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同棲編
同棲開始です
しおりを挟む同棲の許可を得て、ゼブラさんはとても上機嫌に私が準備を終えた三日後に迎えに来た。
三日ぶりに会ったゼブラさんは、ちょっと目の下に隈を作っていた。
・・・あとで寝不足の原因を聞き出そうと思う。
護衛の人たちも引き連れていたけど、私の荷物はすべてゼブラさんが持ちたがった。
でも、私を背中に乗せるとなれば両手がふさがっていると危ないということで、ゼブラさんは渋々私の荷物を護衛の人に持たせた。
この姿を見ていると、番に対する独占欲が出ているような気がして、ちょっと嬉しい。
番に対する本能が働かない人族の私だけど、嫉妬してもらったり独占欲を出されてもいやだと思わない時点で、ゼブラさんのことがかなり好きなんだろうなぁ。
「ミーア?苦しくないかい?」
空を飛ぶゼブラさんは、私の様子を逐一確認してくれる。
苦しくないか、寒くないか、暑くないか、辛くないか、怖くないか・・・。
正直、前世は高所恐怖症でたぶんその感覚を今も引きずっているんだけど、あまり落ちるのが怖いという気持ちはない。
たぶんそんなことは起きないだろうし、たとえバランスを崩して落ちそうになっても、ゼブラさんが何とかしてくれるだろう。
それくらい安心感がある。
「大丈夫だよ。それよりゼブラさん、背中大きいね」
前に側近の人に乗せてもらったときよりも、なんか私が動ける場所が少し広い気がする。
ゼブラさんがなかなかそれに対して返事をしてくれなくて、何かまずいことを言ったかな、と思ったところで、別のところから声がかかった。
「皇帝は竜人の中でも、最もお強く、大きく、速いのです」
すぐ横を飛んでいる、私の荷物を持つ護衛の人がそう教えてくれる。
なるほど、ゼブラさんって、やっぱり凄いんだなぁ・・・。
「おい。今、ミーアは私と話している。我々二人の世界を邪魔するな」
ちょっとだけドスのきいた声で護衛の人を睨みつけた。竜に睨みつけられたら、普通の人だったら怖くて気絶しちゃいそうなものだけど・・・護衛も竜なので、慌てて謝罪をしてゼブラさんの視界に入らないように後方に回った。
そして、ゼブラさんのさっきの発言で、周囲の護衛たちはみんな気配を消しちゃったようで、存在を感じなくなってしまった。
すごいな竜人。気配消したりもできるんだなー。
せっかくだから、いろんな人とお話しながら向かいたかったんだけど・・・
ちらりと私を運ぶゼブラさんを見ると、竜の姿をしていても、とてもうれしそうにしていることがわかる。
今日、三日ぶりに会ったときにゼブラさんはとてもとても嬉しそうだった。
私の両親にもきちんと挨拶して、やっぱりだめ、と反対されないかお父さんと話すときはちょっとびくびくしてて、見送ってくれると分かったらもう私から離れたくないとでも言うかのように横からぴったり離れなくなって(それでも私に触れることはできないようで、絶妙に身体が当たらない距離を保っていたけど)、私を誰の背に乗せるのかという話になった瞬間、護衛全員を睨みつけて「俺の背に乗せるに決まっているだろう」と一瞬で黙らせていた。
まあ、護衛の人たちもゼブラさんに対して呆れたり納得がいかない顔はしておらず、微笑ましいものを見るようだったので私も口を出さなかった。
そして今もだ。
後ろをちらりと見ると、全員が優しい顔をしていた。
うーん、これは・・・
ゼブラさんといちゃつけってことだね!
「ゼブラさん、朝にパンを焼いてきたから、あとで一緒に食べようね」
「な、なんと・・・!ミーアのパンを今日さっそく食べられるのか!?」
ちょっとだけ後方で振動があったのでちらりと後ろを見ると、ゼブラさんの大きなしっぽが左右に世話しなく揺れている。
実はさっきからちょっとだけ揺れてたんだけど、今はそれがかなり激しくなっちゃった。
護衛の人の優しい顔がさらに慈しむような表情になっていく。
失敗したかな?
「ここ最近、ミーアに会えず、ミーアのパンも食べられなかったからな。とても嬉しい!」
うん、ゼブラさんが喜んでくれているから、失敗じゃないね。
それから、どんなパンを作ったのか、ゼブラさんが当てたがったり・・・、当たったから私がなでなでしたら「だ、だめだ、そんなことをされたら・・・!」とゼブラさんが若干悲鳴をあげかけたり、じゃれている間に竜人の国に着いた。
私と二人でお話しているときは、とてもやさしい声で怖さのかけらもないような、でれでれに甘やかしてきている声なのだけど、
私以外の前ではゼブラさんは威厳のある姿を見せていた。
ゼブラさんが城に着いたら、竜王に騎乗しているのは誰だ!?と城の住人たちがざわついていたが(やっぱりゼブラさんの背中に乗るのってありえないことだったのか)、ゼブラさんの「静まれ」という声に、一気に周囲の音がなくなった。
思わず私もびくりとするような声だったのだけど、ゼブラさんはその威圧感を私に向けるようなことをしないよう、私をゆっくり地面に下して、人型に戻ったら私をゼブラさんの背に隠した。
え、いやいや、挨拶させて?
作法は分かってないけど、名前とよろしくお願いしますくらいは言いたい。
そう思ったけれど、周囲の人は全員顔を下に向けて、一向に顔を上げない。
ゼブラさんも、それに対して何も言わずに、私に視線を向けた。
「さあミーア、部屋に案内しよう。疲れただろう?」
周囲に誰もいないかのようにふるまい、ゼブラさんは私を部屋まで案内しようと進み始めた。
ちょっといろいろとツッコミどころ満載だけど、ここで何か声をかけるようなことをするのはよくないと思う。
周囲の人たち全員が顔を下げているのに、ゼブラさんはそれをスルーして私にかまっているのだ。
とりあえずあとでゼブラさんに聞く内容が増えたなーと思いながら、ゼブラさんのあとについて行くことにした。
早くこの場を離れるのが先決だ。
居心地が悪すぎる。
ゼブラさんに案内された部屋は、先日案内してもらった、ゼブラさんの部屋の隣だった。
中に入ってみると、私の好みの色や装飾がそろえられていて、ちょっと居心地が良い部屋になっていた。
ゼブラさん、いろいろ考えてくれたんだろうなぁ。
「ゼブラさん、この部屋・・・」
「ああ、ミーアの雰囲気に合わせて、いろいろと改装したのだ。何、本格的な工事は、あのド、ドアを作ったくらいだ・・・気にしないでくれ。足りないものがあれば言ってくれたら、いくらでも用意する」
ドアの説明のところでどもっちゃってたけど、大丈夫かな。
ちょっと顔を見てみたら、あさっての方向を見ながら頬を赤くしていた。
かわいいなぁ。
ドアを作ったって言ったら、ちょっと下心があるように思われるとか思っちゃってるのかなあ。
それとも、私とドア一枚隔てたところでこれから過ごすことが恥ずかしいのかな。
いや、下心は持ってもらいたいんだけどね。
ゼブラさん奥手すぎるし。
恥ずかしいとかピュアっ子な感じだったら、早々にその感情を捨ててもらいたい。
これはいつまで経っても結婚までいけない。
「ゼブラさん、何から何まで用意してくれて、ありがとう」
高価なものを用意してくれたことが嬉しいというよりは、ゼブラさんが私のためにいろいろ考えてくれたことが嬉しい。
ゼブラさんは、私の感謝の言葉に、ちょっと照れた顔をして、嬉しそうに笑った。
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