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mission 2 孤高の花嫁
驚愕の事実!
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Side-デュエル 5
いきなり現れた地味男、もといフランシス。
彼は俺たちと同じ宿に属する、指折りの観光大使冒険者だ。先日行われた観光大使の人気投票では準優勝という成績を収め、落ち目だった人気を盛り返した。
いつもならド派手なラメ入りの赤いマントにやたらとピカピカした白銀の鎧、さらに常に新品の細剣を携えた、冒険者としてはあり得ない姿で観光都市エルダードを闊歩している。観光客に対しては華やかな勇者の役を演じる役者として人気を博している。性格は、というと…どこか憎めないがお調子者でかなり馴れ馴れしく、そしてウザい。特に俺たちのことを一方的に『大親友』などと公言しているが、そんな事実もない。人懐っこいのはいいが、なんとも言えず暑苦しいので付き合いは避けたいところではある。
「君たちに会えて、今ほど嬉しいと思ったことはないよ! あ、いやいつでも大親友の君たちに会えるのは嬉しいんだけどね。ああ、どれだけ感謝しても仕切れないよ!」
そう叫んで、彼は背後に控えていた男に頷いた。片方が、何か書き留めた手紙を鳥に結びつけて離す。何か嫌な予感がした。
「ま、まあまあ。とりあえず立ち話もなんだし、良かったらボクの実家に寄って行かないかい? ちょうどここから近いんだ!」
その申し出に、俺たちは互いに視線を絡め合う。
「…なんか怪しいよね?」
「だが俺たちに、今晩の宿がないことも確かだ」
「あ、オレこいつの実家ちょっと見たい!」
「フランシスさん、何か困ってるみたいですし。お話だけでも聞いてみません?」
「いや、聞いたら最後だ。ここはスルーで」
思い思いに交錯する小声の応酬。そこが隙になった。いつの間にか俺たちのそばに馬車がつけられ、体格のいい男たちにまとめて押し込まれる。なんとか俺も抵抗しようとしたんだが、うまいこと足払いをかけられてしまった。くっ…できるなこいつ!
あまりに手馴れすぎた、プロ並みの手口だった。
随分な不覚をとった。まさか、全員揃ってこんなあっさりと拉致られるとは!
おれだけではない、仲間の誰もが、あまりのことにヘコんでいる。
だがフランシスだけはお構いなしとばかりに上機嫌で喋り続けた。こいつ馬車に全員乗せて仕舞えばこっちのものとか思ってるんだろ、絶っ対!
「ウチの葡萄酒は毎年かなり評判良くてね。周辺の貴族からの注文もくるようになったんだよ。夕食の席で出すから、期待して待っててね!」
「…おいおい。いいのか、んなこと言っちまって? ココにゃ、大酒飲みのウワバミが一匹いるんだぜ? 酒蔵の在庫、なくなっちまうぞ?」
いち早く気を取り直したアーチが、フランシスに軽口を叩く。ってか、誰がウワバミだ、誰が!
「えー、楽しみ! 甘口の葡萄酒はある?」
「もちろんだよ! 」
アーシェがそれに乗っかってきた。ショックも一周回って、とことん楽しむことにしたらしい。たくましいな、マジで。
お喋りの合間に、ふと気づいたことがある。窓越しに見る外の人々が、ほぼ必ず立ち止まってお辞儀しているのだ。子供達まで笑顔で手を振っている。
「若さま、お帰りなさい!」
「また遊んでくださいね、若様!」
「あー、若さまだ! 街の話、また聞かせてくださいね!」
たまに聞こえる外の声に、ラスファが小声で呟いた。
「なあ…『若さま』って、ダレのことだ?」
「…さあ…?」
「「……」」
俺とラスファは無言でチラリと、喋り続けるフランシスを横目で見た。まさか…な?
「そういえばこの馬車…フランシスの実家の物、か?」
そのラスファの疑問に、俺は答えられなかった。
通常、自家用の馬車というのは商業、運搬用を除いて王族や貴族、または領主といった階級の者しか持つ事はない。まさか…な?
「ああ、見えてきたよ! あれがボクの実家さ! 家族にも是非、紹介させてくれたまえ!」
嫌な予感とともに外を見ると、さっき遠くに影となってそびえていた城が随分と近づいている。
「なあ…フランシス? お前、何者だ?」
全員の視線を受けて、俺が疑問を口にする。その問いに、彼は胸を張って答えた。
「ああ、いつも言っていたじゃないか! ココの領主の末っ子さ。本名は、フランシス・カッパードレイクだよ! あれ、なんだいみんな? 頭なんか抱えちゃって?」
うーわー…………。
あまりといえばあまりな現実に、俺らは揃って頭を抱えた。領主の、末っ子だって? マジで? ホラ話と、誰もが思ってたんだがなあ…。
誰だって、領主の末っ子なんかがわざわざ観光大使やってるなんて思わないだろう。
「え、あれガチだったんだ…」
アーシェの答えに、彼は大きく頷く。
「いやあ、兄上たちがあまりに出来が良すぎてさあ。息苦しくなっちゃったものだから修行と称して出てきたんだ。だから、観光大使冒険者って事は内緒にしてもらえると助かるんだよ」
ああ、そういう事か…。こいつもいろいろあったんだな…。ちょっと親近感わいたぞ。…あくまでちょっとだけだが。
いきなり現れた地味男、もといフランシス。
彼は俺たちと同じ宿に属する、指折りの観光大使冒険者だ。先日行われた観光大使の人気投票では準優勝という成績を収め、落ち目だった人気を盛り返した。
いつもならド派手なラメ入りの赤いマントにやたらとピカピカした白銀の鎧、さらに常に新品の細剣を携えた、冒険者としてはあり得ない姿で観光都市エルダードを闊歩している。観光客に対しては華やかな勇者の役を演じる役者として人気を博している。性格は、というと…どこか憎めないがお調子者でかなり馴れ馴れしく、そしてウザい。特に俺たちのことを一方的に『大親友』などと公言しているが、そんな事実もない。人懐っこいのはいいが、なんとも言えず暑苦しいので付き合いは避けたいところではある。
「君たちに会えて、今ほど嬉しいと思ったことはないよ! あ、いやいつでも大親友の君たちに会えるのは嬉しいんだけどね。ああ、どれだけ感謝しても仕切れないよ!」
そう叫んで、彼は背後に控えていた男に頷いた。片方が、何か書き留めた手紙を鳥に結びつけて離す。何か嫌な予感がした。
「ま、まあまあ。とりあえず立ち話もなんだし、良かったらボクの実家に寄って行かないかい? ちょうどここから近いんだ!」
その申し出に、俺たちは互いに視線を絡め合う。
「…なんか怪しいよね?」
「だが俺たちに、今晩の宿がないことも確かだ」
「あ、オレこいつの実家ちょっと見たい!」
「フランシスさん、何か困ってるみたいですし。お話だけでも聞いてみません?」
「いや、聞いたら最後だ。ここはスルーで」
思い思いに交錯する小声の応酬。そこが隙になった。いつの間にか俺たちのそばに馬車がつけられ、体格のいい男たちにまとめて押し込まれる。なんとか俺も抵抗しようとしたんだが、うまいこと足払いをかけられてしまった。くっ…できるなこいつ!
あまりに手馴れすぎた、プロ並みの手口だった。
随分な不覚をとった。まさか、全員揃ってこんなあっさりと拉致られるとは!
おれだけではない、仲間の誰もが、あまりのことにヘコんでいる。
だがフランシスだけはお構いなしとばかりに上機嫌で喋り続けた。こいつ馬車に全員乗せて仕舞えばこっちのものとか思ってるんだろ、絶っ対!
「ウチの葡萄酒は毎年かなり評判良くてね。周辺の貴族からの注文もくるようになったんだよ。夕食の席で出すから、期待して待っててね!」
「…おいおい。いいのか、んなこと言っちまって? ココにゃ、大酒飲みのウワバミが一匹いるんだぜ? 酒蔵の在庫、なくなっちまうぞ?」
いち早く気を取り直したアーチが、フランシスに軽口を叩く。ってか、誰がウワバミだ、誰が!
「えー、楽しみ! 甘口の葡萄酒はある?」
「もちろんだよ! 」
アーシェがそれに乗っかってきた。ショックも一周回って、とことん楽しむことにしたらしい。たくましいな、マジで。
お喋りの合間に、ふと気づいたことがある。窓越しに見る外の人々が、ほぼ必ず立ち止まってお辞儀しているのだ。子供達まで笑顔で手を振っている。
「若さま、お帰りなさい!」
「また遊んでくださいね、若様!」
「あー、若さまだ! 街の話、また聞かせてくださいね!」
たまに聞こえる外の声に、ラスファが小声で呟いた。
「なあ…『若さま』って、ダレのことだ?」
「…さあ…?」
「「……」」
俺とラスファは無言でチラリと、喋り続けるフランシスを横目で見た。まさか…な?
「そういえばこの馬車…フランシスの実家の物、か?」
そのラスファの疑問に、俺は答えられなかった。
通常、自家用の馬車というのは商業、運搬用を除いて王族や貴族、または領主といった階級の者しか持つ事はない。まさか…な?
「ああ、見えてきたよ! あれがボクの実家さ! 家族にも是非、紹介させてくれたまえ!」
嫌な予感とともに外を見ると、さっき遠くに影となってそびえていた城が随分と近づいている。
「なあ…フランシス? お前、何者だ?」
全員の視線を受けて、俺が疑問を口にする。その問いに、彼は胸を張って答えた。
「ああ、いつも言っていたじゃないか! ココの領主の末っ子さ。本名は、フランシス・カッパードレイクだよ! あれ、なんだいみんな? 頭なんか抱えちゃって?」
うーわー…………。
あまりといえばあまりな現実に、俺らは揃って頭を抱えた。領主の、末っ子だって? マジで? ホラ話と、誰もが思ってたんだがなあ…。
誰だって、領主の末っ子なんかがわざわざ観光大使やってるなんて思わないだろう。
「え、あれガチだったんだ…」
アーシェの答えに、彼は大きく頷く。
「いやあ、兄上たちがあまりに出来が良すぎてさあ。息苦しくなっちゃったものだから修行と称して出てきたんだ。だから、観光大使冒険者って事は内緒にしてもらえると助かるんだよ」
ああ、そういう事か…。こいつもいろいろあったんだな…。ちょっと親近感わいたぞ。…あくまでちょっとだけだが。
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