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intermission 6 アイドルは辛いよ

暗雲立ち込める書類審査

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side-デュエル 2

 アイドルイベントのことはまだ観光客に周知されてないのか、街に様子に変わりはない。だが、どことなく浮き足立った者の姿がそこここに見受けられた。おそらくは関係者か当事者か?

 そんな中で青い顔した観光局員が白銀亭を訪れたのは、翌日の夕刻のことだった。
「冒険者ギルドの評判を聞いて、参りました。あなた方を見込んで、たってのお願いがございます!」
 女将さんは黙って頷くと、俺たちを秘密の部屋に促す。いつもの流れにいつものメンバー。だがきっかけはいつもと勝手が違っていた。


「冒険者ギルドの評判というと…紹介者って?」
「はい。ギルドの三本柱、チャールズさんにマルグリッドさん、そしてオズワルドさんです。とにかく安心して事を預けられると絶賛しておられました」
 流れ通りに依頼内容を聞くなり、彼は吐き出すように話し始めた。というか、あの三人…そこまで俺たちを買ってくれていたのか。とりあえず全員で簡単な自己紹介をすませると、依頼内容を促した。

 冒険者ギルドから紹介された依頼人の仕事という時点で、今回の件に拒否権などない。この世の中、義理人情で回っている面も多いのだ。特に今回のようにギルドから直に来た依頼は、決して断らないのが慣例となっている。

 依頼人の名はライオネスさん、今回のイベントの大元の発案者なんだそうだ。小柄な小太り体型で茶色い髪を後ろに撫で付けた、なんとなく幸薄そうな四十代半ばくらいの男性だ。
 彼は冷や汗を拭きながら分厚い一冊のファイルをテーブルに広げた。

「今回のイベントの参加者の皆さんと、所属の宿屋のリストです。参考までに肖像画付きのプロフィールもあります。リストの皆さんは書類審査に持ち込まれた方々です」
 全員が覗き込むと、所々に赤い線で名前を抹消した形跡がある。書類審査の時点での失格者だろうか? 

「この赤い線は?」
 俺の問いに、ライオネスさんは顔を曇らせた。
「消されているのは書類審査での失格者に加えて、闇討ちされて棄権した方々です。そしてそれが今回の依頼になるんですが…」
「闇討ち!?」
のどかなイベントに似つかわしくない物騒な単語に、俺はライオネスさんを見返した。

「穏やかじゃねぇな。優勝賞金がデカかったりするのか?」
 アーチが面白そうにライオネスさんを見下ろして不敵に笑う。…不謹慎だが乗りかけている証拠だ。
「いえ。実は賞金というよりもこの先一年間、観光大使の『女王』もしくは『王』として活動してもらうことになっておりました。要はミスコンなどで選考する、観光大使の代表役ですな」

 その答えにアーチは頰を引きつらせた。うっかり立候補しかけただけに、面倒な役目を押し付けられるところだったと胸を撫で下ろしているのだろう。
 結構ノリノリだったし、そういう仕事には向いていると思うが…流石に本業に差し支えることは確実だ。何より探索専門とはいえ、盗賊がひたすら目立つのも役割的にどうかと思う。

「…で、その『代表役』選考で闇討ち…。他にそんな手に出るだけのメリットはあるのか?」
 我関せずといった風にラスファが話を進めると、ライオネスさんはため息をつきながら首を振った。
「優勝した暁にはポスターやグッズを特別に発売される事と、さまざまなイベントへの優先的な仕事。そして所属する宿屋の宣伝や、観光大使としてのステップアップなど、諸々の特典がついてきます。賞金は一応出ますが、さほどの額でもないですし…強いて言うなら有名になれる事と名誉も、でしょうか?」

「…罰ゲームの間違いじゃないのか?」
 今度はラスファがイヤそうに目をそらす。女将さんから一度は斡旋された身として、うっかりと想像してしまったんだろうか? 目立つのが極端に嫌いな彼にとっては、さぞかし地獄の日々に違いない。

「…確か、宿屋ごとのポイント制だと聞いたが?」
 地獄の想像を振り払うように彼は無理やりに話を戻すと、ライオネスさんは穏やかに答えた。
「ああ、それは団体戦の集計法ですよ。個人戦とは別物です」
 女将さん…物事はきっちり聞いてこような?
 じっとりと睨むラスファの視線を避けるようにおかみさんはそっぽを向くと「てへっ」と舌を出して笑った。

「あの…闇討ちっておっしゃいましたが、被害者の方々のお怪我は大丈夫なんですか? あと、具体的にはどのような手口の被害を?」
 おずおずとラグが口を開く。そうだな、確かにまず手口を知る必要がありそうだ。
 何しろ、棄権するほどのケガを負わされているだろうから。
 
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