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intermission 1 ~観光大使の野望~

昼の場外乱闘 ~収束編~

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Side-フランシス 9

 頭上を掠めて飛んだ魔法に呆然としていた観客たちは、やがて我に帰った。そしてどよめきと拍手、口笛が湧き出る。

 鈍足が災いして避けられなかった巨大ナメクジは、あちこちに魔術付与付きの刃物で切り裂かれた挙句…火の魔法を食らってこんがりと焦げ、小さく縮んでしまった。全身から煙と蒸気を上げて、地響きとともにその場にひっくり返って動かなくなる。途端に周囲から弾けるような歓声と、割れんばかりの拍手が上がった。

「やったぜ! 我らが勇者、フランシスに拍手~!」
 いつのまにか、デュエルとラスファは雑踏に姿を消していた。デレクも元々『悪役』という立場上、観光客の前であまり『勇者』と馴れ合うわけにいかないために同じように姿を消している。

 そんな中で一人残ったアーチは、吟遊詩人らしく鍛え上げた喉で場を仕切っていた。
「あ、いや…ボクは…」
 実際に巨大ナメクジを退治したのはボクじゃない。迷うことなく振るわれたデュエルの槍とアーチの短剣、そしてとどめを刺したのはラスファの精霊魔法だ。ボク一人だったら、多分同にもならなかっただろう。それなのに、観客の拍手はボク一人に向けられている。彼らへの返事をためらうボクの肩にアーチの腕が回された。その姿勢のままで、小声で諭される。

「おいおい、野暮なことは言いっこ無しだぜ? オメーも観光客を守ってただろうがよ」
「しかし、アーチ…」
「しかもオメーは観光客の身の安全だけじゃなく、その冒険者や勇者に対する夢も守らにゃならん重労働だ」
「…」
 何も言えないボクに、アーチはさらに続ける。
「現実見すぎたオレらは、影働きの方がおにあいさ。だからまあ、そっち方面は任せたぜ? おらおら、観客たちが拍手してんぜ、笑って答えてやれよ!」
 
観光客に気取られないように、笑いながら開いた手を振ってアーチは呟く。

 観光客の夢…そうだ、ここには冒険と夢を求めてはるばる遠いところからお客さんが集まってくるんだ。遺跡に勇者、魔物にヒロイン。…たとえ実際には冒険を諦めてしまったボクにも、まだ守るべきものは…いや、守れるものはあるんだ!
 観客たちを見渡すと、そこにあるのは笑顔、笑顔、笑顔。みんな、ボクという『冒険者』に夢を見て楽しんでいる。
 このエルダードという街を楽しんでいる。
「そういうこった。じゃ、裏方はここで消えるからよ。後は上手くやれよ!」

 ありがとう、アーチ! おかげでボクはこれから、今以上に観光大使という仕事に誇りを持てるよ!

 雑踏に消えた彼らに心の中で深く深くお礼を言うと、ボクは一層気合を込めて観光客に笑顔を振りまいた。人気を得ることにかまけて、ボクは少々大事なことを忘れかけていたかもしれない。でも、それを観光大使と兼任する本職冒険者のアーチに教えてもらった。
 もうボクは迷わない。
 観光客のニーズに、全力で答えていくよ!
 
 でも、それとは別に何か、彼らにお礼をしたいんだけど…何が良いのかな?
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