282 / 405
mission 4 ワンコ王国、建国のススメ!
交渉と脅迫は紙一重
しおりを挟む
side-ラスファ 10
「あなたの負けよ、チャールズ」
ノックもなく静かに応接室の扉が開いた。
紅い巻き毛に深い翠の瞳、煙管を手にした気だるげな物腰は相変わらずなエルフ族の美女マルグリッドさんだ。
部屋に入るなり、彼女はこちらに流し目を向ける。…どうも苦手だ、こういう女は。
「相変わらず強気な子ね坊や、嫌いじゃないわそういうの」
「それはどうも…」
彼女はちらりと外を気にするそぶりを見せる。騒がしい声がわずかに届いた。
「こちらの会話を聞いていたのか?」
恨めしげにチャールズさんは彼女を振り返る。
「ええ、興味深い話だったしね。闇ギルドに頭を痛めていたのは貴方だけじゃないもの」
確かに闇ギルドが横行すれば、正規の冒険者の信用に関わる一大事だ。早急に撲滅する必要がある。
「ねえ…そんな分からず屋放っておいて、あたしを頼りなさいな。捕虜の尋問や更生に至るまで面倒みるわ」
そのありがたい申し出に、チャールズさんの顔色がさっと変わった。
「!」
「それは願っても無いことだ。特に捕虜にした連中の処遇には悩んでいたところだった」
「ま…待て! この案件は、元々こっちの…」
その片眼鏡に、彼女は煙管から甘い紫煙を吹きかけた。
「『貴方の』じゃないでしょ? これは『ギルド』が動くべき案件よ? 彼は散々手こずらされた、闇ギルドの情報を持って来てくれたのよ? 優秀じゃないの」
そのやりとりで、なんとなく内部の力関係がわかった。ここでは彼女が『女王様』なのだろう。確かにこの迫力では、並みの者では太刀打ちできない。
言葉に詰まったチャールズさんに、マルグリッドさんは婉然と笑みを向ける。
「そんな事より、表が騒がしくてよ? 確かめに行かなくってもいいの?」
言われて気づくといつの間にか、表の騒ぎは無視できない規模になっていた。
「新興国から搾取とは、許せん!」
「それも、こんな小さい子まで巻き込んで!」
「さっさと出てきて説明しろ!」
「聞いているのか、ギルド上層部!」
ギルドの玄関前は、黒山の人だかりとなっていた。口々に罵声を吐き、評議会員を出せと騒いでいる。
…アーチの奴、上手くやったな。むしろ効き過ぎたぐらいだ。
ここまでは、私とアーチの組んだ策略のうちだった。ケモミミをつけたアーシェと犬獣人族フローネを新興国からの出稼ぎに仕立てて、ギルド本部の近くで商売させる。そしてギルドのせいで苦労していることを匂わせる会話をさせて、アーチがさらに煽る。アーシェ達がその容姿から同情されやすいというのも、実は計算のうち。
エルダードの住民は、その特殊な成り立ちのせいか弱者を守ろうとする傾向が強い。
ついでに言わせて貰えば、匂わせる程度で明言はしないというのがポイントだ。
この先のギルドの対応で、この先の展開は分岐する。
何しろ、判断は任せると言質はとっているのだから。
だが腐っても上層部、そうそう最悪の選択はするまいというのがアーチとの共通見解だ。一応の交渉材料としての保険もある。だがこの切り札は使わないに越した事はない…。
「お前…何がどうなっている?!」
「さあ…何が何だか?」
こちらに詰め寄る片眼鏡の評議会員。その先の答えは、ついて来たマルグリッドさんが引き継いだ。
「外は、新興国の扱いで揉めてるみたいね? 貴方こそ何かしようとしてたの?」
彼女はチャールズさんに対して、面白いものを見るように目を細める。女狐という例えがふさわしいと思える笑みだ。
「この騒ぎを収めるには、先刻伝えた条件を呑んでもらう他ないのでは?」
私はすっかり悪役になった気分で、チャールズさんに小声で囁いた。
「友好条約と不可侵条約、そして救援要請…」
彼は肩を震わせつつ、最初に出した条件を反芻する。そう無茶な条件でもないはずだ…だが、もう一押ししておこう。
「悪いことばかりでもない。向こうの特産品は、こちらにとっても有用なはず。魔術文様を織り込んだ上質な布も、この先大いに役立つはずだ。上手くすれば交易品の取引は有利に事が運べるだろう…どうする?」
彼は俯いたままで歯を鳴らした。
「あなたの負けよ、チャールズ」
ノックもなく静かに応接室の扉が開いた。
紅い巻き毛に深い翠の瞳、煙管を手にした気だるげな物腰は相変わらずなエルフ族の美女マルグリッドさんだ。
部屋に入るなり、彼女はこちらに流し目を向ける。…どうも苦手だ、こういう女は。
「相変わらず強気な子ね坊や、嫌いじゃないわそういうの」
「それはどうも…」
彼女はちらりと外を気にするそぶりを見せる。騒がしい声がわずかに届いた。
「こちらの会話を聞いていたのか?」
恨めしげにチャールズさんは彼女を振り返る。
「ええ、興味深い話だったしね。闇ギルドに頭を痛めていたのは貴方だけじゃないもの」
確かに闇ギルドが横行すれば、正規の冒険者の信用に関わる一大事だ。早急に撲滅する必要がある。
「ねえ…そんな分からず屋放っておいて、あたしを頼りなさいな。捕虜の尋問や更生に至るまで面倒みるわ」
そのありがたい申し出に、チャールズさんの顔色がさっと変わった。
「!」
「それは願っても無いことだ。特に捕虜にした連中の処遇には悩んでいたところだった」
「ま…待て! この案件は、元々こっちの…」
その片眼鏡に、彼女は煙管から甘い紫煙を吹きかけた。
「『貴方の』じゃないでしょ? これは『ギルド』が動くべき案件よ? 彼は散々手こずらされた、闇ギルドの情報を持って来てくれたのよ? 優秀じゃないの」
そのやりとりで、なんとなく内部の力関係がわかった。ここでは彼女が『女王様』なのだろう。確かにこの迫力では、並みの者では太刀打ちできない。
言葉に詰まったチャールズさんに、マルグリッドさんは婉然と笑みを向ける。
「そんな事より、表が騒がしくてよ? 確かめに行かなくってもいいの?」
言われて気づくといつの間にか、表の騒ぎは無視できない規模になっていた。
「新興国から搾取とは、許せん!」
「それも、こんな小さい子まで巻き込んで!」
「さっさと出てきて説明しろ!」
「聞いているのか、ギルド上層部!」
ギルドの玄関前は、黒山の人だかりとなっていた。口々に罵声を吐き、評議会員を出せと騒いでいる。
…アーチの奴、上手くやったな。むしろ効き過ぎたぐらいだ。
ここまでは、私とアーチの組んだ策略のうちだった。ケモミミをつけたアーシェと犬獣人族フローネを新興国からの出稼ぎに仕立てて、ギルド本部の近くで商売させる。そしてギルドのせいで苦労していることを匂わせる会話をさせて、アーチがさらに煽る。アーシェ達がその容姿から同情されやすいというのも、実は計算のうち。
エルダードの住民は、その特殊な成り立ちのせいか弱者を守ろうとする傾向が強い。
ついでに言わせて貰えば、匂わせる程度で明言はしないというのがポイントだ。
この先のギルドの対応で、この先の展開は分岐する。
何しろ、判断は任せると言質はとっているのだから。
だが腐っても上層部、そうそう最悪の選択はするまいというのがアーチとの共通見解だ。一応の交渉材料としての保険もある。だがこの切り札は使わないに越した事はない…。
「お前…何がどうなっている?!」
「さあ…何が何だか?」
こちらに詰め寄る片眼鏡の評議会員。その先の答えは、ついて来たマルグリッドさんが引き継いだ。
「外は、新興国の扱いで揉めてるみたいね? 貴方こそ何かしようとしてたの?」
彼女はチャールズさんに対して、面白いものを見るように目を細める。女狐という例えがふさわしいと思える笑みだ。
「この騒ぎを収めるには、先刻伝えた条件を呑んでもらう他ないのでは?」
私はすっかり悪役になった気分で、チャールズさんに小声で囁いた。
「友好条約と不可侵条約、そして救援要請…」
彼は肩を震わせつつ、最初に出した条件を反芻する。そう無茶な条件でもないはずだ…だが、もう一押ししておこう。
「悪いことばかりでもない。向こうの特産品は、こちらにとっても有用なはず。魔術文様を織り込んだ上質な布も、この先大いに役立つはずだ。上手くすれば交易品の取引は有利に事が運べるだろう…どうする?」
彼は俯いたままで歯を鳴らした。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い
平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。
ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。
かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります
京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。
なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。
今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。
しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。
今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。
とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】
ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします
ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった
【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。
累計400万ポイント突破しました。
応援ありがとうございます。】
ツイッター始めました→ゼクト @VEUu26CiB0OpjtL
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる