180 / 405
mission 3 祝祭の神様
犯人と証言
しおりを挟む
side-デュエル 10
「まずは魔術師ギルドに行くか」
俺は肩を回しながら通りの雑踏を進んだ。迷子案内所にいる間中ずっと、登り甲斐のある置物と化していたのだ。多少のだらしなさは勘弁して欲しい。
「随分と懐かれてましたね」
隣を歩くフレッドに苦笑する。ここまで戻った以上は実質フレッドについて来る必要もないのだが、成り行きのまま魔術師ギルドまで一緒に行くことになった。
しかし…彼の場合は仮装が妙にしっくりきすぎて違和感がない。何せ、古代の大賢者風の格好だというのだから。
古めかしいローブに三角帽子、さらにわざとらしい節だらけの杖と言う出で立ちだが、妙にしっくりと身についていた。一瞬これが通常運転かと、うっかり誤解しかけたくらいだ。 それを伝えると、彼は残像が出るくらいに首を振る。
「とんでもない! かの大賢者、オルガレフ様を尊敬してのことです!」
その名前なら、俺も聞いたことがある。
一千年前の魔導帝国に君臨したという、伝説の魔術女王イヴリーン・ローダーデイルのそばに仕えたことでも知られる古代の魔術師だ。子供向けの絵本にもなっているくらいだ、憧れる者も多かろう。なんとなく微笑ましい気分で、俺はいい加減取りたいクマ耳を手直しする。俺のご先祖に居たかもしれない熊獣人族には悪いが、正直言って周囲の視線が地味に痛い。
魔術師ギルドでフレッドに件の彼を呼んでもらうか、噂を聞くくらいはしておきたい。そう思ってまず呼び出してもらおうとしたのだが…。
「いない!?」
「ええ。数日間ここの寮を空けるとかで連絡を受けております」
事務的に答える寮の管理人の言葉に、俺たちは声を失った。
「いつ戻るかはわかりますか?」
フレッドの焦り声に、管理人は手元のノートをめくって答える。
「…外部での実験の進み具合によって変動するとかで、正確にはわかりかねます」
管理人は淡々と告げると、ノートを閉じて頭を下げた。これは…完全に、クロか?
「…フレッド。彼…ジョージの部屋を調べさせてもらうことはできるか?」
管理人から少し離れて俺は小声でフレッドに囁く。
「出来ないこともないですが、相当な理由が必要ですよ?」
「そっちはなんとかしてみせる。とりあえずこう言ってくれ」
俺はフレッドに耳打ちした。
「すいません! ジョージの部屋に、忘れ物しちゃって!」
「規則につき、中には…」
「急いでるんですよお! 彼に貸してたノート、置きっぱなしなんです! 次の試験が近いっていうのに、勉強できなくて本当に困ってるんです! なんで今、外になんか行っちゃうかなあ?」
結構腹芸も利くフレッドの『必死の』頼みに、管理人も動かされたようだった。
「…仕方ないですね」
「十分だけですよ、それまでに探してくださいね」
管理人の言葉が合図となり、俺たちはダッシュでジョージの部屋に飛び込んだ。
俺は机中心に当たりをつけて捜索を開始する。
「協力しておいてなんですが、何も出てきませんって。ジョージの無実は証明できますよ!」
フレッドはそう言うが、俺にも冒険者としての直感がある。書棚や引き出しを探ると、妙な手応えがあった。
「これは…!」
アローガまでの地図にゴブリンの生息範囲の推測図、そして…杖についての資料がそこにあった。
「それ! その杖の資料…僕が作ったものです! 一度どこかで無くして、探していたんです。なんでこんなところに?」
俺はため息をついた。…その時点で気付けよ、お前は…。
その後は、聞き込みに終始した。証拠を押さえれば後は動機を探るだけ。
ジョージの素行や最近の行動、そしてトラブルの有無など…。そのうち数人が有力な情報を持っていた。
「ジョージ? 確か、しばらく前から女を追い回してるってよ。誰かは知らないけど」
「なんでも、告白する前に振られたって。どうせあいつのことだから粘着してたんじゃないの?」
「前の彼女も、別れるときには随分とこじれたしたみたいね。嫌がらせもされたとかなんとか。少なくとも、私はあいつ無理」
数々の証言を聞いて、フレッドはショックを受けたようだった。親しくしていた相手の、薄暗い一面。わからなくもないが、この場合はどうにも…。
そんな中、通りの向こうから舞い上がる砂埃が見えた。どんどん近づいてくる!?
身構えたそのとき、足元から「きゅー!」という鳴き声が聞こえた。
黄色い地に水玉模様、風呂敷を背負ったつぶらな目の猫がお行儀よくそこに座っている。
「お前、アーシェの召喚獣…? どうした?」
背負った手紙を見て、俺はそこからダッシュでアローガに戻ることになった。
『周辺に大量のゴブリンが集められている。大至急アローガに戻ってきてくれ!』
思ったよりも動きが早い! どういうことだ!?
「まずは魔術師ギルドに行くか」
俺は肩を回しながら通りの雑踏を進んだ。迷子案内所にいる間中ずっと、登り甲斐のある置物と化していたのだ。多少のだらしなさは勘弁して欲しい。
「随分と懐かれてましたね」
隣を歩くフレッドに苦笑する。ここまで戻った以上は実質フレッドについて来る必要もないのだが、成り行きのまま魔術師ギルドまで一緒に行くことになった。
しかし…彼の場合は仮装が妙にしっくりきすぎて違和感がない。何せ、古代の大賢者風の格好だというのだから。
古めかしいローブに三角帽子、さらにわざとらしい節だらけの杖と言う出で立ちだが、妙にしっくりと身についていた。一瞬これが通常運転かと、うっかり誤解しかけたくらいだ。 それを伝えると、彼は残像が出るくらいに首を振る。
「とんでもない! かの大賢者、オルガレフ様を尊敬してのことです!」
その名前なら、俺も聞いたことがある。
一千年前の魔導帝国に君臨したという、伝説の魔術女王イヴリーン・ローダーデイルのそばに仕えたことでも知られる古代の魔術師だ。子供向けの絵本にもなっているくらいだ、憧れる者も多かろう。なんとなく微笑ましい気分で、俺はいい加減取りたいクマ耳を手直しする。俺のご先祖に居たかもしれない熊獣人族には悪いが、正直言って周囲の視線が地味に痛い。
魔術師ギルドでフレッドに件の彼を呼んでもらうか、噂を聞くくらいはしておきたい。そう思ってまず呼び出してもらおうとしたのだが…。
「いない!?」
「ええ。数日間ここの寮を空けるとかで連絡を受けております」
事務的に答える寮の管理人の言葉に、俺たちは声を失った。
「いつ戻るかはわかりますか?」
フレッドの焦り声に、管理人は手元のノートをめくって答える。
「…外部での実験の進み具合によって変動するとかで、正確にはわかりかねます」
管理人は淡々と告げると、ノートを閉じて頭を下げた。これは…完全に、クロか?
「…フレッド。彼…ジョージの部屋を調べさせてもらうことはできるか?」
管理人から少し離れて俺は小声でフレッドに囁く。
「出来ないこともないですが、相当な理由が必要ですよ?」
「そっちはなんとかしてみせる。とりあえずこう言ってくれ」
俺はフレッドに耳打ちした。
「すいません! ジョージの部屋に、忘れ物しちゃって!」
「規則につき、中には…」
「急いでるんですよお! 彼に貸してたノート、置きっぱなしなんです! 次の試験が近いっていうのに、勉強できなくて本当に困ってるんです! なんで今、外になんか行っちゃうかなあ?」
結構腹芸も利くフレッドの『必死の』頼みに、管理人も動かされたようだった。
「…仕方ないですね」
「十分だけですよ、それまでに探してくださいね」
管理人の言葉が合図となり、俺たちはダッシュでジョージの部屋に飛び込んだ。
俺は机中心に当たりをつけて捜索を開始する。
「協力しておいてなんですが、何も出てきませんって。ジョージの無実は証明できますよ!」
フレッドはそう言うが、俺にも冒険者としての直感がある。書棚や引き出しを探ると、妙な手応えがあった。
「これは…!」
アローガまでの地図にゴブリンの生息範囲の推測図、そして…杖についての資料がそこにあった。
「それ! その杖の資料…僕が作ったものです! 一度どこかで無くして、探していたんです。なんでこんなところに?」
俺はため息をついた。…その時点で気付けよ、お前は…。
その後は、聞き込みに終始した。証拠を押さえれば後は動機を探るだけ。
ジョージの素行や最近の行動、そしてトラブルの有無など…。そのうち数人が有力な情報を持っていた。
「ジョージ? 確か、しばらく前から女を追い回してるってよ。誰かは知らないけど」
「なんでも、告白する前に振られたって。どうせあいつのことだから粘着してたんじゃないの?」
「前の彼女も、別れるときには随分とこじれたしたみたいね。嫌がらせもされたとかなんとか。少なくとも、私はあいつ無理」
数々の証言を聞いて、フレッドはショックを受けたようだった。親しくしていた相手の、薄暗い一面。わからなくもないが、この場合はどうにも…。
そんな中、通りの向こうから舞い上がる砂埃が見えた。どんどん近づいてくる!?
身構えたそのとき、足元から「きゅー!」という鳴き声が聞こえた。
黄色い地に水玉模様、風呂敷を背負ったつぶらな目の猫がお行儀よくそこに座っている。
「お前、アーシェの召喚獣…? どうした?」
背負った手紙を見て、俺はそこからダッシュでアローガに戻ることになった。
『周辺に大量のゴブリンが集められている。大至急アローガに戻ってきてくれ!』
思ったよりも動きが早い! どういうことだ!?
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜
mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!?
※スカトロ表現多数あり
※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります
幼なじみ三人が勇者に魅了されちゃって寝盗られるんだけど数年後勇者が死んで正気に戻った幼なじみ達がめちゃくちゃ後悔する話
妄想屋さん
ファンタジー
『元彼?冗談でしょ?僕はもうあんなのもうどうでもいいよ!』
『ええ、アタシはあなたに愛して欲しい。あんなゴミもう知らないわ!』
『ええ!そうですとも!だから早く私にも――』
大切な三人の仲間を勇者に〈魅了〉で奪い取られて絶望した主人公と、〈魅了〉から解放されて今までの自分たちの行いに絶望するヒロイン達の話。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる