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mission 2 孤高の花嫁

正しい使い魔の使い方

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Side-ラスファ 7

 二人と別れると、酒場に一旦戻るために踵を返した。
 アーシェやナディアを守るための最善は尽くすが、酒場からあまり離れるわけにもいかない。情報の共有もするべきだろう、というわけだ。

 ふと、けたたましい足音が近づいて来ることに気づいた。追いかけ、逃げる者のそれに酷似している。すぐそばまで迫る足音に振り返ると、今朝方は屋敷で聞き込みを続けている、と宣言したはずのアーチが走ってきた。よりによってお前か!

「いよう、大将! いいトコで会った! ちょっとばかし、こいつ頼む!」
「貴様、屋敷にいるはずじゃ…!」
「事情が変わったのよ! ちょいとしつこいファンに追われてんだよ。じゃ、そういうわけで!」
「おい!」
 走り去る奴の後ろからは、ボロボロの貴族もどきが息を切らせて走ってきた。派手な衣装だが、あちこち擦り切れて汚れ、威厳のかけらもない。
「こんなの相手にして、お前一体どこで何やらかしてきたんだ?!」

 走り去る背中に投げた問いかけに、奴がこちらを向いてニタリと笑った。『獲物が増えた』。如実にギラついた目つきが語っている。
「奴の仲間か…まずはお前から片付ける。その上で、奴の居所を吐いてもらうぞ!」
  一方的に言い放つと、貴族もどきは下劣な笑みで分厚い短剣を舐め回す。なるほど、中身は殺人狂か。アーチについては後でがっつりシメるとして、
まずは目の前のこいつをどうにかしなくては。
 正直言って、完全に計算外だ。
 路地裏とはいえ街中で、いきなりこんな面倒ごとに巻き込まれるとは思わなかった。できれば偽装している弓は使いたくないし、かと言って精霊魔法も
使いづらい環境だ。火も水もなく、植物もない上に石畳で風もない。光や闇も、薄暗いために中途半端に弱すぎる。これは意外な精霊使いの弱点だ! 使う属性のものが近くにないと、精霊魔法は使えないのだ。
 いや…実際にはないわけではない。切り札になりうる力はありはするのだが、極力使いたくないのが本音なのだ。以前のように遺跡の中でなら誤魔化しも利くが、ここは街中。この陽気に氷塊が大量に落ちているところが見つかれば、即座に都市伝説が増えてしまう。

『何を迷うておる? 使うが良かろう、存分に!』

  空中に現れた純白の貴婦人が焚きつけて来るが、そうやすやすと乗るつもりはない。
 仕方ない、ここは…!
 空を凪ぐ銀光を後ろに飛んで避け、滅多に使うことのない、銀の短剣を抜いて奴と対峙する。
 
 こちらの短剣は相手の物に比べて細く鋭い。魔力で強化はしてあるものの、正面から受け止めたなら折れてしまうだろう。
 だが牽制の役には立ちそうだ。逃すなど論外だし、いざとなれば最低限の魔法で仕留めるしかない。そう覚悟して、迎え撃とうとした直後だった。

 肩の上で尻尾を降っていた小動物が突然動きを止めたかと思うと、迫り来る貴族もどきに向かって一条の眩い閃光を吐き出したのだ。
 突然のことで一瞬何が起きたかわからなかったが、さっきの閃光は間違いなくアーシェの攻撃魔法だ。至近距離で直撃を食らった小太りの貴族男は、体から焦げ臭い匂いを立ち上らせて細かく痙攣している。

 そういえば、アーシェはこの小動物を使い魔にしたと言っていた。使い魔は飼い主との感覚共有や意思疎通、そして魔術的な基点にすることも可能だったはず。つまりは使い魔から魔法を放つことができるということだ。その場合、双方が集中する必要があるため動きが止まってしまう危険性をはらんでいる。さらには、感覚共有が仇となる場合もある。この小動物を傷つけられた場合、そのダメージも術者が受けることになる。この場合、使い魔が二匹だとそのリスクも倍になることになったのだ。

 妹からは、小動物を使い魔にして使役を始めたのはごく最近のことと聞いた。大方、暇を持て余しついでに視覚共有を試してこちらの苦境を知ったのだろう。ここぞというときに使う、効果的な魔法。アーシェもわかってきたようだ。動機は横に置くとして、まあ助かった。
「いいタイミングだったな、助かった」
 柔らかい小動物の毛並みを撫でると、心持ちドヤ顔をして尻尾を振る。向こうのアーシェのリアクションも似たようなものだろう。

 その後すぐアーシェが呼んだであろう酒場の連中が駆けつけて、縛り上げられた貴族男は酒場に担ぎ込まれて行った。ここは何か情報を履いてもらう流れになるだろうな…。一旦戻る前に一つ、やることが残っている。一度フランシスたち兄弟にも現況の報告は通すべきだろう。

 その判断が、後々にとんでもない失態につながることを…この時にはまだ知りようもなかった。
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