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intermission 1 ~観光大使の野望~
勧誘大作戦! ~ラスファの場合~
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Side-フランシス 3
一階の食堂には、まだ全く人気はない。
いつものカウンター席に座ると、ボクは奥にいる大親友に声をかけた。
「ラスファ! 朝食を一人前頼むよ!」
「ああ、もうそんな時間か?」
厨房の奥でスープ鍋をかき混ぜる長い銀髪の後ろ姿が、肩越しに少し振り返る。彼の名は、ラスファエル・バリニーズ。デュエルたちとパーティを組んでいる、弓使い兼精霊使いだ。長い銀髪を後ろで結び、細身の長身。そして、最大の特徴は…。
彼の場合はアーチと対照的に、着こなしについては申し分ない。ただ、かっちりと着こなしすぎて隙が無さ過ぎるのが難といえば難か? もう少し着崩してもいいんじゃないかと思ったりするよ。
とりあえず、いつもの丈の長い上着は奥にかけられ、代わりに料理人らしくエプロンを身につけているのは、なんとも言い難いんだけどね…。
だけど! 彼はその難をカバーしてもお釣りがくる存在なんだ! なんと言っても、稀少種族で知られる上に男女とも美人ぞろいで知られるエルフ族なんだからね! もちろん彼も例外じゃないさ。どこに行っても注目される、観光大使としては逃せない超有望株なんだから! 冒険者としてはともかくとして、こんな所で厨房の主なんて、もったいないにも程があるよ。
「できたぞ、一人前」
物思いにふけっている間に、ボクの朝食は出来上がったようだった。素っ気ない一言に現実に引き戻されると、カウンター席にふっかりと湯気が上がる。
今日のメニューはかぼちゃのポタージュにオムレツ、季節のサラダにパンと香茶だ。ゴクリと唾を飲み込み、一口オムレツを含むと絶妙な焼き加減とあっさりとした味付けが広がる。くっ…この料理の腕なら厨房の主も勿体無くはないか? いやいや、諦めるわけにはいかない。料理人と冒険者を両立してるんだ、観光大使だって不可能ではないはず。そのためにはまず、これだけは言っておかなければ!
「ところで…客商売の割にはキミ、あまりにも無愛想すぎるよね? もっと愛想良くしたら、お客さんももっと増えそうなもんだけど」
ボクの問いかけに、彼はカウンター側で手際よくサラダ用のキャベツを刻みながら答えた。このやり取りの中でも、彼の仕事には淀みがない。つくづくプロだ。
「寝言は寝て言え。料理人は、黙って味で勝負してればいい。無駄に愛想を振りまく意味が、どこにある?」
「ホント職人気質だよね、キミの親衛隊のみんなが聞いたら泣いちゃうよ?」
まあ、これは性格上のことだし。客商売やってるのが心配にはなるほど無愛想なんだけど、逆にそこがいいって意見が圧倒的多数だから特に問題ないんだけどさ。
少しは動揺するかと思いきや、ボクの問いかけに彼は動じた風もなく、キャベツを刻む音に乱れひとつない。
「あのな。観光大使じゃあるまいし、ただの料理人にそんなものがいてたまるか」
あー、まあそう言うだろうと思ったよ。でも、非公認の親衛隊がいるのは確かなんだよね。ってか、ここの常連客の女子はほぼそうなんだけど。…自分を知らないって怖いな。
ボクは軽く咳払いをして、説得を開始した。
「キミは自分の事を知らなすぎるよ。この宿に来る女性客は、キミ目当てがほとんどだって言うじゃないか。彼女たちだって、そんなキミの活躍をもっと見たいと思ってるはずなんだ。デュエルやアーチと一緒に、ボクとともに来てくれ! 今まで知らなかった世界が…」
熱を込めて見回すと、そこにはラスファではなく女将さんがいた。
「あの子なら、市場に買い出しに行ったよ! 全く、まだ諦めてないのかい? あんたの説得でなんとかなるなら、とっくに私が観光大使にしてるよ! 知らないわけじゃないだろ、あの子が目立つことが大嫌いなのは? それに…デュエルたちはうちの筆頭冒険者なんだ。下手に兼業したら、本業に差し支えるよ! あんたはあんたで、さっさと自分の仕事に行きな!」
反論の隙を与えないおかみさんの説教に押し出されるように、ボクは残った朝食を大急ぎで片付けると宿を後にした。
一階の食堂には、まだ全く人気はない。
いつものカウンター席に座ると、ボクは奥にいる大親友に声をかけた。
「ラスファ! 朝食を一人前頼むよ!」
「ああ、もうそんな時間か?」
厨房の奥でスープ鍋をかき混ぜる長い銀髪の後ろ姿が、肩越しに少し振り返る。彼の名は、ラスファエル・バリニーズ。デュエルたちとパーティを組んでいる、弓使い兼精霊使いだ。長い銀髪を後ろで結び、細身の長身。そして、最大の特徴は…。
彼の場合はアーチと対照的に、着こなしについては申し分ない。ただ、かっちりと着こなしすぎて隙が無さ過ぎるのが難といえば難か? もう少し着崩してもいいんじゃないかと思ったりするよ。
とりあえず、いつもの丈の長い上着は奥にかけられ、代わりに料理人らしくエプロンを身につけているのは、なんとも言い難いんだけどね…。
だけど! 彼はその難をカバーしてもお釣りがくる存在なんだ! なんと言っても、稀少種族で知られる上に男女とも美人ぞろいで知られるエルフ族なんだからね! もちろん彼も例外じゃないさ。どこに行っても注目される、観光大使としては逃せない超有望株なんだから! 冒険者としてはともかくとして、こんな所で厨房の主なんて、もったいないにも程があるよ。
「できたぞ、一人前」
物思いにふけっている間に、ボクの朝食は出来上がったようだった。素っ気ない一言に現実に引き戻されると、カウンター席にふっかりと湯気が上がる。
今日のメニューはかぼちゃのポタージュにオムレツ、季節のサラダにパンと香茶だ。ゴクリと唾を飲み込み、一口オムレツを含むと絶妙な焼き加減とあっさりとした味付けが広がる。くっ…この料理の腕なら厨房の主も勿体無くはないか? いやいや、諦めるわけにはいかない。料理人と冒険者を両立してるんだ、観光大使だって不可能ではないはず。そのためにはまず、これだけは言っておかなければ!
「ところで…客商売の割にはキミ、あまりにも無愛想すぎるよね? もっと愛想良くしたら、お客さんももっと増えそうなもんだけど」
ボクの問いかけに、彼はカウンター側で手際よくサラダ用のキャベツを刻みながら答えた。このやり取りの中でも、彼の仕事には淀みがない。つくづくプロだ。
「寝言は寝て言え。料理人は、黙って味で勝負してればいい。無駄に愛想を振りまく意味が、どこにある?」
「ホント職人気質だよね、キミの親衛隊のみんなが聞いたら泣いちゃうよ?」
まあ、これは性格上のことだし。客商売やってるのが心配にはなるほど無愛想なんだけど、逆にそこがいいって意見が圧倒的多数だから特に問題ないんだけどさ。
少しは動揺するかと思いきや、ボクの問いかけに彼は動じた風もなく、キャベツを刻む音に乱れひとつない。
「あのな。観光大使じゃあるまいし、ただの料理人にそんなものがいてたまるか」
あー、まあそう言うだろうと思ったよ。でも、非公認の親衛隊がいるのは確かなんだよね。ってか、ここの常連客の女子はほぼそうなんだけど。…自分を知らないって怖いな。
ボクは軽く咳払いをして、説得を開始した。
「キミは自分の事を知らなすぎるよ。この宿に来る女性客は、キミ目当てがほとんどだって言うじゃないか。彼女たちだって、そんなキミの活躍をもっと見たいと思ってるはずなんだ。デュエルやアーチと一緒に、ボクとともに来てくれ! 今まで知らなかった世界が…」
熱を込めて見回すと、そこにはラスファではなく女将さんがいた。
「あの子なら、市場に買い出しに行ったよ! 全く、まだ諦めてないのかい? あんたの説得でなんとかなるなら、とっくに私が観光大使にしてるよ! 知らないわけじゃないだろ、あの子が目立つことが大嫌いなのは? それに…デュエルたちはうちの筆頭冒険者なんだ。下手に兼業したら、本業に差し支えるよ! あんたはあんたで、さっさと自分の仕事に行きな!」
反論の隙を与えないおかみさんの説教に押し出されるように、ボクは残った朝食を大急ぎで片付けると宿を後にした。
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