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intermission 6 アイドルは辛いよ
ゲス記者クライシス!
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side-ラスファ 4
翌日。
気がついたら常連のナユタがアイドルの候補に参戦してきていた。
そろそろ何か動きがあるだろうと読んで、デュエル共々護衛につくことにしたが…やはりというかなんというかナユタの歌は結構下手だった。
それでもファン連中の支持は変わらない。
「ナユタん! ナユタん!」
そう叫びながら光る魔力棒を振って大勢が踊る光景は、ある種壮観だった。
ふと不安に駆られる。放っておけば自分たちも同じようにアイドルと踊ることを義務付けられるんじゃないだろうな? うっかりしていると、なし崩し的にアイドルとして祭り上げられるんじゃなかろうか? マジで冗談じゃないぞ!
「なあドミニク…この宿屋の方向性、どこに行くんだ?」
「そう心配しなさんな! この期間だけのことだよ」
女将はそう言うが、この状況の収拾がつく保証はない。いい加減、通常運転の料理人稼業に戻りたいものだ。
「ヨメ! 今日は居るのか?」
ナユタの一言を聞きとがめて、ジェインは笑顔で問いかける。
「あら、貴女ラスファとどういう関係?」
「? 聞いての通りだが?」
静かに火花が散った気がする。とりあえずヨメ発言の訂正はしているが、対立の空気は変わらず。ライバル関係というやつか…。
「よう、やってるか?」
そこにアーチが帰ってきた。見張りが付いているという話だったが、奴にはなんの障害にもならないようだ。ちなみにエドガーは『青薔薇亭』を引き払って『白銀亭』に居を移した。本人は嘘を渋ったが表向きは襲撃を受けた怪我のため、ということにしてある。
不要と判断された後の脱退に先方はあっさりとした反応のようだが、いつまた襲撃が起きるかはわからない。エドガーも格闘はできるようだが極力戦力を固めるべきという判断のもと、こうしてここに来たというわけだ。
「連中の最終目的の目星がついたぜ」
その一言に、私は頷くとデュエルを促して奥部屋に入った。
「『青薔薇亭』の創始者は詐欺師だ。奴らはアイドル活動の優勝者を決めた上で後援者を募って大金をだまし取るつもりだ。すでに優勝者ハンスのグッズも作ってるってよ」
「やはり、ただの八百長じゃなかったか…」
デュエルが唸る。
「なら、このイベントの発案者もグルか?」
私が投げたその疑問の答えによって、今後の方針は変わってくる。
「いや? イベント本部と『青薔薇亭』は無関係みてぇだ。ただ『青薔薇亭』の息がかかった奴がイベント本部にいるぜ。本番ではそいつが投票箱に細工するんじゃねぇか?」
「なるほどな」
それならまずは、投票箱の周辺に見張りを立てる事が重要になる。それも気づかれないように。
「まあオレは、もう少しだけ『青薔薇亭』で探るもんがあるんでね? 健康的な生活、もうちっとばかし続けるわ」
「いつもの不健康な生活が恋しいんじゃないのか?」
私の皮肉に、奴は手をひらりと振って返す。
来た時と同様、アーチは唐突に裏口へと出て行った。忙しいのか暇なのかわからないが、ご苦労な事だ。
元の宿屋の食堂に戻ると、耳障りな笑い声が響き渡った。
「きッひひひひひひぃ! 特ダネ、特ダネだぁ!」
何者だ? 食堂の中心では、ネズミ獣人の小男がメモを片手に嬉しそうに笑い続けている。
「! あいつ…!」
どうやらデュエルには覚えがあるらしい。足早にそいつに近づくと、予想外の素早さでそいつの首根っこを捕まえてぶら下げる。
「おーや大将、御機嫌よう! いいネタ貰っちまったぜ、ごちそーさん!」
小男は動じた様子もなく、されるがままにぶら下がりながら笑い続けている。チラチラとこちらを見てはニヤついているのが鬱陶しい。
「…何を掴んだ? 三流ゴシップ誌のゲスい記者さんよ?」
「なに、大したネタじゃないぜ? ただ、ちょっとな…?」
この状況においても余裕の笑みは崩れない。
これは…ただ事じゃない。さっきの部屋でのやり取りを聞かれたか? 掴んだ事実を先行して明かされれば、証拠を取る前に隠滅される危険が生じる!
仕方ない。素早くデュエルに目配せをすると、小男共々私の部屋に連れ込んだ。
翌日。
気がついたら常連のナユタがアイドルの候補に参戦してきていた。
そろそろ何か動きがあるだろうと読んで、デュエル共々護衛につくことにしたが…やはりというかなんというかナユタの歌は結構下手だった。
それでもファン連中の支持は変わらない。
「ナユタん! ナユタん!」
そう叫びながら光る魔力棒を振って大勢が踊る光景は、ある種壮観だった。
ふと不安に駆られる。放っておけば自分たちも同じようにアイドルと踊ることを義務付けられるんじゃないだろうな? うっかりしていると、なし崩し的にアイドルとして祭り上げられるんじゃなかろうか? マジで冗談じゃないぞ!
「なあドミニク…この宿屋の方向性、どこに行くんだ?」
「そう心配しなさんな! この期間だけのことだよ」
女将はそう言うが、この状況の収拾がつく保証はない。いい加減、通常運転の料理人稼業に戻りたいものだ。
「ヨメ! 今日は居るのか?」
ナユタの一言を聞きとがめて、ジェインは笑顔で問いかける。
「あら、貴女ラスファとどういう関係?」
「? 聞いての通りだが?」
静かに火花が散った気がする。とりあえずヨメ発言の訂正はしているが、対立の空気は変わらず。ライバル関係というやつか…。
「よう、やってるか?」
そこにアーチが帰ってきた。見張りが付いているという話だったが、奴にはなんの障害にもならないようだ。ちなみにエドガーは『青薔薇亭』を引き払って『白銀亭』に居を移した。本人は嘘を渋ったが表向きは襲撃を受けた怪我のため、ということにしてある。
不要と判断された後の脱退に先方はあっさりとした反応のようだが、いつまた襲撃が起きるかはわからない。エドガーも格闘はできるようだが極力戦力を固めるべきという判断のもと、こうしてここに来たというわけだ。
「連中の最終目的の目星がついたぜ」
その一言に、私は頷くとデュエルを促して奥部屋に入った。
「『青薔薇亭』の創始者は詐欺師だ。奴らはアイドル活動の優勝者を決めた上で後援者を募って大金をだまし取るつもりだ。すでに優勝者ハンスのグッズも作ってるってよ」
「やはり、ただの八百長じゃなかったか…」
デュエルが唸る。
「なら、このイベントの発案者もグルか?」
私が投げたその疑問の答えによって、今後の方針は変わってくる。
「いや? イベント本部と『青薔薇亭』は無関係みてぇだ。ただ『青薔薇亭』の息がかかった奴がイベント本部にいるぜ。本番ではそいつが投票箱に細工するんじゃねぇか?」
「なるほどな」
それならまずは、投票箱の周辺に見張りを立てる事が重要になる。それも気づかれないように。
「まあオレは、もう少しだけ『青薔薇亭』で探るもんがあるんでね? 健康的な生活、もうちっとばかし続けるわ」
「いつもの不健康な生活が恋しいんじゃないのか?」
私の皮肉に、奴は手をひらりと振って返す。
来た時と同様、アーチは唐突に裏口へと出て行った。忙しいのか暇なのかわからないが、ご苦労な事だ。
元の宿屋の食堂に戻ると、耳障りな笑い声が響き渡った。
「きッひひひひひひぃ! 特ダネ、特ダネだぁ!」
何者だ? 食堂の中心では、ネズミ獣人の小男がメモを片手に嬉しそうに笑い続けている。
「! あいつ…!」
どうやらデュエルには覚えがあるらしい。足早にそいつに近づくと、予想外の素早さでそいつの首根っこを捕まえてぶら下げる。
「おーや大将、御機嫌よう! いいネタ貰っちまったぜ、ごちそーさん!」
小男は動じた様子もなく、されるがままにぶら下がりながら笑い続けている。チラチラとこちらを見てはニヤついているのが鬱陶しい。
「…何を掴んだ? 三流ゴシップ誌のゲスい記者さんよ?」
「なに、大したネタじゃないぜ? ただ、ちょっとな…?」
この状況においても余裕の笑みは崩れない。
これは…ただ事じゃない。さっきの部屋でのやり取りを聞かれたか? 掴んだ事実を先行して明かされれば、証拠を取る前に隠滅される危険が生じる!
仕方ない。素早くデュエルに目配せをすると、小男共々私の部屋に連れ込んだ。
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