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mission 1 俺たち、観光大使じゃない冒険者!
白昼堂々、大乱闘!
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side-デュエル 3
約束の刻限を告げる鐘の音が、雑踏の中に響き渡る。
以前までここの広場は、待ち合わせの定番とも言える静かな場所だった。だが、観光客たちが増えるに従ってこれ以上もなく賑やかな場所に変貌していた。
広場を取り囲むのは色とりどりの屋台や出店。開けた場所には数多くのベンチやパラソルが設置されて、屋台の果実水を手にした親子連れが一休みしている。その間を縫うようにして大道芸人が器用にジャグリングしながら闊歩し、吟遊詩人は弾き語りで客を集めていた。ジョッキ片手に酔っ払いはダミ声で歌い、旅先の出会いに期待する女性たちは期待を乗せた視線を時折こちらに投げてくる。
…正直言って、非常に居心地悪い。しかもちょうど観光大使のショーが始まる時間のようで、広場にあるステージを中心に、さらに人が増えつつあった。しくじった、こんなことならショーの時間と場所を把握しとくんだった! さっきラスファが破りかけて他人に渡したチケットに時間や場所が書かれていたのかもしれないが、ソレを今言ったところでどうしようもない。
そのうち、アーシェとラグを連れたラスファが現れた。
「まだデュエルだけか?」
「ああ。アーチはまだのようだな」
「ここを指定したのは、確か奴だったと思うんだがな?」
彼の諦めたようなため息を受けてか、ラグは夢見るような笑みを浮かべる。
「大丈夫ですわよ、師匠はすぐ来ますわ。この人だかりでは、動きづらそうですもの」
…どうしてこうも彼女は盲目的にアーチ至上主義なんだか? この街にきたばかりの頃にアーチに助けられて以来こうらしいが、ほとんどヒヨコの刷り込みもいいところだ。
これではアーチを責められない。それから間も無く、人の波間に派手な金髪が見えてきた。近づくに連れ、周囲の女性にもれなく色目を使うという大道芸人も真っ青になるような芸風を見せつけている。これでは遅くて当然だ。
「いやー悪ィ! 遅れちまった!」
開口一番の能天気さに何か言いたげだったラスファも、ラグの手前何も言えない。何かと気苦労多いな、こいつ。
そのまま情報収集の結果を報告しあうと、俺たちは同時に考え込んだ。全員の情報を合わせても、事件の全貌が全く見えてこない。こんなことは珍しい。
「…とりあえずラスファの調べてきた女性神官を当たるか?」
「そうだな。場所は神殿通りのクラスター家だ。そこそこ大きい屋敷だから、行けばわかるそうだ」
振り返れば、アーシェが人混みの中をじっと凝視している。飽きたというよりも、知り合いを見つけたようだった。
「あ、やっぱりレオンだ。こんなとこにいるなんて珍しい…どうしたんだろ、こんなとこで?」
アーシェの独り言に、俺の目が吸い寄せられた。そこには浅黒い肌に黒髪黒目、痩せ型の体躯に不似合いな細長い包みを抱えている。
…レオン? よく見ると、おやっさんに捜索を頼まれた弟子の特徴にちょうど一致する。まさか、この少年は…。
「レオン、どうしたの? 何か配達?」
その問いに、少年は真面目くさって答える。
「『お嬢さん、申し訳ないが、取り込み中だ。それと少々訪ねたいのだが、ここにいれば腕利きの冒険者に会えると聞いたのだが?』」
「へ?」
年の頃はアーシェと変わらない。だが、出てくる言葉はどうも紳士的すぎる。さらには、観光大使というものを知らないらしい。違和感を感じて俺は確認してみた。
「もしかして、鍛冶屋のおやっさん…ガルドというドワーフのとこの弟子、レオンか?」
「!」
図星のようだ。彼はその名を聞いてギクリと振りかえった。
「大変だな。あのおやっさん、言葉遣いから矯正するのか」
「『いや…それは…』」
その時だった。周りの観光客のざわめきに混じって軽薄な声がかけられた。
「よう! ちょっとそいつ、こっちにもらってもいいか?」
そこにいたのは、ひと目で観光大使と思わせる派手な出で立ちの男だった。短く刈り込んだ金髪に碧眼、浅黒い肌でごつい体格の長身に非実用的な金ピカ鎧を纏っている。浮かべているのは友好的な笑みのつもりだろうが、隠しきれない殺気は嘘臭さを漂わせている。唯一の本物は背に担いだ大剣で、平和な雑踏に凶暴な影を落としていた。おかしい、観光大使が使う武器や防具は全て、装飾過多で見栄え重視の新品を使用するはず。だが、これは…使い込まれた実用品だ!
「何者だ? 観光大使じゃないようだが」
俺は警戒を滲ませつつ、少年少女を背にかばう。その問いは、奴の嘘くさい笑みを剥ぎ取った。
「いいからテメェら、そのガキをよこせってんだよぉ!」
獰猛で粗暴な声は、紛れもなくこいつの本性。短気に叫ぶと勢い任せに大剣を振り上げる。すぐそばを通りかかった観光客は悲鳴をあげつつ飛びのくが、それ以上離れる気配もない。一気に場所が開いたが、好奇心いっぱいにこちらを見る目線が留まっている。まずいな、ショーの一端と思われているのか? 俺は街のあちこちに貼られたポスターの文句を思い出して舌打ちをする。
『路上シークレットショーは不定期に開催中!』
馬鹿な。こんなに殺気立ったショーがどこにあるというんだ!
「こいつを連れて逃げろ! 俺が相手をしておく」
「仕方ねぇな、あとで合流だ! さっさと片付けろよ!」
俺はレオンの手を引いてアーチに押し付けると、一気に距離を縮めて大検の男に組み付いた。巨大な剣が石畳を砕いて叩き落される。全員が逆方向に走り出したのを見届けると、俺は男を突き放して顔面に肘を叩き込んだ。その一撃をスレスレで避けると男は、不敵な笑みを深めた。そのまま半身に構えて拳を固める。武器を落とされたのに、この余裕…傭兵か?
「はっはぁ! 当座の遊び相手はお前ってことか? いいぜ、来いよ!」
大きな広場のど真ん中、俺とニセ観光大使は互いの力量を測りながら対峙する。
「何者だ、お前は?」
勢いの乗った奴の拳を受け止めて、俺は疑問をぶつけた。
「さあな。そんなに聞きたきゃ、拳で聞いて見たらどうだ?」
奴はせせら笑うが、次の瞬間に表情がわずかに強張る。俺が受け止めて掴んだ拳を引き剥がすことができなかったのだ。
「それなら遠慮なく拳で聞かせてもらおう。覚えておけ、この街の平穏を乱した代償は高くつくぞ?」
俺はニコリともせず、逆側の拳を奴の顎に向けて突き上げる!
「がああっ!」
奴の巨体は一瞬宙に浮き、そのまま石畳に叩きつけられる。遠巻きに見守る観光客から上がった歓声と拍手が、大男の神経を逆なでした。
「き…貴様ッ!」
「レオンをさらって、どうするつもりだ?」
俺の質問に答えることなく、男は卑しい笑みを浮かべた。
悪寒が背を撫でる!
とっさに身を翻し、左側に飛びのく! すると、破裂音とともにさっきまで俺が立っていた場所に火の玉が着弾した。新手か!
「あーはははっ! 調子に乗ってんじゃないわよ、大男さん! 見た所丸腰だけど、この先はどうするつもり?」
計算外だ! 男の笑みに呼ばれたようにもう一人、後ろから新手が出てきた。こっちは長くうねる金髪に黒の魔女帽子を乗せ、同色のローブをまとっている。手にした大振りのほうきは、おそらく杖を偽装したものだ。絵に描いたような魔女姿。これも観光大使を意識したものだろう。俺の注意が逸れた一瞬の間に、男は大剣を拾っていた。ハイテンションな魔女は、再び呪文を詠唱する。まずい、この位置では避けようもない! しかも避けたら、周りの観光客が巻き添えになる!
「いいぜ、ミナ! ここでデカイのぶちかましてやれ!」
「ふふふ…平和ボケしたマヌケな観光客が何人、犠牲になるかしらね?」
どうする? 戦士だけならともかく、魔術師が相手だと俺だけでは対処しきれない! その焦りを読み取ったのだろう、魔女が勢いづいて両手を広げる。
これまでか! 俺は観光客の盾になる覚悟を決めた。最悪、刺し違えても止めてやる!
しかし魔女の手の中の魔法の輝きは、発動前に力を失い霧散する。何があったかは解らなかったが、魔女の向こう側、観光客の輪からやっとという体で抜け出したラスファの存在で全て理解できた。
「…間に合ったか…!」
「ラスファ! 戻ってきたのか? なんで?」
アーチたちと一緒に行ったと思っていたが、戻って魔女の呪文を強制解除してくれたのだろう。
魔術の強制解除…相手と同等以上の魔力の持ち主のみ可能な技で、呪文を発動する前に消去または相殺することができる高等技術と言われる。俺も目の当たりにしたことはない。
「連中のマヌケな仲間のおかげでな。不本意だが、向こうはアーチに任せてきた」
「あたしの呪文を解除したわね…? ちょっと、こいつ生意気! あたしがこいつを殺るわ、あんたはそっちの大男担当ね!」
ラスファのセリフに、魔女は気色ばんだ。仲間をバカにされたせいか、その仲間と同列に見られたからか…おそらくは後者だろうか?
周囲の観光客は、全く逃げる様子を見せない。この連中の派手な出で立ちのせいでショーだと思われているらしく、既にステージで始まりつつあるショーを放ったらかしてこちらに人垣を作っている。彼らの目はショーを見る以上に輝きに満ちており、とてもじゃないが避難勧告を出せる状態じゃない。その最前列に、土産物屋で買ってきたと思しき木剣を持った少年がいた。
「すまないが、それ貸してくれ! 必ず返す!」
「兄ちゃん、ショーの小道具忘れたの? だっせえ!」
そう言って笑う少年からほぼ勢いで木剣を奪い取ると、俺は大剣男に対峙する。少々心許ないが、全くの丸腰よりはましだ。
「大人しく引いてもらう…ってわけにはいかない…よな?」
「当然だろ、遊ぼうぜ!」
「誰に雇われてるのかは知らないが、ここでやり合えば被害が大きくなるだけだ。雇い主もそこまで望んでないだろう?」
土産物の木剣で言っても説得力に欠けるが、最小限に被害を抑えるための一応の努力は大男の冷笑で返された。
「なんだ木剣使い、怖気付いたか? あいにくとオレらはここでどんな被害が出たって知ったこっちゃないんでな。手っ取り早くテメェらぶちのめして、小僧の居場所を聞くとするかねえ? ここしばらく暴れてなかったからよ、抑えがきかねぇぜ!」
大剣男のセリフの後半は、ほぼ掛け声だった。振り上げた大剣をかいくぐると、俺は奴の鳩尾に木剣を突き込む。だが所詮は木剣の悲しさか、大して効いた様子もない。金ピカ鎧は、実用品の偽装のようだ。表面の塗装が剥げて、鈍い地色が垣間見えた。思った以上に厄介な相手だ。救いは重い得物でやや動きが鈍いというところか。周囲のギャラリーの間からは『超リアル』な戦闘を見た興奮がさざ波のように広がっており、歓声からは危機感は感じられない。それこそがこの連中の狙いということか! しかも何故か、観客の数は加速度的に増加の一途をたどっていた。
「ほらほら! アンタはこのあたしが黒焦げにしてあげるわよ! 覚悟はできた?」
同時に魔女は、ラスファに向けた呪文の詠唱に入る。そうか、丸腰なのはラスファも同じ。しかも例え得意の弓を持っていたとしても、この観衆のど真ん中では射つに射てないだろう。そうなれば、精霊魔法での応戦しかできない!
圧倒的に不利な条件だが観光客が人質同然の今、引くわけにはいかないのだ。
「ここで派手に放火されると、明日からの仕入れに差し支えるんでな。さっさとご退場願おうか」
そんな中でもなお強気に言うなり、彼の短い詠唱が続く。
「『水精よ、彼の者に禊を』!」
するとすぐ近くにいた子供が手にした果実水のカップから大量の水が召喚され、魔女の顔面に降り注ぐ。そうか、古代語魔法に比べて精霊魔法は詠唱が短く発動が早い! 逆に古代語魔法は細かく効果範囲の調整が可能というメリットがある。どんなに威力が高い魔法でも、発動させなければ意味がない。お陰で魔女は、強制的にうがいをさせられたような状態で苦しそうに咳き込み呪文も霧散する。どんどん分厚くなる人垣から上がる、ひときわ高い歓声。カップを持っていた子供は驚いたように尻餅をつくと、目を輝かせた。
「母さますごい! カップから魔法が出た!」
「まあ、すごいわねえ。記念にそのカップ、お土産にできないかしら?」
周りから羨ましそうな視線を集めつつ、親子連れは呑気な感想を漏らす。
何故、そこまで戦闘中に観察できるのかと言われると長くなるので端折るが、昔から俺は戦闘時に必要以上に周囲の音や気配を感じ取る体質を持っていたからだ。自覚してからずっと、単に集中力に欠けるせいだと思っていたんだが…案外この体質は役に立つこともある。特に冒険者として、仲間と共に戦う時によく感じるようになった。最初は傭兵として戦っている時、突然に自覚した。そしてその感覚の範囲は徐々に広がりを見せ、今では自分を中心にした全方位に及んでいる。最前列で戦っていても、後ろにいる仲間の動向が手に取るようにわかる。最初は不気味だと思っていたがこの感覚に慣れるのも早く、今では随分と助けられていた。
「よその心配してる場合か? おらおら、もっと楽しませろよ!」
俺に対しても同時に、大剣が幾度も振り下ろされる。流石に「必ず返す」と言った木剣で受け止めるわけにいかず、左右に避けるだけに止まるが…この動き、どこかで覚えがある。傭兵時代に幾度か戦った太刀筋に重なるのだ。まさかこいつ…? それにおかしい、どうも俺を本気で狙っていないような気がする。わざと攻撃を外して遊んでいるようにも思える。ならば、勝機はある!
俺は相手の攻撃をかいくぐりながら、特殊な呼吸法に切り替えた。体内に巡る『気』を爆発的に高めて練り上げるために。
気功術。
俺が傭兵時代に身につけた、特殊技能だ。体内には『気』という生命エネルギーが巡っている。それを高めて自在に操り様々に役立てるのだ。もともとは神聖魔法以外の魔術を持たないドワーフ族の間に伝わる技能だったそうだが、師匠にあたるドワーフ族のおやっさんに見込まれて伝授されたのがきっかけだ。熟練すれば気弾を飛ばして相手を昏倒させることも、怪我人病人の治療にも役立つのだという。だが俺が教わったのは基本のみ。あとは自分で応用して磨けと言われて突き放された。その言葉を信じて修練してはいるが、自身の身体強化と初歩の気功治療が出来るのみだ。それでもかなり役立っている。ちょうど、今のように!
俺は瞬間的に高めた気を足に集中させる。一気に身体が軽くなる感覚。踏み込んだ足で石畳を砕きながら奴の懐に踏み込むと、鋭い呼気も気に換えて拳に集中させて突き込む!
拳に伝わる、何かがひしゃげる感覚と異音! そしてくぐもった呻き声。見れば体をくの字に曲げて喘ぐ男の鎧には、くっきりと拳の跡が刻み付けられている。足元には、奴がとっさに盾にした大剣の欠片が散らばっていた。気の効果が俺の中に残っている間に畳み掛けるように大男の腕を取ると肩を支点に巨体を投げ放ち、石畳に叩きつける。その上で胴体を膝で押さえて喉元に木剣を突きつけ、再度の降伏勧告を行った。さらに増えた観客からもどよめきが広がる。
「大人しく降伏してくれるとありがたいんだが…」
しかし、俺に向けられた男の顔色はどす黒く、無数の血管が浮かび上がっていた。
「ふざけんな…殺す…殺してやる…!」
しかし地面に叩きつけられたダメージは未だ大きく、木剣を掴んで振り払おうとするのがやっとの抵抗のようだった。大剣を砕かれても、まだ闘志はなくしていないらしい。模範的な傭兵だな。俺は皮肉交じりのため息をついた。
その一方で、ラスファたちの魔術戦も激化している。
魔女が発動しかけた古代語魔法は、ラスファの精霊魔法で強制的に解除される。俺からすれば空中に火花が散り、水が飛び交っているようにしか見えない。非常に高度なレベルの戦いなのだが、傍から見れば派手なんだか地味なんだかわからない。だが事態は徐々にラスファの不利に傾いていた。
「あはははっ! アンタは精霊魔法の使い手なんだろ? あたしは古代語魔法、いつでもどこでも火が生み出せる! アンタは水が得意みたいだけど、これ以上どこから水を出すつもりかしら? あははは! 人前でメイクを台無しにされたツケは、利子付きで払ってもらうわよ!」
あ、これ最後の理由がメインだな…。確かに彼女は、スッピンになったせいで面変わりして見える。化粧とは恐ろしいもんだ…。
だが彼女の言う通りでもある。精霊魔法は使う属性のものが近くにないと使えないと言う最大の弱点を持っている。さっき、子供が持っていたカップから魔法が出たのもそのせいだ。そして今、あらかたの見物人が手にした果実水などのカップは空になっているようだ。
「なら、他のものを使うまでだ!」
魔女の攻撃魔法を後方ギリギリに跳んで避けると、空中で身軽に一転して着地と同時に地面に手をつく。そこはちょうどさっき俺が踏み砕いた石畳。割れた石の間からは、むき出しの土が覗いている!
次の瞬間、そこから真っ直ぐに大地の槍が突きあがった! 発動しかけた魔女の火炎魔法を貫いて相殺し、ともに霧散して消える。
新しく出された魔法に、観客からの歓声が高くあがった。だが、ここで誤算が生じた。ギリギリでかすったか、ラスファが身につけていたバンダナが焼き切られたのだ。はらりと落ちるバンダナで、隠れていたエルフ族の証である細長い耳が露わになった。観客からもどよめきが大きく上がる。人里でも見ることはほぼないと言われているような稀少種族を初めて見たという者も、さぞかし多いだろう。彼は焦げたバンダナの回収を諦め、不機嫌そうな舌打ちとともに再び魔女と相対する。
「へーえ、アンタ、エルフ族だったの? ならちょうどいいわ、うちの雇い主が不老不死を望んでたっけ。黒焦げから変更してあげる。アンタの血をたっぷりとお土産にしたら、いい点数稼ぎになりそうだわ!」
魔女の言い草に、ラスファは侮蔑の一瞥を向けた。辺りにふわりと奇妙な冷気が広がる。
「エルフの血で不老不死ね…まさか、未だにそんな迷信を信じてるのか。絵本と現実を混同する時期は卒業したらどうだ? 所詮は、下衆の飼い犬か。飼い主はマジョーレの、皇族あたりか?」
その辛辣なセリフに、魔女の表情が引きつった。
マジョーレ帝国、そうか!
俺自身も傭兵時代によく闘り合ったはずだ。
幾度となく侵略戦争を繰り返し、掠奪を繰り返した軍事国家。ここしばらくは鳴りを潜めていたが。
『おかげで稼ぎどころが減った』
とは、傭兵やってた頃の身内のぼやきだ。なぜか唐突に脳裏に蘇る。考えて見れば、嫌な記憶だ。
「な、何を証拠に!」
「ダテに長生きしてないんでな。マジョーレとは、幾度も敵対したことがある。さっきからバカみたいに連発しているのは帝国の魔導官が開発した、殺傷力を上げた呪文の改良版か?」
俺もその言葉で確信を持った。
「なるほど、どうりで覚えのある太刀筋だったわけだ。傭兵やっていた頃に戦った覚えはある。殺意や衝動をむき出しにした剣術だ」
「アンタら…!」
魔女が目を釣り上げる。見物人の中にも帝国と因縁がある者がいたのか、静かなざわめきが起きた。この分だと、じきにショーではないことに気づかれるだろう。上手くすれば、観客を避難させられるかもしれない。その希望が、油断を生んだ。
そのやり取りの間に、しばらく動けなかった大男の方もダメージから回復していたのだ。抑えていた俺の足を振り払うと立ち上がり、怒りにギラついた目つきでこちらを睨み据え拳を固める。やれやれ、もう一戦か…。
大男が駆け出し、今度は俺ではなくラスファに狙いを定めて殴りかか…ろうとした、その時だった。
不意に、人垣の向こうから何かが飛んで来たのだ。それは、頭に血が上った大男からは完全に死角になる位置。瞬間的に時間がゆっくりと流れるような感覚。そして『それ』は、吸い込まれるように、男の頭部を砕いて飛び散った!
「きゃああぁ!」
観客の中から上がる悲鳴。子供の目をとっさに塞ぐ大人。さーっと広がる飛沫は、赤い水たまりを作る。
「「「なっ…!」」」
傭兵としての経験が告げる。この出血量では、とても助からない。短い舌打ちを残して、魔女も観客に紛れて鮮やかに逃げてしまった。ここから先、二人は相手にできないと判断したのだろう。男を狙った第三者に次に狙われると悟ったのかもしれない。頭に血が上っていたわりには賢明な判断だ。
しかし誰が? そして何があった? 倒れた男はピクリとも動かない。このままにしてはおけないが、じき自警団も来るに違いない。現場はそのままにしたほうがいいだろう。そこまで考えて、俺もラスファもあることに気づいた。
何だ、この血の中に散らばる黒い粒は?
「大丈夫だったかい、白銀亭のお兄ちゃん!」
場違いな明るい声が、『何か』飛んで来た方向から聞こえて来た。そっちを見ると、化粧の濃い元気なオバちゃんが勢いよく手を振っている。見覚えがあった。ラスファにつき合って買い出しに行った時の売り子のオバちゃんだ!
「果物屋の…?」
「おかしな人だかりができてるから見に来たら、アンタがいると思わなかったよ! もう大丈夫だよ、アタシの助太刀をアテにしておくれよ!」
果物屋? ということは…。
飛んできたものを再度よく見ると、半分潰れているが楕円形のフォルム。黒と緑の縞模様…ということは!
「…スイカ?」
「そうか、さっきの謎の粒は…タネ!」
「ということは…生きてるな、これ」
なんのことはない、広がった赤い飛沫は単純にスイカの汁だったということか。脅かすなよ、オバちゃん…。
「アタシゃここで三十年商売してるからね。ショーか実際の戦闘かぐらいはわかるつもりだよ。まあ怪我はなさそうだね、これからもウチをご贔屓に頼むよ! アンタが来るのは楽しみにしてるんだからね」
それだけ言うと、勇ましくもたくましいオバちゃんは雑踏の中へ肩で風を切りながら去って行った。何故か観客からも大きな拍手が起こる。
なるほど、野次馬の中には地元民も混じっていたのか。確かにそれなら実戦だという認識ができるだろう。ヤバいと思って店から一番『攻撃力の高そうな』商品を取ってきて投げつけたわけか。
なんともマヌケな幕引きに、俺もラスファも言葉が出なかった。タイミングが良すぎて『正体バラした後の口封じ』だと、誰もが思ってしまったのだ。
程なくして現れた自警団に事情を話そうとしたところで一気に足から力が抜けてへたり込んでしまった。どうということはない、単なる気功術の反動だ。ほんのしばらく倦怠感で動けなくなるのだが、戦闘中に迂闊に使ったら命取りになりかねない。あくまで緊急時の切り札なのだ。
白目むいてスイカ汁に塗れた男を縛り上げて(やっぱり生きてた)、自警団は帰っていく。周囲の観光客たちを見ると、人垣はなくなり散ってしまっていた。ホッとする俺やラスファの肩を叩きながら、観客たちがいい笑顔とサムズアップで去っていく。
「よくやったぜ兄ちゃんたち! 芝居でも、帝国のヤツをぶちのめしてくれてスッとしたぜ! やっぱエルダード最高だ!」
「…そりゃよかったな…」
心ならずも思いっきり目立ってしまってやさぐれるラスファには、さらなる災難が待っていた。若い女性のグループだ。
「エルフ族の方ですか? って、ホンモノ?」
「!」
彼は慌てて焼き切られたバンダナを探すが、すでにどこに行ったかわからない。
「まずい…! 先に帰ってるぞ」
それだけ言ってラスファは、観光客たちの視線から逃げるように走り去った。苦労が多いよなぁ…。
脱力した足に力が戻るのを待ってから、俺も帰ろう。なに、そう長いことでもない。だが…アーチのやつ、上手く逃げたんだろうな?
約束の刻限を告げる鐘の音が、雑踏の中に響き渡る。
以前までここの広場は、待ち合わせの定番とも言える静かな場所だった。だが、観光客たちが増えるに従ってこれ以上もなく賑やかな場所に変貌していた。
広場を取り囲むのは色とりどりの屋台や出店。開けた場所には数多くのベンチやパラソルが設置されて、屋台の果実水を手にした親子連れが一休みしている。その間を縫うようにして大道芸人が器用にジャグリングしながら闊歩し、吟遊詩人は弾き語りで客を集めていた。ジョッキ片手に酔っ払いはダミ声で歌い、旅先の出会いに期待する女性たちは期待を乗せた視線を時折こちらに投げてくる。
…正直言って、非常に居心地悪い。しかもちょうど観光大使のショーが始まる時間のようで、広場にあるステージを中心に、さらに人が増えつつあった。しくじった、こんなことならショーの時間と場所を把握しとくんだった! さっきラスファが破りかけて他人に渡したチケットに時間や場所が書かれていたのかもしれないが、ソレを今言ったところでどうしようもない。
そのうち、アーシェとラグを連れたラスファが現れた。
「まだデュエルだけか?」
「ああ。アーチはまだのようだな」
「ここを指定したのは、確か奴だったと思うんだがな?」
彼の諦めたようなため息を受けてか、ラグは夢見るような笑みを浮かべる。
「大丈夫ですわよ、師匠はすぐ来ますわ。この人だかりでは、動きづらそうですもの」
…どうしてこうも彼女は盲目的にアーチ至上主義なんだか? この街にきたばかりの頃にアーチに助けられて以来こうらしいが、ほとんどヒヨコの刷り込みもいいところだ。
これではアーチを責められない。それから間も無く、人の波間に派手な金髪が見えてきた。近づくに連れ、周囲の女性にもれなく色目を使うという大道芸人も真っ青になるような芸風を見せつけている。これでは遅くて当然だ。
「いやー悪ィ! 遅れちまった!」
開口一番の能天気さに何か言いたげだったラスファも、ラグの手前何も言えない。何かと気苦労多いな、こいつ。
そのまま情報収集の結果を報告しあうと、俺たちは同時に考え込んだ。全員の情報を合わせても、事件の全貌が全く見えてこない。こんなことは珍しい。
「…とりあえずラスファの調べてきた女性神官を当たるか?」
「そうだな。場所は神殿通りのクラスター家だ。そこそこ大きい屋敷だから、行けばわかるそうだ」
振り返れば、アーシェが人混みの中をじっと凝視している。飽きたというよりも、知り合いを見つけたようだった。
「あ、やっぱりレオンだ。こんなとこにいるなんて珍しい…どうしたんだろ、こんなとこで?」
アーシェの独り言に、俺の目が吸い寄せられた。そこには浅黒い肌に黒髪黒目、痩せ型の体躯に不似合いな細長い包みを抱えている。
…レオン? よく見ると、おやっさんに捜索を頼まれた弟子の特徴にちょうど一致する。まさか、この少年は…。
「レオン、どうしたの? 何か配達?」
その問いに、少年は真面目くさって答える。
「『お嬢さん、申し訳ないが、取り込み中だ。それと少々訪ねたいのだが、ここにいれば腕利きの冒険者に会えると聞いたのだが?』」
「へ?」
年の頃はアーシェと変わらない。だが、出てくる言葉はどうも紳士的すぎる。さらには、観光大使というものを知らないらしい。違和感を感じて俺は確認してみた。
「もしかして、鍛冶屋のおやっさん…ガルドというドワーフのとこの弟子、レオンか?」
「!」
図星のようだ。彼はその名を聞いてギクリと振りかえった。
「大変だな。あのおやっさん、言葉遣いから矯正するのか」
「『いや…それは…』」
その時だった。周りの観光客のざわめきに混じって軽薄な声がかけられた。
「よう! ちょっとそいつ、こっちにもらってもいいか?」
そこにいたのは、ひと目で観光大使と思わせる派手な出で立ちの男だった。短く刈り込んだ金髪に碧眼、浅黒い肌でごつい体格の長身に非実用的な金ピカ鎧を纏っている。浮かべているのは友好的な笑みのつもりだろうが、隠しきれない殺気は嘘臭さを漂わせている。唯一の本物は背に担いだ大剣で、平和な雑踏に凶暴な影を落としていた。おかしい、観光大使が使う武器や防具は全て、装飾過多で見栄え重視の新品を使用するはず。だが、これは…使い込まれた実用品だ!
「何者だ? 観光大使じゃないようだが」
俺は警戒を滲ませつつ、少年少女を背にかばう。その問いは、奴の嘘くさい笑みを剥ぎ取った。
「いいからテメェら、そのガキをよこせってんだよぉ!」
獰猛で粗暴な声は、紛れもなくこいつの本性。短気に叫ぶと勢い任せに大剣を振り上げる。すぐそばを通りかかった観光客は悲鳴をあげつつ飛びのくが、それ以上離れる気配もない。一気に場所が開いたが、好奇心いっぱいにこちらを見る目線が留まっている。まずいな、ショーの一端と思われているのか? 俺は街のあちこちに貼られたポスターの文句を思い出して舌打ちをする。
『路上シークレットショーは不定期に開催中!』
馬鹿な。こんなに殺気立ったショーがどこにあるというんだ!
「こいつを連れて逃げろ! 俺が相手をしておく」
「仕方ねぇな、あとで合流だ! さっさと片付けろよ!」
俺はレオンの手を引いてアーチに押し付けると、一気に距離を縮めて大検の男に組み付いた。巨大な剣が石畳を砕いて叩き落される。全員が逆方向に走り出したのを見届けると、俺は男を突き放して顔面に肘を叩き込んだ。その一撃をスレスレで避けると男は、不敵な笑みを深めた。そのまま半身に構えて拳を固める。武器を落とされたのに、この余裕…傭兵か?
「はっはぁ! 当座の遊び相手はお前ってことか? いいぜ、来いよ!」
大きな広場のど真ん中、俺とニセ観光大使は互いの力量を測りながら対峙する。
「何者だ、お前は?」
勢いの乗った奴の拳を受け止めて、俺は疑問をぶつけた。
「さあな。そんなに聞きたきゃ、拳で聞いて見たらどうだ?」
奴はせせら笑うが、次の瞬間に表情がわずかに強張る。俺が受け止めて掴んだ拳を引き剥がすことができなかったのだ。
「それなら遠慮なく拳で聞かせてもらおう。覚えておけ、この街の平穏を乱した代償は高くつくぞ?」
俺はニコリともせず、逆側の拳を奴の顎に向けて突き上げる!
「がああっ!」
奴の巨体は一瞬宙に浮き、そのまま石畳に叩きつけられる。遠巻きに見守る観光客から上がった歓声と拍手が、大男の神経を逆なでした。
「き…貴様ッ!」
「レオンをさらって、どうするつもりだ?」
俺の質問に答えることなく、男は卑しい笑みを浮かべた。
悪寒が背を撫でる!
とっさに身を翻し、左側に飛びのく! すると、破裂音とともにさっきまで俺が立っていた場所に火の玉が着弾した。新手か!
「あーはははっ! 調子に乗ってんじゃないわよ、大男さん! 見た所丸腰だけど、この先はどうするつもり?」
計算外だ! 男の笑みに呼ばれたようにもう一人、後ろから新手が出てきた。こっちは長くうねる金髪に黒の魔女帽子を乗せ、同色のローブをまとっている。手にした大振りのほうきは、おそらく杖を偽装したものだ。絵に描いたような魔女姿。これも観光大使を意識したものだろう。俺の注意が逸れた一瞬の間に、男は大剣を拾っていた。ハイテンションな魔女は、再び呪文を詠唱する。まずい、この位置では避けようもない! しかも避けたら、周りの観光客が巻き添えになる!
「いいぜ、ミナ! ここでデカイのぶちかましてやれ!」
「ふふふ…平和ボケしたマヌケな観光客が何人、犠牲になるかしらね?」
どうする? 戦士だけならともかく、魔術師が相手だと俺だけでは対処しきれない! その焦りを読み取ったのだろう、魔女が勢いづいて両手を広げる。
これまでか! 俺は観光客の盾になる覚悟を決めた。最悪、刺し違えても止めてやる!
しかし魔女の手の中の魔法の輝きは、発動前に力を失い霧散する。何があったかは解らなかったが、魔女の向こう側、観光客の輪からやっとという体で抜け出したラスファの存在で全て理解できた。
「…間に合ったか…!」
「ラスファ! 戻ってきたのか? なんで?」
アーチたちと一緒に行ったと思っていたが、戻って魔女の呪文を強制解除してくれたのだろう。
魔術の強制解除…相手と同等以上の魔力の持ち主のみ可能な技で、呪文を発動する前に消去または相殺することができる高等技術と言われる。俺も目の当たりにしたことはない。
「連中のマヌケな仲間のおかげでな。不本意だが、向こうはアーチに任せてきた」
「あたしの呪文を解除したわね…? ちょっと、こいつ生意気! あたしがこいつを殺るわ、あんたはそっちの大男担当ね!」
ラスファのセリフに、魔女は気色ばんだ。仲間をバカにされたせいか、その仲間と同列に見られたからか…おそらくは後者だろうか?
周囲の観光客は、全く逃げる様子を見せない。この連中の派手な出で立ちのせいでショーだと思われているらしく、既にステージで始まりつつあるショーを放ったらかしてこちらに人垣を作っている。彼らの目はショーを見る以上に輝きに満ちており、とてもじゃないが避難勧告を出せる状態じゃない。その最前列に、土産物屋で買ってきたと思しき木剣を持った少年がいた。
「すまないが、それ貸してくれ! 必ず返す!」
「兄ちゃん、ショーの小道具忘れたの? だっせえ!」
そう言って笑う少年からほぼ勢いで木剣を奪い取ると、俺は大剣男に対峙する。少々心許ないが、全くの丸腰よりはましだ。
「大人しく引いてもらう…ってわけにはいかない…よな?」
「当然だろ、遊ぼうぜ!」
「誰に雇われてるのかは知らないが、ここでやり合えば被害が大きくなるだけだ。雇い主もそこまで望んでないだろう?」
土産物の木剣で言っても説得力に欠けるが、最小限に被害を抑えるための一応の努力は大男の冷笑で返された。
「なんだ木剣使い、怖気付いたか? あいにくとオレらはここでどんな被害が出たって知ったこっちゃないんでな。手っ取り早くテメェらぶちのめして、小僧の居場所を聞くとするかねえ? ここしばらく暴れてなかったからよ、抑えがきかねぇぜ!」
大剣男のセリフの後半は、ほぼ掛け声だった。振り上げた大剣をかいくぐると、俺は奴の鳩尾に木剣を突き込む。だが所詮は木剣の悲しさか、大して効いた様子もない。金ピカ鎧は、実用品の偽装のようだ。表面の塗装が剥げて、鈍い地色が垣間見えた。思った以上に厄介な相手だ。救いは重い得物でやや動きが鈍いというところか。周囲のギャラリーの間からは『超リアル』な戦闘を見た興奮がさざ波のように広がっており、歓声からは危機感は感じられない。それこそがこの連中の狙いということか! しかも何故か、観客の数は加速度的に増加の一途をたどっていた。
「ほらほら! アンタはこのあたしが黒焦げにしてあげるわよ! 覚悟はできた?」
同時に魔女は、ラスファに向けた呪文の詠唱に入る。そうか、丸腰なのはラスファも同じ。しかも例え得意の弓を持っていたとしても、この観衆のど真ん中では射つに射てないだろう。そうなれば、精霊魔法での応戦しかできない!
圧倒的に不利な条件だが観光客が人質同然の今、引くわけにはいかないのだ。
「ここで派手に放火されると、明日からの仕入れに差し支えるんでな。さっさとご退場願おうか」
そんな中でもなお強気に言うなり、彼の短い詠唱が続く。
「『水精よ、彼の者に禊を』!」
するとすぐ近くにいた子供が手にした果実水のカップから大量の水が召喚され、魔女の顔面に降り注ぐ。そうか、古代語魔法に比べて精霊魔法は詠唱が短く発動が早い! 逆に古代語魔法は細かく効果範囲の調整が可能というメリットがある。どんなに威力が高い魔法でも、発動させなければ意味がない。お陰で魔女は、強制的にうがいをさせられたような状態で苦しそうに咳き込み呪文も霧散する。どんどん分厚くなる人垣から上がる、ひときわ高い歓声。カップを持っていた子供は驚いたように尻餅をつくと、目を輝かせた。
「母さますごい! カップから魔法が出た!」
「まあ、すごいわねえ。記念にそのカップ、お土産にできないかしら?」
周りから羨ましそうな視線を集めつつ、親子連れは呑気な感想を漏らす。
何故、そこまで戦闘中に観察できるのかと言われると長くなるので端折るが、昔から俺は戦闘時に必要以上に周囲の音や気配を感じ取る体質を持っていたからだ。自覚してからずっと、単に集中力に欠けるせいだと思っていたんだが…案外この体質は役に立つこともある。特に冒険者として、仲間と共に戦う時によく感じるようになった。最初は傭兵として戦っている時、突然に自覚した。そしてその感覚の範囲は徐々に広がりを見せ、今では自分を中心にした全方位に及んでいる。最前列で戦っていても、後ろにいる仲間の動向が手に取るようにわかる。最初は不気味だと思っていたがこの感覚に慣れるのも早く、今では随分と助けられていた。
「よその心配してる場合か? おらおら、もっと楽しませろよ!」
俺に対しても同時に、大剣が幾度も振り下ろされる。流石に「必ず返す」と言った木剣で受け止めるわけにいかず、左右に避けるだけに止まるが…この動き、どこかで覚えがある。傭兵時代に幾度か戦った太刀筋に重なるのだ。まさかこいつ…? それにおかしい、どうも俺を本気で狙っていないような気がする。わざと攻撃を外して遊んでいるようにも思える。ならば、勝機はある!
俺は相手の攻撃をかいくぐりながら、特殊な呼吸法に切り替えた。体内に巡る『気』を爆発的に高めて練り上げるために。
気功術。
俺が傭兵時代に身につけた、特殊技能だ。体内には『気』という生命エネルギーが巡っている。それを高めて自在に操り様々に役立てるのだ。もともとは神聖魔法以外の魔術を持たないドワーフ族の間に伝わる技能だったそうだが、師匠にあたるドワーフ族のおやっさんに見込まれて伝授されたのがきっかけだ。熟練すれば気弾を飛ばして相手を昏倒させることも、怪我人病人の治療にも役立つのだという。だが俺が教わったのは基本のみ。あとは自分で応用して磨けと言われて突き放された。その言葉を信じて修練してはいるが、自身の身体強化と初歩の気功治療が出来るのみだ。それでもかなり役立っている。ちょうど、今のように!
俺は瞬間的に高めた気を足に集中させる。一気に身体が軽くなる感覚。踏み込んだ足で石畳を砕きながら奴の懐に踏み込むと、鋭い呼気も気に換えて拳に集中させて突き込む!
拳に伝わる、何かがひしゃげる感覚と異音! そしてくぐもった呻き声。見れば体をくの字に曲げて喘ぐ男の鎧には、くっきりと拳の跡が刻み付けられている。足元には、奴がとっさに盾にした大剣の欠片が散らばっていた。気の効果が俺の中に残っている間に畳み掛けるように大男の腕を取ると肩を支点に巨体を投げ放ち、石畳に叩きつける。その上で胴体を膝で押さえて喉元に木剣を突きつけ、再度の降伏勧告を行った。さらに増えた観客からもどよめきが広がる。
「大人しく降伏してくれるとありがたいんだが…」
しかし、俺に向けられた男の顔色はどす黒く、無数の血管が浮かび上がっていた。
「ふざけんな…殺す…殺してやる…!」
しかし地面に叩きつけられたダメージは未だ大きく、木剣を掴んで振り払おうとするのがやっとの抵抗のようだった。大剣を砕かれても、まだ闘志はなくしていないらしい。模範的な傭兵だな。俺は皮肉交じりのため息をついた。
その一方で、ラスファたちの魔術戦も激化している。
魔女が発動しかけた古代語魔法は、ラスファの精霊魔法で強制的に解除される。俺からすれば空中に火花が散り、水が飛び交っているようにしか見えない。非常に高度なレベルの戦いなのだが、傍から見れば派手なんだか地味なんだかわからない。だが事態は徐々にラスファの不利に傾いていた。
「あはははっ! アンタは精霊魔法の使い手なんだろ? あたしは古代語魔法、いつでもどこでも火が生み出せる! アンタは水が得意みたいだけど、これ以上どこから水を出すつもりかしら? あははは! 人前でメイクを台無しにされたツケは、利子付きで払ってもらうわよ!」
あ、これ最後の理由がメインだな…。確かに彼女は、スッピンになったせいで面変わりして見える。化粧とは恐ろしいもんだ…。
だが彼女の言う通りでもある。精霊魔法は使う属性のものが近くにないと使えないと言う最大の弱点を持っている。さっき、子供が持っていたカップから魔法が出たのもそのせいだ。そして今、あらかたの見物人が手にした果実水などのカップは空になっているようだ。
「なら、他のものを使うまでだ!」
魔女の攻撃魔法を後方ギリギリに跳んで避けると、空中で身軽に一転して着地と同時に地面に手をつく。そこはちょうどさっき俺が踏み砕いた石畳。割れた石の間からは、むき出しの土が覗いている!
次の瞬間、そこから真っ直ぐに大地の槍が突きあがった! 発動しかけた魔女の火炎魔法を貫いて相殺し、ともに霧散して消える。
新しく出された魔法に、観客からの歓声が高くあがった。だが、ここで誤算が生じた。ギリギリでかすったか、ラスファが身につけていたバンダナが焼き切られたのだ。はらりと落ちるバンダナで、隠れていたエルフ族の証である細長い耳が露わになった。観客からもどよめきが大きく上がる。人里でも見ることはほぼないと言われているような稀少種族を初めて見たという者も、さぞかし多いだろう。彼は焦げたバンダナの回収を諦め、不機嫌そうな舌打ちとともに再び魔女と相対する。
「へーえ、アンタ、エルフ族だったの? ならちょうどいいわ、うちの雇い主が不老不死を望んでたっけ。黒焦げから変更してあげる。アンタの血をたっぷりとお土産にしたら、いい点数稼ぎになりそうだわ!」
魔女の言い草に、ラスファは侮蔑の一瞥を向けた。辺りにふわりと奇妙な冷気が広がる。
「エルフの血で不老不死ね…まさか、未だにそんな迷信を信じてるのか。絵本と現実を混同する時期は卒業したらどうだ? 所詮は、下衆の飼い犬か。飼い主はマジョーレの、皇族あたりか?」
その辛辣なセリフに、魔女の表情が引きつった。
マジョーレ帝国、そうか!
俺自身も傭兵時代によく闘り合ったはずだ。
幾度となく侵略戦争を繰り返し、掠奪を繰り返した軍事国家。ここしばらくは鳴りを潜めていたが。
『おかげで稼ぎどころが減った』
とは、傭兵やってた頃の身内のぼやきだ。なぜか唐突に脳裏に蘇る。考えて見れば、嫌な記憶だ。
「な、何を証拠に!」
「ダテに長生きしてないんでな。マジョーレとは、幾度も敵対したことがある。さっきからバカみたいに連発しているのは帝国の魔導官が開発した、殺傷力を上げた呪文の改良版か?」
俺もその言葉で確信を持った。
「なるほど、どうりで覚えのある太刀筋だったわけだ。傭兵やっていた頃に戦った覚えはある。殺意や衝動をむき出しにした剣術だ」
「アンタら…!」
魔女が目を釣り上げる。見物人の中にも帝国と因縁がある者がいたのか、静かなざわめきが起きた。この分だと、じきにショーではないことに気づかれるだろう。上手くすれば、観客を避難させられるかもしれない。その希望が、油断を生んだ。
そのやり取りの間に、しばらく動けなかった大男の方もダメージから回復していたのだ。抑えていた俺の足を振り払うと立ち上がり、怒りにギラついた目つきでこちらを睨み据え拳を固める。やれやれ、もう一戦か…。
大男が駆け出し、今度は俺ではなくラスファに狙いを定めて殴りかか…ろうとした、その時だった。
不意に、人垣の向こうから何かが飛んで来たのだ。それは、頭に血が上った大男からは完全に死角になる位置。瞬間的に時間がゆっくりと流れるような感覚。そして『それ』は、吸い込まれるように、男の頭部を砕いて飛び散った!
「きゃああぁ!」
観客の中から上がる悲鳴。子供の目をとっさに塞ぐ大人。さーっと広がる飛沫は、赤い水たまりを作る。
「「「なっ…!」」」
傭兵としての経験が告げる。この出血量では、とても助からない。短い舌打ちを残して、魔女も観客に紛れて鮮やかに逃げてしまった。ここから先、二人は相手にできないと判断したのだろう。男を狙った第三者に次に狙われると悟ったのかもしれない。頭に血が上っていたわりには賢明な判断だ。
しかし誰が? そして何があった? 倒れた男はピクリとも動かない。このままにしてはおけないが、じき自警団も来るに違いない。現場はそのままにしたほうがいいだろう。そこまで考えて、俺もラスファもあることに気づいた。
何だ、この血の中に散らばる黒い粒は?
「大丈夫だったかい、白銀亭のお兄ちゃん!」
場違いな明るい声が、『何か』飛んで来た方向から聞こえて来た。そっちを見ると、化粧の濃い元気なオバちゃんが勢いよく手を振っている。見覚えがあった。ラスファにつき合って買い出しに行った時の売り子のオバちゃんだ!
「果物屋の…?」
「おかしな人だかりができてるから見に来たら、アンタがいると思わなかったよ! もう大丈夫だよ、アタシの助太刀をアテにしておくれよ!」
果物屋? ということは…。
飛んできたものを再度よく見ると、半分潰れているが楕円形のフォルム。黒と緑の縞模様…ということは!
「…スイカ?」
「そうか、さっきの謎の粒は…タネ!」
「ということは…生きてるな、これ」
なんのことはない、広がった赤い飛沫は単純にスイカの汁だったということか。脅かすなよ、オバちゃん…。
「アタシゃここで三十年商売してるからね。ショーか実際の戦闘かぐらいはわかるつもりだよ。まあ怪我はなさそうだね、これからもウチをご贔屓に頼むよ! アンタが来るのは楽しみにしてるんだからね」
それだけ言うと、勇ましくもたくましいオバちゃんは雑踏の中へ肩で風を切りながら去って行った。何故か観客からも大きな拍手が起こる。
なるほど、野次馬の中には地元民も混じっていたのか。確かにそれなら実戦だという認識ができるだろう。ヤバいと思って店から一番『攻撃力の高そうな』商品を取ってきて投げつけたわけか。
なんともマヌケな幕引きに、俺もラスファも言葉が出なかった。タイミングが良すぎて『正体バラした後の口封じ』だと、誰もが思ってしまったのだ。
程なくして現れた自警団に事情を話そうとしたところで一気に足から力が抜けてへたり込んでしまった。どうということはない、単なる気功術の反動だ。ほんのしばらく倦怠感で動けなくなるのだが、戦闘中に迂闊に使ったら命取りになりかねない。あくまで緊急時の切り札なのだ。
白目むいてスイカ汁に塗れた男を縛り上げて(やっぱり生きてた)、自警団は帰っていく。周囲の観光客たちを見ると、人垣はなくなり散ってしまっていた。ホッとする俺やラスファの肩を叩きながら、観客たちがいい笑顔とサムズアップで去っていく。
「よくやったぜ兄ちゃんたち! 芝居でも、帝国のヤツをぶちのめしてくれてスッとしたぜ! やっぱエルダード最高だ!」
「…そりゃよかったな…」
心ならずも思いっきり目立ってしまってやさぐれるラスファには、さらなる災難が待っていた。若い女性のグループだ。
「エルフ族の方ですか? って、ホンモノ?」
「!」
彼は慌てて焼き切られたバンダナを探すが、すでにどこに行ったかわからない。
「まずい…! 先に帰ってるぞ」
それだけ言ってラスファは、観光客たちの視線から逃げるように走り去った。苦労が多いよなぁ…。
脱力した足に力が戻るのを待ってから、俺も帰ろう。なに、そう長いことでもない。だが…アーチのやつ、上手く逃げたんだろうな?
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