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mission 2 孤高の花嫁

盗賊流、取引の心得

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Side-アーチ 5

「あたしがいたギルドは、アミーって女が取り仕切ってた。正式なギルドマスターは居たけど、実質、あの女が全て掌握してた…愛人だったんだけどね。ある日組織で資金の横領が発覚して、その罪はなぜかあたしに被せられてた。証拠も丁寧に捏造されてね。間違い無く、あの女が主犯よ」
 忌々しげに、リネットは吐き捨てる。こりゃ、相当苦労してそうだ…。

「それで始末される前に逃げてきたってことか」
 オレの相槌に、彼女は頷く。
「実はあたし、ギルドマスターに目をつけられてたの…好色だったのよ、あいつ。それを知って、アミーは危機感を募らせたんでしょうね。このままじゃ、自分の地位が危ないって。ギルドマスターの他に別の男を作っといて、よく言うわよホント。そのくせあたしを抹殺するまで諦めないつもりの追手まで差し向けちゃってさ。いい迷惑よ」
 悪いがオレは、大いに納得しちまった。全員とはいわねぇが、女の中にゃやたらと嫉妬深い奴がいる。なまじ美人だったから、余計に嫉妬を買っちまったんだろうぜ。その一方的かつ身勝手な嫉妬に巻き込まれて逃げる羽目になった、と。女ってのは大変だ…。

 ここにきて無駄な質問とわかっちゃいたが、一応聞いてみた。
「元のギルドに帰る気はあるのか?」
「別に戻らなくていい。あたし、もともと孤児だから身内も特に居ないし。とりあえずここにいれば、しつこい追手から身を隠せるしね」
 予想はしてたが、即答かよ。まあどっちみち…女にうつつを抜かして実権を奪われるような間抜けがギルドマスター張った所で、組織は長持ちしねぇわな。んで、次の質問はただの確認。

「…だからおっさんの手先になってたのか、身の安全ち引き換えに?」
「アンタに何がわかるってのよ?」
 思いがけず大きく上がった声に、オレの方が辺りを気にしちまった。おいおい、誰かに聞かれちゃいねぇだろうな? だが当の本人に気にする余裕はなさそうだった。俯いて、唇を噛み締めている。元々、気位の高けぇ女なんだろうぜ。現在の自分の状況は惨めでしかたねぇって思いが全身から滲み出ていた。

「ああ、わかんねぇよ。わかんねぇが、その辛さを想像することならオレにもできるぜ」
「何よ、お情けでもかけようっての? 余計なお世話よ、偽善者!」
「いやいや、オレも盗賊の端くれだからな。ここは…取引と行こうぜ」
 オレの一言に、彼女は意外そうな目を向けてくる。
「なに、簡単なことさ。アンタ、もっかい盗賊として生きる気はねぇか? なんなら、オレがエルダードの盗賊ギルドに口利きしてやってもいいぜ。このまま穏やかにメイドとして生きるって選択もあるが…俺が見たところ、アンタそれじゃちっとばかし刺激がたりねぇんじゃね? ちなみに追手の心配も無用だ。わざわざ危険を冒してエルダードにケンカ売りにくる命知らずもいねぇだろ」

 こりゃ、賭けだ。あのおっさんが彼女を大切に扱ってたってんなら、このかけは意味をなさねぇ。彼女からしてみりゃ、アドルフのおっさんに対する忠誠心と盗賊として自由に生きるかの二者択一を突きつけてることになる。
 だが、オレは確信していた。あのオッサンに良くしてもらってたなら、さっきの叫びは出るわきゃねぇんだ。いささか物足りなささえ感じる、分の良い賭けだ。現在のところ、あのオッサンは限りなく黒に近いグレー。そこに持ってきて、こんなちょうど良い情報源を放っとく手はねぇだろ?
「へえ…いきなり、初対面に近いアンタを信用しろっての?」
「利害の一致ってやつよ。アンタの身の安全と引き換えに好き放題にこき使ってたオッサンのこと、ちょっとばかし知りたくてな」
 そう言うと、彼女は少しばかり考え込むようなそぶりを見せた。
「勝算はあるの?」
 ほい、かかった! このセリフが出たら勝ったも同然だ。
「何もなくて、ンなこと言うかよ。オレがここにきた理由がそれさ。手始めにその抱えている文書、見せてくんない?」
 オレの言葉に彼女は、思ってたよりも躊躇なく抱えていた封書を差し出した。
「おいおい、良いのかよ?」
「なによ、見たいって言ったのアンタでしょ?」
  参ったね、なかなか度胸も座ってやがる。こりゃ、見た目以上にいい女だ。

「なら、遠慮なく見せてもらうぜ」
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