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mission 2 孤高の花嫁
脱出・潜伏・一触即発
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Side-ラグ 1
明け方の爽やかな風を受けながら、以前デュエルさんと来た酒場に再びやってまいりました。全体的にくすんだ佇まいで、ひっそりと隠れ家を思わせる小さな建物。確かにここなら前を通りかかっても、うっかりと通り過ぎるかもしれませんね。でも、ここを拠点にするというのは…やっぱりちょっとだけ怖いです。私は傍のアーシェさんとナディアさん、そして先頭に立つラスファさんを見回しました。いえ、決してラスファさんが頼りないなんて思っているわけではないのです。ただ、冒険者でもないナディアさんが抱える不安は、わたくしの比ではないと思ってしまいまして。
同じ思いをお持ちなのでしょう、振り返ったラスファさんが物問いたげな視線を投げて来ます。ナディアさんはそれに対して、思った以上に強く決意に満ちた表情で頷きました。今まであまり話す機会がなかったのですが、最初に抱いていた印象よりもずっと芯のお強い方なのでしょうね。
…話は昨夜にさかのぼります。
それぞれ持ち帰った情報を交換した上で出された結論は『ここにナディアさんをおいておくのは危険』と全員一致の意見が上がりました。
黒幕と思われるアドルフ卿は『黒狼団』なる組織にわたくしたちの抹殺を依頼したそうですし、一部を除いて自警団はあてにならないどころか貴族の方々と癒着しておられるようです。
さらにはナディアさんの恋人だったアーサーさんという方も、人知れず…しかもナディアさんの目の前で手にかけられたという、あまりにも酷い事実。
おまけに全ての鍵を握っているナディアさん本人に情報を渡さないように軟禁していることも含め、状況はアドルフ卿の有利に傾いてる現実。
というわけで…貴族の息がかからない隠れ場所を用意して、ナディアさんをカッパーフィールド家から引き離すことにいたしました。
隠れ場所については一度デュエルさんと来たこの場所で、あっさりと決まりました。
ですが…どなたがナディアさんを連れて行くのかが問題になりました。デュエルさんは自警団と敵対してしまいましたし、大きな身体は目立ちすぎます。なら師匠は…というと『まだここですることがあるんでな、そっちは任せた』というお返事が帰って来ました。師匠のことですから、何か深いお考えがあるに違いありません。というわけで、最終的にその役目はラスファさんにお任せすることで落ち着きました。
そこからの行動は迅速でした。翌朝を待たずにラスファさんは精霊魔法で姿を消し、ナディアさんをこっそりと救出。さらにアーシェさんとわたくしも中庭で落ち合って連れていってもらうことになりました。一度行ったわたくしの案内で街に出て、夜明け前のたった今、到着したところですわ。
酒場の戸口をくぐった途端、中にいらした五人ほどの怖そうな方々の視線が集まって来ました。皆さん、夕べはここで夜明かしをなさっていたのでしょうか? 中にはお会いした覚えのある方もいらっしゃるのですが、あいにくとテーブルに突っ伏してお休みになっておられるようでした。風邪ひきますわよ…?
落ち着かないわたくしの手をアーシェさんが握ってくださいます。逆の手ではラスファさんの服の裾を握っていましたけれども。
お酒をたくさん召しておられるのか、どろりとした目の方達が一斉に口笛を吹きました。
「よう、ニイちゃん。綺麗どころ大勢連れて来る場所じゃねぇぞ」
「よく見りゃ、全員大した上玉じゃねぇか。まとめてイケナイ所に売り飛ばしちゃおうかな?」
アーシェさんとわたくしは、思わず身を寄せ合いました。こういった場所には、入ってはいけない所に入ってしまった気分になって身が竦みますわ。さりげなくラスファさんは、警戒を深めてわずかに身を沈めたのがわかります。困りましたわ、わたくしが説明しなくてはならないのに、怖くて声が出せません。
そんな中、ナディアさんは臆する様子などまるで見せず、無遠慮なその視線を真っ向から受け止めていました。そしてそのまま真っ直ぐにカウンターに向かって深々と頭を下げます。
「お邪魔いたします。デュエルさんのご紹介でこちらに参りました、ナディアと申します」
一人泣き暮らしておられたたと聞いていたのですが、そんなことを微塵も感じさせない堂々とした振る舞いに皆さん唖然としました。もちろんラスファさんも例外ではありません。
その振る舞いが、思わぬ良い結果を生み出すことになりました。
明け方の爽やかな風を受けながら、以前デュエルさんと来た酒場に再びやってまいりました。全体的にくすんだ佇まいで、ひっそりと隠れ家を思わせる小さな建物。確かにここなら前を通りかかっても、うっかりと通り過ぎるかもしれませんね。でも、ここを拠点にするというのは…やっぱりちょっとだけ怖いです。私は傍のアーシェさんとナディアさん、そして先頭に立つラスファさんを見回しました。いえ、決してラスファさんが頼りないなんて思っているわけではないのです。ただ、冒険者でもないナディアさんが抱える不安は、わたくしの比ではないと思ってしまいまして。
同じ思いをお持ちなのでしょう、振り返ったラスファさんが物問いたげな視線を投げて来ます。ナディアさんはそれに対して、思った以上に強く決意に満ちた表情で頷きました。今まであまり話す機会がなかったのですが、最初に抱いていた印象よりもずっと芯のお強い方なのでしょうね。
…話は昨夜にさかのぼります。
それぞれ持ち帰った情報を交換した上で出された結論は『ここにナディアさんをおいておくのは危険』と全員一致の意見が上がりました。
黒幕と思われるアドルフ卿は『黒狼団』なる組織にわたくしたちの抹殺を依頼したそうですし、一部を除いて自警団はあてにならないどころか貴族の方々と癒着しておられるようです。
さらにはナディアさんの恋人だったアーサーさんという方も、人知れず…しかもナディアさんの目の前で手にかけられたという、あまりにも酷い事実。
おまけに全ての鍵を握っているナディアさん本人に情報を渡さないように軟禁していることも含め、状況はアドルフ卿の有利に傾いてる現実。
というわけで…貴族の息がかからない隠れ場所を用意して、ナディアさんをカッパーフィールド家から引き離すことにいたしました。
隠れ場所については一度デュエルさんと来たこの場所で、あっさりと決まりました。
ですが…どなたがナディアさんを連れて行くのかが問題になりました。デュエルさんは自警団と敵対してしまいましたし、大きな身体は目立ちすぎます。なら師匠は…というと『まだここですることがあるんでな、そっちは任せた』というお返事が帰って来ました。師匠のことですから、何か深いお考えがあるに違いありません。というわけで、最終的にその役目はラスファさんにお任せすることで落ち着きました。
そこからの行動は迅速でした。翌朝を待たずにラスファさんは精霊魔法で姿を消し、ナディアさんをこっそりと救出。さらにアーシェさんとわたくしも中庭で落ち合って連れていってもらうことになりました。一度行ったわたくしの案内で街に出て、夜明け前のたった今、到着したところですわ。
酒場の戸口をくぐった途端、中にいらした五人ほどの怖そうな方々の視線が集まって来ました。皆さん、夕べはここで夜明かしをなさっていたのでしょうか? 中にはお会いした覚えのある方もいらっしゃるのですが、あいにくとテーブルに突っ伏してお休みになっておられるようでした。風邪ひきますわよ…?
落ち着かないわたくしの手をアーシェさんが握ってくださいます。逆の手ではラスファさんの服の裾を握っていましたけれども。
お酒をたくさん召しておられるのか、どろりとした目の方達が一斉に口笛を吹きました。
「よう、ニイちゃん。綺麗どころ大勢連れて来る場所じゃねぇぞ」
「よく見りゃ、全員大した上玉じゃねぇか。まとめてイケナイ所に売り飛ばしちゃおうかな?」
アーシェさんとわたくしは、思わず身を寄せ合いました。こういった場所には、入ってはいけない所に入ってしまった気分になって身が竦みますわ。さりげなくラスファさんは、警戒を深めてわずかに身を沈めたのがわかります。困りましたわ、わたくしが説明しなくてはならないのに、怖くて声が出せません。
そんな中、ナディアさんは臆する様子などまるで見せず、無遠慮なその視線を真っ向から受け止めていました。そしてそのまま真っ直ぐにカウンターに向かって深々と頭を下げます。
「お邪魔いたします。デュエルさんのご紹介でこちらに参りました、ナディアと申します」
一人泣き暮らしておられたたと聞いていたのですが、そんなことを微塵も感じさせない堂々とした振る舞いに皆さん唖然としました。もちろんラスファさんも例外ではありません。
その振る舞いが、思わぬ良い結果を生み出すことになりました。
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