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intermission 8 新興国の新名物
日常への帰還
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Side-ラスファ3
終業後。
ガランとした店内に残って日課の槍の手入れをしていたデュエルに軽い酒を出すと、彼は思い出したように呟いた。
ラインハルトから聞いたんだが…という前置きで、彼は衝撃的な内容を口にする。
「この前のバカ息子の実家のオプファー商会が…数日前に突然潰れたそうだ」
聞けば、とある商会に吸収される形で消滅したというのだ。
あまりにあっさりしすぎた幕引きに、弱みを握られて圧倒的に不利な条件をつきつけられた挙句のことではないかという憶測が飛び交っている。実際、叩かれて出る埃はさぞかし多かろう…。
「その吸収したという、物好きな商会というのは?」
私の疑問に、デュエルは少し思い出すような素振りで首をかしげる。
「確か…ウィリアムズ商会とか言ったか? 数年前に当主が交代したそうだ」
酒を舐めながら、デュエルは語る。潰れる寸前の商会を神がかった手腕で立て直した後、姿を消してしまったらしい。
「俺やアーチより若い当主だと言っていた。きな臭い話だったから、ラインハルトも覚えていたそうなんだがな」
「…そうか」
…確かにきな臭い話だ。自ら姿を消した説の他に…極端な話だが商会を立て直した際に、知ってはならないことを知って消されたとも考えられる。
だが、全てが憶測の域を出ない。
現当主が生きているといいのだが…。
「ところで、例の旗の威力というのはどうだったんだ?」
「…ッ…!」
痛いところを突かれて、私は絶句した。訝しげにデュエルは首をかしげる。他意はないはずだ、どこぞの不良盗賊ではないんだから。
だが…。
苦虫を噛み潰す気分で、昼間の出来事を簡潔に説明する。
ラインハルトに引きずられて、エルダードにおける未探索の遺跡…『空白地帯』近くの路地裏に連れていかれたあと。
大半の想像通り、そこで魔法の撃ち合いとなった。とは言っても撃つのは一方的にこちらだけだったのだが、軽い数発を撃ち込んでも全く堪えた様子もない。やはりこの布の効果は本物だ。
しばらく魔法を撃ち込み旗で吸収を繰り返したが、そこそこの威力に調整した魔法にも対応出来るように思える。それを伝えようとしたとき、起きた拍手に振り返って驚愕した。
いつのまにか周囲は、音につられて集まったショーと勘違いした観光客に囲まれている。
慌てて逃げ帰って晩の仕事を終え、今やっと落ち着いたところだ。
「災難だったな…」
デュエルはしみじみと呟いた。
まあいい。トライハウンドのお得意様もできたし、自警団の大幅な戦力増強もできた。
次の依頼まで、この日常を堪能するとしよう!
終業後。
ガランとした店内に残って日課の槍の手入れをしていたデュエルに軽い酒を出すと、彼は思い出したように呟いた。
ラインハルトから聞いたんだが…という前置きで、彼は衝撃的な内容を口にする。
「この前のバカ息子の実家のオプファー商会が…数日前に突然潰れたそうだ」
聞けば、とある商会に吸収される形で消滅したというのだ。
あまりにあっさりしすぎた幕引きに、弱みを握られて圧倒的に不利な条件をつきつけられた挙句のことではないかという憶測が飛び交っている。実際、叩かれて出る埃はさぞかし多かろう…。
「その吸収したという、物好きな商会というのは?」
私の疑問に、デュエルは少し思い出すような素振りで首をかしげる。
「確か…ウィリアムズ商会とか言ったか? 数年前に当主が交代したそうだ」
酒を舐めながら、デュエルは語る。潰れる寸前の商会を神がかった手腕で立て直した後、姿を消してしまったらしい。
「俺やアーチより若い当主だと言っていた。きな臭い話だったから、ラインハルトも覚えていたそうなんだがな」
「…そうか」
…確かにきな臭い話だ。自ら姿を消した説の他に…極端な話だが商会を立て直した際に、知ってはならないことを知って消されたとも考えられる。
だが、全てが憶測の域を出ない。
現当主が生きているといいのだが…。
「ところで、例の旗の威力というのはどうだったんだ?」
「…ッ…!」
痛いところを突かれて、私は絶句した。訝しげにデュエルは首をかしげる。他意はないはずだ、どこぞの不良盗賊ではないんだから。
だが…。
苦虫を噛み潰す気分で、昼間の出来事を簡潔に説明する。
ラインハルトに引きずられて、エルダードにおける未探索の遺跡…『空白地帯』近くの路地裏に連れていかれたあと。
大半の想像通り、そこで魔法の撃ち合いとなった。とは言っても撃つのは一方的にこちらだけだったのだが、軽い数発を撃ち込んでも全く堪えた様子もない。やはりこの布の効果は本物だ。
しばらく魔法を撃ち込み旗で吸収を繰り返したが、そこそこの威力に調整した魔法にも対応出来るように思える。それを伝えようとしたとき、起きた拍手に振り返って驚愕した。
いつのまにか周囲は、音につられて集まったショーと勘違いした観光客に囲まれている。
慌てて逃げ帰って晩の仕事を終え、今やっと落ち着いたところだ。
「災難だったな…」
デュエルはしみじみと呟いた。
まあいい。トライハウンドのお得意様もできたし、自警団の大幅な戦力増強もできた。
次の依頼まで、この日常を堪能するとしよう!
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