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mission 2 孤高の花嫁

正しい使い魔応用法

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Side-アーシェ 6

「アーシェちゃん、奥のテーブルにエール頼む!」
「はーい!」
 試運転の後、あたしはまた給仕の仕事に戻った。
 うーん、なんだかんだでほとんど条件反射で手伝っちゃうな。こうなったら、花嫁修行とかで割り切っちゃおうかな。

 花嫁修行…。
 あたしは無意識にナディアさんがいる部屋のドアに視線を向けた。今頃はそこで、芋の皮むきやグラス磨きをせっせと手伝ってるとこだろうけど。くだらない陰謀で、幸福の絶頂からどん底に落とされた彼女のことを思うと胸が痛いよ。あたし、頑張るからね! 絶対絶対、犯人見つけて首謀者共々締め上げてあげるんだからね!

 気合とともにエールを受け取ると、あたしは隅にいるお客さんを見た。あれ? そこにいるお客さん…ブルスさんっていうんだけど、顔色が良くないよ? 白銀亭にくるお客さんの中にも、飲み過ぎで倒れる人は結構いる。その度に居合わせた神官さんやお医者さん、または兄貴の薬草なんかで介抱されるんだけど。でもブルスさんの顔色はそんな感じとは全く違っていた。なんというか…追い詰められてるって言うのかな? そんな感じ。

「ブルスさーん、飲み過ぎじゃないの?」
 なんとなく気になったから、ジョッキを置きがてら聞いてみた。
「ああ、ありがとうアーシェちゃん。よく働くねぇ、いいお嫁さんになれそうだ。うちの息子なんてどうだい?」
 明らかに無理した笑顔で、たたく軽口。やっぱりおかしいよね? ここは兄貴たちに倣って、気づかないふりで話を聞いてみよう。幸か不幸か、あたしの幼い外見は警戒されにくいからね。
「えー、ブルスさんって息子さんいたんだー。若いからそう見えなーい! いくつ? カッコいい? 今どこにいるの?」

 何気なくぶつけた質問が地雷だったみたい。明らかに一瞬引きつった笑みを取り繕うように、ジョッキを受け取るふりしてあたしから目をそらした。
「今はちょっと…遠いところにいてな。いつ帰ってくるんだかねぇ…」
 なんとなく嫌な予感がした。これって、女の勘ってやつ?あたしはカウンターに戻りながら、ナディアさんの膝にいるもう一匹の使い魔ティコを急いで心の声で呼び戻した。肩に乗せておつまみナッツを運んでいく。

「いくらお酒に強いからって、おつまみなしじゃ悪酔いするよ? ナッツ一皿サービスしてもらったから、適当につまんでね」
「ああ、ありがとうアーシェちゃん。本当に気がきくねえ」
 ブルスさんの言葉に、ちょっとだけ罪悪感。でもでも、嫌な予感が止まらないんだもん! あたしは戻りながら気づかないふりして、入れ替わりでチャコをブルスさんのテーブルに飛び移らせた。どうか、ブルスさんが動物嫌いじゃありませんように…!

「ラグちゃん、ちょっと給仕交代して!」
 ちょうどいいタイミングで、休憩がてらナディアさんの様子を見てもらってたラグちゃんが帰ってきた。あたしは急ぎ足で奥のドアに飛び込むとティコの感覚に集中してブルスさんの様子を探る。遠隔操作でティコを通じて様子を探ってみようってわけ。騙すみたいで正直気分悪いけど、放っておく方が気になって仕方ないんだもん!
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