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mission 2 孤高の花嫁

修羅場に行こう!

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Side-アーチ 15

「…案外広かったんだな、この部屋。うまくすりゃ、女も連れ込めたりしてな」
「おいおい、ガキにナニ見せる気だ?」
 片付けと脱出準備をこっそりと済ませると、ゴリと下品な冗談を叩き合う。そこから、オレは辛抱強く待った。ゴリがいなくなりさえすれば、すぐに行動を起こすために。…出来りゃ、アイツらを敵に回す前に!!!(切実)。

 大して信仰もしてねぇカミサマは、それからすぐちょっとした幸運をオレに与えたもうた。
「おい、デカイの! こっち手伝え!」
「へーい!」
 外からの声に、ゴリは「あと頼むぞ」と言い残して出て行った。しばらく戻らねぇだろうな?
オレはそっとガキに声をかけた。
「おい、黙って聞けよ? 外に出してやる。とりあえずこの中入ってろ」
 俺が指したのは、さっきの布を入れた大きい方の木箱。意外そうな顔で見上げてくるが、知ったことかよ!
布のカタマリと入れ替えるようにしてガキを木箱に放り込むと、さっさとフタを閉める。
「声出さずに隠れてろよ」
 その間に布のカタマリを紐でくくって頭に見えるようにくびれを作ると、ガキのいた木箱の陰に置いて自前の変装用具からカツラを出してかぶせる。とりあえず大きさもこれでよし、ちょっとした目くらましにゃ十分だ。長く持たせる必要なんてねぇんだ。ちょっとばかしごまかせる時間がありゃいい。あのおバカな単細胞獣人をやり過ごせりゃ御の字だからよ。
 ん? 獣人? ふと思いついて、懐からブランデーの小瓶を取り出した。んで、もったいねぇと思いつつ勢いよく叩き割る。獣人なら、匂いで気づかれる可能性も高いからな。きっちりと破片も拾うと、その辺の布切れで包んでガキの隠れる木箱に乗せた。
「なんで…助けてくれるの? アイツらの仲間じゃないの?」
 くぐもった声が木箱から漏れる。
「黙ってろって言っただろうが。…まあ、ちょっとした成り行きだ。外に出たら真っ直ぐに路地裏の寂れた酒場に飛び込め。店の名前は忘れたが、元自警団員がたむろしてるんだとよ」
「知ってる、父ちゃんがよく言ってた店。雄羊のツノ亭!」
「おう、そうだ。知ってんなら話が早い! 間違っても衛視にバレるなよ?」
「う、うん。おっちゃん、名前は?」
「そこはお兄ちゃんと呼べや。アーチボルト、だ」
 あとはこの状態で台車に乗せた木箱をゴミ出しの名目で外に出すだけだ。しかし、カミサマは信仰薄いオレにはそれいじょうの幸運なんぞ用意しちゃくれなかった。
「おい、新入り!」
「お、センパイ、今度はオレが。ゴミ捨ててくるんで、たのんます…」
 血相変えて飛び込んでくるゴリ。おいおい、やな予感しかしねぇぞ?
「ンな場合じゃねぇ! 出入りだ出入り!」

………げ。
…………マジで?
「なにグズグズしてやがんだ! 名を挙げるチャンスだろうが!」
 …いやアンタに取っちゃそうかもしれんが、ちょいとばかし相手が悪すぎるぜ。なんせ、死亡フラグが立ったも同然なんだからよ。
 オレの内心の叫びにも気づかず、ゴリは手にした棍棒の重さを確かめるように数回素振りする。

 やばい、やばいぞ!
 早速破綻したオレの計画。ガキを逃すためにはどうするのが最善か?
 
 よし。靴紐を結ぶフリしてしゃがみこむと、木箱に小さく声をかけた。慌ただしい出入りの靴音に紛れることを祈りながら。
「ここの鍵は『うっかり』開けっ放しにしてある。だからここが空っぽになる頃合いを見て脱出しろ」
 
 アイツらが相手なら、それが最善だろう。なんせ、筆頭冒険者の名は伊達じゃねぇんだ。次々と援軍が呼ばれるのは確実だ。なら今は、できるだけ派手に立ち回ってここを手薄にするしかない!

 オレは嫌々ながらゴリの後を追い、修羅場に向けて走り出した。
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