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intermission 6 アイドルは辛いよ
策士と知恵者
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side-デュエル 5
「思った通りだ」
広げたリストとヴィヴィたちから聞いた話を総合すると、ラスファは目を細めた。
「例のハンスとやらの『優勝』の妨げになる者が主な襲撃の対象になっているようだ」
最初に優勝者を取り決めさせておいて、それに沿わない者は排除か。しかも優勝者は有力者の息子とは、呆れて物も言えない。
もしかしたら既に販売されるグッズも作られているのではないのだろうか?
「酷い…」
アーシェたちが義憤に震える。
…まあ、大体の想像はついていたが。それにしてもあくどいやり口だ。
厳しいレッスンは、今後『優勝者』のためのバックダンサーとして都合よく扱うために。そんな中で頭角を現し始めていたジェインも、脅威となりうる候補生だったという事か。セコいにもほどがある。
しかも『青薔薇亭』以外にいる有力者にまで手を伸ばしているとは、悪質きわまりない。
「後は…そのバカにおおっぴらに楯突いた奴も含まれる、と。マジで腐ってやがるな」
呆れたような声音でアーチも続く。
流石にこれは、観光局としても候補者としても看過できない問題だろう。
「問題は、その襲撃者の飼い主探しだ。…捕まえさえすれば証拠として吐かせる可能性もあるが、難航しそうだな」
大方は有力者である父親が関わっているのだろうが、証拠を提示しなければうやむやにされてしまうだろう。
「どうやって捕まえればいいの、そんなの…?」
捕まえようにもどこから出るかわからない。捕まえても雇い主の名を簡単に吐くとは思えない。
腕組みで唸る俺の台詞に、アーチがくつくつと喉を鳴らした。
「オメー、そりゃ逆だろ。ンな駄犬のヒモなんざ、いとも簡単に手繰り寄せられるぜ?」
「?」
振り返る俺に、奴は極上の笑みで答えた。
「おバカボンボンに真正面から盾突きゃ、向こうからお出ましになんだろ? それも、もしかしたら同業者かも知れねぇし。捕まえたら、盗賊ギルドにお持ち帰りすりゃいい。優しい優しいおもてなしで、そりゃもう素直に何でもお話ししてくれるぜ?」
なるほどね、盗賊流のおもてなしか。そりゃ俺でも素直になってしまいそうだ。
背筋に冷たいものを感じながら、俺は一つ頷いた。
「で、俺は捕まえる手伝いか?」
「話が早くて助かるぜ。だが、手伝いはラスファに頼もうと思ってな。オメーじゃデカすぎて目立ちすぎらぁ」
…まあ確かに。
「なら明日、デュエルにはジェインの護衛を頼む。見るからに強そうな大男なら、手出しする方も躊躇するだろう?」
ラスファの提案に俺は同意した。適材適所というやつだ。
「わかった。そっちは頼むぞ」
それからしばらく、アーチはラスファと詳しい取り決めを詰めていった。
この二人は性格が真逆で普段はソリが合わないくせに、こういう悪巧みになると急に息が合うのが不思議で仕方ない。
以前にとある依頼人から、キツネのようだと評された事があった。全くその通りで、アーチが外交関連の知恵者ならラスファは戦略関連の策士だ。
この先何があっても、この二人だけは敵に回したくはない。
「んじゃ明日の昼過ぎ、適当に暴れてやりますかね?」
明日の戦略が定まったところで言うだけいうと、アーチは楽しそうに立ち上がる。
「んじゃオレは『青薔薇亭』に戻るとするか。明日が楽しみで眠れねぇわ♪」
踊るような足取りで、アーチは『青薔薇亭』に戻っていった。鬱憤でも溜まっていたんだろうか?
「あの…今更ですが、貴方達は一体…?」
ヴィヴィがおずおずと尋ねる。
俺の代わりにアーシェが嬉々として答えた。
「あたしたちは、観光大使とかじゃない本物の冒険者だよ! 困ってる人を助けるから、任っかせといてよね!」
おいおい…主に頑張るの、こっちなんだけどな。
「思った通りだ」
広げたリストとヴィヴィたちから聞いた話を総合すると、ラスファは目を細めた。
「例のハンスとやらの『優勝』の妨げになる者が主な襲撃の対象になっているようだ」
最初に優勝者を取り決めさせておいて、それに沿わない者は排除か。しかも優勝者は有力者の息子とは、呆れて物も言えない。
もしかしたら既に販売されるグッズも作られているのではないのだろうか?
「酷い…」
アーシェたちが義憤に震える。
…まあ、大体の想像はついていたが。それにしてもあくどいやり口だ。
厳しいレッスンは、今後『優勝者』のためのバックダンサーとして都合よく扱うために。そんな中で頭角を現し始めていたジェインも、脅威となりうる候補生だったという事か。セコいにもほどがある。
しかも『青薔薇亭』以外にいる有力者にまで手を伸ばしているとは、悪質きわまりない。
「後は…そのバカにおおっぴらに楯突いた奴も含まれる、と。マジで腐ってやがるな」
呆れたような声音でアーチも続く。
流石にこれは、観光局としても候補者としても看過できない問題だろう。
「問題は、その襲撃者の飼い主探しだ。…捕まえさえすれば証拠として吐かせる可能性もあるが、難航しそうだな」
大方は有力者である父親が関わっているのだろうが、証拠を提示しなければうやむやにされてしまうだろう。
「どうやって捕まえればいいの、そんなの…?」
捕まえようにもどこから出るかわからない。捕まえても雇い主の名を簡単に吐くとは思えない。
腕組みで唸る俺の台詞に、アーチがくつくつと喉を鳴らした。
「オメー、そりゃ逆だろ。ンな駄犬のヒモなんざ、いとも簡単に手繰り寄せられるぜ?」
「?」
振り返る俺に、奴は極上の笑みで答えた。
「おバカボンボンに真正面から盾突きゃ、向こうからお出ましになんだろ? それも、もしかしたら同業者かも知れねぇし。捕まえたら、盗賊ギルドにお持ち帰りすりゃいい。優しい優しいおもてなしで、そりゃもう素直に何でもお話ししてくれるぜ?」
なるほどね、盗賊流のおもてなしか。そりゃ俺でも素直になってしまいそうだ。
背筋に冷たいものを感じながら、俺は一つ頷いた。
「で、俺は捕まえる手伝いか?」
「話が早くて助かるぜ。だが、手伝いはラスファに頼もうと思ってな。オメーじゃデカすぎて目立ちすぎらぁ」
…まあ確かに。
「なら明日、デュエルにはジェインの護衛を頼む。見るからに強そうな大男なら、手出しする方も躊躇するだろう?」
ラスファの提案に俺は同意した。適材適所というやつだ。
「わかった。そっちは頼むぞ」
それからしばらく、アーチはラスファと詳しい取り決めを詰めていった。
この二人は性格が真逆で普段はソリが合わないくせに、こういう悪巧みになると急に息が合うのが不思議で仕方ない。
以前にとある依頼人から、キツネのようだと評された事があった。全くその通りで、アーチが外交関連の知恵者ならラスファは戦略関連の策士だ。
この先何があっても、この二人だけは敵に回したくはない。
「んじゃ明日の昼過ぎ、適当に暴れてやりますかね?」
明日の戦略が定まったところで言うだけいうと、アーチは楽しそうに立ち上がる。
「んじゃオレは『青薔薇亭』に戻るとするか。明日が楽しみで眠れねぇわ♪」
踊るような足取りで、アーチは『青薔薇亭』に戻っていった。鬱憤でも溜まっていたんだろうか?
「あの…今更ですが、貴方達は一体…?」
ヴィヴィがおずおずと尋ねる。
俺の代わりにアーシェが嬉々として答えた。
「あたしたちは、観光大使とかじゃない本物の冒険者だよ! 困ってる人を助けるから、任っかせといてよね!」
おいおい…主に頑張るの、こっちなんだけどな。
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