上 下
64 / 405
mission 2 孤高の花嫁

雑踏での再会?

しおりを挟む
Side-デュエル 4

 結局俺たちは、アーチを探して再び雑踏に戻ることにした。あのパステルカラーの魔境は、到底攻略できると思えない。

 奴の宿探しの割り当ては、渡し小屋から下流に向けての区域。そのまま川沿いを下ると、程なくして見知った金髪を見つけられた。ラスファの読み通り、道端で女を口説いている。
「本当に女口説いてるよ…あれは、宿探しサボってるな…」
「言うな。分かりきった結論だろう?  ラグ連れてこないで正解だったな」


 俺たちの存在に気づくことなく、夢中になって口説きに口説いている金髪のニヤけヅラ。彼こそが最後の一人、アーチボルト・サーガだ。美人を見るととりあえず、息をするように口説く困った癖をもっている女好き。肩まで伸ばした派手な金髪に、だらしないように見えて手入れされている無精ひげ。ひょろりとした長身に異国を思わせるポンチョを見にまとい、口から先に生まれたような天性の話術が最大の武器だ。
 「お互い雨で足止め食らったのは、これ運命かもよ?  オレ、もうお姉さんに首ったけ、ほかの女なんてもう目にはいらねぇぜ」
 ただ、その話術はほとんど女性を口説く時に発揮されるのが残念なところだ。

 ついに彼は、まんざらじゃなくなってきたらしい彼女の肩に手を回し、どこかに行こうとする。おいおい、どこに行く気だ?
 とうとう、ラスファは彼の背後に音もなく立った。
「宿屋は見つかったのか?」
 底冷えする声にアーチは小さく「ヤベッ」と呟くと引きつった笑みをこちらに向けた。
「よ、よう。もちろん探しはしたんだけどな、この人混みだからよ…見つからなかったのよ」
 その会話の合間に、俺はさりげなく女性を逃すべく目配せで行くように指示する。少しばかり余計なことをした感じがあるが、ここで勝手な単独行動に走られても困る。心残りに近い目でアーチを見ながら女性は去っていった。
「あ…あ~…」
 名残惜しそうなのは、アーチも同じ。彼女の行ってしまった方向に手を伸ばすと、悲痛な声をあげている。全く、困ったもんだ。エルダードに戻ってからのナンパなら別に咎めはしないが、今は場合が場合だ。弁えてもらわないと困る。
「それで、貴様はナンパに精を出していたというのか…呆れた奴だな」
「い、いやな。真っ当な宿屋が空いてねぇってんなら、あるだろ、最後の手段がよ…ほれその、連れ込み宿とか…」
「真っ昼間から出す話題か!」
 そのあまりといえばあまりな言葉に、ごく真っ当なツッコミが炸裂した。確かに今は、日が高い時間帯だ…肝心の日が出ていないが。ちなみに彼のいう連れ込み宿とは…まあ、アレをナニする場所だ。

 全く、困ったもんだ。ラグはこいつの何をどう見て懐いているのか?  まるで生まれたての雛のようについて回り、師匠と呼んではキラキラした目で見上げて尊敬している。正直、見ているこっちがハラハラするが…当のラグは意に介する様子もない。

まあ、いつまでも待たせるわけにいかない。手短に説明すると、例のパステル魔境にアーチを蹴り込んで髪留め買って一段落。
 だが、当面の宿の問題が解決したわけでもない。

「こりゃ、マジで野宿か?」
先刻の女性を思い出していると思われるアーチの嫌そうなぼやきに、アーシェが真っ先に異を唱えた。
「えー、せっかく屋根のあるとこで泊まれると思ったのに! 嫌だなあ、また雨降りそうじゃん。あたし、お風呂入りたい!」
「上流側の町外れに、野宿に良さげな木ならあったぞ」
「ああ、風呂だけどこかで借りればいいんじゃないか?」
 俺とラスファが出した次善策にも、アーシェは首を縦に振らない。
「えー、これだから男どもは! 繊細な女子はそんなんじゃ満足できないのよ!」
「わたくしなら、あの…師匠と一緒でしたら大丈夫ですわよ?」
「えー、ラグちゃんが裏切ったー…」
 さっそく、赤い髪留めをつけたラグがアーチを援護にかかる。心洗われるほどの健気な様子だ。ほんのりと染まった頰は『師匠』からの贈り物を喜んでいるのだろう。だが、心が洗われても物理的に泥は落とせないのが現実。花より団子なアーシェだった。

 そこに、見るからに地味な男が近づいて来た。黒っぽくみすぼらしいほど地味な衣装は、イベントの熱気が残る宿場では逆に異彩を放っている。そんな中、フードから覗く鮮やかな金髪には見覚えがある気がした。
「…何者だ?」
 ラスファとアーチは、さりげなく少女たちをかばう位置に移動する。低く抑えた俺の誰何の声は。彼に威圧を与えるはずだった…んだが。
 奴はパアッと笑みを見せながら飛び上がり、諸手を挙げて天を仰いだ。
「おお、至高神ルミエル様! 今ほどあなたに感謝したことはありません! そしてすみません、しばらくお祈りサボってましたごめんなさい!」
「…なんだそりゃ?」
 しかしその声と、いちいちウザい言い回しには全員覚えがあった。
「まさかオメー…フランシスか?」
 呆然としたアーチの声に、彼はフードをはねのけた。その地味な服装は信じがたいが、確かに彼はフランシスだ!
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

愛人がいらっしゃるようですし、私は故郷へ帰ります。

hana
恋愛
結婚三年目。 庭の木の下では、旦那と愛人が逢瀬を繰り広げていた。 私は二階の窓からそれを眺め、愛が冷めていくのを感じていた……

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...