103 / 405
mission 2 孤高の花嫁
急転直下の大ピンチ!
しおりを挟む
Side-アーシェ 7
ティコがテーブルの上に乗っかってきたのに気づいて、沈み込んでいたブルスさんの声が少し明るくなった。
「おお、なんだお前。アーシェちゃんのペットじゃないか…酒の相手をしてくれるってのか?」
「みー!」
「ははは、人懐っこいな。ナッツ食うか?」
「みー♪」
どうやら成功!やった、愚痴のお相手は務まりそう。ネズミとイタチの中間みたいな、手のひらサイズの小動物だからちょっと珍しいけど。ブルスさんをはじめ、酒場の人たちはティコをただのペットだと思ってるから警戒されないよね?
祈るような気分であたしは、ティコに意識を重ねる。ナッツをかじったり尻尾を振って甘えたり…。その祈りが通じてくれたのは、ほんとに幸運だった。ティコの小さな丸い目を見て、ブルスさんはぽつりと呟いた。まるで、誰かに聞いてもらいたくても言えなかったことがこぼれ落ちるように。
「…聞いてくれるか?」
小首を傾げて見せるティコに、ブルスさんの独り言めいた呟きが重ねられる。
「俺はなさけないおいちゃんでなあ…。憎いはずの貴族に、言いなりにさせられちまってるんだ。ここの様子を探れってな…」
思った以上に衝撃的な内容にあたしは驚いて、一瞬だけティコへの集中が逸れちゃった! 慌ててもう一度集中し直すと、本能に従ってナッツをかじるティコを呼び戻す。
じゃあ、ブルスさん…貴族側のスパイってこと? 待って、何か訳があるんだよね?
「サミュエルの行方さえわかれば、こんなことせずに済むんだが…もう遅いか。すまない」
その謝罪の言葉に、嫌な予感が背筋をはい上る。
え、まさか…嘘だよね、ブルスさん…?
あたしはさっきの会話を思い出した。『今はちょっと遠いところにいる』息子さんってこと? 貴族側に、捕まってるの!?
あたしの内心の焦りに気づくわけもないブルスさんは、テーブルに突っ伏して嗚咽を漏らしはじめた。
「本当に済まない。アーシェちゃんにも、こんな俺たちの代わりに動いてくれている冒険者の兄ちゃんたちにも…取り返しのつかないことをしちまった…! 人質に取られている息子のために…。衛視隊に、あの嬢ちゃんがここにいるって伝えちまった…!」
「そんな!」
集中が途切れる前にティコが見た、嗚咽混じりの苦悩の言葉。頭を抱え込んで涙をこぼす悲痛な表情。決して望んだことじゃないってことはわかる。でも、今ここを衛視隊に見つかっちゃったら…!
ナディアさんが、連れ去られちゃう!
あたしはたまらずナディアさんのもとに走った。せめて,衛視隊がくる前になんとか場所を移らなきゃ! 貴族と繋がってるのは明らかだもの、表向きは捜索願いが出てるって言ってくるだろうし!
奥の小部屋では、ナディアさんは変わらない様子で繕い物をしている。いきなり血相変えて飛び込んできたあたしに驚いた様子で、彼女は音も立てずに立ち上がった。
「別の場所に移って! ここは貴族に筒抜けになってる!」
ナディアさんが何か言う前に、外に聞こえない程度の声で伝えた。でもどうしよう、場所を移るって言っても土地勘なんかないし。とっさに兄貴にくっつけてたチャコを通じて異常事態は知らせたけど…間に合うかどうかわからないし!
ここは、時間との勝負よ。兄貴たちに頼ってる時間もないわ。幸いその場のノリで今は二人ともメイドさん風の衣装なんだし、利用できるかな?
まずは裏口から外に出て、買い出しするフリしながら逃げる? でも、あの時ブルスさんが言ってた『サミュエル』が人質になってたら…そっちが危ないかもしれない。
そこまであたしが考えた時だった。表が急に騒がしく、慌ただしくなる。
「行方不明の女性が、ここにいると言う情報を得てきた! 直ちに引き渡されよ!」
ど、どうする! どうしよう!!
ティコがテーブルの上に乗っかってきたのに気づいて、沈み込んでいたブルスさんの声が少し明るくなった。
「おお、なんだお前。アーシェちゃんのペットじゃないか…酒の相手をしてくれるってのか?」
「みー!」
「ははは、人懐っこいな。ナッツ食うか?」
「みー♪」
どうやら成功!やった、愚痴のお相手は務まりそう。ネズミとイタチの中間みたいな、手のひらサイズの小動物だからちょっと珍しいけど。ブルスさんをはじめ、酒場の人たちはティコをただのペットだと思ってるから警戒されないよね?
祈るような気分であたしは、ティコに意識を重ねる。ナッツをかじったり尻尾を振って甘えたり…。その祈りが通じてくれたのは、ほんとに幸運だった。ティコの小さな丸い目を見て、ブルスさんはぽつりと呟いた。まるで、誰かに聞いてもらいたくても言えなかったことがこぼれ落ちるように。
「…聞いてくれるか?」
小首を傾げて見せるティコに、ブルスさんの独り言めいた呟きが重ねられる。
「俺はなさけないおいちゃんでなあ…。憎いはずの貴族に、言いなりにさせられちまってるんだ。ここの様子を探れってな…」
思った以上に衝撃的な内容にあたしは驚いて、一瞬だけティコへの集中が逸れちゃった! 慌ててもう一度集中し直すと、本能に従ってナッツをかじるティコを呼び戻す。
じゃあ、ブルスさん…貴族側のスパイってこと? 待って、何か訳があるんだよね?
「サミュエルの行方さえわかれば、こんなことせずに済むんだが…もう遅いか。すまない」
その謝罪の言葉に、嫌な予感が背筋をはい上る。
え、まさか…嘘だよね、ブルスさん…?
あたしはさっきの会話を思い出した。『今はちょっと遠いところにいる』息子さんってこと? 貴族側に、捕まってるの!?
あたしの内心の焦りに気づくわけもないブルスさんは、テーブルに突っ伏して嗚咽を漏らしはじめた。
「本当に済まない。アーシェちゃんにも、こんな俺たちの代わりに動いてくれている冒険者の兄ちゃんたちにも…取り返しのつかないことをしちまった…! 人質に取られている息子のために…。衛視隊に、あの嬢ちゃんがここにいるって伝えちまった…!」
「そんな!」
集中が途切れる前にティコが見た、嗚咽混じりの苦悩の言葉。頭を抱え込んで涙をこぼす悲痛な表情。決して望んだことじゃないってことはわかる。でも、今ここを衛視隊に見つかっちゃったら…!
ナディアさんが、連れ去られちゃう!
あたしはたまらずナディアさんのもとに走った。せめて,衛視隊がくる前になんとか場所を移らなきゃ! 貴族と繋がってるのは明らかだもの、表向きは捜索願いが出てるって言ってくるだろうし!
奥の小部屋では、ナディアさんは変わらない様子で繕い物をしている。いきなり血相変えて飛び込んできたあたしに驚いた様子で、彼女は音も立てずに立ち上がった。
「別の場所に移って! ここは貴族に筒抜けになってる!」
ナディアさんが何か言う前に、外に聞こえない程度の声で伝えた。でもどうしよう、場所を移るって言っても土地勘なんかないし。とっさに兄貴にくっつけてたチャコを通じて異常事態は知らせたけど…間に合うかどうかわからないし!
ここは、時間との勝負よ。兄貴たちに頼ってる時間もないわ。幸いその場のノリで今は二人ともメイドさん風の衣装なんだし、利用できるかな?
まずは裏口から外に出て、買い出しするフリしながら逃げる? でも、あの時ブルスさんが言ってた『サミュエル』が人質になってたら…そっちが危ないかもしれない。
そこまであたしが考えた時だった。表が急に騒がしく、慌ただしくなる。
「行方不明の女性が、ここにいると言う情報を得てきた! 直ちに引き渡されよ!」
ど、どうする! どうしよう!!
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜
サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」
孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。
淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。
だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。
1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。
スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。
それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。
それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。
増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。
一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。
冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。
これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
異世界召喚された俺は余分な子でした
KeyBow
ファンタジー
異世界召喚を行うも本来の人数よりも1人多かった。召喚時にエラーが発生し余分な1人とは召喚に巻き込まれたおっさんだ。そして何故か若返った!また、理由が分からぬまま冤罪で捕らえられ、余分な異分子として処刑の為に危険な場所への放逐を実行される。果たしてその流刑された所から生きて出られるか?己の身に起こったエラーに苦しむ事になる。
サブタイトル
〜異世界召喚されたおっさんにはエラーがあり処刑の為放逐された!しかし真の勇者だった〜
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる