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mission 1 俺たち、観光大使じゃない冒険者!
飛び込んできた真相
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side-ラグ 1
わたくし、こんなに走ったのは久しぶりですわ! あれからずっと走り通しだったなんて、自分でも信じられませんもの。もしかしたら、師匠と一緒に走ったから頑張れたのでしょうか? 一人で逃げていたなら、たちまちに力尽きていたでしょう。でも、さすがは師匠です! あそこからここまであの追っ手の方からずっと守ってくださったのですから。わたくしなんてただ走っているだけで手一杯、話すこともままならなかったのですから。もっとしっかり体力をつけて、足手まといにならないようにしませんと!
「ねえ、あんたレオンでしょ? なんであそこにいたの? 持ってる包み、なに? あの追ってきたヤツ、誰?」
裏口の木戸から帰ってすぐ、息が整うなりアーシェさんは立て続けに質問をぶつけました。以前からのお知り合いだったのでしょう、親しげです。でも、彼の方はアーシェさんをご存じないかのようでした。
『すまないがお嬢さん、まずは順を追って説明したいのだが…』
「はあ?」
彼の言葉に、皆さんの目が丸くなります。どう例えたらいいのか…そう、昔繰り返し読んだお気に入りの絵本に出てくる、立派な騎士様のような言葉遣いです。
彼はわたくしと変わらない、もしくは年下くらいの年頃です。短くツンツン立った黒髪にやんちゃそうな黒い瞳、よく日に焼けた浅黒い肌。そんな見るからに元気いっぱいの男の子からこんな言葉遣いを聞くと、なんだかちぐはぐな印象を受けますわ。
「あー、悪ィが説明が二度手間になりそうなんで、あとの奴らが帰ってきてから説明頼む」
何か言いかけるレオンさんをとどめて、師匠が額を押さえました。さすがは師匠です、レオンさんもお手間ですものね。でも…。
「ご無事でしょうか、デュエルさんもラスファさんも…」
『申し訳ない、お嬢さん。ここまで巻き込んでしまって…。ここまで手間取るとは思わなかった』
わたくしの無意識のつぶやきに、うなだれるレオンさん。
「あ、いえすいません! そんなつもりでは…」
その時を見計らったように、戸口から待ち望んだ声がしました。
「そう気にするな、俺たちは無事だ」
「デュエルさん! ご無事でしたか!」
見慣れたがっしりとした長身がホッとします。
「ずいぶんとボロボロですが、お怪我は…?」
「ああ、破れたのはシャツだけさ。問題ない」
ああよかった! 神様、ありがとうございます。
「あれ? 兄貴、一緒じゃなかったっけ?」
アーシェさんは首をかしげました。そうなんですよね、姿が見えません。
「ああ、戦闘中にバンダナを切られてな。観光客に捕まったら厄介だろうし、避けて帰るようだ」
ああ…。デュエルさんの答えに、同情するような微妙な空気が流れます。稀少種族の方も大変ですわ。特に観光客の方たちはエルフ族にお近づきになることも少ないでしょうから、ここぞとばかりに集まるのでしょうね。わたくしたちが知らないようなご苦労も多いのでしょう。
そういうわたくしも、他の種族の方と知り合うことができたのはここに来てからです。エルフ族の方もドワーフ族の方も、獣人族の方たちも…わたくしたち人間と変わらない心を持っています。書物を読むだけでは知り得ない物事は、まだまだたくさんあります。できるだけたくさん学べるだけ学んでいきたい、そして子供達にたくさんのことを伝えたい。その思いでわたくしは冒険者となり、教師を目指していきたいんです。
デュエルさんはふとレオンさんに目を向け、いきなり平手で彼を叩きました!
十分に手加減はしていたのでしょうが、小柄なレオンさんは椅子から床に転がりました。
「デュエルさん、なにを…!」
思わず立ち上がったわたくしに構わず、デュエルさんは押さえた声音で言いました。
「態度や口ぶりには出ないだろうが、鍛冶屋の師匠がどんなに心配していたか解らないのか?」
半身を起こしたレオンさんは赤くなった頰を押さえて、黙ってうつむきます。しばらく続いた沈黙の末、彼は重い口を開きました。
『何から話せば良いのやら…本当に申し訳ない。あと、この身体はレオン殿から借り受けているものゆえ傷つけないように願いたい』
わたくしと同じ感想なのでしょう、レオンさんから再び出てきた古めかしい喋り方に師匠とデュエルさんは互いに目を見合わせます。
「何言ってんのアンタ? 変なもの拾い食いでもしたの?」
困惑するアーシェさんのひと言に何事か小さく呟くと、彼は大事そうに抱えた包みをそっと脇に置きます。
「誰が拾い食いなんてするかよ! この剣のダンナに、ちょっと身体貸してるだけだっての!」
今度は急に、随分とやんちゃな言葉が飛び出ました。あまりに急な変化に、困惑が深まります。でも…こういうのはなんですが、こっちの方がふさわしい気がします。
「何それ? 身体貸してるってどういうこと?」
「あーもう! おれ頭悪ィから、剣のダンナに任せる! 説明頼む!」
そう言うとまた彼は、置いた包みを再び抱えました。その途端、レオンさんを取り巻く空気が一変しました。やんちゃな言動を見た後だと、特に際立って見えるから不思議です! それに…わたくし、思わず目をこすりました。レオンさんの姿と重なるように、立派な騎士様の姿が見えた気がします。
『自己紹介が遅れて申し訳ない。私は…』
「五十年前にこの街を救ったという、英雄ラドフォード卿…だな?」
重い彼の声を遮るように、どこからか別の声が割り込みます。そちらを見ると、隠し扉を静かに開けて、ラスファさんが帰って来たところでした。お気の毒に、デュエルさん以上にぼろぼろですね。
「兄貴!」
わたくし、こんなに走ったのは久しぶりですわ! あれからずっと走り通しだったなんて、自分でも信じられませんもの。もしかしたら、師匠と一緒に走ったから頑張れたのでしょうか? 一人で逃げていたなら、たちまちに力尽きていたでしょう。でも、さすがは師匠です! あそこからここまであの追っ手の方からずっと守ってくださったのですから。わたくしなんてただ走っているだけで手一杯、話すこともままならなかったのですから。もっとしっかり体力をつけて、足手まといにならないようにしませんと!
「ねえ、あんたレオンでしょ? なんであそこにいたの? 持ってる包み、なに? あの追ってきたヤツ、誰?」
裏口の木戸から帰ってすぐ、息が整うなりアーシェさんは立て続けに質問をぶつけました。以前からのお知り合いだったのでしょう、親しげです。でも、彼の方はアーシェさんをご存じないかのようでした。
『すまないがお嬢さん、まずは順を追って説明したいのだが…』
「はあ?」
彼の言葉に、皆さんの目が丸くなります。どう例えたらいいのか…そう、昔繰り返し読んだお気に入りの絵本に出てくる、立派な騎士様のような言葉遣いです。
彼はわたくしと変わらない、もしくは年下くらいの年頃です。短くツンツン立った黒髪にやんちゃそうな黒い瞳、よく日に焼けた浅黒い肌。そんな見るからに元気いっぱいの男の子からこんな言葉遣いを聞くと、なんだかちぐはぐな印象を受けますわ。
「あー、悪ィが説明が二度手間になりそうなんで、あとの奴らが帰ってきてから説明頼む」
何か言いかけるレオンさんをとどめて、師匠が額を押さえました。さすがは師匠です、レオンさんもお手間ですものね。でも…。
「ご無事でしょうか、デュエルさんもラスファさんも…」
『申し訳ない、お嬢さん。ここまで巻き込んでしまって…。ここまで手間取るとは思わなかった』
わたくしの無意識のつぶやきに、うなだれるレオンさん。
「あ、いえすいません! そんなつもりでは…」
その時を見計らったように、戸口から待ち望んだ声がしました。
「そう気にするな、俺たちは無事だ」
「デュエルさん! ご無事でしたか!」
見慣れたがっしりとした長身がホッとします。
「ずいぶんとボロボロですが、お怪我は…?」
「ああ、破れたのはシャツだけさ。問題ない」
ああよかった! 神様、ありがとうございます。
「あれ? 兄貴、一緒じゃなかったっけ?」
アーシェさんは首をかしげました。そうなんですよね、姿が見えません。
「ああ、戦闘中にバンダナを切られてな。観光客に捕まったら厄介だろうし、避けて帰るようだ」
ああ…。デュエルさんの答えに、同情するような微妙な空気が流れます。稀少種族の方も大変ですわ。特に観光客の方たちはエルフ族にお近づきになることも少ないでしょうから、ここぞとばかりに集まるのでしょうね。わたくしたちが知らないようなご苦労も多いのでしょう。
そういうわたくしも、他の種族の方と知り合うことができたのはここに来てからです。エルフ族の方もドワーフ族の方も、獣人族の方たちも…わたくしたち人間と変わらない心を持っています。書物を読むだけでは知り得ない物事は、まだまだたくさんあります。できるだけたくさん学べるだけ学んでいきたい、そして子供達にたくさんのことを伝えたい。その思いでわたくしは冒険者となり、教師を目指していきたいんです。
デュエルさんはふとレオンさんに目を向け、いきなり平手で彼を叩きました!
十分に手加減はしていたのでしょうが、小柄なレオンさんは椅子から床に転がりました。
「デュエルさん、なにを…!」
思わず立ち上がったわたくしに構わず、デュエルさんは押さえた声音で言いました。
「態度や口ぶりには出ないだろうが、鍛冶屋の師匠がどんなに心配していたか解らないのか?」
半身を起こしたレオンさんは赤くなった頰を押さえて、黙ってうつむきます。しばらく続いた沈黙の末、彼は重い口を開きました。
『何から話せば良いのやら…本当に申し訳ない。あと、この身体はレオン殿から借り受けているものゆえ傷つけないように願いたい』
わたくしと同じ感想なのでしょう、レオンさんから再び出てきた古めかしい喋り方に師匠とデュエルさんは互いに目を見合わせます。
「何言ってんのアンタ? 変なもの拾い食いでもしたの?」
困惑するアーシェさんのひと言に何事か小さく呟くと、彼は大事そうに抱えた包みをそっと脇に置きます。
「誰が拾い食いなんてするかよ! この剣のダンナに、ちょっと身体貸してるだけだっての!」
今度は急に、随分とやんちゃな言葉が飛び出ました。あまりに急な変化に、困惑が深まります。でも…こういうのはなんですが、こっちの方がふさわしい気がします。
「何それ? 身体貸してるってどういうこと?」
「あーもう! おれ頭悪ィから、剣のダンナに任せる! 説明頼む!」
そう言うとまた彼は、置いた包みを再び抱えました。その途端、レオンさんを取り巻く空気が一変しました。やんちゃな言動を見た後だと、特に際立って見えるから不思議です! それに…わたくし、思わず目をこすりました。レオンさんの姿と重なるように、立派な騎士様の姿が見えた気がします。
『自己紹介が遅れて申し訳ない。私は…』
「五十年前にこの街を救ったという、英雄ラドフォード卿…だな?」
重い彼の声を遮るように、どこからか別の声が割り込みます。そちらを見ると、隠し扉を静かに開けて、ラスファさんが帰って来たところでした。お気の毒に、デュエルさん以上にぼろぼろですね。
「兄貴!」
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