古の冒険都市は観光地化の波に飲まれました 〜次は（俺・オレ・私・あたし・わたくし）のターン〜

mission 2 孤高の花嫁

潜伏するならメイド服？

Side-ラグ 4
 
「す…すげぇやお嬢ちゃん！ あんた本物だ！」
「ああ、オレァ魔法なんて初めて見た！」
「俺も俺も！ こりゃすげぇ、百人力じゃねぇか！」

 背後の声に振り返ると、ジョージさんをはじめとする皆さんが総立ちになっていました。みんな子供みたいな目でこちらを見ておられます。
 ああ、そうでした。魔法というのはわたくしたちにとってはよく目にするものですが、一般の方々にはまだまだ珍しい特殊技能なんですよね。だから観光客の皆さんも、魔法を見るとどよめきが起こるんですわ。

「…あのな、話聞いてたか？ とりあえずバイトのふりを…」
 呆れ気味のラスファさんを遮るように、酒場の方々が何かを持ってこられました。
「わーかってるって！ ちょうどいいからこれ着てくれこれ！ 絶対似合う！ あ、ついでにそこの綺麗なお姉さんもぜひ！」
いきなりのご指名に、ナディアさんは面食らったようでした。もちろん、わたくしもです。お互いに目を合わせて首をかしげると、彼がお持ちになった箱を覗き込みました。

「え、なにこれ…」
「給仕の、衣装ですか？ すでに用意してあったんですか、なぜ？」
 そこには、可愛らしいエプロンドレスが収まっています。それだけではなく、奥には色々なサイズが揃った衣装掛けまで！

「いつか、可愛いウェイトレスさんが来てくれたときのために、用意してたんだ！ あ、でも実際に準備してたのはマスターだけどもな」
「そうそう、でも面接に来た女の子たちは、これ見たらなぜか逃げちゃってさ」
 残念そうに俯く皆さん。
「そりゃそうだろうな…男所帯にこんな服どっさり用意してあるって、ドン引きされて当然だ」
「兄貴…事実だけど、なにもそんなバッサリ言うこと…」
 ラスファさんの小声のツッコミに、アーシェさんは遠回しに同意します。でも、わたくしは興味津々でした。出て来た場所がどうあれ、可愛い衣装には変わりないのですから！
 
「でもせっかくだし、着てみちゃう？」
 少しワクワクした表情で、アーシェさんは耳打ちしてきました。わたくしと同じ思いだったようですね。
「そ…そうですわね。せっかくですし…」
 わたくしたちは、ナディアさん共々奥に入って着替えることにいたしました。冒険者には、ほぼ無縁な衣装ですものね。

 着替え終わって出てきたわたくしたちは、静かなどよめきで迎えられました。
「「「「「いい！」」」」」
 皆さん、すっごくいい笑顔です。
「ああ、ついに憧れのメイド衣装ウェイトレスさんが目の前に！…可愛いは正義！」

 「なあ…大丈夫か、この店…。しかもこの衣装、どう見ても…」
「ああ、領主であるカッパーフィールド家のメイドさん衣装がモチーフなんだ。正統派メイド衣装は男のロマン！」
「…入手ルートは、聞かない方が良いよな…？」
「心配すんなって、別にあんたが着るわけじゃないんだし。…あ、それとも着てみるか？ 一応着れそうなサイズはあるぞ。あんたならイケるんじゃないか？」
「着るか！」
 後ろで呆れるラスファさんのツッコミをよそに、こっちは大盛り上がりでした。わたくしもちょっとだけ疑問は残りますが、可愛い服に罪はありませんもの。