36 / 405
mission 1 俺たち、観光大使じゃない冒険者!
強敵・病の魔神!
しおりを挟む
Side-デュエル 12
「無茶よ、兄貴ってば!」
「そうですわ、すごい熱ですわよ! 今、神官魔法で全快させます!」
そうか、神官魔法! それさえあれば!
だがラドフォード卿が苦しげにそれを制した。
『いや、それは無理だ。これはあくまで疫病の『呪い』なのだ。解呪の術でなければ及ばない…!』
「そんな…そんな高位の呪文、わたくしはまだ…!」
そのやりとりの間に、ラスファの精霊魔法の準備ができたようだった。
「行け…! ここまできたら、倒しきる以外に生き残るすべはない!」
俺は頷いて彼の魔法と同時に槍を振るった。そうだ、休んだところで症状の進行が止まるはずがないのだ。
それに、妙だ。呪いのせいか、いつもよりさらに感覚が研ぎ澄まされた感じだ。気功術を組み合わせる余裕はなくなったというのに、全方位が手に取るように見える気がする。ラスファの奴、一気にかたをつけるつもりか? どうやったのか、三連撃で放たれている。ならば、俺も三連撃で相手しようか!
その時ふと閃いたのは、修行仲間のラインハルトの技だ。彼が得意とする、素早い槍の三段突き!
何故だろう? 手合わせの時は、一度だって成功させたことがないというのに…今ならできる気がする!
俺は腰を落として背後からの魔法の軌道を読みつつ、最も有効な角度からの突きを計算して地面を蹴る。そのまま身体ごとぶつかるように、一撃、二撃とパズスの腹に、胸にと槍をつき入れる。三撃目は俺の攻撃に備えて、体から飛び出した黒い煙を狙って突き上げた! ラグの神官魔法に加えて俺も一瞬、強化の気功術を乗せたらしかった。奴への攻撃が当たる、ほんの一瞬の刹那。気功術の消耗を極限に抑えた、必殺の一手!
数回の呼吸の間が、やけに長く思える。いつもより鋭い手応えが槍に伝わる。
どうやら、三連撃とも最大級のダメージが決まったらしい。呪いに対する奴の集中がわずかに逸れたのか、わずかに身体が軽くなる。そこに畳み掛けるように、かすかに再生しかけた傷口にアーチが
短剣をねじ込み、同時にアーシェががら空きの背中に火炎魔法を叩き込む。
その最後尾から、歌声が聞こえた。聖歌をラグが歌っている。そうか、俺たちの体力を、多少なりと回復してくれているのか! 通常の回復魔法を詠唱するよりも、同じ歌詞で聖句を謳うことで効果範囲を広げることができるんだったな。範囲が広がる分威力は落ちるが、一人一人を順番に癒すよりもはるかに効率がいい。やるな、ラグ!
かすかに軽くなった体に鞭を打ち、次のラスファの攻撃魔法三連撃に身構える。
一体、俺はどうしてしまったんだろうか? 今までに何度か似た状態に陥ったことはあったが、ここまで感覚が研ぎ澄まされたのは初めてだ! 共通しているのは、追い詰められた状態だということ。
背後の様子がわかる。次のラスファの攻撃は炎から氷に切り替えられている。足元の松明が、消えてしまったんだろう…精霊魔法の最大の弱点だ。しかし、ここの遺跡に氷なんかあったか? いや、今はそんな疑問どうだっていい。
俺もアーチもそうだが、彼の消耗は特に激しいだろう。病魔の言葉が正しいなら、三倍の呪いをまとめて受けているのだから。いつまでその援護が続くか…? 一人でもここで倒れたら、全員総崩れだ。とうにそれを知っているからこそ、方で息を弾ませながら相当な無理をしているのだ。すでに俺とラドフォード卿の援護を同時進行している時点で、ラスファは驚異的な働きをしている。とにかくここは、病魔の攻撃を阻止しながら数人がかりのダメージを蓄積するしかない!
「ヤロー…とっとと倒れろ!」
俺の三連撃直後のタイミングで、アーチの悪態が聞こえた。彼の病状も、決して芳しくない。一撃ごとに喉を鳴らしながら息を荒げ、動きを鈍らせている。アーチを動かしているのはおそらく「真っ先に倒れてたまるか!」という意地によるものだろう。傭兵の世界だったなら、その意地は無意味なものとして一笑に付されるであろう。だが、俺はこの無意味な意地を張り続けるアーチに、好意的な人間味を感じていた。
傭兵として戦うなら、責務と契約金を放り投げて途中で逃げ出しているところだ。だが、俺たちは違う。ここで逃げたら、倒れたら俺たちの背後にいる多くに人々が危機に飲み込まれることを理解している。そこに命令が介在していなくとも、それこそが『自分の意思で戦い続ける』ということにほかならない!
『焦りが出てきおったか? この呪いは解くことはできぬ。ここで全員、朽ち果てるが良い。安心せよ、お主らの死は無駄にせず全て我が贄としてやろう』
余裕ぶった病魔の声音が、今はひたすら腹立たしい。とはいえ…。
病魔という魔神…強大すぎる敵を前に、俺たちは焦りを生じ始めていた。
「無茶よ、兄貴ってば!」
「そうですわ、すごい熱ですわよ! 今、神官魔法で全快させます!」
そうか、神官魔法! それさえあれば!
だがラドフォード卿が苦しげにそれを制した。
『いや、それは無理だ。これはあくまで疫病の『呪い』なのだ。解呪の術でなければ及ばない…!』
「そんな…そんな高位の呪文、わたくしはまだ…!」
そのやりとりの間に、ラスファの精霊魔法の準備ができたようだった。
「行け…! ここまできたら、倒しきる以外に生き残るすべはない!」
俺は頷いて彼の魔法と同時に槍を振るった。そうだ、休んだところで症状の進行が止まるはずがないのだ。
それに、妙だ。呪いのせいか、いつもよりさらに感覚が研ぎ澄まされた感じだ。気功術を組み合わせる余裕はなくなったというのに、全方位が手に取るように見える気がする。ラスファの奴、一気にかたをつけるつもりか? どうやったのか、三連撃で放たれている。ならば、俺も三連撃で相手しようか!
その時ふと閃いたのは、修行仲間のラインハルトの技だ。彼が得意とする、素早い槍の三段突き!
何故だろう? 手合わせの時は、一度だって成功させたことがないというのに…今ならできる気がする!
俺は腰を落として背後からの魔法の軌道を読みつつ、最も有効な角度からの突きを計算して地面を蹴る。そのまま身体ごとぶつかるように、一撃、二撃とパズスの腹に、胸にと槍をつき入れる。三撃目は俺の攻撃に備えて、体から飛び出した黒い煙を狙って突き上げた! ラグの神官魔法に加えて俺も一瞬、強化の気功術を乗せたらしかった。奴への攻撃が当たる、ほんの一瞬の刹那。気功術の消耗を極限に抑えた、必殺の一手!
数回の呼吸の間が、やけに長く思える。いつもより鋭い手応えが槍に伝わる。
どうやら、三連撃とも最大級のダメージが決まったらしい。呪いに対する奴の集中がわずかに逸れたのか、わずかに身体が軽くなる。そこに畳み掛けるように、かすかに再生しかけた傷口にアーチが
短剣をねじ込み、同時にアーシェががら空きの背中に火炎魔法を叩き込む。
その最後尾から、歌声が聞こえた。聖歌をラグが歌っている。そうか、俺たちの体力を、多少なりと回復してくれているのか! 通常の回復魔法を詠唱するよりも、同じ歌詞で聖句を謳うことで効果範囲を広げることができるんだったな。範囲が広がる分威力は落ちるが、一人一人を順番に癒すよりもはるかに効率がいい。やるな、ラグ!
かすかに軽くなった体に鞭を打ち、次のラスファの攻撃魔法三連撃に身構える。
一体、俺はどうしてしまったんだろうか? 今までに何度か似た状態に陥ったことはあったが、ここまで感覚が研ぎ澄まされたのは初めてだ! 共通しているのは、追い詰められた状態だということ。
背後の様子がわかる。次のラスファの攻撃は炎から氷に切り替えられている。足元の松明が、消えてしまったんだろう…精霊魔法の最大の弱点だ。しかし、ここの遺跡に氷なんかあったか? いや、今はそんな疑問どうだっていい。
俺もアーチもそうだが、彼の消耗は特に激しいだろう。病魔の言葉が正しいなら、三倍の呪いをまとめて受けているのだから。いつまでその援護が続くか…? 一人でもここで倒れたら、全員総崩れだ。とうにそれを知っているからこそ、方で息を弾ませながら相当な無理をしているのだ。すでに俺とラドフォード卿の援護を同時進行している時点で、ラスファは驚異的な働きをしている。とにかくここは、病魔の攻撃を阻止しながら数人がかりのダメージを蓄積するしかない!
「ヤロー…とっとと倒れろ!」
俺の三連撃直後のタイミングで、アーチの悪態が聞こえた。彼の病状も、決して芳しくない。一撃ごとに喉を鳴らしながら息を荒げ、動きを鈍らせている。アーチを動かしているのはおそらく「真っ先に倒れてたまるか!」という意地によるものだろう。傭兵の世界だったなら、その意地は無意味なものとして一笑に付されるであろう。だが、俺はこの無意味な意地を張り続けるアーチに、好意的な人間味を感じていた。
傭兵として戦うなら、責務と契約金を放り投げて途中で逃げ出しているところだ。だが、俺たちは違う。ここで逃げたら、倒れたら俺たちの背後にいる多くに人々が危機に飲み込まれることを理解している。そこに命令が介在していなくとも、それこそが『自分の意思で戦い続ける』ということにほかならない!
『焦りが出てきおったか? この呪いは解くことはできぬ。ここで全員、朽ち果てるが良い。安心せよ、お主らの死は無駄にせず全て我が贄としてやろう』
余裕ぶった病魔の声音が、今はひたすら腹立たしい。とはいえ…。
病魔という魔神…強大すぎる敵を前に、俺たちは焦りを生じ始めていた。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります
京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。
なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。
今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。
しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。
今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。
とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します
有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。
妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。
さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。
そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。
そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。
現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる