242 / 405
intermission 6 アイドルは辛いよ
悪足掻きの詐欺師
しおりを挟む
Side-ラスファ 5
一階での騒ぎを呆れつつ見下ろしながら、私は姿を隠す精霊魔法を解いた。ここは二階席のバルコニー部分。いきなり姿を現した私に驚いて、周囲がざわめく。
そろそろ頃合いか!
話し声で周囲にバレることを警戒して、アーシェたちは傍に来させてある。
周囲のフォローに徹していたアーシェとラグと頷きあうと、一気に行動に出た。
二階席のバルコニーから身を踊らせ、着地と同時に司会者に向けて走る!
脇をすり抜けざまに拡声効果を持つ魔術具を奪い取ると、すかさず元いた二階席に投げつけた。
「受け取れ、三流記者!」
直後、会場に大音声が響き渡った。
「号外、号~外~!!!!」
その場にいた多くの者が思わず耳を塞ぐほどの歓声は、他ならぬ三流記者・ネズミ獣人のビルのものだ。
あの馬鹿、調子に乗って最大音量にまで上げたな…!
二階席にはもともと、私とともに奴がスタンバイしていたのだ。アーチと軽く打ち合わせをしていた時からそこは織り込み済みだったが。精霊魔法で姿を消して投票所に張り込ませ、決定的な瞬間をスクープさせたのだ。
ご丁寧に魔術師ギルド謹製の肖像画の撮影機までを持参していたと言うのだから周到にもほどがある。最近落ち目だった雑誌、エルダード・ゴシップを押し上げるのに必死だったというわけだ…記者の鑑だな。
どこかでバレるかとヒヤヒヤしていたこっちが馬鹿らしくなるくらいに、ビルの隠密能力が驚異的だったせいもあり、誰にもバレることなく今に至る。
おかげでこっちもずいぶん楽ができたのは秘密だ。
「『青薔薇亭』の創始者ジェイソン・クラウト氏の正体は、悪名高き大詐欺師アングル・スタンレーだった!? そして彼の側近であるブルース氏の手によって行われた、明らかな不正の証拠の大スクープだ! 証拠の肖像画はこちらに! さあ、号外! 号外だよ!!」
高らかな声は止まらず、号外と大写しに書かれた記事が二階席からばら撒かれる。拡声魔法を凌ぐどよめきが周囲に満ちつつあった。
「証拠はこんなもんでどうだ? 大詐欺師アングル・スタンレーさんよ?」
揶揄するアーチの挑発に拳を固めて赤く染まった面を震わせる大詐欺師は、ぶつぶつと呪詛の呟きを漏らしながら周囲を見回す。
前もって作られていた優勝アイドルのグッズにビルのスクープ記事、そして自分の正体の看破。
次の商売の足がかりとなるアイドル投票会場が、自らの告発会場に変わってしまったのだ。その怒りは相当なものだろう。
「連れてきたぞ!」
そこにちょうど、自警団を連れてきたエドガーが飛び込んできた。道中で事情は説明していたらしく、先頭にいるラインハルトは大詐欺師を捕縛するべく凛とした声で宣言する。
「詐欺師アングル・スタンレー! 諸々の詐欺罪で逮捕する!」
奴を取り囲む冒険者たちに自警団員。詐欺師を告発するブーイングの嵐にも関わらず、奴は高笑いを放った。
「何がおかしい!」
「俺が何の用意もせずにいると思うのか?」
言いながら奴が懐から取り出したのは、見覚えのある赤い結晶だった!
「魔獣結晶!」
止める間もなく結晶は床に叩きつけられた。とたんに赤い輝きが周囲に満ちる。
「な、なに? なんなの?」
「どうなっている? 詐欺師はなにを?」
「やだ、何か出た!」
「たすけてぇぇぇ!」
混乱する会場。叩きつけられた地点を中心に広がるのは、赤い光を放つ魔法陣!
その中心からジワリと這い出したのは…黒く巨大な犬に似た魔物が三体!
当然、会場は大混乱となった。平和だと思われていたアイドルの投票結果発表の場に、いきなり魔物を放たれるとは思わなかった…! 歯嚙みをしてももう遅い、自警団にはどさくさで逃げる詐欺師を追ってもらうとして、魔物はこっちで処理するしか手がないのだから!
「兄貴ー! こいつら、ヘルハウンドって言うんだって!」
だしぬけに、混乱に負けない大音声が響き渡った! どうやらビルから魔術具を奪い取って、必要な情報を伝えているようだ。やるなアーシェ! だが少々やかましいなこれ…!
「ラグちゃんが言うには、魔法を使うことはないけど火を噴くから気をつけてって! あと、結構タフだよ!」
了承の合図として手を挙げると、デュエルたちと魔物…ヘルハウンドに向き直る。ラインハルトたちは詐欺師を追っている。アーシェたちは降りて来られない上に、逃げ惑う観客の誘導に手を割かれるだろう。となれば、我々だけで片付けるしかない!
「使ってくれ、大将!」
ラインハルトの部下になった、リックとマックがそれぞれ剣を投げてよこす。デュエルとアーチがそれぞれ受け取ると、野太い笑みを返す。
いつの間にか背後には正義漢エドガーと、アイドルとしての衣装をまとったナユタが控えていた。
「一緒に戦おうじゃないか!」
「私も行くぞ、ヨメ!」
急ごしらえのパーティか…それでも、やるしかない!
一階での騒ぎを呆れつつ見下ろしながら、私は姿を隠す精霊魔法を解いた。ここは二階席のバルコニー部分。いきなり姿を現した私に驚いて、周囲がざわめく。
そろそろ頃合いか!
話し声で周囲にバレることを警戒して、アーシェたちは傍に来させてある。
周囲のフォローに徹していたアーシェとラグと頷きあうと、一気に行動に出た。
二階席のバルコニーから身を踊らせ、着地と同時に司会者に向けて走る!
脇をすり抜けざまに拡声効果を持つ魔術具を奪い取ると、すかさず元いた二階席に投げつけた。
「受け取れ、三流記者!」
直後、会場に大音声が響き渡った。
「号外、号~外~!!!!」
その場にいた多くの者が思わず耳を塞ぐほどの歓声は、他ならぬ三流記者・ネズミ獣人のビルのものだ。
あの馬鹿、調子に乗って最大音量にまで上げたな…!
二階席にはもともと、私とともに奴がスタンバイしていたのだ。アーチと軽く打ち合わせをしていた時からそこは織り込み済みだったが。精霊魔法で姿を消して投票所に張り込ませ、決定的な瞬間をスクープさせたのだ。
ご丁寧に魔術師ギルド謹製の肖像画の撮影機までを持参していたと言うのだから周到にもほどがある。最近落ち目だった雑誌、エルダード・ゴシップを押し上げるのに必死だったというわけだ…記者の鑑だな。
どこかでバレるかとヒヤヒヤしていたこっちが馬鹿らしくなるくらいに、ビルの隠密能力が驚異的だったせいもあり、誰にもバレることなく今に至る。
おかげでこっちもずいぶん楽ができたのは秘密だ。
「『青薔薇亭』の創始者ジェイソン・クラウト氏の正体は、悪名高き大詐欺師アングル・スタンレーだった!? そして彼の側近であるブルース氏の手によって行われた、明らかな不正の証拠の大スクープだ! 証拠の肖像画はこちらに! さあ、号外! 号外だよ!!」
高らかな声は止まらず、号外と大写しに書かれた記事が二階席からばら撒かれる。拡声魔法を凌ぐどよめきが周囲に満ちつつあった。
「証拠はこんなもんでどうだ? 大詐欺師アングル・スタンレーさんよ?」
揶揄するアーチの挑発に拳を固めて赤く染まった面を震わせる大詐欺師は、ぶつぶつと呪詛の呟きを漏らしながら周囲を見回す。
前もって作られていた優勝アイドルのグッズにビルのスクープ記事、そして自分の正体の看破。
次の商売の足がかりとなるアイドル投票会場が、自らの告発会場に変わってしまったのだ。その怒りは相当なものだろう。
「連れてきたぞ!」
そこにちょうど、自警団を連れてきたエドガーが飛び込んできた。道中で事情は説明していたらしく、先頭にいるラインハルトは大詐欺師を捕縛するべく凛とした声で宣言する。
「詐欺師アングル・スタンレー! 諸々の詐欺罪で逮捕する!」
奴を取り囲む冒険者たちに自警団員。詐欺師を告発するブーイングの嵐にも関わらず、奴は高笑いを放った。
「何がおかしい!」
「俺が何の用意もせずにいると思うのか?」
言いながら奴が懐から取り出したのは、見覚えのある赤い結晶だった!
「魔獣結晶!」
止める間もなく結晶は床に叩きつけられた。とたんに赤い輝きが周囲に満ちる。
「な、なに? なんなの?」
「どうなっている? 詐欺師はなにを?」
「やだ、何か出た!」
「たすけてぇぇぇ!」
混乱する会場。叩きつけられた地点を中心に広がるのは、赤い光を放つ魔法陣!
その中心からジワリと這い出したのは…黒く巨大な犬に似た魔物が三体!
当然、会場は大混乱となった。平和だと思われていたアイドルの投票結果発表の場に、いきなり魔物を放たれるとは思わなかった…! 歯嚙みをしてももう遅い、自警団にはどさくさで逃げる詐欺師を追ってもらうとして、魔物はこっちで処理するしか手がないのだから!
「兄貴ー! こいつら、ヘルハウンドって言うんだって!」
だしぬけに、混乱に負けない大音声が響き渡った! どうやらビルから魔術具を奪い取って、必要な情報を伝えているようだ。やるなアーシェ! だが少々やかましいなこれ…!
「ラグちゃんが言うには、魔法を使うことはないけど火を噴くから気をつけてって! あと、結構タフだよ!」
了承の合図として手を挙げると、デュエルたちと魔物…ヘルハウンドに向き直る。ラインハルトたちは詐欺師を追っている。アーシェたちは降りて来られない上に、逃げ惑う観客の誘導に手を割かれるだろう。となれば、我々だけで片付けるしかない!
「使ってくれ、大将!」
ラインハルトの部下になった、リックとマックがそれぞれ剣を投げてよこす。デュエルとアーチがそれぞれ受け取ると、野太い笑みを返す。
いつの間にか背後には正義漢エドガーと、アイドルとしての衣装をまとったナユタが控えていた。
「一緒に戦おうじゃないか!」
「私も行くぞ、ヨメ!」
急ごしらえのパーティか…それでも、やるしかない!
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります
京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。
なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。
今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。
しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。
今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。
とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
転生したらやられ役の悪役貴族だったので、死なないように頑張っていたらなぜかモテました
平山和人
ファンタジー
事故で死んだはずの俺は、生前やりこんでいたゲーム『エリシオンサーガ』の世界に転生していた。
しかし、転生先は不細工、クズ、無能、と負の三拍子が揃った悪役貴族、ゲルドフ・インペラートルであり、このままでは破滅は避けられない。
だが、前世の記憶とゲームの知識を活かせば、俺は『エリシオンサーガ』の世界で成り上がることができる! そう考えた俺は早速行動を開始する。
まずは強くなるために魔物を倒しまくってレベルを上げまくる。そうしていたら痩せたイケメンになり、なぜか美少女からモテまくることに。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる