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mission 1 俺たち、観光大使じゃない冒険者!

精霊使いの格付け

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Side-ラスファ 6

 もともと湿り気が多い地質のためだろう、崩れた瓦礫の割には砂埃は舞いあがっていない。おかげで不快感たっぷりの金髪精霊使いの姿を見続ける羽目になった。

 崩れ落ちた先は、上の階層よりもさらに水気の多い空間だった。すぐそばにたっぷりと水をたたえた地下水路や地底湖があるせいか、水音が絶え間ない。
 
 暫しの睨み合いの末、先に口火を切ったのは奴の方だった。
「キミだろう? 僕の可愛い恋人ミナを虐めてくれたのは。彼女、可愛くベソをかきながらボクに訴えてきたんだ。あのいけ好かないエルフを殺してくれってさ。彼女の敵はボクの敵だよ。ついでにその血を持って行けばいい土産になるとも言っていたよ。でも、うまく手加減できるか心配だなあ。消し炭にしちゃったら、どうしよう?」
  まったく、よく喋る男だ。アーチもそうだが、こういうやつとはソリが合わない。嫌味と悪意が滴る上目遣いの視線が、ひどく卑しく思える。

「アレが恋人、ねえ…。女の趣味、最悪だな」
「最高、の間違いだろう? 」
  ああ、これは同類だ。確かに釣り合ってるかもしれない。
「あの女にも言ったが、エルフ族の血なんて迷信だとわかりきっているぞ? 誰が喜ぶんだ?」
 純粋な私の疑問は、冷笑で返される。
「迷信かそうでないかは、受け取る側の解釈さ!  ボクはただ命じられたものを持ち帰るまで! キミは『水使い』と聞いているよ。だからこそ、こんなに水の多い場所で戦いたかったのさ。なんたってボクは、他の精霊使いと違って選ばれた、特別な存在だからね!」
 言うが早いか、あたりに焼け付くような熱気が満ちた。なるほど、こいつはあの魔女と同じく『炎使い』か。

  魔術師や精霊使いの中でも、特定の属性を使うことに長けた者を『水使い』や『炎使い』といった呼称で呼ぶ場合が多い。術者の性格や魂の特質によって、相性のいい属性は必ず1人に最低ひと属性くらいはあるものだ。奴はそれをことさらに強調してみせた。
 渦巻く熱気の向こうから、嘲笑が聞こえる。こんなに火の気がないところで、ここまでの炎精霊を
召喚できるということは…。
「ボクは炎の精霊獣と契約しているんだよ。たとえここがキミに有利な地下水脈だとしても、ボクの勝利は最初から決まり切っているのさ。それを今から、存分に思い知るがいい!」
ゆるく波打つ奴の金髪が、ほとばしる熱気に煽られて激しくなびく。見れば奴の右目があざやかな緋色に染まっている。これは…契約者の証だ。これは…まずい。非常にまずいことになった。

『ほう? 精霊使いが相手とは面白い。妾の力、存分に使うが良い』

 虚空から聞こえる高慢な声を無視し、何事もなかったように振る舞う私に奴は畳み掛けるように含み笑いを漏らす。
「おっと、心配せずともすぐには殺さないさ。せっかくの上等な土産をみすみす台無しにすることもないしね? 少しずつじわじわと、精霊獣の恐ろしさを思い知らせてあげよう!」

 契約者…それは強大な力を持つ高位精霊になんらかの代償を支払って契約を結び、その力を思いのままに操る最上位の精霊使いのことだ。無論それには個人の資質と精霊との相性、そして何より高位精霊に認められるだけの高い能力と契約を受け入れられるだけの魔力の器が絶対条件となる。
 見習い程度の実力では当然高位精霊に相手にされるはずもなく、相性が悪ければ姿も見せてもらえない。その力は契約を交わした高位精霊の力を超えない限り、ほぼ無制限となる。
 つまり、目の前の金髪のように火の気のない水場に大量の炎精を召喚したり、まったく水のない砂漠で洪水を起こすことも可能となるのだ。逆に精霊も契約者を通じてしか、人界に干渉することができない。そういう意味合いでは互いに利があるパートナーとも言える。
 ちなみにこの緋色の瞳は、契約者特有の現象だ。契約精霊は契約者を自らの主人、もしくは所有物とみなしている。原則、一人につき契約できる精霊は一体のみと決まっている。この緋色の瞳はその証と言われているのだ。高位精霊は、特に嫉妬深い存在だ。この証を持つ限り、他の精霊に契約者を奪われることを防ぐために。

「『契約に従い、出でよ精霊獣ガルム!』」
 瞬間的に熱風が渦を巻き、わずかな息苦しさを覚える。こいつはわざわざ契約精霊を拝ませてくれるらしい。自己顕示欲と自惚れが強いタイプなのだろう。死んでも友達なんぞになりたくはない。湿気を含んだ空気を震わせて空間が軋み、押し退けられる形の水精霊が引き裂かれるような悲鳴をあげる。高位精霊とはいえ、こんな水気の多い場所に召喚されるのは嫌だと拒んでいるのだろうか? 
 そして業火のような遠吠えをあげて現れたのは、一体の強大な炎の魔犬…これが、奴の言っていた精霊獣ガルムか?
 精霊獣の中でも、そこそこ高位に位置する存在だったはずだ。大型犬ほどの大きさで、全身が燃える炎で構成されており、金髪に忠実に従っていた。
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