私の番はこの世界で醜いと言われる人だった

えみ

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同棲編

勉強にも慣れてきました

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同棲して二週間、ゼブラさんが派遣してくれた先生は、やはり皆さんとても優しかった。

娯楽などが前世よりも圧倒的に少ない今世。
仕事もなく、遊ぶ相手もいない私は、はっきり言って勉強しかすることがない。
そこで張り切って予習復習を欠かさずすることで、勉強が予想外に進み・・・

勉強が始まって、先生方との勉強が4回目となった今日、先生方にかなり絶賛された。
よく勉強している私に、“聡明な姫様”という単語をよく使うようになった。
その単語は正直結構恥ずかしい。
才能があるわけじゃなく頭の出来は凡人だ。
することがなくて勉強をしているだけで、ここまで褒められたら、かなり重い。

その賛辞はやめてもらいたいと言ってから、先生方は褒めたいけど褒められないもどかしさに悶えるようになった。


確かに、前世の知識があるから本を読むことも苦じゃないし、ノートにまとめたりするのは学生時代に自らに合った学習方法をわかってたから効率よく勉強している。
一度自分用ノートを作っておくと、復習するときにさらっと目を通すだけで簡単に思い出せる。
ノートはそのために作っているだけなんだけど・・・
私のその勉強方法を先生方に説明したら、とても感心された。

口で説明して、本を読ませてもなかなか覚えられない生徒に対して、私の実践している学習方法を試してみたいとのことだった。
うん、先生方も大変である。


「姫様、今使っている教本は、もう次回で終わりそうですね。次回に新しいものを持ってきますね」

歴史と地理、算術と経済の授業は、予定では、二か月くらいかけてゆっくり勉強するつもりだったそう。
でも、私が授業までに教本で予習して、授業では、わからないところの質問と、覚えた知識を確認するためのちょっとしたテストのみをしていたので、とても効率よく勉強が進んだのだ。
・・・まあ、普通の人族の庶民だったら、二か月くらいかかると思うよ。
前世の知識があったおかげで、やる気も上がったし自分にあった学習方法も分かってたから、効率よくできたのだ。


ただ・・・、その中でも、礼儀作法だけは少しうまくいかなかった。

運動が得意というわけではないため、ずっと練習する体力もない。
また、立ち方や歩き方、食事やお茶の礼儀作法・・・このように、実戦練習が多いため、教本がなく、予習ができない。
できるだけ教えてもらったことをノートにまとめて、次の授業までに完璧にできるように練習するのみだ。
他の勉強よりも二倍近く授業の時間をとってもらっていてよかった。
分かるようになるまでたくさん質問ができる。

「姫様、とても優秀ですわ。もう立ち方、座り方、歩き方は完璧ですわね」

苦手と思って、なかなか覚えられないと私が落ち込んでいても、先生はとても褒めてくれる。
褒められてうれしくないことはないのだけど、他に生徒がいないから基準が分からない。
先生に褒められたからと言ってそれで満足していては傲慢になってしまいそうだ。

「ソフィア先生、私、ゼブラさんの横に並んでも見劣りしないように、頑張ります」

先生に褒められるたびにそう返していたら、ソフィア先生は「まあ」ととても眩しいものを見る目で私を見つめるのだった。
一応、この言葉をゼブラさんに流されては、ゼブラさんが大変なことになりそうだし、どうせなら自分で伝えたいので侍女の人や先生方には授業内のことを口外しないようにお願いしているおかげで、ゼブラさんは私がどれくらい勉強や礼儀作法ができるようになっているかわかってないと思う。
一緒にご飯を食べたり、寝る前に共に過ごすから、動きが少し変わったことには気づかれているとは思うけど。


今日も午前の勉強を終えて、私はノートをまとめる。
早くゼブラさんのお仕事を手伝ったりしたいな、と思いながら、時々紅茶を飲みながら予習復習を行う。









昼食の時間、皇帝の部屋のドアは、固く閉ざされていた。
誰の出入りもないよう、部屋の前は護衛が3名立ち、ネズミ一匹入ってこないように警備されている。

毎日昼食の時間に10分間。
この時間は異常なほど警備が厳しくなる。
部屋の中には皇帝と侍女長、執事、側近、そして・・・城の庭を警備する護衛が一名、皇帝の机の前に集まっていた。

「本日の報告をあげろ」

唯一席についている皇帝が、そう発言すると、一番右にいる侍女長が一歩前に出た。


「本日も、竜王様をお見送りされた後、竜王様が勉強用に用意したお召し物を着て、教師が来るまで28分間ノートで予習をなさっていました。教師が来てからの行動は、番様の要望により詳細にお伝えすることはできませんが、とても真面目に積極的に勉学に取り組まれておりました。教師曰く、通常の何倍もの速さで授業が進むため、明日からは新しい教材を用意するとのことです」

侍女長が一歩下がると、その横に立つ執事が一歩前に出る。

「竜王様が目を覚まされる前に、厨房にてパンを焼かれておりました。本日も怪我がなく、とても手慣れた動きでパンをお焼きになっておりました。“新作だけど喜んでくれるかな”と少し心配されておいででしたが、竜王様が朝食時に褒められたことで、とても満足されたようです。竜王様がお出かけになる際、背中を見つめながら小さくガッツポーズをされておりました」

執事が下がると、すぐに城の庭を警備する護衛が前に出る。

「昨日は庭園をBルートで歩かれておりました。チューリップ、ルピナス、ラベンダー、ヒヤシンス、アザレアの花を堪能されたのち、今回もバラの花の前で暫く足を止められました。やはりバラの花を触ることはありませんでしたが、念のために棘が一つもないか、庭師に今朝確認するよう申し付けております」

護衛が話し終えると、皇帝はちらと側近に目を向ける。
側近は、かりかりと今の報告を書き留めており、先ほどの護衛の報告内容にあった花の名前を側近が書き終えたところを確認した後、大きく頷いた。

「今日お昼用に用意してくれたサンドウィッチには、ハムとレタス、卵とトマトが入っていた。ミーアが私のために作ったものはやはり美味である。・・・これも、書き記しておくように」

「はっ」

側近の右手がかりかりとペンを走らせ・・・止まる。

それを確認しながら、皇帝はゆっくり立ちあがった。


「今日は天気が悪い。ミーアが外に出たがったら、もしものため阻止するように。彼女が雨に打たれてないよう、細心の注意を払え」

「「「「御意に」」」」

全員が頭を下げて、部屋を出る。

それを見送る皇帝は、ドアが閉まる音を確認して、鍵をかけて、部屋の本棚の前に立った。

本を数冊抜き取って、その奥にある窪みを押すと、本棚の横の壁がゆっくりと横に開いた。
皇室に代々伝わる隠し部屋のドアが作動する。


人が一人通れるほどの大きさの入り口をくぐって行くと、小さな部屋につながった。
小さいとは言っても、ミーアの実家の部屋くらいの大きさだ。
その部屋の中は、皇帝の宝物で溢れかえっていた。

壁にはある女性の肖像画がかけられており、中にはラフ画もある。すべて同じ女性であり、どれもこちらを見ているものではなく横や斜め後ろを向いているものだったが。
どれも微笑んでおり、快活そうな姿だった。

その額縁の下には棚があり、いくつもの箱が置かれていた。
そのうちの一つを皇帝があけると、中から四葉のクローバーを押し花にしたしおりが入っていた。

「あぁ、ミーア・・・」

それはいつの日か、二人がデートをしたときに、ミーアが見つけたものだ。
ゼブラはそれを汚れないよう、なくさないよう、誰の目にも触れないように、この部屋に保存し、毎日眺めていた。


「今日のミーアの姿を書いた日記で、2冊目のノートが埋まってしまったよ。明日からは、3冊目だな」

先ほど側近から受け取った日記(ミーアの活動報告書)を棚に置いた。
何度も何度もの日記の表紙を撫でて、大きく息を吐いた。

「これほど幸せで良いのだろうか・・・」


皇帝がそうつぶやいたところで、部屋の外で足音が聞こえた。
まだだいぶ遠くを歩いているが、おそらく仕事の報告や相談だろう。

一度名残惜しそうにしおりを撫でて、箱の中に入れる。
肖像画を端からさっと眺め、ドアに向かって歩みを進めた。



ドアをくぐった後、勝手に入り口が閉じるのを待ち、執務机に戻る。

「入れ」

ノックの音が聞こえる前にそう声を発した皇帝の目は、一国の王のものだった。
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