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mission 4 ワンコ王国、建国のススメ!
レックスの正体
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side-ラスファ5
森の奥にある水場。キャンプに居た犬獣人たちが水汲みに来ていたという場所であり、拉致事件の犯行現場と思われる場所だ。
水汲みのふりをしながら周囲に感覚を研ぎ澄ませると…葉ずれの音に紛れて、隠れたアーチたちや小動物の気配が感じられる。ちなみにデュエルとアーシェは建国予定地で待機中だ。
護衛の意味もあるが、部分とはいえ金属鎧のデュエルには不向きかと判断してのことだ。あとはなぜかついて来たレックスも隠れている。どさくさで初対面のアーチと自己紹介し合っていたが、すぐ打ち解けたようだ。
さらにはアーシェの召喚獣のパンサーを一匹連れてきている。言うまでもなく連絡用だ。
犬獣人ほどではないが、エルフ族も五感は鋭い方だと言われている。あまり知られていないようだが。
囮に本物の犬獣人を使う案もあったが、それは即却下された。仮にも依頼人だし、犬獣人に有効な薬や魔術を使われたときのことを考えてのことだ。
ケモ耳を持って来たことを最初は激しく後悔していたが、こうして役立っている。少々複雑だが、仕方ない。
「!」
何か来た! さり気なく水桶から水を垂らす水音で合図すると、木陰に緊張が走るのがわかった。
人数は一人…大胆な事だ。近づきがてらの攻撃に備えて、懐に隠した短剣に手を這わす。
…来た…!
気配は背後から。
走り寄る足音を隠す気もないようで、あけすけな足取りが読み取れる。
おかしい。いくらなんでも襲撃をかけようという者の足音だと思えない。
一瞬の殺気に振り返ると、衝動のままに抜き放った短剣で一撃を防ぐ。
金属がぶつかり合う、澄んだ音。茂みの中でラグが声にならない悲鳴をあげた気がした。
辛うじて受け止めた短剣に伝わる衝撃で、腕に痺れが走る。だがそれもつかの間、引き続きつばぜり合いに発展した。
「っく…!」
こういうときに、己の非力さを痛感させられる。どうやっても、腕力では他の種族に譲らざるを得ないことはわかっていた。だがそれでも、この勝負は譲るわけにいかない!
相手は黒い執事を思わせる衣装に、砂色の長い髪を三つ編みにまとめている。細身の体格の割に結構な力で迫って来る! 力で押し負けるのは明白。こうなれば…!
咄嗟に支点をずらしてバランスを崩し、奴の脇腹に蹴りを入れる。だが読まれていたようで、前方に転がって回避される。
彼我の距離が空いたところでアーチたちが援護に来た。その後ろにレックスも遅れて続く。
「なんだ、ノアじゃんか。いきなりどしたんだ?」
緊迫した場面だというのに、その場に脱力しきったレックスの声。執事服の襲撃者の動きが、ピタリと止まった。なんだ?
「い…いたー!」
奴はレックスを指差すと、素っ頓狂な声を上げる。本当になんなんだ?
「今まで一体どこにいたんだ! どれだけ探したと思ってるんだ!」
あれからしばらく。ノアと呼ばれた執事は、レックスを正座させながら説教を続けていた。
「だから悪いって言ってるじゃんか~。すっげぇ反省したからさ、いい加減勘弁してくれよ~」
長身を縮めて情けない声を上げ、青い目を潤ませるレックスを執事が張り倒す。
「それが反省してる態度か!」
格好そのままなら主従に見えなくもないが、やってることはその真逆。相変わらず大型犬に見えるレックスは、尻尾を丸めているように思える。
こっちはその漫才を呆然として見るほかない。
「あの…お二人のご関係は…?」
遠慮がちにラグが執事に尋ねる。
我に返ったように居住まいを正すと流麗な仕草で、執事はこちらに向き直った。
「これは失礼いたしました。私はノア・チェンバレン。こちらは我が主人、旧フォーゼルバッハ公国の元国主であらせられる…レックス様です」
「「「はあ!?」」」
その場の全員が、驚愕の声を上げる。
「ちょっと待て! 元とはいえ国主をその扱いか?」
あまりのことにツッコむと、レックスがさらに情けない声を上げる。
「もっと言ってやってこいつに!」
執事は、その元国主殿の背中を踏みつけたままだった。
森の奥にある水場。キャンプに居た犬獣人たちが水汲みに来ていたという場所であり、拉致事件の犯行現場と思われる場所だ。
水汲みのふりをしながら周囲に感覚を研ぎ澄ませると…葉ずれの音に紛れて、隠れたアーチたちや小動物の気配が感じられる。ちなみにデュエルとアーシェは建国予定地で待機中だ。
護衛の意味もあるが、部分とはいえ金属鎧のデュエルには不向きかと判断してのことだ。あとはなぜかついて来たレックスも隠れている。どさくさで初対面のアーチと自己紹介し合っていたが、すぐ打ち解けたようだ。
さらにはアーシェの召喚獣のパンサーを一匹連れてきている。言うまでもなく連絡用だ。
犬獣人ほどではないが、エルフ族も五感は鋭い方だと言われている。あまり知られていないようだが。
囮に本物の犬獣人を使う案もあったが、それは即却下された。仮にも依頼人だし、犬獣人に有効な薬や魔術を使われたときのことを考えてのことだ。
ケモ耳を持って来たことを最初は激しく後悔していたが、こうして役立っている。少々複雑だが、仕方ない。
「!」
何か来た! さり気なく水桶から水を垂らす水音で合図すると、木陰に緊張が走るのがわかった。
人数は一人…大胆な事だ。近づきがてらの攻撃に備えて、懐に隠した短剣に手を這わす。
…来た…!
気配は背後から。
走り寄る足音を隠す気もないようで、あけすけな足取りが読み取れる。
おかしい。いくらなんでも襲撃をかけようという者の足音だと思えない。
一瞬の殺気に振り返ると、衝動のままに抜き放った短剣で一撃を防ぐ。
金属がぶつかり合う、澄んだ音。茂みの中でラグが声にならない悲鳴をあげた気がした。
辛うじて受け止めた短剣に伝わる衝撃で、腕に痺れが走る。だがそれもつかの間、引き続きつばぜり合いに発展した。
「っく…!」
こういうときに、己の非力さを痛感させられる。どうやっても、腕力では他の種族に譲らざるを得ないことはわかっていた。だがそれでも、この勝負は譲るわけにいかない!
相手は黒い執事を思わせる衣装に、砂色の長い髪を三つ編みにまとめている。細身の体格の割に結構な力で迫って来る! 力で押し負けるのは明白。こうなれば…!
咄嗟に支点をずらしてバランスを崩し、奴の脇腹に蹴りを入れる。だが読まれていたようで、前方に転がって回避される。
彼我の距離が空いたところでアーチたちが援護に来た。その後ろにレックスも遅れて続く。
「なんだ、ノアじゃんか。いきなりどしたんだ?」
緊迫した場面だというのに、その場に脱力しきったレックスの声。執事服の襲撃者の動きが、ピタリと止まった。なんだ?
「い…いたー!」
奴はレックスを指差すと、素っ頓狂な声を上げる。本当になんなんだ?
「今まで一体どこにいたんだ! どれだけ探したと思ってるんだ!」
あれからしばらく。ノアと呼ばれた執事は、レックスを正座させながら説教を続けていた。
「だから悪いって言ってるじゃんか~。すっげぇ反省したからさ、いい加減勘弁してくれよ~」
長身を縮めて情けない声を上げ、青い目を潤ませるレックスを執事が張り倒す。
「それが反省してる態度か!」
格好そのままなら主従に見えなくもないが、やってることはその真逆。相変わらず大型犬に見えるレックスは、尻尾を丸めているように思える。
こっちはその漫才を呆然として見るほかない。
「あの…お二人のご関係は…?」
遠慮がちにラグが執事に尋ねる。
我に返ったように居住まいを正すと流麗な仕草で、執事はこちらに向き直った。
「これは失礼いたしました。私はノア・チェンバレン。こちらは我が主人、旧フォーゼルバッハ公国の元国主であらせられる…レックス様です」
「「「はあ!?」」」
その場の全員が、驚愕の声を上げる。
「ちょっと待て! 元とはいえ国主をその扱いか?」
あまりのことにツッコむと、レックスがさらに情けない声を上げる。
「もっと言ってやってこいつに!」
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