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mission 1 俺たち、観光大使じゃない冒険者!

祭りの後の後日談

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side-デュエル 15

「どういうことだい、あんたら!」

 数日後。
 やっとの思いで宿に帰り着いた俺たちを待っていたのは、いつも以上にごった返す一階の酒場兼食堂と女将の説教だった。この惨状はフランシスのイベント凱旋によるもので、再び人気を勝ち得た彼のポスターがあちこちに貼られている。見覚えのないアルバイトが増えていると思ったら、限りなく影の薄いマスターが急きょ増やしたらしい。入り口近くに手書きの求人ポスターの残骸が風に揺れていた。

 客に配慮した女将はそのまま俺たちを隠し部屋に連行すると、説明と説教のエンドレスコースに入った。病み上がりに配慮してほしいと思うのは、贅沢なんだろうか?

 俺たちの呪いは間違いなく解けている。だが通常の病と同じく速攻で全快というわけにもいかず、余波が抜けるまでしばらくかかるといろいろ詳しいラグにも聞いた。だが女将に報告できる余裕がある者もいるはずもなく(どの道この事件の顛末を見境なく広めることもできず)、現時点まで俺たちは沈黙を貫くほかなかった。


 あの後。
 遺跡から出るなり俺たちは屈強な自警団員に囲まれて、まとめて施療員を兼ねた大地母神の神殿に放り込まれてしまった。
 どうやら先に担ぎ込まれたアーシェたちが心配してのことだったらしく、自室で療養するという俺たちの意思は完全に無視されてしまった。よりにもよって出口は、身動き取れない繁華街のど真ん中。それに加えて呪いの余波で弱っていた俺たちに抵抗するすべもなく、何より途中で力尽きたラスファのこともあり、折れざるを得なかった。

 
 確かに数日でかなり回復はしたのだが、大人しくするばかりだと鈍ってしまう。ゆえにこっそり筋トレをしていたのだが、幾度か見つかってこっぴどく説教されてしまった。俺に回復が最も早かったのもあって、暇を持て余していたのだから仕方ない。
 
 アーチにとってはここの環境は天国だっただろう。だが看護にくる若い女性神官を根こそぎ口説いて回っていたことがバレて、たちまちオバちゃん神官ばかりがあてがわれることになってしまったそうだ。そこから先は「こんな所さっさと出てやる!」と息巻いていたらしい。どこに行ってもブレないところは、ある意味感心する。ちなみに口説かれた神官たちは免疫がないせいか悪い気がしなかったらしく、時々こっそり会いに来る娘も居たらしい。「もう少しいてもいいかもな」と言い始めた頃に施療院を追い出され、未練タラタラだったことは想像に難くない。

 大変だったのは、三倍の呪いを受けて一番重症だったラスファだ。あれからしばらく熱が下がらなかったらしく丸二日の間、意識が戻らなかったらしい。遺跡から出るときも思ったが、あの状態でよくもまああれだけ意地を張れたもんだ。しかも、後で聞いたら自力で帰る気だったらしい。いくらなんでも、そりゃ無理というものだ…。彼の場合は大した用もないのに、しょっちゅう部屋を覗きに来る女性神官たちに嫌気がさしたようで「こんなところで落ち着いて休めるか!」と帰り支度を始めた。当然、挙句に見つかって怒られた上で再び倒れたそうで…なんとも気の毒な話だ。後で聞くと彼はそこの神官長とも知り合いだったらしく「調子が回復したら、また薬草を届けてくれ」と頼まれていた。ちょくちょく狩りに行く度に薬草取りもしていたらしい。意外な人脈だ。

 俺が大まかな事情を把握しているのには訳がある。実はその間、ラインハルトが何度か見舞いに訪れていたのだ。最初に依頼をした手前、責任を少なからず感じていたらしい。幾度か様子を見にきては、事件の後始末の状況を俺に伝える目的もあったようだ。なぜ俺にかというと、答えは単純。単に回復が早かったからだ。
 最初に捕まえたスイカ男は名声目当ての下っ端に過ぎず、ろくに何も知らなかったこと。崩れた部屋があって、進めず遠回りを強いられたこと。何故か氷漬けで見つかった奴もいたが、解凍しても怯えきっていてろくに何も話さないこと。あと、派手な戦いの跡が見られた部屋には誰もいなかった事を聞くと、俺はこっそり安心した。
 帝国が動く気配がないという知らせにはホッとした。そして…最後の部屋が、人知れず封印された事も。他の連中の話は、その合間に上ってきたのだった。
 ついでというのもなんだが…あのフランシスがしょっちゅう訪れ、諸々の感謝を述べていったがその度に叩き出されていた事も付け加えておく。決して悪い奴じゃないとは思うんだが、もう少し場を弁えて行動すべきだろうに…。しかも、自分のやかましさを自覚できないというのはタチが悪すぎる。
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