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intermission 6 アイドルは辛いよ

女の子の夢

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side-アーシェ1

 ライオネスさんから預かったリストを頼りに、あたしたちはそれぞれ棄権した参加者を訪ねることにした。
 まあ考えてみれば、癒しの神官魔法があるんだし。一応は怪我してても、跡形もなく治せはするのよね?
 だけど実際に棄権してるんだから、どういうことなんだろ? あたしとしては、そこが気になって仕方なかったの。だって冒険者だし、怪我なんてしょっちゅうじゃないの。

 まずは一人目。
 宿屋に行き部屋を教えてもらってノックすると、中からは悲鳴が聞こえてきた。
「あああああ! ごめんなさいごめんなさい! やっぱもうムリ! お願いだから棄権させてー!!」

 …なんかもう、荒みきったというか追い詰められた声が中から聞こえてきた。
「あのー…ちょっとお話を…」
 デュエルが穏やかに話しかけても無理っぽい。中から聞こえる悲鳴混じりの声に困惑するばかり。そのままあたしたちに助けを求める目を向けてくるけど、うーん…。

「ねえ…あたし達が聞いてみようか? 女同士だしさ」
「…頼む」
 実際女の子の部屋だし、いきなり大勢行くのもどうかと思うし。あたしとラグちゃんが中に声をかけると、ちょっとだけ警戒を解いたみたいだった。

「こんにちは~。大丈夫、観光局の者じゃないから!」
「ええ。ちょっとお話を聞かせていただきたいだけなんです…お怪我は大丈夫ですか?」
 ちなみに兄貴達は廊下の端まで行ってもらってる事にした。あたしたちが声かけても、後ろに男連中が居れば警戒されちゃいそうだし。なんなら外でお茶しててもいいぐらいよ!

 女子だけだと安心したのか、ドアが薄く開いた。なんか怯えた野生動物みたい。
「あの、ほんとあたしたちお話をしたいだけなんです」
 ドア越しの彼女は怯えた目を向けながら迷うそぶりを見せたけど、やがて小さな声で言ってくれた。
「…入って…」

 脅かさないように部屋に入ると、そこにいたのは確かに可愛い女の子だった。オレンジ色のショートボブに翠の瞳。化粧っ気のない頰にはそばかすが少し散っている。一見地味な目鼻立ちだけど、化粧映えしそうな感じの子だ。

「お怪我は大丈夫ですか?」
 ベッドに腰掛けクッションを抱えて黙ったままの彼女に、ラグちゃんが優しく語りかける。彼女は黙ったままちいさく頷いた。
 彼女の名はエミリー。アイドルになりたくて故郷から出てきたばかりの子らしい。そのままルックス重視の『青薔薇亭』の審査に合格してイベントに出ることになった矢先の闇討ちだったんだって。

 冒険者じゃなくて一般人か。そりゃ怖かっただろうな…。てか、『青薔薇亭』ってそんなことまでしてるんだ。それなら冒険者の宿屋を名乗らなくても良くない?
「『青薔薇亭』の人が…。冒険者って言っても、観光大使って危険なんかないと言ってたのに。私はただ、観光でここに来て観光大使に憧れただけなのに…」
 
 涙ながらに語るその声に、嘘はない。衣装合わせのために外出した帰りに、暗がりでいきなり斬りかかられたんだって…。
「その時にかすれ気味の男の声で、はっきり言われたの。『棄権しろ。さもなくば次は殺す』って」
 うわ、殺害予告までされてるのか…それは怯えるわ。

 あたしは犯人が許せなかった。何が目的かわからないけど、憧れと夢を原動力にして実家から出てきたばかりの女の子の邪魔をするなんて…!
 傍のラグちゃんを見れば、あたしと同じような顔して唇を噛んでた。


「女の子の夢を邪魔するなんて…」
 彼女の部屋を出るなり唸るあたしを見てか、ラグちゃんが静かに語り出した。
「わたくしにもありますもの、夢は。だから今の彼女の気持ち、わかります…」
 あたしは黙って頷いた。
「夢に向かって走り出そうとしたところで、足をかけられたようなもんよね。立ち直ってくれればいいんだけど…」

 下の階に降りたところで兄貴たちと合流できるかと思ったけど、みんなの姿はそこに無かった。多分この間に、別の人の話を聞いてきてるのかな?

 白銀亭ウチと同じ作りで、ここの一階も食堂兼酒場になってる。どこも同じだね。こっちの方がかなりゴージャスな作りに思えるけどさ。
 というわけでとりあえず、ここでお茶しながら兄貴たちを待つことにした。こういう時は動かない方がいいもんね。

「君たち、観光大使に興味ない?」
 いきなりキザな声がかけられた。振り向けば金髪の派手なお兄さんが跪いてキラキラしい笑みを向けている。

「…えー…」
 なに、もしかしてここってただの酒場とかじゃないの? 噂に聞くホストクラブとか、お店な訳? 
 ラグちゃんが警戒しながらあたしに身を寄せる。お兄さんは馴れ馴れしい笑みで手を広げた。

「あっは! 大丈夫だよ、そんな警戒しないで。今度、観光大使から派生したアイドルを募集しててね。一つ空きができたからどうかなって」
「そうそう、君たちなら素質はありそうだしさ」
 さらに反対側からもう一人、別の黒髪お兄さんが顔を出す。こっちもまた随分とキラキラした感じだわ。

「…お兄さんも、冒険者なの?」
 あたしはちょっと探りを入れて様子を見ることにした。幼い女の子のフリして、どう出るか見ようかと思って。
 …ちょっとだけプライドが傷つくけどさ…。

「ああ、僕たちはそんな野蛮なことはしないのさ」
「そうそう、そんな汗臭い事は他所に任せるよ」
 …ピキ…。こめかみがちょっとひきつる。でもあたしはおくびにも出さないように驚いた様子でさらに尋ねる。
「そうなの? 表の看板には『冒険者の宿屋』みたいに書いてたけど…」
「ああ、便宜上ね」
「?」
 その時、兄貴がここに戻ってきた。
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