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intermission 7 神官少女の憂鬱
オプファー商会の若旦那、意趣返しをする
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side-デュエル 4
ラスファは俺の所在をたった一言確認すると、無言で歩き始めた。共にいることがわかるのがよくないと思ってのことだろう。そのまま一定の距離を置いて大通りを道なりに進む。
詰所を出る時にとっさに掴んで来た『臨時自警団』の腕章をなんとなく身につける。何かの役に立つと思ってのことだ…ラインハルトには悪いが、事後承諾とさせてもらおう。
雑踏を歩く時に、こんなに気を張りつめることは少ない。気のせいか、一定範囲の物事が手に取るようにはっきりと感じられる気がした。気功術の応用か何かだろうか? 師匠であるドワーフのおやっさんにいつか聞いてみようか。
そんな考えに気を取られかけた時、ラスファの横合いから人波を弾き飛ばしながら誰かが近づくのが見えた。
「!」
俺も人波をかき分け走りながら、広く鋭くなった視界の中で敵を分析する。
体格のいい男と、やや細身の優男風の二人だ。優男の方が、ラグの元婚約者じゃないかと当たりをつける。
まず止めるべきは、体格のいい男の方だ。手の中には金属製のきらめきが見える。
まずい! 奴は…!!
ラスファが気づいて振り返り、刃物の光をかろうじて避けるが…勢いを止められるわけではない。
「!」
その勢いのまま、彼は大男の強烈なタックルをまともに受けてしまった! 俺が到達する一瞬前に、ラスファは吹っ飛ばされて逆側の壁に叩きつけられる。
「ラスファ!」
周囲から悲鳴が上がる。わずかにしか傷つけられなかったことに舌打ちすると、優男風倒れたまま動けないラスファの脇腹を蹴りつける。
「ちッ…仕損じたか。まあいい、このまま痛めつけてやる」
「おい、自警団が来る前にさっさとずらかるぞ! まだチャンスはある!」
そこに、俺が人波からようやく到達した。
手段を選んでなんかいられない。俺は飛びつきがてら、大男の首に腕を巻きつけながら地面に引き倒した。持っていたナイフが乾いた音を立てる。
「げぶぁッ!?」
石畳に叩き伏せた大男からカエルを踏みつけたような声が聞こえたが、構うものか!
「悪いな、お待ちかねの自警団が参上だ!」
白目剥いて泡を吹く大男の首筋に手刀を入れて完全制圧すると、背中を見せて走る優男を追うべく足に『氣』を流し込んで瞬発力を上げる。いや…上げようとした。
「ぐあぁ!」
だが優男は追うまでもなく、その場にもんどりうって転がった。
その優男を取り囲む、十人ほどの少女達。見覚えがある…みんなラスファ目当てで白亭に通っている常連客だ!
「この✖︎✖︎野郎…自分が何をしたか分かってるの? ✖︎✖︎の✖︎✖︎が✖︎✖︎のクセに!」
「万死に値する事をやらかしたわよ、✖︎✖︎野郎!」
「それも、あたし達親衛隊の目の前でなんて…豪胆にも程がある! 死んで償え!」
「まだチャンスはある…って言ってたわね? なら、生きて帰さない!」
「この、✖︎✖︎野郎! アンタなんて✖︎✖︎を✖︎✖︎してやるわ!」
(…一部、お聞き苦しい箇所がございますが、伏せ字にてお送りさせていただきます…)
彼女たちは口々に、聞くに耐えない罵声を垂れ流しながら殴る蹴るの暴行を加えている。あまりの勢いに、周囲の者も遠巻きに見守っていた。
…こ…怖すぎる…。
この修羅場に割って入る勇気は、俺にはない。
その間にも神官と思しき少女がラスファに回復魔法を施していた。
彼女たちは一斉に俺を振り返る。
「私たちの活動方針は、あくまで彼を『影から見守ること』。今見たことも、どうか他言無用にてお願い致します」
あー…なんというか…むしろ傭兵団が欲しがりそうな見事すぎる統制っぷりだ。
「リョ…了解デ…アリマス…」
固まりながら一応敬礼っぽい仕草で見送ると、全員が示し合わせたかのように潮が引くかのごとく撤収して行った。
恐ろしき集団であった…。
ラスファは俺の所在をたった一言確認すると、無言で歩き始めた。共にいることがわかるのがよくないと思ってのことだろう。そのまま一定の距離を置いて大通りを道なりに進む。
詰所を出る時にとっさに掴んで来た『臨時自警団』の腕章をなんとなく身につける。何かの役に立つと思ってのことだ…ラインハルトには悪いが、事後承諾とさせてもらおう。
雑踏を歩く時に、こんなに気を張りつめることは少ない。気のせいか、一定範囲の物事が手に取るようにはっきりと感じられる気がした。気功術の応用か何かだろうか? 師匠であるドワーフのおやっさんにいつか聞いてみようか。
そんな考えに気を取られかけた時、ラスファの横合いから人波を弾き飛ばしながら誰かが近づくのが見えた。
「!」
俺も人波をかき分け走りながら、広く鋭くなった視界の中で敵を分析する。
体格のいい男と、やや細身の優男風の二人だ。優男の方が、ラグの元婚約者じゃないかと当たりをつける。
まず止めるべきは、体格のいい男の方だ。手の中には金属製のきらめきが見える。
まずい! 奴は…!!
ラスファが気づいて振り返り、刃物の光をかろうじて避けるが…勢いを止められるわけではない。
「!」
その勢いのまま、彼は大男の強烈なタックルをまともに受けてしまった! 俺が到達する一瞬前に、ラスファは吹っ飛ばされて逆側の壁に叩きつけられる。
「ラスファ!」
周囲から悲鳴が上がる。わずかにしか傷つけられなかったことに舌打ちすると、優男風倒れたまま動けないラスファの脇腹を蹴りつける。
「ちッ…仕損じたか。まあいい、このまま痛めつけてやる」
「おい、自警団が来る前にさっさとずらかるぞ! まだチャンスはある!」
そこに、俺が人波からようやく到達した。
手段を選んでなんかいられない。俺は飛びつきがてら、大男の首に腕を巻きつけながら地面に引き倒した。持っていたナイフが乾いた音を立てる。
「げぶぁッ!?」
石畳に叩き伏せた大男からカエルを踏みつけたような声が聞こえたが、構うものか!
「悪いな、お待ちかねの自警団が参上だ!」
白目剥いて泡を吹く大男の首筋に手刀を入れて完全制圧すると、背中を見せて走る優男を追うべく足に『氣』を流し込んで瞬発力を上げる。いや…上げようとした。
「ぐあぁ!」
だが優男は追うまでもなく、その場にもんどりうって転がった。
その優男を取り囲む、十人ほどの少女達。見覚えがある…みんなラスファ目当てで白亭に通っている常連客だ!
「この✖︎✖︎野郎…自分が何をしたか分かってるの? ✖︎✖︎の✖︎✖︎が✖︎✖︎のクセに!」
「万死に値する事をやらかしたわよ、✖︎✖︎野郎!」
「それも、あたし達親衛隊の目の前でなんて…豪胆にも程がある! 死んで償え!」
「まだチャンスはある…って言ってたわね? なら、生きて帰さない!」
「この、✖︎✖︎野郎! アンタなんて✖︎✖︎を✖︎✖︎してやるわ!」
(…一部、お聞き苦しい箇所がございますが、伏せ字にてお送りさせていただきます…)
彼女たちは口々に、聞くに耐えない罵声を垂れ流しながら殴る蹴るの暴行を加えている。あまりの勢いに、周囲の者も遠巻きに見守っていた。
…こ…怖すぎる…。
この修羅場に割って入る勇気は、俺にはない。
その間にも神官と思しき少女がラスファに回復魔法を施していた。
彼女たちは一斉に俺を振り返る。
「私たちの活動方針は、あくまで彼を『影から見守ること』。今見たことも、どうか他言無用にてお願い致します」
あー…なんというか…むしろ傭兵団が欲しがりそうな見事すぎる統制っぷりだ。
「リョ…了解デ…アリマス…」
固まりながら一応敬礼っぽい仕草で見送ると、全員が示し合わせたかのように潮が引くかのごとく撤収して行った。
恐ろしき集団であった…。
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