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mission 4 ワンコ王国、建国のススメ!
観光地化は止まらない
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side-デュエル 1
あいも変わらず観光客で賑わう冒険都市エルダード。そもそもの始まりだったジョークのパンフレットが発行されて数年経つが、観光客に飽きられる様子は微塵もない。
聞けば世の中の『行ってみたい観光地』ランキングの、常にトップスリーくらいには入っているというから驚きだ。こうなると、観光客誘致に必死になっているであろう他の観光地の皆さんに少々申し訳ない気さえしてくる。
何となく現実逃避してると思うが、目の前にわんさかと詰めかけた観光客がいればそうもなるさ。
楽しげに笑いさざめきながら、目の前を行き来する親子連れに恋人たち。その人波は、今日も途切れることはない。
俺はデュエル。元々は傭兵として身を立ててきた一族の者だったが、思うところあって数年前に冒険者を志してエルダードにやってきた。
それから間も無くこの観光地化の波に飲まれた冒険都市は、劇的な変化を見せていた。戸惑う間も無くこの街は浮かれた観光客が押し寄せる観光地に変貌を遂げ、遺跡の街は賑々しく飾り立てられて音楽と笑い声が鳴り響いている。
…俺は思考を放棄してため息をついた。久しぶりにラインハルトと一緒になっておやっさんのところで稽古つけてもらった帰りだが、まだ早い時間だというのにこの賑わいだ。
数年前までここは謎と危険に満ちた冒険都市だったて言われて、信じる者はいるのだろうか?
「元々は、巨大な遺跡群だったのになあ…」
誰にともつかない呟きは、雑踏の中に溶けて消えたと思われた。だが、思わぬところから返事が帰って来る。
「確かにそうだよな。だが、まあいんじゃね? オレは前より面白れェと思うぜ?」
驚いて振り向くと、見慣れすぎたニヤケ顔が俺の肩に手を回していた。また女のところから朝帰りでもしたのだろうか?
ひょろりとした長身にまとう、ナンパな雰囲気。遺跡専門とはいえ、盗賊らしからぬ派手な長めの金髪に着崩した異国風のポンチョ。さらには口から先に生まれてきたに違いない、よく回る頭と舌。三度の飯より女好きな不良盗賊、アーチボルト・サーガだ。
「アーチ…そうは言うが、遺跡の都だの冒険者の街だのと言われてた頃からこうなるまでたった数年だぞ? 変化が激しすぎると思わないか?」
俺の問いかけに、奴は肩をすくめる。
「さァな。オレはむしろ、変化が停滞する方がヤベェと思うがね? どっかの稀少種族みてぇに、じわじわ衰退しちまうんじゃ…ってェ!」
奴のセリフは途中で悲鳴に取って代わった。雑踏から抜け出て来た銀髪の青年が、奴の尻に蹴りを入れたのだ。
「…悪かったな、衰退しつつある種族で」
冷え冷えとした声音で、彼は長いパンがはみ出した大きめの買い物袋を抱え直す。どうやら朝市での仕入れ帰りのようだ。
彼はラスファエル・バリニーズ。細身の長身で長い銀髪を後ろで結んでいる。容姿端麗で知られるエルフ族の出身で、彼も例外ではなく街を歩けば多くの視線が集まってしまうのが常。その割に目立つことが何より嫌いで、普段は特有の細長い耳をバンダナで隠している。
そして俺たちのねぐらである『白銀亭』で働く名物料理人でもあった。
「相変わらず、おっかねぇな。どこから聞いてやがった?」
蹴り上げられた尻をさすりながら、アーチがぼやく。
「デュエルと合流した時からだ。…また朝帰りか? 懲りないな」
「おいおい、最初っから聞いてやがったか。随分と足癖悪りィエルフだなオメーは」
「女癖が悪いよりはマシだと思うが?」
…また始まった。
この二人は性格が対極にあるせいか、根本的にそりが合わない。宿屋に帰る間中、ずっとこんな剣呑な会話を繰り広げていた。
その割に悪巧みや策略を練る際には、誰よりもタ息が合うという不思議なコンビでもある。二人ともタイプは違うが策略家という共通点のせいか、それとも根っこは似た者同士なのか…いまだに俺には判断がつかない。
ある意味、仲がいいのかもしれないが。
あいも変わらず観光客で賑わう冒険都市エルダード。そもそもの始まりだったジョークのパンフレットが発行されて数年経つが、観光客に飽きられる様子は微塵もない。
聞けば世の中の『行ってみたい観光地』ランキングの、常にトップスリーくらいには入っているというから驚きだ。こうなると、観光客誘致に必死になっているであろう他の観光地の皆さんに少々申し訳ない気さえしてくる。
何となく現実逃避してると思うが、目の前にわんさかと詰めかけた観光客がいればそうもなるさ。
楽しげに笑いさざめきながら、目の前を行き来する親子連れに恋人たち。その人波は、今日も途切れることはない。
俺はデュエル。元々は傭兵として身を立ててきた一族の者だったが、思うところあって数年前に冒険者を志してエルダードにやってきた。
それから間も無くこの観光地化の波に飲まれた冒険都市は、劇的な変化を見せていた。戸惑う間も無くこの街は浮かれた観光客が押し寄せる観光地に変貌を遂げ、遺跡の街は賑々しく飾り立てられて音楽と笑い声が鳴り響いている。
…俺は思考を放棄してため息をついた。久しぶりにラインハルトと一緒になっておやっさんのところで稽古つけてもらった帰りだが、まだ早い時間だというのにこの賑わいだ。
数年前までここは謎と危険に満ちた冒険都市だったて言われて、信じる者はいるのだろうか?
「元々は、巨大な遺跡群だったのになあ…」
誰にともつかない呟きは、雑踏の中に溶けて消えたと思われた。だが、思わぬところから返事が帰って来る。
「確かにそうだよな。だが、まあいんじゃね? オレは前より面白れェと思うぜ?」
驚いて振り向くと、見慣れすぎたニヤケ顔が俺の肩に手を回していた。また女のところから朝帰りでもしたのだろうか?
ひょろりとした長身にまとう、ナンパな雰囲気。遺跡専門とはいえ、盗賊らしからぬ派手な長めの金髪に着崩した異国風のポンチョ。さらには口から先に生まれてきたに違いない、よく回る頭と舌。三度の飯より女好きな不良盗賊、アーチボルト・サーガだ。
「アーチ…そうは言うが、遺跡の都だの冒険者の街だのと言われてた頃からこうなるまでたった数年だぞ? 変化が激しすぎると思わないか?」
俺の問いかけに、奴は肩をすくめる。
「さァな。オレはむしろ、変化が停滞する方がヤベェと思うがね? どっかの稀少種族みてぇに、じわじわ衰退しちまうんじゃ…ってェ!」
奴のセリフは途中で悲鳴に取って代わった。雑踏から抜け出て来た銀髪の青年が、奴の尻に蹴りを入れたのだ。
「…悪かったな、衰退しつつある種族で」
冷え冷えとした声音で、彼は長いパンがはみ出した大きめの買い物袋を抱え直す。どうやら朝市での仕入れ帰りのようだ。
彼はラスファエル・バリニーズ。細身の長身で長い銀髪を後ろで結んでいる。容姿端麗で知られるエルフ族の出身で、彼も例外ではなく街を歩けば多くの視線が集まってしまうのが常。その割に目立つことが何より嫌いで、普段は特有の細長い耳をバンダナで隠している。
そして俺たちのねぐらである『白銀亭』で働く名物料理人でもあった。
「相変わらず、おっかねぇな。どこから聞いてやがった?」
蹴り上げられた尻をさすりながら、アーチがぼやく。
「デュエルと合流した時からだ。…また朝帰りか? 懲りないな」
「おいおい、最初っから聞いてやがったか。随分と足癖悪りィエルフだなオメーは」
「女癖が悪いよりはマシだと思うが?」
…また始まった。
この二人は性格が対極にあるせいか、根本的にそりが合わない。宿屋に帰る間中、ずっとこんな剣呑な会話を繰り広げていた。
その割に悪巧みや策略を練る際には、誰よりもタ息が合うという不思議なコンビでもある。二人ともタイプは違うが策略家という共通点のせいか、それとも根っこは似た者同士なのか…いまだに俺には判断がつかない。
ある意味、仲がいいのかもしれないが。
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