上 下
181 / 405
mission 3 祝祭の神様

防衛対策と使い魔

しおりを挟む
Side-ラスファ 8

 手紙を託したパンサーを見送って、デュエルの帰りを待つまでの間に、できることはしておきたい。とりあえず万一に備えての安全確保を優先して、コネのある町長宅に押しかけさせてもらった。
 
 なぜだか上機嫌で茶の準備を始める夫人を押しとどめて事情を説明すると、町長の顔色が変わった。即座に見張り台に人員を配備すると関係各所に警告を発令し、避難誘導に協力してくれると確約してくれたのだ。やはり、この町長は有能だった! 
 
 私も町長からの紹介状を貰うと、各所に避難警告を伝えに走る。なにせ、弱いゴブリンとはいえ数十、数百の大群だ。対応を誤れば街一つが地図から消えることにもなりかねない!

 街の地図と照らし合わせて重要施設や一般市民の住宅街などを中心に回るが、ここで大きな誤算が起きた。
 オラクル祭の期間真っ最中のために、祭に浮かれた市民は何かのイベントと思い込んで避難情報が正しく伝わらないのだ。どうすれば…?

 こうしている間にも、ゴブリンの群れは街に迫っている。エルダードで同じことが起きたとしても、潤沢な戦力が揃っているために深刻な被害は出ないだろう。だが、ここは一般市民が大半を占めるアローガの街だ。同じように行くはずがない…いや、待て。

 二つある街の門をあえて一方だけ開けてゴブリンの群れを一箇所に集中させるまではアーチと同じだが…簡単なものでいい、門の前になんらかの罠を仕掛けられないか?
 遠距離で操られている知能の低いゴブリンなら、そこで数を減らせるかもしれない。

 徐々に集まってきた数人の地元自警団員に簡単な罠の設置を頼むと、手近な見張り台に登って街の周囲を見回してみた。
 少し離れて広がる森に潜伏していると思われるゴブリンは、その数約数百…思ったよりも多そうだ。   犯人は、杖を持ち歩いて効果の範囲を広げ、その分掌握できるゴブリンの数を増やしているのか…?
 
 その時、大きな黒フクロウが森に向けて飛び立つのが見えた。…なんだ…?

「あの黒フクロウを射て、ラスファ!」
 見張り台の下から、珍しく切羽詰まったようなアーチの声が届いた。
 ___そうか、使い魔___!
 
 そう悟ってからは、躊躇などなかった。
 瞬時に矢をつがえ、弓を引きしぼる。
 放たれた矢は狙いあやまつことなく、黒いフクロウの胴体に真っ直ぐ射抜いた。甲高い悲鳴をあげながら、黒いフクロウは羽を撒き散らしながら落ちて行く。

 全ては、一呼吸ほどの間に終わった。


「お見事~!」
 見張り台を降りた私を迎えたのは、誠意のカケラもないアーチの拍手だった。
「なぜわかった? あれが使い魔だと…」
「なに、神殿で修道女の一人が手紙つけて放すのを見てな。ここまで追いかけたらちょうど、オメーがいたんだよ」
「…手紙?」

 落ちた黒フクロウを回収すると、アーチの言う通り手紙が結んである。

『計画に支障あり。決行はギリギリまで遅らせるべき』

 決行と言うのが、多分ゴブリンを…。
「ってーかさあ。これ、ヤバくね? 決行を遅らせるってメッセージ、止めちまったぞ? 支障ってのは、オレたちのことか?」
「これを送ったという、修道女は?」
「その辺は大丈夫だ、捕まえてある。ちょいと尋問してくるかね?」
 私は頷いた。街の重大事だ、尋問はアーチに任せると、襲撃開始は本日夕刻の鐘よりという情報を得て来た。

 しばらくして芸術神の神殿に出向くと、若い修道女がアーチにべったりとくっついて離れない状況に出くわしたんだが。…いや、聞く気は無いがどんな尋問の仕方を…?
 不穏な神殿をよそに街の人々は門前の厳戒態勢を読み取り、すっかり静かになっていた。警備していた地元自警団員が、湧き出る野次馬どもを追い払う。
 もうじき日没の時刻だ。夕刻の鐘も近い。

 だが肝心のデュエルは、まだ姿を見せなかった。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜

mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!? ※スカトロ表現多数あり ※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります

幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話

妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』 『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』 『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』  大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。

異世界召喚された俺は余分な子でした

KeyBow
ファンタジー
異世界召喚を行うも本来の人数よりも1人多かった。召喚時にエラーが発生し余分な1人とは召喚に巻き込まれたおっさんだ。そして何故か若返った!また、理由が分からぬまま冤罪で捕らえられ、余分な異分子として処刑の為に危険な場所への放逐を実行される。果たしてその流刑された所から生きて出られるか?己の身に起こったエラーに苦しむ事になる。 サブタイトル 〜異世界召喚されたおっさんにはエラーがあり処刑の為放逐された!しかし真の勇者だった〜

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

処理中です...