上 下
193 / 405
short mission 2 採集師は苦労とともに

本当はグロい薬草学…

しおりを挟む
side-アーチ 1

 おいおい、参ったね…。
 今回はラクな採集の仕事かと思ってたのによ。なんでこれから魔物退治って話になってんだか?
 しかも昨日退治したでけぇヘビからも材料が取れるって…なんでもアリだな。
 せっかく、今回は対応を厨房エルフに丸投げしてラクできるかと思ってたんだがね…。

 とりあえず今回は…。
「この森をしばらく歩いて、遭遇した魔物を倒してもらって材料を集めたいのですよ。どんな魔物が出るか、楽しみですねぇ!」
  …うげ、マジか…。
 
 デュエルがおっさんの指示通りに魔物解体の手伝いをしてる間、オレらは薬草を集めることになった。
「じゃじゃーん! 魔術師ギルド謹製、採集カゴ~! 」
 そんな中でアーシェと弟子が、持参したカゴを見せびらかした。見た目はガキが虫あみとセットで持ってるアレにしか見えねぇな…
「なんでぇ、ちょっと大型の虫カゴじゃねぇんだな」
「ぷー! 違うもん!」
「この中に入れた植物は長期間、魔力で保存できるんですよ。いつでも摘みたての鮮度を保てる上に、見た目以上に大量に入るんです。採集系の仕事には不可欠ですよ!」
 ほほー、そりゃ重宝する代物だな。見せてもらったが、中には仕切りまでついている。なかなかのもんだ。

 薬草摘みに勤しんでるうちに、おっさんの大声が飛んできた。
「はあああぁぁあッ!?  そこにいるのはイグニア蜂! 是非、巣を見つけて蜜を取ってください! 喉の痛みに劇的な効果があります! あと、そっちのガウショ草の根は毒出しの効果があるので見逃さないで! おお、こっちにはトレヴィスの花! 二日酔いに効果ありです!」
 …なんつーか…クソやかましいな、このおっさん…。しかもここまでデケェ声だ、この仕事が終わるまでオレの鼓膜は無事だろうな?

「勉強になりますわ。こちらはなんの効果があるんですか?」
 熱心に学んでるのは、もはや弟子だけだ。他の連中は見るからにうんざりした顔で、それでも薬草を摘む手は休めねぇ。わかるぜ、とりあえず無心に手を動かしゃ現実逃避できるもんな…。

「どうやら、お客さんだ」
 デュエルとラスファが何か察知したのか、いきなり立ち上がった。ああ、やっぱそうか。
 おっさんの大声に魔物が寄ってきやがった!
 いつもならめんどくせぇ戦闘も、今回ばかりはウェルカムだ!

 出てきたのは、オオカミが数匹。どうもこの辺りが縄張りらしい。弟子たちには引き続き薬草摘みを頼むと思った通り嫌な顔をされた。
「えー、兄貴たちばっかずるい!」
「わたくしも行きますわ!」
「いやいいから。サクッと片付くし」

 そのデュエルの言葉に嘘はねぇ。実際にさっくりと片付いておっさんを呼ぶと、また細けぇ指示が飛ぶわ飛ぶわ。
「これは肝をすりつぶすと滋養強壮に役立ちます。そっと扱ってください! それから爪は煎じて飲むと…」
 あー…グロい。いや確かに役にゃ立つかもしんねぇけど、ここまでコマケェ注文つけられても困る。でろりとしたオオカミの肝その他を弟子が持ってきた予備の収納庫に入れ、ついでに毛皮も剥ぐと場所を移動した。


「俺…病気には気をつけようと思う…」
 移動中、ややげっそりとしたデュエルが小声でぼやく。
「わかるぜ。普段見慣れた薬の材料を知っちまうとな…」
 そう言ってオレはラスファを見た。こいつは知ってんだろうかな?
「そんな風に見るな。確かに以前、ラグには悪いことをしたが…」
 小声で呟く奴のセリフに、なんか引っかかった。
 以前? 弟子に? 悪いこと?
 何やらかしたっけ、こいつ?
 やがて気づいたデュエルが、声を低めて奴に問いただした。
「ああ、あのドライアードの事件の時に飲ませた怪しい回復薬か?」
 ああ、そういえば。あの時、精神力使いきった弟子にドロリとした怪しい薬飲ませてたな…。
「おい、まさかアレ…」
「すまないが、材料は知らず…」
 おいいいいいぃぃ!
 オレは内心で絶叫した。何飲ませやがったこいつ、うちの弟子に!
「…大地母神の神殿謹製の試作品だが実際に効果もあったし、事前に毒味もさせられた。材料は怖くて聞けなかったが、一本試供品として渡されて持て余してたんだ…」
 それがあん時、役だったってか? 世の中解らねェもんだ。
「いや、たまにオメー薬の調合してなかったか? ありゃどうなんだ?」
 この際だ、オレはついでに素朴な疑問をぶつけてみることにした。
「アレは純粋に薬草だけを使ったものだ。動物性の材料を使うのは、人間に伝わった後で付け加えられた調合法とされている。薬草学にも系統というものがある」
 あー、納得。
 つか、その辺も弟子はレポートにまとめるといい成績取れそうだな。
 オレは日の傾きかけた空を仰いでため息をついた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

異世界召喚された俺は余分な子でした

KeyBow
ファンタジー
異世界召喚を行うも本来の人数よりも1人多かった。召喚時にエラーが発生し余分な1人とは召喚に巻き込まれたおっさんだ。そして何故か若返った!また、理由が分からぬまま冤罪で捕らえられ、余分な異分子として処刑の為に危険な場所への放逐を実行される。果たしてその流刑された所から生きて出られるか?己の身に起こったエラーに苦しむ事になる。 サブタイトル 〜異世界召喚されたおっさんにはエラーがあり処刑の為放逐された!しかし真の勇者だった〜

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

処理中です...