上 下
198 / 405
short mission 2 採集師は苦労とともに

レッツ、調合!

しおりを挟む
Side-アーシェ 1

 あたしが唱えた魔法は、今度こそうまくいった!
 ちゃんと今度は、コカトリスを眠らせたもんね!
 すかさず兄貴が、さっきと同じ精霊魔法付きの矢を放って仕留める。やったね!

「どうも、デュエルさんたちまで寝てしまったみたいですよ?」
「あ、ホントだ」
 ラグちゃんの指摘通り、動かなくなったコカトリスの近くでデュエルたちも倒れている。うっかり巻き込んじゃったんだ…ごめん!

 高台から降りると、とんでもないことに気がついた。
「オーエンさん!?」
 彼は、きっちりと固まった石像になっていた。しかも、なんだろこの愉快なポーズ?
「…とりあえず起こすぞ」
 アーちんは兄貴が蹴り起こし、デュエルはあたしたちが揺り起こす。

「…んあ?」
 起きるなりデュエルは聞いてきた。
「コカトリスは!? オーエンさんは!?」
 コカトリスは仕留めたこと、オーエンさんは石像になったことを告げるとデュエルは沈痛な面持ちで黙り込んだ。背景で兄貴とアーちんが言い合いしてるけど、そっちはどうでもいいや。


「…ヘンルーダだな」
 しばらくしてオーエンさんが抱えたままの薬草を見ると、兄貴がその名を呟く。
「ヘンルーダ?」
 兄貴が言うには、この薬草は石化するクチバシで食べても石にならないから、コカトリスの主食になるんだって。同時に石化に対する特効薬でもあるのか…レポートに追加しなきゃ。
 いやいや、そうじゃなくて!
 愉快なポーズの石像になっても離さなかったのは賞賛に値するけど、その結果がこれじゃあね。


「できるかどうかわからないが、調合してみるか」
「石化の特効薬、ここで作るんですか?」
 兄貴の決断に、ラグちゃんが目を輝かせる。そうよね、材料はたっぷりあるんだし! 何より、石像抱えて街まで帰るのもねぇ…。
 
 とりあえず摘んできたヘンルーダをすりつぶすと、他で摘んできた採集カゴの中の材料と混ぜてなじませる。分量なんて測りようがないから、全部目分量だけど…大丈夫かな?
 デュエルとアーちんはコカトリスの解体をしながら、女将さんへの言い訳を必死になって考えているようだった。
「どうするよ、この報告書?」
「どうするったって…。とりあえずはラスファの薬がうまく出来るのを祈るしかないな」
「バレたらマズイぞ…」

 ラグちゃんは兄貴の調合をメモして、レポートに加える気満々。あたしはその手伝いをしながら愉快な石像を眺めた。
 ホントどうすんのよ? 依頼人が石になっちゃうって、前代未聞の不祥事じゃないの?
 あたしは女将さんのお仕置きを思い出すと、身震いをした。初心者ならいざ知らず、筆頭冒険者の不祥事ってフォローの入れようがない。宿の看板にも関わる重大事なわけだし。

 あたしが悩んでる間に、特効薬ができたみたいだった。いつも使ってる木のお椀に、たっぷりと入った緑色の液体。うわ、不味そう…。
「石化している部分…というか、全体に塗り広げてくれ。しばらくすれば、石化は解ける…はず」
「塗り薬なんだ。てっきりコレ飲ませるのかと思った」
「あのな。石像が薬を飲めると思うか?」
「あ、そりゃそうか」

 どろりとした緑の塗り薬を全体に広げると、なんとも言えない物体が出来上がる。これで、元に戻るのかな?
 薬を塗って数分。
「なあああぁぁぁぁあんとおおおぉぉぉ! …ありゃ?」
 オーエンさんが悲鳴をあげながらいきなり動き出した。
「良かった、元に戻った!」

 オーエンさんにとっては、石化した瞬間から今までのタイムラグがない状態なんだね。だからあたしたちの動きがどうなってたのかは、全くわからないわけで…。
「おお、皆さん! すいませんな、取り乱しまして。それでは改めてコカトリスの討伐に参りましょう!」
「…………」
 今、兄貴たち三人の心は一つになってるに違いない。絶っ対、張り倒したい衝動と戦ってるわ…。

「えー…ご心配なく。コカトリスの討伐は終了しております」
「またまた、ご冗談を!」
 咳払い一つで気分を落ち着けて、大人な対応をしたデュエル。多分、あたしじゃ無理だ。
 笑い飛ばしたオーエンさんに、兄貴は黙ってコカトリスの残骸を見せる。続いて、切り出したトサカや心臓も。
「なんとおおお!?」
 残骸を呆然と眺めるオーエンさん。そして綺麗に切り出された、でっかい心臓やトサカに大声で叫び倒した。

「す…素晴らしい!!!」

 その声に、兄貴たちはホッとしたみたいだった。確かに、入手した材料に気を取られて石化してたことは綺麗さっぱりと忘れている。
 …さては…なかったことにするつもりね、兄貴たち。でもさ…?

 そのつかの間、オーエンさんは一言こう聞いてきた。
「ところで…我輩は何故、塗り薬まみれなのですかな?」

「…うん、誤魔化しきれるわけないよね…」
「「「…デスヨネー…」」」
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に二週目の人生を頑張ります

京衛武百十
ファンタジー
俺の名前は阿久津安斗仁王(あくつあんとにお)。いわゆるキラキラした名前のおかげで散々苦労もしたが、それでも人並みに幸せな家庭を築こうと仕事に精を出して精を出して精を出して頑張ってまあそんなに経済的に困るようなことはなかったはずだった。なのに、女房も娘も俺のことなんかちっとも敬ってくれなくて、俺が出張中に娘は結婚式を上げるわ、定年を迎えたら離婚を切り出されれるわで、一人寂しく老後を過ごし、2086年4月、俺は施設で職員だけに看取られながら人生を終えた。本当に空しい人生だった。 なのに俺は、気付いたら五歳の子供になっていた。いや、正確に言うと、五歳の時に危うく死に掛けて、その弾みで思い出したんだ。<前世の記憶>ってやつを。 今世の名前も<アントニオ>だったものの、幸い、そこは中世ヨーロッパ風の世界だったこともあって、アントニオという名もそんなに突拍子もないものじゃなかったことで、俺は今度こそ<普通の幸せ>を掴もうと心に決めたんだ。 しかし、二週目の人生も取り敢えず平穏無事に二十歳になるまで過ごせたものの、何の因果か俺の暮らしていた村が戦争に巻き込まれて家族とは離れ離れ。俺は難民として流浪の身に。しかも、俺と同じ難民として戦火を逃れてきた八歳の女の子<リーネ>と行動を共にすることに。 今世では結婚はまだだったものの、一応、前世では結婚もして子供もいたから何とかなるかと思ったら、俺は育児を女房に任せっきりでほとんど何も知らなかったことに愕然とする。 とは言え、前世で八十年。今世で二十年。合わせて百年分の人生経験を基に、何とかしようと思ったのだった。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

愛人がいらっしゃるようですし、私は故郷へ帰ります。

hana
恋愛
結婚三年目。 庭の木の下では、旦那と愛人が逢瀬を繰り広げていた。 私は二階の窓からそれを眺め、愛が冷めていくのを感じていた……

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい

616號
ファンタジー
 不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。

処理中です...