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mission 4 ワンコ王国、建国のススメ!

交渉と脅迫は紙一重

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side-ラスファ 10

「あなたの負けよ、チャールズ」
 ノックもなく静かに応接室の扉が開いた。
 紅い巻き毛に深い翠の瞳、煙管を手にした気だるげな物腰は相変わらずなエルフ族の美女マルグリッドさんだ。
 部屋に入るなり、彼女はこちらに流し目を向ける。…どうも苦手だ、こういう女は。
「相変わらず強気な子ね坊や、嫌いじゃないわそういうの」

「それはどうも…」
 彼女はちらりと外を気にするそぶりを見せる。騒がしい声がわずかに届いた。
「こちらの会話を聞いていたのか?」
 恨めしげにチャールズさんは彼女を振り返る。
「ええ、興味深い話だったしね。闇ギルドに頭を痛めていたのは貴方だけじゃないもの」
 確かに闇ギルドが横行すれば、正規の冒険者の信用に関わる一大事だ。早急に撲滅する必要がある。

「ねえ…そんな分からず屋放っておいて、あたしを頼りなさいな。捕虜の尋問や更生に至るまで面倒みるわ」
 そのありがたい申し出に、チャールズさんの顔色がさっと変わった。
「!」
「それは願っても無いことだ。特に捕虜にした連中の処遇には悩んでいたところだった」

「ま…待て! この案件は、元々こっちの…」
  その片眼鏡に、彼女は煙管から甘い紫煙を吹きかけた。
「『貴方の』じゃないでしょ? これは『ギルド』が動くべき案件よ? 彼は散々手こずらされた、闇ギルドの情報を持って来てくれたのよ? 優秀じゃないの」
 そのやりとりで、なんとなく内部の力関係がわかった。ここでは彼女が『女王様』なのだろう。確かにこの迫力では、並みの者では太刀打ちできない。

 言葉に詰まったチャールズさんに、マルグリッドさんは婉然と笑みを向ける。
「そんな事より、表が騒がしくてよ? 確かめに行かなくってもいいの?」
 言われて気づくといつの間にか、表の騒ぎは無視できない規模になっていた。



「新興国から搾取とは、許せん!」
「それも、こんな小さい子まで巻き込んで!」
「さっさと出てきて説明しろ!」
「聞いているのか、ギルド上層部!」

 ギルドの玄関前は、黒山の人だかりとなっていた。口々に罵声を吐き、評議会員を出せと騒いでいる。
 …アーチの奴、上手くやったな。むしろ効き過ぎたぐらいだ。

 ここまでは、私とアーチの組んだ策略のうちだった。ケモミミをつけたアーシェと犬獣人族フローネを新興国からの出稼ぎに仕立てて、ギルド本部の近くで商売させる。そしてギルドのせいで苦労していることを匂わせる会話をさせて、アーチがさらに煽る。アーシェ達がその容姿から同情されやすいというのも、実は計算のうち。

 エルダードの住民は、その特殊な成り立ちのせいか弱者を守ろうとする傾向が強い。
  ついでに言わせて貰えば、匂わせる程度で明言はしないというのがポイントだ。
 この先のギルドの対応で、この先の展開は分岐する。

 何しろ、と言質はとっているのだから。

  だが腐っても上層部、そうそう最悪の選択はするまいというのがアーチとの共通見解だ。一応の交渉材料としての保険もある。だがこの切り札は使わないに越した事はない…。

「お前…何がどうなっている?!」
「さあ…何が何だか?」
 こちらに詰め寄る片眼鏡の評議会員。その先の答えは、ついて来たマルグリッドさんが引き継いだ。
「外は、新興国の扱いで揉めてるみたいね? 貴方こそ何かしようとしてたの?」
  彼女はチャールズさんに対して、面白いものを見るように目を細める。女狐という例えがふさわしいと思える笑みだ。

「この騒ぎを収めるには、先刻伝えた条件を呑んでもらう他ないのでは?」
 私はすっかり悪役になった気分で、チャールズさんに小声で囁いた。
「友好条約と不可侵条約、そして救援要請…」
  彼は肩を震わせつつ、最初に出した条件を反芻する。そう無茶な条件でもないはずだ…だが、もう一押ししておこう。

「悪いことばかりでもない。向こうの特産品は、こちらにとっても有用なはず。魔術文様を織り込んだ上質な布も、この先大いに役立つはずだ。上手くすれば交易品の取引は有利に事が運べるだろう…どうする?」

 彼は俯いたままで歯を鳴らした。
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