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mission 2 孤高の花嫁

女はいくつの顔を持つ?

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Side-アーチ 3

「しかし参ったね。下手すりゃ、この街そのものを敵に回しかねねぇぞ」
 風呂上がりに用意された着替えに袖を通しつつ、思わずそんな言葉が口をついて出ちまった。
 衛視が色々と隠蔽してるだろうしな。現場維持してたはずの所を解放したのだって、調べても何も出てこねェと自信を持って証拠隠滅したかもしんねぇし。だいいち、何も出なかったってのは胸はって報告するこっちゃねぇだろ! 威張れる事じゃなし、そっからまずおかしいわな。
 ってことはまず仮説だが、犯人と衛視の誰かが繋がってるんじゃねぇか? しかも、かなりトップに近い誰かさん…いやむしろトップそのもの、とか?

 浴室の扉を開けると、乾いた冷たい風が心地よい。そばの窓から外を見りゃ、傾いた日が森の向こうに沈むところだった。思ってた以上に時間がたってたんだな。あてがわれた部屋に戻る途中、粟田dシク準備する広間の様子が見て取れた。そういや今晩は、お披露目のパーティだった。
「アーちん、見て見て!」
 すぐ脇からかけられた弾んだ声は、アーシェのものだ。振り返れば鮮やかな黄色いドレスを纏っている。
「おお、どうしたそれ? 姉さんにもらったドレスか?」
「そう! 今晩のパーティはこれにしたの! ちょっと大人でしょ?」
 
 言われてじっくりとアーシェを見てみた。いや、確かにドレスは大人っぽいデザインだがよ…。やっぱ凹凸が足りネェな。
「あー…まだまだつるっぺたのちんちくりんだな。あと十年は大人を名乗るのは遠慮しときな」
「ぷー! アーちんってば女心をわかってない! こんなんで良くナンパが成功するわね? …メイドさん口説いて、こっぴどく振られちゃえ!」
「まてまて! 妙に具体的な呪いかけんな!」
 頭から湯気出して廊下をかけてく後ろ姿にツッコむと、オレは部屋の扉を開けた。

 一瞬、息が止まった。
 鮮やかな青いドレスを纏った弟子がそこにいた。
「あ…師匠…」
 弟子は赤くなって目をそらすが、逆にオレは目が離せなかった。普段は大抵、地味で色気のねぇ神官服だから気づかなかった。よく見りゃ結構、色白だったんだな。メガネは外して、珍しい薄化粧が嫌でも目を引く。信じらんねぇ、女ってやつは化けるもんだ。
「へ、変ですか? おかしくないですか? こんな衣装、初めてで…」
 消え入りそうな弟子の声に、オレは我に帰った。
「お、おう…い、いいんじゃねぇの?」
 おいおい、どうしたオレ! よく見ろオレ! こいつは弟子だっての! 何ガン見してんだオレ! 
 いかん、熱めの湯でのぼせたかオレ?
「あ、師匠の衣装はこちらだそうですよ? 何着か選べるようですわ」
「お、おう…そうか。んじゃ、行ってくる」
 いかん、いつもの調子が出ねぇ。ヤベェな、どうしちまったんだオレ?こんな時はアレだ、ちょいと夜風に当たってのぼせを冷ましてくるか。


 すぐそばのバルコニーに出て、オレは深呼吸した。湯上りの火照りに夜風が心地いい。うん、やっぱアレだ。ちょいとのぼせてたな。
  
 ふと見ると、渡り廊下の窓がここからならよく見えることに気がついた。しかも庭木の枝がいい具合に視界を遮って、向こうからこっちは見えねぇ、ベストな位置だ。

「あーあ。いーけないんだ、奥さんに言ってやろっかな~?」 
 ちょうど手前側の通路からフランシスの叔父、アドルフ卿が出てきた所だった。その先にはちょいと気になってた赤毛のメイドさん、リネットが待ち構えている。オレは相手にされてなかった分、ちょいとばかり悔しいが…密会現場から目が離せねえ。
 だが、それ以上にオレは直感した。長い事盗賊やってるオレだからこそわかる。この女…この身のこなしに目の配り方。足を洗ったあとかもしれんが、どうも元は盗賊じゃねぇのかね? 

 彼女はアドルフ卿から何か封筒を受け取ると辺りをはばかるようにして足早に奥へと引っ込んで行く。…ってことは、こいつは個人的に雇われてるってことか。密かに元盗賊を雇って暗躍する領主の弟…ね。どうも、きな臭せェ予感がしてきやがったぞ。
「あ、いたいたアーちん。早く着替えなよ、みんな待ってるよ!」
 その時、アーシェがバルコニーに顔を出した。へいへい、行きますよ!
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