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intermission 6 アイドルは辛いよ

ハンスとヒゲダルマ

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side-アーチ 3

 あー、今日も朝日が眩しい。
 朝も早よから美容体操にスムージー、ダンスにレッスンに柔軟体操。考えてみりゃ久しぶりかもな、こんな健康的な生活は…。気のせいか、ちょっぴり肌ツヤが良くなった気がしてきたぜ。

 だがまあ、精神的な健康とは別モンだよなぁ。ここにいる連中、みんなボディは健康だが目が死んでる。生きのいいゾンビ軍団って言ったら怒られちまうかな?
 
「諸君、今日も励んでいるようで大変結構!」
 果てしなく上から目線の金髪のおっさんが柔軟体操するオレたちを見ながら、大きく手を鳴らす。なんだこいつ? 
 全ての指には大粒の指輪がはめられ、金持ち特有の悪趣味なセンスしたスーツに身を包んでいる。 縦幅は足りねェが、横幅は十二分。貫禄不足のちょび髭のせいで『ヒゲダルマ』という単語が浮かんできた。そう考えりゃ、愛嬌もなくはねェ。

 そのおっさんの背後から、外ハネ金髪の男が現れた。いかにもスカした顔つきで、仕草もナルシスト全開。顔だけ見りゃフランシスと張るイケメン風だが、ただそれだけって感じだ。その証拠にレッスンしていた女連中は冷ややかな目を向けている。
あー、こりゃ相当セクハラとかやらかしてるな。

、レッスンご苦労! 諸君らには立派な観光大使アイドルになってもらう!」

 …いやテメーらのためじゃねェから。
 全員の心の声を代弁するとこうなるだろう。だがその馬鹿親子を見る全員の目に、かすかな殺意が宿ってることに気づいてねェんだな。

「ところで昨夜、また一人逃亡したようだ。誰かが手引きしたのはわかっている。誰だ?」
 ヒゲダルマのその問いに全員が下を向いた。日常のことなのか、誰も声を上げねェな。

 バカ息子ハンスの目がこっちに向いた…こっち見んなテメー。
「そういえば新米。昨夜外出したみたいだけど、どこに行ってた?」
 見るからに嫌なカオして笑いながら、ハンスはオレに歩み寄る。
 とりあえず用意していた弁解を試みるか。念のためダミーの白い薬袋も用意してるぜ。中身はただの小麦粉だがな。
「ああ、知人に預けっぱなしにしていた持病の薬を忘れたことに気づきまして。発作起こしかけてたんで慌てて取りに…」

 オレの言葉は最後まで出なかった。

 ———ガッ!

 奴の爪先がオレの腹にめり込む!
 周りからは悲鳴が上がった。ゆるく咳き込みながら、オレは床に膝をつく。懐からこぼれた薬袋から、白い小麦粉が飛び散った。
「なんだって? 聞こえなかったなぁ?」
 嬉しくて仕方ないという醜い笑みで、奴はオレの髪を掴む。
 この様子じゃこいつ、こんなことはしょっちゅうやってやがるな? 

 人前で暴力振るえば、大概の一般人は萎縮する。
 だから冒険者は雇わず一般人を積極的に募集してたんだろうか? 
 それが真相なら、こいつらはそうやって逃げられねぇように候補者を支配してやがったんだ!

 冒険者の習性で、とっさに腹筋に力を入れてガードしたお陰でダメージは最小限にとどめた。だが苦しむフリをして、さらに奴の出方を見る。
「い…いえ…持病の薬を…」
 再び加えられる打撃。今度は背中だ。
「オレ専属の、バックダンサーの顔を傷つけるわけにはいかないからなあ? 感謝しろよ」
 …ッあー…流石に今度はちょっと息止まったわ…。

「やめたまえ!」
 そんな時、至近距離から大きく声が上がった。
 最前列にいた、タンクトップ姿で体格のいい男がオレと奴とを引き離す。いかにもな正義の味方といった風貌だ。
「持病のある者を痛めつけるなど、言語道断!」
 そいつはキラキラした目を周囲に向けながら、バカ息子ハンスに説教をかました。

 その暑苦しい台詞をハンスは鼻先でせせら笑う。
「勝手に外出した新入りに、ここの流儀を教えてるところだ。文句あるのか?」
「流儀がなんだ、人間としての正しき行いをしてからいいたまえ!」

 なんか勝手に口論始めてるが、オレとしては完全に出遅れちまった。
 あ~あ…真正面からバカ息子に楯突く役って、オレがやるはずだったんだけどなぁ…。

   女を庇ってカッコよくタンカ切るつもりだったってのに。何でオレ、逆に庇われる役になってるんだろ…?

 テンション下がるわー…。
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