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mission 2 孤高の花嫁

領主家の決意

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side-ラスファ 13

「すっかり歯車が狂ってしまった…」
 招待客が誰もいなくなった式場に現れたアドルフ卿は、感情を全く感じさせない声音で呟いた。
「フレデリックめ…厄介な連中を引き寄せたものだ」
 結婚を阻止したどころか、計画まで崩されるとは…と続けると、そのまま静かな足取りで部屋の中央まで進み出る。
「兄に成り代わり、領主として君臨できると思っていたが、もはやそれも叶わぬ」
 
 そう。この三日の間…結婚式の前に、できることを全てこなしておいたのだ。彼の計画を推測した上で裏を取って領主に注進し、警戒を促した。最初は信じてもらえなかったが、重要な証人である姐さん…ブレンダを呼んで証言を取り証拠を提出すると態度を改めざるを得なかったらしい。そして式の当日である今日は、家族ぐるみでやりすぎなまでの警備を敷いている。

 アドルフの独白は続いていた。
「『弟』を罪とともに『殺し』、財産を受け継いだ『兄』として生きていくのが目的だった。それに賛同した息子の願い通り、ナディアとの結婚によって血族に箔をつけるつもりだった。なのに、ことごとくが水泡に帰した。…断じて許しがたい冒険者どもめ…!」
「身内を手にかけることには、一切の躊躇はないんだな」
 デュエルの嫌悪感にまみれた唸りは、今までにない苦味を含んでいた。アドルフはさらに陰惨な顔つきでこちらを睨めあげる。私の推測は概ね当たっていた。
「ああ、ないね。兄など邪魔者でしかなかった。同じ兄弟というのに兄は全てを受け継ぎ、私は辺境の小さな荘園の管理のみの生活…やっていられないと思うのは当然だろう?」
「ナディアの家族を殺すよう指示したのも貴様か?」
「ああ。『信用できる』衛視隊に命じてな。彼らは実によくやってくれた」
 私の質問に対するその答えに、背に庇ったナディアの手に力がこもる。おそらくはその情報を歪めてナディアに告げることで、フレデリック卿を彼女に暗殺させる狙いもあったと推察できた。どこまで汚いやり方だ…!

「招待客は避難している今、目撃者を作る恐れもない…なら、やることは一つ…一人残らず関係者と目撃者を消してやる! 誰一人残さずな!」

 彼は、懐から握りこぶし大の赤い宝石を取り出した。それは、おそらくブレンダ姐さんが言っていた『魔獣結晶』!
「よし、なら俺も!」
 半ば置いて行かれがちだった息子が同様にふところに手を入れた。

「『魔獣結晶』! こっちもかよ!」
 領主の持っていた結晶が叩きつけられるのと、大広間の扉が開くのはほぼ同時だった。戸口には武装したカッパーフィールド家の面々が並んでいる。
 なぜ今、このタイミングで…と彼らの後ろを見ると、クリスが手を振っていた。そうか、彼の機転か…。
「話は全て外で聞いていた! 身内の不始末は、身内ですすぐのが習い!」
「「「「了解!」」」」
 一糸乱れぬ号令一下、領主の身内全員が武器を構える。その中で、先頭のジェラルド卿がこちらに向かって叫んだ。
「手助けは無用! 我らカッパーフィールド家、身内の粛清はこの手で行う所存!」
 その覚悟のこもった言葉に、こちらは頷くしかなかった。
「わかった。そちらは頼む…」
 結晶が叩きつけられた床に、禍々しい赤い魔法陣が刻まれて行く。そして、人型をした大型の、人ではない何かが召喚されているのがわかる。
「これは…!」
「総員、武器を取れ!!」
 勇ましいジェラルド卿の声。これなら任せて大丈夫だろう。

 なら、こっちは。
 息子であるデビッドは手の中の結晶を弄びながら嫌な笑みを向けてきた。
「まだまだ、もう一つあったのさ。こうなれば全員、死んでもらう!」

 その結晶も、床に叩きつけられつつあった!
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