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mission 1 俺たち、観光大使じゃない冒険者!
盗賊の本分
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Side-デュエル 16
なんとか全員が回復して、再び忙しい日々が始まろうとしていた。街は何事もなかったように、毎日大量の観光客を受け入れては吐き出している。そんな中、もはや恒例の隠し部屋にて…学校で不在の少女たちを除く…俺たち三人での正式な報告も終わると、女将は肩をすくめた。どうやら一応は納得してくれたらしい。
「しかし、この三馬鹿トリオが揃って倒れるとはねぇ。珍しいことがあるもんだと思ったら!」
「おいおい、何だよその三馬鹿トリオって?」
「右から順に、ナンパバカ・修行バカ・料理バカだよ、文句あるかい?」
あまりといえばあまりな女将さんの言い分に、だが俺たちは何もいえずそれぞれ明後日の方に視線を逸らせた。
「しかしあんたら、頑張ったんだろうけど…そういうことじゃ、どこからも報酬なんて出やしないんだよねえ。自警団とは別口の依頼になるんだけど、依頼人は幽霊みたいなもんなんだし。請求のしようがないよ」
弱り切ったような女将さんのため息。同席したラドフォード卿が少し身を縮める。
冒険者ギルドには、冒険後に報告書の提出と同時に、報酬の一部をギルド運営費として上納することになっているのだが…今回、報酬は無いに等しいのだ。以前、貧しい村から依頼された格安ゴブリン退治を下回る惨状でもある。しかしながら、街を丸ごと守ったという評価は高くなるだろう。女将じゃなくとも、頭が痛いところだ。ギルド本部も同様の状態になること請け合いだ。
そこに、アーチが場違いなまでの笑い声を立てて女将さんの背中を叩いた。
「おいおい、シケたツラすんなよ。報酬なら、こいつがあるぜ! 開けて見な」
アーチは重い音を立てる皮袋をテーブルに投げ出した。訝しげに女将が袋を開けると、一山の金貨がこぼれ出る。驚く一同を見回してアーチが笑みを深くした。
「何処から手に入れた金貨だ? どうやって稼いだ?」
俺は聞かずにいられなかった。その様子に、奴はますますニンマリとドヤ顔で答える。
「最後の部屋、覚えてんだろ? あの壁に、あったよな? 魔術模様に沿って埋め込まれていた、古代から存在した光輝石がよ!」
「まさか…それを掘り起こしたのか? いつの間に!」
今度はラスファがアーチに詰め寄る。
決して褒められた行為でも無いが、盗賊ギルド側から見れば、そう咎められる事もないのだろう。しかし魔術師ギルドや各神殿からの視点では、それは研究対象としての遺跡の損壊にもつながる、れっきとして盗掘行為だ。自警団だっていたはずだし、見咎められたたらただではすまなかったところだ。
だが遺憾ながら、奴は骨の髄まで盗賊だった。むしろ誇らしそうにアーチは胸を反り返らせて、言葉を連ねる。
「アーシェと弟子、あとラドフォードのダンナが担架で運ばれた後さ。デュエルは神官騎士のボーヤと葬式してたし、ラスファは高熱で気絶してたからな。うるさくいう奴はいなかったしチャンスはあったぜ」
「…お前なあ…」
呆れを含んだ俺の言葉も、奴はものともしない。
「まあ遺跡専門の盗賊としてはだな、いついかなる時であろうとお宝を見逃す愚は犯さないのさ。安いレプリカと違って、古代遺跡で出た正真正銘のオリジナルだから魔術師ギルドが高く買い取ってくれたぜ。何処からも足がつかねぇようにするのが、ちと骨だったがな」
「アンタって…」
女将も呆れたようにアーチをジト目で見る。だがそれで止まるあいつじゃない。
「まあ不謹慎かもしれねぇけどよ…どっち道、完っ全に封鎖されるってわかってんだ。どうせならギルドの運営費のためだ、オレも涙を飲んで、世のため人のため…」
何処までマジか不明だが、病魔が消滅した今となってはあの魔術文様も役割が終わっているということだ。俺たちは複雑な気分でテーブルの金貨を眺める。だがまあ、出自がどうあれ資金ができたことに変わりはない。釈然としないまま、おかみさんは報告書と上納金を持って本部に向かった。残りは俺たちと宿屋で分配する形となる。当のアーチはさっさと自分の取り分を取るなり、
「報告がてら、囚われの御仁を解放しに行ってやるとするかね。ついでに久々のナンパに行って来らァ!」
と、謎の言葉を残して表の雑踏に姿を消した。俺の予想通りなら、先に多めに金貨を取ってあるはずだ。こいつの『資金稼ぎ』は、奴にとっても大いに
理があったに違いない。盗賊ギルドの上納金取り立ては、冒険者ギルドの比ではないと聞く。
その直後、ラドフォード卿が何かを感じ取ったようだった。落ち着きなく辺りを見回すと、ラスファに物問いたげな視線を向けた。彼は静かに頷くと、明り取りの窓を閉めた。
なんとか全員が回復して、再び忙しい日々が始まろうとしていた。街は何事もなかったように、毎日大量の観光客を受け入れては吐き出している。そんな中、もはや恒例の隠し部屋にて…学校で不在の少女たちを除く…俺たち三人での正式な報告も終わると、女将は肩をすくめた。どうやら一応は納得してくれたらしい。
「しかし、この三馬鹿トリオが揃って倒れるとはねぇ。珍しいことがあるもんだと思ったら!」
「おいおい、何だよその三馬鹿トリオって?」
「右から順に、ナンパバカ・修行バカ・料理バカだよ、文句あるかい?」
あまりといえばあまりな女将さんの言い分に、だが俺たちは何もいえずそれぞれ明後日の方に視線を逸らせた。
「しかしあんたら、頑張ったんだろうけど…そういうことじゃ、どこからも報酬なんて出やしないんだよねえ。自警団とは別口の依頼になるんだけど、依頼人は幽霊みたいなもんなんだし。請求のしようがないよ」
弱り切ったような女将さんのため息。同席したラドフォード卿が少し身を縮める。
冒険者ギルドには、冒険後に報告書の提出と同時に、報酬の一部をギルド運営費として上納することになっているのだが…今回、報酬は無いに等しいのだ。以前、貧しい村から依頼された格安ゴブリン退治を下回る惨状でもある。しかしながら、街を丸ごと守ったという評価は高くなるだろう。女将じゃなくとも、頭が痛いところだ。ギルド本部も同様の状態になること請け合いだ。
そこに、アーチが場違いなまでの笑い声を立てて女将さんの背中を叩いた。
「おいおい、シケたツラすんなよ。報酬なら、こいつがあるぜ! 開けて見な」
アーチは重い音を立てる皮袋をテーブルに投げ出した。訝しげに女将が袋を開けると、一山の金貨がこぼれ出る。驚く一同を見回してアーチが笑みを深くした。
「何処から手に入れた金貨だ? どうやって稼いだ?」
俺は聞かずにいられなかった。その様子に、奴はますますニンマリとドヤ顔で答える。
「最後の部屋、覚えてんだろ? あの壁に、あったよな? 魔術模様に沿って埋め込まれていた、古代から存在した光輝石がよ!」
「まさか…それを掘り起こしたのか? いつの間に!」
今度はラスファがアーチに詰め寄る。
決して褒められた行為でも無いが、盗賊ギルド側から見れば、そう咎められる事もないのだろう。しかし魔術師ギルドや各神殿からの視点では、それは研究対象としての遺跡の損壊にもつながる、れっきとして盗掘行為だ。自警団だっていたはずだし、見咎められたたらただではすまなかったところだ。
だが遺憾ながら、奴は骨の髄まで盗賊だった。むしろ誇らしそうにアーチは胸を反り返らせて、言葉を連ねる。
「アーシェと弟子、あとラドフォードのダンナが担架で運ばれた後さ。デュエルは神官騎士のボーヤと葬式してたし、ラスファは高熱で気絶してたからな。うるさくいう奴はいなかったしチャンスはあったぜ」
「…お前なあ…」
呆れを含んだ俺の言葉も、奴はものともしない。
「まあ遺跡専門の盗賊としてはだな、いついかなる時であろうとお宝を見逃す愚は犯さないのさ。安いレプリカと違って、古代遺跡で出た正真正銘のオリジナルだから魔術師ギルドが高く買い取ってくれたぜ。何処からも足がつかねぇようにするのが、ちと骨だったがな」
「アンタって…」
女将も呆れたようにアーチをジト目で見る。だがそれで止まるあいつじゃない。
「まあ不謹慎かもしれねぇけどよ…どっち道、完っ全に封鎖されるってわかってんだ。どうせならギルドの運営費のためだ、オレも涙を飲んで、世のため人のため…」
何処までマジか不明だが、病魔が消滅した今となってはあの魔術文様も役割が終わっているということだ。俺たちは複雑な気分でテーブルの金貨を眺める。だがまあ、出自がどうあれ資金ができたことに変わりはない。釈然としないまま、おかみさんは報告書と上納金を持って本部に向かった。残りは俺たちと宿屋で分配する形となる。当のアーチはさっさと自分の取り分を取るなり、
「報告がてら、囚われの御仁を解放しに行ってやるとするかね。ついでに久々のナンパに行って来らァ!」
と、謎の言葉を残して表の雑踏に姿を消した。俺の予想通りなら、先に多めに金貨を取ってあるはずだ。こいつの『資金稼ぎ』は、奴にとっても大いに
理があったに違いない。盗賊ギルドの上納金取り立ては、冒険者ギルドの比ではないと聞く。
その直後、ラドフォード卿が何かを感じ取ったようだった。落ち着きなく辺りを見回すと、ラスファに物問いたげな視線を向けた。彼は静かに頷くと、明り取りの窓を閉めた。
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