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mission 2 孤高の花嫁
究極の二択
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Side-アーチ 8
「あ、あの…」
我ながら虫唾が走るような震え声を作って、後ろをゆっくりと振り返る。さりげなく目深にかぶった帽子を直すふりしてそいつを盗み見た。
『黒狼団』なんて名前にゃ似合わねぇ派手な衣装だ。そのくせ、荒事慣れした目つきに小太り体型のわりに盗賊然とした身の見のこなしが目を引く。おいおい、これ貴族コスプレのつもりかよ! ちゃんちゃらおかしくて震える肩を誤解したらしい。ニタリと品性の欠片もねェ笑みでこっちを見てくる。
ああ、そういやここは…。表に回りゃ、お貴族サマ御用達の高級店が立ち並ぶ場所だったのを思い出した。なるほどね、スラムの中のやつに小遣い握らせて持ってこさせたあとは、別の店の裏口から貴族のふりして受け取るのか。おバカの割りに考えたじゃねェか。あとは、せめて見た目だけでも、貴族っていう説得力が欲しかった…残念!
「金ならそこの木箱の中だ」
「あ、あの…そうじゃなくて…」
「なんだ、もう行っていいぞ」
できるだけ会話を引っ張って情報を引き出そうとしたが、これ以上は怪しまれるか。オレは木箱を開けて中の銀貨を数枚拾う。
その時だった。
殺気!
オレはとっさに前方に飛び込むと、路地の逆側に転がり込んだ。剣風と銀光が空を凪ぐ!
まさか避けられると思っちゃいなかったんだろうぜ。小太り貴族は体勢を整えたオレにゴツめの短剣を向ける。
「気の毒だがお前は今、俺を見た。生かして帰すわけにいかない」
あ、なるほどね。万一顔を見られても、スラムの住人なら衛視も気にせず消せるってわけ? てか、さっきの攻撃を避けられた時点で気付こうぜ? ただもんじゃねェってことによお…。底なしの大馬鹿だ、こいつ。
つっても、ここで派手に事を構えるわけにゃいかんのよ、オレだって。
ってなわけで、オレと小太り貴族の鬼ごっこ対決が始まった!
兎に角、オレは走った。逃げ足なら自信はある。
二股バレた時に、刃物持った女に追われた時も。
つまみ食いがばれて、女将に追い回された時も。
厨房エルフのスイーツを情報料がわりにこっそり持ち出した時は…流石に捕まってどつかれたが。
とにかく! オレは走って走って走り続けた。
ちらりと後ろを見りゃ、とにかく必死でついて来ようとするなんちゃって貴族の姿が楽しくて仕方ねぇ! 普段通りの姿なら、もうちっとマシな動きでついて来れるんだろうけどよ…今はあのゴッテゴテなお貴サマなファッションで、苦戦しまくってやがんの♪
放置されたゴミに躓くわ乱雑に置かれた木箱を蹴っ倒すわ、野良猫のたむろすゴミ入れのバケツ樽に突っ込むわ…。
その度に気取ったゴテゴテの衣装がほつれて破れ、汚れていく。袖にあしらったレースも一見仕立てのいい上着の裾も、こういう時には仇になる。ついさっきまでお貴族様なスタイルだったってのに、あっという間にみずぼらしくなっていった。
そんなこんなでいい加減引き離して、そろそろ視界から外れようかね。そう思って路地なり障害物なり探してたんだが、表通りに近付いてるせいでか…こんな時に限って何もねぇんでやんの! 参ったぜ…!
そう思った時だった。遠目に見慣れた銀髪の後ろ姿が見えた。
天の助け…! あ、いややっちまったら後が恐えェんだけどもよ…。だからって、他に手はねぇし。思い切ってオレは声をかけた。
「いよう、大将! いいとこで会った! ちょっとばかし、こいつ頼む!」
驚いたように振り返る厨房エルフに、小太り貴族の襲撃を押し付けて切り抜けちまおう! こいつ怒らせたら後が怖いのは重々承知の上だが、他に使えそうな手もねぇ。
「貴様、屋敷にいるはずじゃ…!」
「事情が変わったのよ! ちょいとしつこいファンに追われてんだよ。じゃ、そういうわけで!」
「おい!」
おバカな小太り貴族はオレの狙い通りに標的を変えると、ラスファに目標変更して刃物を向けた。よっしゃ、今の内だ!
だが…あーあ、やっちまった…。でもこの場で奴に切り刻まれるか、厨房エルフに後でシメられるかって究極の二択だからな。とりあえずここを切り抜ける方がマシだろ、多分…。
「あ、あの…」
我ながら虫唾が走るような震え声を作って、後ろをゆっくりと振り返る。さりげなく目深にかぶった帽子を直すふりしてそいつを盗み見た。
『黒狼団』なんて名前にゃ似合わねぇ派手な衣装だ。そのくせ、荒事慣れした目つきに小太り体型のわりに盗賊然とした身の見のこなしが目を引く。おいおい、これ貴族コスプレのつもりかよ! ちゃんちゃらおかしくて震える肩を誤解したらしい。ニタリと品性の欠片もねェ笑みでこっちを見てくる。
ああ、そういやここは…。表に回りゃ、お貴族サマ御用達の高級店が立ち並ぶ場所だったのを思い出した。なるほどね、スラムの中のやつに小遣い握らせて持ってこさせたあとは、別の店の裏口から貴族のふりして受け取るのか。おバカの割りに考えたじゃねェか。あとは、せめて見た目だけでも、貴族っていう説得力が欲しかった…残念!
「金ならそこの木箱の中だ」
「あ、あの…そうじゃなくて…」
「なんだ、もう行っていいぞ」
できるだけ会話を引っ張って情報を引き出そうとしたが、これ以上は怪しまれるか。オレは木箱を開けて中の銀貨を数枚拾う。
その時だった。
殺気!
オレはとっさに前方に飛び込むと、路地の逆側に転がり込んだ。剣風と銀光が空を凪ぐ!
まさか避けられると思っちゃいなかったんだろうぜ。小太り貴族は体勢を整えたオレにゴツめの短剣を向ける。
「気の毒だがお前は今、俺を見た。生かして帰すわけにいかない」
あ、なるほどね。万一顔を見られても、スラムの住人なら衛視も気にせず消せるってわけ? てか、さっきの攻撃を避けられた時点で気付こうぜ? ただもんじゃねェってことによお…。底なしの大馬鹿だ、こいつ。
つっても、ここで派手に事を構えるわけにゃいかんのよ、オレだって。
ってなわけで、オレと小太り貴族の鬼ごっこ対決が始まった!
兎に角、オレは走った。逃げ足なら自信はある。
二股バレた時に、刃物持った女に追われた時も。
つまみ食いがばれて、女将に追い回された時も。
厨房エルフのスイーツを情報料がわりにこっそり持ち出した時は…流石に捕まってどつかれたが。
とにかく! オレは走って走って走り続けた。
ちらりと後ろを見りゃ、とにかく必死でついて来ようとするなんちゃって貴族の姿が楽しくて仕方ねぇ! 普段通りの姿なら、もうちっとマシな動きでついて来れるんだろうけどよ…今はあのゴッテゴテなお貴サマなファッションで、苦戦しまくってやがんの♪
放置されたゴミに躓くわ乱雑に置かれた木箱を蹴っ倒すわ、野良猫のたむろすゴミ入れのバケツ樽に突っ込むわ…。
その度に気取ったゴテゴテの衣装がほつれて破れ、汚れていく。袖にあしらったレースも一見仕立てのいい上着の裾も、こういう時には仇になる。ついさっきまでお貴族様なスタイルだったってのに、あっという間にみずぼらしくなっていった。
そんなこんなでいい加減引き離して、そろそろ視界から外れようかね。そう思って路地なり障害物なり探してたんだが、表通りに近付いてるせいでか…こんな時に限って何もねぇんでやんの! 参ったぜ…!
そう思った時だった。遠目に見慣れた銀髪の後ろ姿が見えた。
天の助け…! あ、いややっちまったら後が恐えェんだけどもよ…。だからって、他に手はねぇし。思い切ってオレは声をかけた。
「いよう、大将! いいとこで会った! ちょっとばかし、こいつ頼む!」
驚いたように振り返る厨房エルフに、小太り貴族の襲撃を押し付けて切り抜けちまおう! こいつ怒らせたら後が怖いのは重々承知の上だが、他に使えそうな手もねぇ。
「貴様、屋敷にいるはずじゃ…!」
「事情が変わったのよ! ちょいとしつこいファンに追われてんだよ。じゃ、そういうわけで!」
「おい!」
おバカな小太り貴族はオレの狙い通りに標的を変えると、ラスファに目標変更して刃物を向けた。よっしゃ、今の内だ!
だが…あーあ、やっちまった…。でもこの場で奴に切り刻まれるか、厨房エルフに後でシメられるかって究極の二択だからな。とりあえずここを切り抜ける方がマシだろ、多分…。
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