこには、領主への証言をする際に活躍した元・『黒狼団』の『姐さん』こと、ブレンダが鞭を構えて立っていた。
「えと…なんか…ごめん」
室内にも、変化は訪れていた。アドルフが割った結晶からも何かが召喚されている。赤い魔法陣が消えた後、そこにいた人型の巨大な魔物の正体は…。
「トロール!」
ラグが正体を看破する。
「知性は低く魔法も使いませんが、ものすごい怪力と類を見ない再生力はかなりの脅威です! 切りつけたら傷口を焼くなどして、再生を防いでください! たとえ切り落とした手足でも、放っておくとくっついて再生しますので、油断は禁物です! 日光に当てれば、石化するので簡単なのですが…」
窓の外には、沈みゆく夕日。これでは日光など期待できない。
テキパキと指示するラグに、アーシェが続く。
「ん、わかった! 焼くのは私が担当するよ! 兄貴たちは先に、さっき下で出てきたやつ片付けて!」
その様子に彼女たちを可愛がっていたブリジット姐さんから驚きの声が漏れる。
「アーシェちゃん、ラグちゃん…」
「あたしたちだって冒険者だから! 戦えるってこと忘れないでよ?」
その誇らしげなセリフに、俺はつられて笑った。
「わかった、この場は頼む。行くぞ!」
俺の号令にアーチ、ラスファにフランシスと、あと責任を感じているのかブレンダがついてくる。
デビッドの姿は、いつの間にか消えていた。おそらく先に下に降りて、出てきた魔物を掌握しに行ったのだろう。急がなくては、魔物によっては大変なことになりかねない!
「ああああああぁぁぁああぁあぁー!」
扉を開ける直前、外から聞こえたのは血も凍る絶叫! 一体何が起きたんだ?
警戒し、そっと扉の隙間から外を窺うアーチ。そして、そのまま出口は静かに開かれた。
豊かな自然の残る、城の裏庭。当然そこには多くの木々が生い茂っていた。その中心に立つのは、緑の衣に身を包んだ、絶世の美女が一人。彼女が、召喚された魔物だろうか?
デビッドは、触手のような蔦や木の枝に絡め取られていた。
「あああああ! 助け、助けろ! 俺を助けろおおおお! お、俺は…俺は、こんなところで終わっていい男じゃないんだあああああ! 助けろおおおお!」
そのまま奴は引きずられ、ひときわ大きな木の中に取り込まれつつあるようだった。
「ドライアード…」
ポツリと、ラスファが呟く。
「樹齢を重ねた木に宿る、精霊の一種だ。通常、まず接触することなどないんだが…あれはどうも、何らかの理由で狂っているようだ」
「あれは、どうするつもりなんだ? まさか、肥料にでもされるのか?」
嫌な予感がした俺の疑問は、きっぱりと否定される。
「いや…ドライアードは宿る木に、気に入った男を魅了して自分の伴侶として取り込むことがある。奴はどうも、お眼鏡にかなったようだな…」
それは…嫌がる女性を無理やり娶ろうとした男の末路と思えば、この上ない皮肉だ。
俺の感想は、アーチによってぶった切られた。
「なんでぇ、男の趣味が悪いにも程があるんじゃねぇのか?」
…確かにその通りだが、全く笑える気がしない。
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