上 下
350 / 405
short mission 4 宅配戦線、異常あり!

因果応報

しおりを挟む
Side-ラスファ5

「領民無くして、我ら貴族は成り立たぬ」

 重々しい言葉を重ねる領主からは、先刻のアーシェたちに対する時の好々爺然とした印象は失われていた。招待客たちも注目しながら固唾を飲んで見守っている。誰も言葉をだす者はいなかった。

「あまつさえ、自分の欲望を優先して領民を傷つけるなど言語道断!」
しかしここにきて、甥はなおも嫌な笑みを領主に向ける。
「へえ…だったらどうする? 僕を後継から外すか? できるわけがないよな? 領地の後継は原則、血縁者による当主制だ。当主が居なけりゃ領地の没収は避けられない。領民を放り出してそんな事、優しい伯父上には出来っこないよな?」

 領主はどこか諦めたような笑みを浮かべてかぶりを振った。そして、何かを決意したように甥をまっすぐ見据える。
「このままお前を領主に据える方が領民のためにはならんさ。それに…」
「それに?」
 
「後継者の候補は、すでに存在している」

  領主のその言葉に、甥は訝しむように目を細めた。
「なに? 伯父上に隠し子でもいたというのか? それとも父上の?」
 甥の声には焦りが滲む。現当主は重々しく口を開いた。

「後継者候補は、お前自身が作った筈だ。覚えがないとは言わせぬぞ。方々で領民の若い娘さんたちを襲っていたと聞いておる…嘆かわしい!」
 そういう事か…。私はこの領主の甥クズを見て納得した。逆らえない立場を悪用して、の悪事を働いていたとしたなら疑問の持ちようもない。

 領主の言葉に、アーシェやラグが甥に敵意を向けた。女の敵と改めて認識したらしい。
「僕の子であるという証拠はあるのか!?」
 ここにきてなおも言い募る甥に、領主は静かな口調で真実を告げる。

「産まれた子をこの目で見てきた。幼い頃のお前によく似た面差しの赤子だった…。お前が襲ってきた娘さんは数人いたが、実際に産まれた子はその一人だけだ。証言もある、お前の子に間違いない」
「一人…赤子は、僕の…子…」

 甥は呆然とへたり込み、そればかりを繰り返す。自分の欲望のままに振舞ってきた結果、その因果がそのまま返ってきた。思いがけずできてしまった、自らの子に足元をすくわれる結果となって。

 これで、はっきりした。
 変装までして領主は領民の話を聞き、甥の悪事の証拠を水面下で集めていたのだろう。

 もう領主に迷いなどなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

没落貴族に転生したけどチート能力『無限魔力』で金をザックザック稼いで貧しい我が家の食卓を彩ろうと思います~

街風
ファンタジー
出産直後に、バク転からの仁王立ちで立ち上がった赤子のルークは、すでに己が生物の頂点に君臨していると自覚していた。だがそれとは対極に、生まれた生家は最低最弱の貧乏貴族。食卓に並ぶのは痩せた魚と硬いパンだけ。愛する家族のためにルークは奔走する。 「これは大変だっ、父上、母上、ルークにお任せ下さい。お金を稼ぎに冒険へでかけてきますゆえ」※0歳です。 時に現れる敵をバッサバッサと薙ぎ倒し、月下の光に隠れて、最強の赤子が悪を切り裂く! これは全てを破壊する力を持った0歳児が、家族の幸せを望む物語。 ヒロインも多数登場していきます。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

処理中です...