222 / 405
intermission 6 アイドルは辛いよ
女の子の夢
しおりを挟む
side-アーシェ1
ライオネスさんから預かったリストを頼りに、あたしたちはそれぞれ棄権した参加者を訪ねることにした。
まあ考えてみれば、癒しの神官魔法があるんだし。一応は怪我してても、跡形もなく治せはするのよね?
だけど実際に棄権してるんだから、どういうことなんだろ? あたしとしては、そこが気になって仕方なかったの。だって冒険者だし、怪我なんてしょっちゅうじゃないの。
まずは一人目。
宿屋に行き部屋を教えてもらってノックすると、中からは悲鳴が聞こえてきた。
「あああああ! ごめんなさいごめんなさい! やっぱもうムリ! お願いだから棄権させてー!!」
…なんかもう、荒みきったというか追い詰められた声が中から聞こえてきた。
「あのー…ちょっとお話を…」
デュエルが穏やかに話しかけても無理っぽい。中から聞こえる悲鳴混じりの声に困惑するばかり。そのままあたしたちに助けを求める目を向けてくるけど、うーん…。
「ねえ…あたし達が聞いてみようか? 女同士だしさ」
「…頼む」
実際女の子の部屋だし、いきなり大勢行くのもどうかと思うし。あたしとラグちゃんが中に声をかけると、ちょっとだけ警戒を解いたみたいだった。
「こんにちは~。大丈夫、観光局の者じゃないから!」
「ええ。ちょっとお話を聞かせていただきたいだけなんです…お怪我は大丈夫ですか?」
ちなみに兄貴達は廊下の端まで行ってもらってる事にした。あたしたちが声かけても、後ろに男連中が居れば警戒されちゃいそうだし。なんなら外でお茶しててもいいぐらいよ!
女子だけだと安心したのか、ドアが薄く開いた。なんか怯えた野生動物みたい。
「あの、ほんとあたしたちお話をしたいだけなんです」
ドア越しの彼女は怯えた目を向けながら迷うそぶりを見せたけど、やがて小さな声で言ってくれた。
「…入って…」
脅かさないように部屋に入ると、そこにいたのは確かに可愛い女の子だった。オレンジ色のショートボブに翠の瞳。化粧っ気のない頰にはそばかすが少し散っている。一見地味な目鼻立ちだけど、化粧映えしそうな感じの子だ。
「お怪我は大丈夫ですか?」
ベッドに腰掛けクッションを抱えて黙ったままの彼女に、ラグちゃんが優しく語りかける。彼女は黙ったままちいさく頷いた。
彼女の名はエミリー。アイドルになりたくて故郷から出てきたばかりの子らしい。そのままルックス重視の『青薔薇亭』の審査に合格してイベントに出ることになった矢先の闇討ちだったんだって。
冒険者じゃなくて一般人か。そりゃ怖かっただろうな…。てか、『青薔薇亭』ってそんなことまでしてるんだ。それなら冒険者の宿屋を名乗らなくても良くない?
「『青薔薇亭』の人が…。冒険者って言っても、観光大使って危険なんかないと言ってたのに。私はただ、観光でここに来て観光大使に憧れただけなのに…」
涙ながらに語るその声に、嘘はない。衣装合わせのために外出した帰りに、暗がりでいきなり斬りかかられたんだって…。
「その時にかすれ気味の男の声で、はっきり言われたの。『棄権しろ。さもなくば次は殺す』って」
うわ、殺害予告までされてるのか…それは怯えるわ。
あたしは犯人が許せなかった。何が目的かわからないけど、憧れと夢を原動力にして実家から出てきたばかりの女の子の邪魔をするなんて…!
傍のラグちゃんを見れば、あたしと同じような顔して唇を噛んでた。
「女の子の夢を邪魔するなんて…」
彼女の部屋を出るなり唸るあたしを見てか、ラグちゃんが静かに語り出した。
「わたくしにもありますもの、夢は。だから今の彼女の気持ち、わかります…」
あたしは黙って頷いた。
「夢に向かって走り出そうとしたところで、足をかけられたようなもんよね。立ち直ってくれればいいんだけど…」
下の階に降りたところで兄貴たちと合流できるかと思ったけど、みんなの姿はそこに無かった。多分この間に、別の人の話を聞いてきてるのかな?
白銀亭と同じ作りで、ここの一階も食堂兼酒場になってる。どこも同じだね。こっちの方がかなりゴージャスな作りに思えるけどさ。
というわけでとりあえず、ここでお茶しながら兄貴たちを待つことにした。こういう時は動かない方がいいもんね。
「君たち、観光大使に興味ない?」
いきなりキザな声がかけられた。振り向けば金髪の派手なお兄さんが跪いてキラキラしい笑みを向けている。
「…えー…」
なに、もしかしてここってただの酒場とかじゃないの? 噂に聞くホストクラブとか、そういうお店な訳?
ラグちゃんが警戒しながらあたしに身を寄せる。お兄さんは馴れ馴れしい笑みで手を広げた。
「あっは! 大丈夫だよ、そんな警戒しないで。今度、観光大使から派生したアイドルを募集しててね。一つ空きができたからどうかなって」
「そうそう、君たちなら素質はありそうだしさ」
さらに反対側からもう一人、別の黒髪お兄さんが顔を出す。こっちもまた随分とキラキラした感じだわ。
「…お兄さんも、冒険者なの?」
あたしはちょっと探りを入れて様子を見ることにした。幼い女の子のフリして、どう出るか見ようかと思って。
…ちょっとだけプライドが傷つくけどさ…。
「ああ、僕たちはそんな野蛮なことはしないのさ」
「そうそう、そんな汗臭い事は他所に任せるよ」
…ピキ…。こめかみがちょっとひきつる。でもあたしはおくびにも出さないように驚いた様子でさらに尋ねる。
「そうなの? 表の看板には『冒険者の宿屋』みたいに書いてたけど…」
「ああ、便宜上ね」
「?」
その時、兄貴がここに戻ってきた。
ライオネスさんから預かったリストを頼りに、あたしたちはそれぞれ棄権した参加者を訪ねることにした。
まあ考えてみれば、癒しの神官魔法があるんだし。一応は怪我してても、跡形もなく治せはするのよね?
だけど実際に棄権してるんだから、どういうことなんだろ? あたしとしては、そこが気になって仕方なかったの。だって冒険者だし、怪我なんてしょっちゅうじゃないの。
まずは一人目。
宿屋に行き部屋を教えてもらってノックすると、中からは悲鳴が聞こえてきた。
「あああああ! ごめんなさいごめんなさい! やっぱもうムリ! お願いだから棄権させてー!!」
…なんかもう、荒みきったというか追い詰められた声が中から聞こえてきた。
「あのー…ちょっとお話を…」
デュエルが穏やかに話しかけても無理っぽい。中から聞こえる悲鳴混じりの声に困惑するばかり。そのままあたしたちに助けを求める目を向けてくるけど、うーん…。
「ねえ…あたし達が聞いてみようか? 女同士だしさ」
「…頼む」
実際女の子の部屋だし、いきなり大勢行くのもどうかと思うし。あたしとラグちゃんが中に声をかけると、ちょっとだけ警戒を解いたみたいだった。
「こんにちは~。大丈夫、観光局の者じゃないから!」
「ええ。ちょっとお話を聞かせていただきたいだけなんです…お怪我は大丈夫ですか?」
ちなみに兄貴達は廊下の端まで行ってもらってる事にした。あたしたちが声かけても、後ろに男連中が居れば警戒されちゃいそうだし。なんなら外でお茶しててもいいぐらいよ!
女子だけだと安心したのか、ドアが薄く開いた。なんか怯えた野生動物みたい。
「あの、ほんとあたしたちお話をしたいだけなんです」
ドア越しの彼女は怯えた目を向けながら迷うそぶりを見せたけど、やがて小さな声で言ってくれた。
「…入って…」
脅かさないように部屋に入ると、そこにいたのは確かに可愛い女の子だった。オレンジ色のショートボブに翠の瞳。化粧っ気のない頰にはそばかすが少し散っている。一見地味な目鼻立ちだけど、化粧映えしそうな感じの子だ。
「お怪我は大丈夫ですか?」
ベッドに腰掛けクッションを抱えて黙ったままの彼女に、ラグちゃんが優しく語りかける。彼女は黙ったままちいさく頷いた。
彼女の名はエミリー。アイドルになりたくて故郷から出てきたばかりの子らしい。そのままルックス重視の『青薔薇亭』の審査に合格してイベントに出ることになった矢先の闇討ちだったんだって。
冒険者じゃなくて一般人か。そりゃ怖かっただろうな…。てか、『青薔薇亭』ってそんなことまでしてるんだ。それなら冒険者の宿屋を名乗らなくても良くない?
「『青薔薇亭』の人が…。冒険者って言っても、観光大使って危険なんかないと言ってたのに。私はただ、観光でここに来て観光大使に憧れただけなのに…」
涙ながらに語るその声に、嘘はない。衣装合わせのために外出した帰りに、暗がりでいきなり斬りかかられたんだって…。
「その時にかすれ気味の男の声で、はっきり言われたの。『棄権しろ。さもなくば次は殺す』って」
うわ、殺害予告までされてるのか…それは怯えるわ。
あたしは犯人が許せなかった。何が目的かわからないけど、憧れと夢を原動力にして実家から出てきたばかりの女の子の邪魔をするなんて…!
傍のラグちゃんを見れば、あたしと同じような顔して唇を噛んでた。
「女の子の夢を邪魔するなんて…」
彼女の部屋を出るなり唸るあたしを見てか、ラグちゃんが静かに語り出した。
「わたくしにもありますもの、夢は。だから今の彼女の気持ち、わかります…」
あたしは黙って頷いた。
「夢に向かって走り出そうとしたところで、足をかけられたようなもんよね。立ち直ってくれればいいんだけど…」
下の階に降りたところで兄貴たちと合流できるかと思ったけど、みんなの姿はそこに無かった。多分この間に、別の人の話を聞いてきてるのかな?
白銀亭と同じ作りで、ここの一階も食堂兼酒場になってる。どこも同じだね。こっちの方がかなりゴージャスな作りに思えるけどさ。
というわけでとりあえず、ここでお茶しながら兄貴たちを待つことにした。こういう時は動かない方がいいもんね。
「君たち、観光大使に興味ない?」
いきなりキザな声がかけられた。振り向けば金髪の派手なお兄さんが跪いてキラキラしい笑みを向けている。
「…えー…」
なに、もしかしてここってただの酒場とかじゃないの? 噂に聞くホストクラブとか、そういうお店な訳?
ラグちゃんが警戒しながらあたしに身を寄せる。お兄さんは馴れ馴れしい笑みで手を広げた。
「あっは! 大丈夫だよ、そんな警戒しないで。今度、観光大使から派生したアイドルを募集しててね。一つ空きができたからどうかなって」
「そうそう、君たちなら素質はありそうだしさ」
さらに反対側からもう一人、別の黒髪お兄さんが顔を出す。こっちもまた随分とキラキラした感じだわ。
「…お兄さんも、冒険者なの?」
あたしはちょっと探りを入れて様子を見ることにした。幼い女の子のフリして、どう出るか見ようかと思って。
…ちょっとだけプライドが傷つくけどさ…。
「ああ、僕たちはそんな野蛮なことはしないのさ」
「そうそう、そんな汗臭い事は他所に任せるよ」
…ピキ…。こめかみがちょっとひきつる。でもあたしはおくびにも出さないように驚いた様子でさらに尋ねる。
「そうなの? 表の看板には『冒険者の宿屋』みたいに書いてたけど…」
「ああ、便宜上ね」
「?」
その時、兄貴がここに戻ってきた。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜
mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!?
※スカトロ表現多数あり
※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
異世界召喚された俺は余分な子でした
KeyBow
ファンタジー
異世界召喚を行うも本来の人数よりも1人多かった。召喚時にエラーが発生し余分な1人とは召喚に巻き込まれたおっさんだ。そして何故か若返った!また、理由が分からぬまま冤罪で捕らえられ、余分な異分子として処刑の為に危険な場所への放逐を実行される。果たしてその流刑された所から生きて出られるか?己の身に起こったエラーに苦しむ事になる。
サブタイトル
〜異世界召喚されたおっさんにはエラーがあり処刑の為放逐された!しかし真の勇者だった〜
【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する
雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。
その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。
代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。
それを見た柊茜は
「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」
【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。
追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん…....
主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる