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mission 2 孤高の花嫁
雑踏での再会?
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Side-デュエル 4
結局俺たちは、アーチを探して再び雑踏に戻ることにした。あのパステルカラーの魔境は、到底攻略できると思えない。
奴の宿探しの割り当ては、渡し小屋から下流に向けての区域。そのまま川沿いを下ると、程なくして見知った金髪を見つけられた。ラスファの読み通り、道端で女を口説いている。
「本当に女口説いてるよ…あれは、宿探しサボってるな…」
「言うな。分かりきった結論だろう? ラグ連れてこないで正解だったな」
俺たちの存在に気づくことなく、夢中になって口説きに口説いている金髪のニヤけヅラ。彼こそが最後の一人、アーチボルト・サーガだ。美人を見るととりあえず、息をするように口説く困った癖をもっている女好き。肩まで伸ばした派手な金髪に、だらしないように見えて手入れされている無精ひげ。ひょろりとした長身に異国を思わせるポンチョを見にまとい、口から先に生まれたような天性の話術が最大の武器だ。
「お互い雨で足止め食らったのは、これ運命かもよ? オレ、もうお姉さんに首ったけ、ほかの女なんてもう目にはいらねぇぜ」
ただ、その話術はほとんど女性を口説く時に発揮されるのが残念なところだ。
ついに彼は、まんざらじゃなくなってきたらしい彼女の肩に手を回し、どこかに行こうとする。おいおい、どこに行く気だ?
とうとう、ラスファは彼の背後に音もなく立った。
「宿屋は見つかったのか?」
底冷えする声にアーチは小さく「ヤベッ」と呟くと引きつった笑みをこちらに向けた。
「よ、よう。もちろん探しはしたんだけどな、この人混みだからよ…見つからなかったのよ」
その会話の合間に、俺はさりげなく女性を逃すべく目配せで行くように指示する。少しばかり余計なことをした感じがあるが、ここで勝手な単独行動に走られても困る。心残りに近い目でアーチを見ながら女性は去っていった。
「あ…あ~…」
名残惜しそうなのは、アーチも同じ。彼女の行ってしまった方向に手を伸ばすと、悲痛な声をあげている。全く、困ったもんだ。エルダードに戻ってからのナンパなら別に咎めはしないが、今は場合が場合だ。弁えてもらわないと困る。
「それで、貴様はナンパに精を出していたというのか…呆れた奴だな」
「い、いやな。真っ当な宿屋が空いてねぇってんなら、あるだろ、最後の手段がよ…ほれその、連れ込み宿とか…」
「真っ昼間から出す話題か!」
そのあまりといえばあまりな言葉に、ごく真っ当なツッコミが炸裂した。確かに今は、日が高い時間帯だ…肝心の日が出ていないが。ちなみに彼のいう連れ込み宿とは…まあ、アレをナニする場所だ。
全く、困ったもんだ。ラグはこいつの何をどう見て懐いているのか? まるで生まれたての雛のようについて回り、師匠と呼んではキラキラした目で見上げて尊敬している。正直、見ているこっちがハラハラするが…当のラグは意に介する様子もない。
まあ、いつまでも待たせるわけにいかない。手短に説明すると、例のパステル魔境にアーチを蹴り込んで髪留め買って一段落。
だが、当面の宿の問題が解決したわけでもない。
「こりゃ、マジで野宿か?」
先刻の女性を思い出していると思われるアーチの嫌そうなぼやきに、アーシェが真っ先に異を唱えた。
「えー、せっかく屋根のあるとこで泊まれると思ったのに! 嫌だなあ、また雨降りそうじゃん。あたし、お風呂入りたい!」
「上流側の町外れに、野宿に良さげな木ならあったぞ」
「ああ、風呂だけどこかで借りればいいんじゃないか?」
俺とラスファが出した次善策にも、アーシェは首を縦に振らない。
「えー、これだから男どもは! 繊細な女子はそんなんじゃ満足できないのよ!」
「わたくしなら、あの…師匠と一緒でしたら大丈夫ですわよ?」
「えー、ラグちゃんが裏切ったー…」
さっそく、赤い髪留めをつけたラグがアーチを援護にかかる。心洗われるほどの健気な様子だ。ほんのりと染まった頰は『師匠』からの贈り物を喜んでいるのだろう。だが、心が洗われても物理的に泥は落とせないのが現実。花より団子なアーシェだった。
そこに、見るからに地味な男が近づいて来た。黒っぽくみすぼらしいほど地味な衣装は、イベントの熱気が残る宿場では逆に異彩を放っている。そんな中、フードから覗く鮮やかな金髪には見覚えがある気がした。
「…何者だ?」
ラスファとアーチは、さりげなく少女たちをかばう位置に移動する。低く抑えた俺の誰何の声は。彼に威圧を与えるはずだった…んだが。
奴はパアッと笑みを見せながら飛び上がり、諸手を挙げて天を仰いだ。
「おお、至高神ルミエル様! 今ほどあなたに感謝したことはありません! そしてすみません、しばらくお祈りサボってましたごめんなさい!」
「…なんだそりゃ?」
しかしその声と、いちいちウザい言い回しには全員覚えがあった。
「まさかオメー…フランシスか?」
呆然としたアーチの声に、彼はフードをはねのけた。その地味な服装は信じがたいが、確かに彼はフランシスだ!
結局俺たちは、アーチを探して再び雑踏に戻ることにした。あのパステルカラーの魔境は、到底攻略できると思えない。
奴の宿探しの割り当ては、渡し小屋から下流に向けての区域。そのまま川沿いを下ると、程なくして見知った金髪を見つけられた。ラスファの読み通り、道端で女を口説いている。
「本当に女口説いてるよ…あれは、宿探しサボってるな…」
「言うな。分かりきった結論だろう? ラグ連れてこないで正解だったな」
俺たちの存在に気づくことなく、夢中になって口説きに口説いている金髪のニヤけヅラ。彼こそが最後の一人、アーチボルト・サーガだ。美人を見るととりあえず、息をするように口説く困った癖をもっている女好き。肩まで伸ばした派手な金髪に、だらしないように見えて手入れされている無精ひげ。ひょろりとした長身に異国を思わせるポンチョを見にまとい、口から先に生まれたような天性の話術が最大の武器だ。
「お互い雨で足止め食らったのは、これ運命かもよ? オレ、もうお姉さんに首ったけ、ほかの女なんてもう目にはいらねぇぜ」
ただ、その話術はほとんど女性を口説く時に発揮されるのが残念なところだ。
ついに彼は、まんざらじゃなくなってきたらしい彼女の肩に手を回し、どこかに行こうとする。おいおい、どこに行く気だ?
とうとう、ラスファは彼の背後に音もなく立った。
「宿屋は見つかったのか?」
底冷えする声にアーチは小さく「ヤベッ」と呟くと引きつった笑みをこちらに向けた。
「よ、よう。もちろん探しはしたんだけどな、この人混みだからよ…見つからなかったのよ」
その会話の合間に、俺はさりげなく女性を逃すべく目配せで行くように指示する。少しばかり余計なことをした感じがあるが、ここで勝手な単独行動に走られても困る。心残りに近い目でアーチを見ながら女性は去っていった。
「あ…あ~…」
名残惜しそうなのは、アーチも同じ。彼女の行ってしまった方向に手を伸ばすと、悲痛な声をあげている。全く、困ったもんだ。エルダードに戻ってからのナンパなら別に咎めはしないが、今は場合が場合だ。弁えてもらわないと困る。
「それで、貴様はナンパに精を出していたというのか…呆れた奴だな」
「い、いやな。真っ当な宿屋が空いてねぇってんなら、あるだろ、最後の手段がよ…ほれその、連れ込み宿とか…」
「真っ昼間から出す話題か!」
そのあまりといえばあまりな言葉に、ごく真っ当なツッコミが炸裂した。確かに今は、日が高い時間帯だ…肝心の日が出ていないが。ちなみに彼のいう連れ込み宿とは…まあ、アレをナニする場所だ。
全く、困ったもんだ。ラグはこいつの何をどう見て懐いているのか? まるで生まれたての雛のようについて回り、師匠と呼んではキラキラした目で見上げて尊敬している。正直、見ているこっちがハラハラするが…当のラグは意に介する様子もない。
まあ、いつまでも待たせるわけにいかない。手短に説明すると、例のパステル魔境にアーチを蹴り込んで髪留め買って一段落。
だが、当面の宿の問題が解決したわけでもない。
「こりゃ、マジで野宿か?」
先刻の女性を思い出していると思われるアーチの嫌そうなぼやきに、アーシェが真っ先に異を唱えた。
「えー、せっかく屋根のあるとこで泊まれると思ったのに! 嫌だなあ、また雨降りそうじゃん。あたし、お風呂入りたい!」
「上流側の町外れに、野宿に良さげな木ならあったぞ」
「ああ、風呂だけどこかで借りればいいんじゃないか?」
俺とラスファが出した次善策にも、アーシェは首を縦に振らない。
「えー、これだから男どもは! 繊細な女子はそんなんじゃ満足できないのよ!」
「わたくしなら、あの…師匠と一緒でしたら大丈夫ですわよ?」
「えー、ラグちゃんが裏切ったー…」
さっそく、赤い髪留めをつけたラグがアーチを援護にかかる。心洗われるほどの健気な様子だ。ほんのりと染まった頰は『師匠』からの贈り物を喜んでいるのだろう。だが、心が洗われても物理的に泥は落とせないのが現実。花より団子なアーシェだった。
そこに、見るからに地味な男が近づいて来た。黒っぽくみすぼらしいほど地味な衣装は、イベントの熱気が残る宿場では逆に異彩を放っている。そんな中、フードから覗く鮮やかな金髪には見覚えがある気がした。
「…何者だ?」
ラスファとアーチは、さりげなく少女たちをかばう位置に移動する。低く抑えた俺の誰何の声は。彼に威圧を与えるはずだった…んだが。
奴はパアッと笑みを見せながら飛び上がり、諸手を挙げて天を仰いだ。
「おお、至高神ルミエル様! 今ほどあなたに感謝したことはありません! そしてすみません、しばらくお祈りサボってましたごめんなさい!」
「…なんだそりゃ?」
しかしその声と、いちいちウザい言い回しには全員覚えがあった。
「まさかオメー…フランシスか?」
呆然としたアーチの声に、彼はフードをはねのけた。その地味な服装は信じがたいが、確かに彼はフランシスだ!
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