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intermission 6 アイドルは辛いよ
悪足掻きの詐欺師
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Side-ラスファ 5
一階での騒ぎを呆れつつ見下ろしながら、私は姿を隠す精霊魔法を解いた。ここは二階席のバルコニー部分。いきなり姿を現した私に驚いて、周囲がざわめく。
そろそろ頃合いか!
話し声で周囲にバレることを警戒して、アーシェたちは傍に来させてある。
周囲のフォローに徹していたアーシェとラグと頷きあうと、一気に行動に出た。
二階席のバルコニーから身を踊らせ、着地と同時に司会者に向けて走る!
脇をすり抜けざまに拡声効果を持つ魔術具を奪い取ると、すかさず元いた二階席に投げつけた。
「受け取れ、三流記者!」
直後、会場に大音声が響き渡った。
「号外、号~外~!!!!」
その場にいた多くの者が思わず耳を塞ぐほどの歓声は、他ならぬ三流記者・ネズミ獣人のビルのものだ。
あの馬鹿、調子に乗って最大音量にまで上げたな…!
二階席にはもともと、私とともに奴がスタンバイしていたのだ。アーチと軽く打ち合わせをしていた時からそこは織り込み済みだったが。精霊魔法で姿を消して投票所に張り込ませ、決定的な瞬間をスクープさせたのだ。
ご丁寧に魔術師ギルド謹製の肖像画の撮影機までを持参していたと言うのだから周到にもほどがある。最近落ち目だった雑誌、エルダード・ゴシップを押し上げるのに必死だったというわけだ…記者の鑑だな。
どこかでバレるかとヒヤヒヤしていたこっちが馬鹿らしくなるくらいに、ビルの隠密能力が驚異的だったせいもあり、誰にもバレることなく今に至る。
おかげでこっちもずいぶん楽ができたのは秘密だ。
「『青薔薇亭』の創始者ジェイソン・クラウト氏の正体は、悪名高き大詐欺師アングル・スタンレーだった!? そして彼の側近であるブルース氏の手によって行われた、明らかな不正の証拠の大スクープだ! 証拠の肖像画はこちらに! さあ、号外! 号外だよ!!」
高らかな声は止まらず、号外と大写しに書かれた記事が二階席からばら撒かれる。拡声魔法を凌ぐどよめきが周囲に満ちつつあった。
「証拠はこんなもんでどうだ? 大詐欺師アングル・スタンレーさんよ?」
揶揄するアーチの挑発に拳を固めて赤く染まった面を震わせる大詐欺師は、ぶつぶつと呪詛の呟きを漏らしながら周囲を見回す。
前もって作られていた優勝アイドルのグッズにビルのスクープ記事、そして自分の正体の看破。
次の商売の足がかりとなるアイドル投票会場が、自らの告発会場に変わってしまったのだ。その怒りは相当なものだろう。
「連れてきたぞ!」
そこにちょうど、自警団を連れてきたエドガーが飛び込んできた。道中で事情は説明していたらしく、先頭にいるラインハルトは大詐欺師を捕縛するべく凛とした声で宣言する。
「詐欺師アングル・スタンレー! 諸々の詐欺罪で逮捕する!」
奴を取り囲む冒険者たちに自警団員。詐欺師を告発するブーイングの嵐にも関わらず、奴は高笑いを放った。
「何がおかしい!」
「俺が何の用意もせずにいると思うのか?」
言いながら奴が懐から取り出したのは、見覚えのある赤い結晶だった!
「魔獣結晶!」
止める間もなく結晶は床に叩きつけられた。とたんに赤い輝きが周囲に満ちる。
「な、なに? なんなの?」
「どうなっている? 詐欺師はなにを?」
「やだ、何か出た!」
「たすけてぇぇぇ!」
混乱する会場。叩きつけられた地点を中心に広がるのは、赤い光を放つ魔法陣!
その中心からジワリと這い出したのは…黒く巨大な犬に似た魔物が三体!
当然、会場は大混乱となった。平和だと思われていたアイドルの投票結果発表の場に、いきなり魔物を放たれるとは思わなかった…! 歯嚙みをしてももう遅い、自警団にはどさくさで逃げる詐欺師を追ってもらうとして、魔物はこっちで処理するしか手がないのだから!
「兄貴ー! こいつら、ヘルハウンドって言うんだって!」
だしぬけに、混乱に負けない大音声が響き渡った! どうやらビルから魔術具を奪い取って、必要な情報を伝えているようだ。やるなアーシェ! だが少々やかましいなこれ…!
「ラグちゃんが言うには、魔法を使うことはないけど火を噴くから気をつけてって! あと、結構タフだよ!」
了承の合図として手を挙げると、デュエルたちと魔物…ヘルハウンドに向き直る。ラインハルトたちは詐欺師を追っている。アーシェたちは降りて来られない上に、逃げ惑う観客の誘導に手を割かれるだろう。となれば、我々だけで片付けるしかない!
「使ってくれ、大将!」
ラインハルトの部下になった、リックとマックがそれぞれ剣を投げてよこす。デュエルとアーチがそれぞれ受け取ると、野太い笑みを返す。
いつの間にか背後には正義漢エドガーと、アイドルとしての衣装をまとったナユタが控えていた。
「一緒に戦おうじゃないか!」
「私も行くぞ、ヨメ!」
急ごしらえのパーティか…それでも、やるしかない!
一階での騒ぎを呆れつつ見下ろしながら、私は姿を隠す精霊魔法を解いた。ここは二階席のバルコニー部分。いきなり姿を現した私に驚いて、周囲がざわめく。
そろそろ頃合いか!
話し声で周囲にバレることを警戒して、アーシェたちは傍に来させてある。
周囲のフォローに徹していたアーシェとラグと頷きあうと、一気に行動に出た。
二階席のバルコニーから身を踊らせ、着地と同時に司会者に向けて走る!
脇をすり抜けざまに拡声効果を持つ魔術具を奪い取ると、すかさず元いた二階席に投げつけた。
「受け取れ、三流記者!」
直後、会場に大音声が響き渡った。
「号外、号~外~!!!!」
その場にいた多くの者が思わず耳を塞ぐほどの歓声は、他ならぬ三流記者・ネズミ獣人のビルのものだ。
あの馬鹿、調子に乗って最大音量にまで上げたな…!
二階席にはもともと、私とともに奴がスタンバイしていたのだ。アーチと軽く打ち合わせをしていた時からそこは織り込み済みだったが。精霊魔法で姿を消して投票所に張り込ませ、決定的な瞬間をスクープさせたのだ。
ご丁寧に魔術師ギルド謹製の肖像画の撮影機までを持参していたと言うのだから周到にもほどがある。最近落ち目だった雑誌、エルダード・ゴシップを押し上げるのに必死だったというわけだ…記者の鑑だな。
どこかでバレるかとヒヤヒヤしていたこっちが馬鹿らしくなるくらいに、ビルの隠密能力が驚異的だったせいもあり、誰にもバレることなく今に至る。
おかげでこっちもずいぶん楽ができたのは秘密だ。
「『青薔薇亭』の創始者ジェイソン・クラウト氏の正体は、悪名高き大詐欺師アングル・スタンレーだった!? そして彼の側近であるブルース氏の手によって行われた、明らかな不正の証拠の大スクープだ! 証拠の肖像画はこちらに! さあ、号外! 号外だよ!!」
高らかな声は止まらず、号外と大写しに書かれた記事が二階席からばら撒かれる。拡声魔法を凌ぐどよめきが周囲に満ちつつあった。
「証拠はこんなもんでどうだ? 大詐欺師アングル・スタンレーさんよ?」
揶揄するアーチの挑発に拳を固めて赤く染まった面を震わせる大詐欺師は、ぶつぶつと呪詛の呟きを漏らしながら周囲を見回す。
前もって作られていた優勝アイドルのグッズにビルのスクープ記事、そして自分の正体の看破。
次の商売の足がかりとなるアイドル投票会場が、自らの告発会場に変わってしまったのだ。その怒りは相当なものだろう。
「連れてきたぞ!」
そこにちょうど、自警団を連れてきたエドガーが飛び込んできた。道中で事情は説明していたらしく、先頭にいるラインハルトは大詐欺師を捕縛するべく凛とした声で宣言する。
「詐欺師アングル・スタンレー! 諸々の詐欺罪で逮捕する!」
奴を取り囲む冒険者たちに自警団員。詐欺師を告発するブーイングの嵐にも関わらず、奴は高笑いを放った。
「何がおかしい!」
「俺が何の用意もせずにいると思うのか?」
言いながら奴が懐から取り出したのは、見覚えのある赤い結晶だった!
「魔獣結晶!」
止める間もなく結晶は床に叩きつけられた。とたんに赤い輝きが周囲に満ちる。
「な、なに? なんなの?」
「どうなっている? 詐欺師はなにを?」
「やだ、何か出た!」
「たすけてぇぇぇ!」
混乱する会場。叩きつけられた地点を中心に広がるのは、赤い光を放つ魔法陣!
その中心からジワリと這い出したのは…黒く巨大な犬に似た魔物が三体!
当然、会場は大混乱となった。平和だと思われていたアイドルの投票結果発表の場に、いきなり魔物を放たれるとは思わなかった…! 歯嚙みをしてももう遅い、自警団にはどさくさで逃げる詐欺師を追ってもらうとして、魔物はこっちで処理するしか手がないのだから!
「兄貴ー! こいつら、ヘルハウンドって言うんだって!」
だしぬけに、混乱に負けない大音声が響き渡った! どうやらビルから魔術具を奪い取って、必要な情報を伝えているようだ。やるなアーシェ! だが少々やかましいなこれ…!
「ラグちゃんが言うには、魔法を使うことはないけど火を噴くから気をつけてって! あと、結構タフだよ!」
了承の合図として手を挙げると、デュエルたちと魔物…ヘルハウンドに向き直る。ラインハルトたちは詐欺師を追っている。アーシェたちは降りて来られない上に、逃げ惑う観客の誘導に手を割かれるだろう。となれば、我々だけで片付けるしかない!
「使ってくれ、大将!」
ラインハルトの部下になった、リックとマックがそれぞれ剣を投げてよこす。デュエルとアーチがそれぞれ受け取ると、野太い笑みを返す。
いつの間にか背後には正義漢エドガーと、アイドルとしての衣装をまとったナユタが控えていた。
「一緒に戦おうじゃないか!」
「私も行くぞ、ヨメ!」
急ごしらえのパーティか…それでも、やるしかない!
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