上 下
234 / 405
intermission 6 アイドルは辛いよ

正義漢は冒険者に向かない?

しおりを挟む
side-ラスファ 3

 アーチの奴、一体何をやっていたんだ?

 アーチ本人が囮になると思っていたら、いつの間にか部外者が巻き込まれている。
 襲撃者は捕まえたものの、この先極秘に事を進めることが困難になってしまっている。
 ついでに言えば、その巻き込まれ部外者は目の前で憤っている。

 …一体どうしてこうなった?

「嘘はいかん、嘘は!」
「いや、だからよ…」
「小さな嘘から犯罪が生まれることがある! 断じて嘘はいかん!」
 …憤るにしても、まずはそっちからか!
 路地裏の地面に襲撃者を転がしたままで、ピントのずれた口論は続いていた。アーチは助けを求めるような視線をこっちの向けているが…知るか。
 
 とは言えこんな平行線を長く続けることも単なる時間の無駄か。仕方ない。

「話し中に悪いが、ちょっといいか?」
 明らかにホッとしたアーチの表情にイラつくが、今はそんな場合でもない。
「偽りを言ったことは申し訳ない。だがこの事件については誰がどういう繋がりをもっているのかが全くつかめていなかった以上、身分を隠すことは致し方なかったことだ。現にさっき、襲撃を受けたことは事実だろう?」
 そこまで言うと、彼…エドガーは決まり悪そうに勢いをなくす。私はさらに畳み掛けた。

「今こうしている間にも、まだ同様の犠牲者が出ているのかもしれない。少しでも次の犠牲を食い止めないと今後、さらに深刻な事態に発展するかもしれないんだ。わかってくれるか?」
「………」

相手が黙ったところで、転がったままの襲撃者に目を落とす。とりあえず暴れる上に自害されても困るので、精霊魔法で眠らせた。

「アーチ、見たことあるやつか?」
 もちろんこの場合は『盗賊ギルド』でと言う意味だが、こっちの正義感の塊にそれを悟られては、さらに面倒な事になりかねない。
 こいつの融通のきかなさはラインハルト以上かもしれない。
「いや、ギルドでも見た事ねぇな。こりゃもしかしたら『闇ギルド』の奴じゃねぇの?」

 闇ギルド。
 冒険者ギルドに所属しない、モグリの組織だ。真っ当な依頼が来ることはなく非合法の…例えば窃盗や誘拐、果ては暗殺を請け負うこともあるそうだ。
 噂ばかりかと聞いていたら、いつのまにかエルダードにもその手は伸びて来ているとは…。

 冒険者ギルドとは不倶戴天の間柄な上、犯罪行為の温床になるために自警団でも取り締まり対象とされている。だが正体がつかめていないのが現状だ。

「ラインハルトに連絡するか?」
「いや、うちのギルドでじっくりとしてもらっとこう。快く話してくれることだろうよ」
「わかった。なら任せるぞ」
「よしきた」

 
 アーチが襲撃者を引きずっていくと、路地裏には私とエドガーだけが残された。
「君も冒険者か?」
 その質問に、私は頷く。
「ああ。アーチの冒険者仲間だ。ラスファエル・バリニーズ…ラスファでいい」

 そこまで言うと、とりあえず気になった事を聞いて見た。
「しかし、あんたもアイドル志望なのか? 一見して冒険者か自警団に見えたが?」
 その質問に、彼は苦笑いで答えた。

「まあな。もともと冒険者志望だったんだが、気がついたらあそこでレッスンを受けていてな。観光大使冒険者の養成所だと気づいた時は遅かった」
 …あー…騙されたのか。なんか納得した。

「どっちかというと、冒険者よりも自警団に向いていそうだな。そっちには興味ないか?」
 オブラートに包んでいるが、要するにこんな騙されやすくては冒険者は務まらないと言ったつもりだ。気づいているのかいないのか、彼はまんざらでもなさそうに考え込んだ。
「自警団か…それも悪くないな。正義のために町を守る…うん!」
「なら、一段落したら自警団のツテを紹介しようか? 知り合いは多いからな」

 そう言うと、いきなり腕を掴まれた。
「?!」
「ありがとう、恩に着る! 一旗あげようと出て来たが、何をすればいいのかわからなくなってな!」
 …いや、そこは先に決めておけよ…。
「いい奴だな、君は!」
「…そりゃどうも…」

 …なんというか…暑苦しくて苦手なタイプだ…。

 ひとまずは彼にもこの事件については協力してもらう事になりそうだ。
 騙されやすいところは気にかかるがな…。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

愛人がいらっしゃるようですし、私は故郷へ帰ります。

hana
恋愛
結婚三年目。 庭の木の下では、旦那と愛人が逢瀬を繰り広げていた。 私は二階の窓からそれを眺め、愛が冷めていくのを感じていた……

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

処理中です...