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intermission 6 アイドルは辛いよ
逃亡者と一緒♪
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side-アーチ 2
勢い任せでアイドルに志願しちまったが…早速オレはそのことをめいっぱい後悔していた。
あれからずっとレッスン漬けで外出もままならねぇわ、空気はギスギスしてるわ…。
ああああああ! 外に出てェ! ナンパしてぇ! なんで出入り口にいちいち見張りがついてやがんだ!
食事は出るが、味気ねぇダイエット食ばっか。朝も早よから美容体操? みてぇなのやらされて、夜になりゃレッスン終了とともに寝かされて…自由が一切ねぇってのが、こんなストレスたまるなんて思わなかったぜ! 一日やそこらでこうなったオレに言えた義理じゃねぇが、候補生連中をマジで尊敬するぜ。
「なあ…こんな生活で逃亡者っていなかったのか?」
近くを歩いてた、同じ立場の女子候補生を捕まえて真顔でオレは尋ねた。ちなみにみんな目が死んでやがる。
「逃亡? しょっちゅうだよそんなの…」
ちなみに整った目鼻立ちの美人じゃあるが、こんな生気のねぇ相手じゃナンパもしづらい。
「私も何度か逃げようかと思ったけど、その度に連れ戻されて責められたの。もういい、もういいの…」
ああ…ヤバイなこりゃ…。彼女の精神は、かなり擦り切れてる。こんな状態で、いつからここにいるんだか?
「…荷物、まとめて来い」
彼女の耳元で、オレは囁いた。チッ、口説く時ぐれぇしか使わねぇんだがな。
驚いたように振り向く彼女にオレはさらに続けた。
「なるたけコンパクトにな。逃げるぞ!」
やってやろうじゃねぇか。女ひとり盗み出せねぇで、何が盗賊だ!
見張りの死角から、背後に立って首筋に一撃!
崩れ落ちる見張りを受け止めると、そっとその場に横たえる。
彼女に手で合図すると、頷いて出てきた。
「いいか、この道をまっすぐ行け!」
頷く彼女に寄り添う形でオレも夜の街に飛び出す。なんでぇ、案外ちょろいな見張り。
オレたちはその足で白銀亭に向かった。中間報告と情報共有のためにな。
連日のレッスンで鍛えられてるのか、彼女の足取りは案外軽い。足手まといにはならないと思うぜ。
「よーう、悪いな! 報告が遅くなっちまってよ」
戸惑う彼女を『白銀亭』に押し込むと、すかさずオレも後に続く。閉店後の閑散とした食堂に揃う面々に軽く声をかけたが、見慣れねぇ美人にオレの目は吸い寄せられた。お? 誰だ?
「アーチ? もう中間報告か?」
厨房からラスファが出てきた。片付け物をしていたとこらしい。
「まあちょっとな。人助けってやつ?」
連れ帰った彼女を奥に促すと、見慣れぬ美人が声をあげた。
「貴女…確か『青薔薇亭』にいた…!」
「ヴィヴィといいます…」
お? 知り合い?
ラスファが二人の前に香茶を置く。オレにはねぇのかこの野郎。
落ち着いて話すと見慣れねぇ美人さんは、最近『青薔薇亭』を追い出されたジェインっつー候補生だったとよ。オレと行き違いで『白銀亭』に来たと聞いて、ちょっと悔しかったのは秘密だ。
「ジェインさん、私たち候補生の中で一番歌や踊りが上手かったから覚えてます。ハンスさんが悔しがってたくらいですから…」
オレが連れ帰ったヴィヴィがはにかみながら話す。…笑えば可愛いじゃねぇか。
「いきなりアーちんが連れてくるから、もう手を出したか? って思ったわよ。ごめん」
アーシェ…オメー結構言いやがるな。
「でも人助けだったのですね! 師匠、さすがです!」
「お、おう!」
…今は弟子の純粋さに癒されるぜ。
「確かハンスって『優勝者』だったよな?」
デュエルがそれまで飲んでいた酒をちびりと舐めながら尋ねる。
「おう。実物見たが、見てくれだけだな。歌もダンスも上手とは言えねぇし、性格も悪いぜ」
「なんでそんなのを『優勝者』なんて設定するんだか? 他の候補者にとっては良い迷惑だろうな」
ため息交じりのデュエルに、オレはさらに続けた。
「なんでも、有力者の息子らしいぜ。おバカなボンボンそのものってヤツだけどな」
「父親の威光を傘に着て、好き放題やってるタイプのやなヤツだったのよ。嫌われてたけど、父親の事があるから誰も言えなかった」
…なるほどな。
「正面から楯突いたのは、ジェインさんと数人だけ。しかもその後、みんな襲撃されちゃったから…」
…ん? んん?
まさか…まさかな?
同じことを考えたのか、ラスファが例のリストを広げた。
さあ、どうなるんだろうな?
勢い任せでアイドルに志願しちまったが…早速オレはそのことをめいっぱい後悔していた。
あれからずっとレッスン漬けで外出もままならねぇわ、空気はギスギスしてるわ…。
ああああああ! 外に出てェ! ナンパしてぇ! なんで出入り口にいちいち見張りがついてやがんだ!
食事は出るが、味気ねぇダイエット食ばっか。朝も早よから美容体操? みてぇなのやらされて、夜になりゃレッスン終了とともに寝かされて…自由が一切ねぇってのが、こんなストレスたまるなんて思わなかったぜ! 一日やそこらでこうなったオレに言えた義理じゃねぇが、候補生連中をマジで尊敬するぜ。
「なあ…こんな生活で逃亡者っていなかったのか?」
近くを歩いてた、同じ立場の女子候補生を捕まえて真顔でオレは尋ねた。ちなみにみんな目が死んでやがる。
「逃亡? しょっちゅうだよそんなの…」
ちなみに整った目鼻立ちの美人じゃあるが、こんな生気のねぇ相手じゃナンパもしづらい。
「私も何度か逃げようかと思ったけど、その度に連れ戻されて責められたの。もういい、もういいの…」
ああ…ヤバイなこりゃ…。彼女の精神は、かなり擦り切れてる。こんな状態で、いつからここにいるんだか?
「…荷物、まとめて来い」
彼女の耳元で、オレは囁いた。チッ、口説く時ぐれぇしか使わねぇんだがな。
驚いたように振り向く彼女にオレはさらに続けた。
「なるたけコンパクトにな。逃げるぞ!」
やってやろうじゃねぇか。女ひとり盗み出せねぇで、何が盗賊だ!
見張りの死角から、背後に立って首筋に一撃!
崩れ落ちる見張りを受け止めると、そっとその場に横たえる。
彼女に手で合図すると、頷いて出てきた。
「いいか、この道をまっすぐ行け!」
頷く彼女に寄り添う形でオレも夜の街に飛び出す。なんでぇ、案外ちょろいな見張り。
オレたちはその足で白銀亭に向かった。中間報告と情報共有のためにな。
連日のレッスンで鍛えられてるのか、彼女の足取りは案外軽い。足手まといにはならないと思うぜ。
「よーう、悪いな! 報告が遅くなっちまってよ」
戸惑う彼女を『白銀亭』に押し込むと、すかさずオレも後に続く。閉店後の閑散とした食堂に揃う面々に軽く声をかけたが、見慣れねぇ美人にオレの目は吸い寄せられた。お? 誰だ?
「アーチ? もう中間報告か?」
厨房からラスファが出てきた。片付け物をしていたとこらしい。
「まあちょっとな。人助けってやつ?」
連れ帰った彼女を奥に促すと、見慣れぬ美人が声をあげた。
「貴女…確か『青薔薇亭』にいた…!」
「ヴィヴィといいます…」
お? 知り合い?
ラスファが二人の前に香茶を置く。オレにはねぇのかこの野郎。
落ち着いて話すと見慣れねぇ美人さんは、最近『青薔薇亭』を追い出されたジェインっつー候補生だったとよ。オレと行き違いで『白銀亭』に来たと聞いて、ちょっと悔しかったのは秘密だ。
「ジェインさん、私たち候補生の中で一番歌や踊りが上手かったから覚えてます。ハンスさんが悔しがってたくらいですから…」
オレが連れ帰ったヴィヴィがはにかみながら話す。…笑えば可愛いじゃねぇか。
「いきなりアーちんが連れてくるから、もう手を出したか? って思ったわよ。ごめん」
アーシェ…オメー結構言いやがるな。
「でも人助けだったのですね! 師匠、さすがです!」
「お、おう!」
…今は弟子の純粋さに癒されるぜ。
「確かハンスって『優勝者』だったよな?」
デュエルがそれまで飲んでいた酒をちびりと舐めながら尋ねる。
「おう。実物見たが、見てくれだけだな。歌もダンスも上手とは言えねぇし、性格も悪いぜ」
「なんでそんなのを『優勝者』なんて設定するんだか? 他の候補者にとっては良い迷惑だろうな」
ため息交じりのデュエルに、オレはさらに続けた。
「なんでも、有力者の息子らしいぜ。おバカなボンボンそのものってヤツだけどな」
「父親の威光を傘に着て、好き放題やってるタイプのやなヤツだったのよ。嫌われてたけど、父親の事があるから誰も言えなかった」
…なるほどな。
「正面から楯突いたのは、ジェインさんと数人だけ。しかもその後、みんな襲撃されちゃったから…」
…ん? んん?
まさか…まさかな?
同じことを考えたのか、ラスファが例のリストを広げた。
さあ、どうなるんだろうな?
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